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研究紹介
◆応用分子生命科学系専攻分子病理部門の研究テーマ
固形癌のゲノタイプならびにフェノタイプといった生物学的特性を定量的に評価することに焦点を絞って研究を行っている。そのために、我々は (1) fluorescence in situ hybridization (FISH)やcomparative genomic hybridization (CGH)といった分子細胞遺伝学の手法、(2) 細胞解析器具等のハイスループット細胞解析法、(3) 細胞の定量的解析を可能とするフローサイトメトリー(FCM)、イメージサイトメトリー(ICM)の3種類の技術を利用している。このような研究の一環として、研究に有用な技術であるcell array system(以下に詳述)やmultiplex immunostain chip(以下に詳述)を独自に開発してきたし、現在も新しい技術の開発を行っている。

Ⅰ 癌分子細胞遺伝医学
固形癌のゲノム異常(コピー数異常)をfluorescence in situ hybridization (FISH)やcomparative genomic hybridization (CGH)といった技術によって解析している。当教室では染色体CGHによって3,000例以上の固形癌を解析してきた。現在では、アレイCGHを繁用している。各種癌の生物学的特性に関連したゲノム異常(コピー数異常)を同定してきた。CGH解析は癌の個別化治療に有用な情報をもたらすことが示されている。また、これらは100編程度の論文として発表を済ませている。
話題
1.リンパ節転移、肝転移、腹膜播種、進達度の推定を可能とする胃癌特異ミニアレイを開発した。このアレイは術前の病態評価を生検材料で可能とするものであり、今後の診療での活用が期待される。

2.癌発症感受性と密接に関連したcopy number polymorphism (CNP)を同定し、特許申請を済ませた (特開2008-48668)。このCNPは癌の種類によって異なっているが、当該癌患者の殆ど全てに検出される。今後の発展を期待している。

II. 細胞解析のための新しい技術開発
個々の細胞あるいは細胞集団における遺伝子発現を細胞レベルで高速、効率的に解析可能とする新しい技術の開発を行っている。今までに開発した技術のうち3種類の代表的技術を以下に紹介する。
(1)細胞アレイ(Cell array)
細胞アレイは一度の操作で多数の検体について、DNA ploidy, 染色体数的異常、抗原発現等の細胞特性解析を可能とする。実際には、図に示すように径2
mmのスポット50個が通常のスライド硝子に並べられている。1スポットで約1,000個程度の細胞を解析することが可能である。この装置はイメージサイトメトリーに威力を発揮する(最初の論文Am J Pathol 2000; 15; 723-8、特許申請済)。

(2)Multiplex-immunostain chip (MI chip)
免疫組織化学的検索をより効率的に実施するために、multiplex-immunostain chip (MI chip)と呼ぶ新しい器具を開発した。このシリコンゴムで作製したアレイには径2mmの穴が50個あり、50種類の抗体パネルとして利用可能とした。一度の実験操作で同一組織切片、同一細胞集団に対して50種類の抗原発現検索を免疫組織化学によって可能とする。図に示すように、アレイ上に標本面を下にして、これも独自に作製したホルダーを利用して抗体が漏出しない状態で反応させる。これにより、免疫組織化学や分子細胞遺伝学に要する時間、経費、手間が大幅に削減できる。この器具は細胞培養にも利用でき、医学生物学分野での種々の応用が考えられる(最初の論文; J Histochem CYtochem 2004; 52: 205-10, 2008年に特許成立)。


(3)量子ドットビーズアレイ〔バーコードビーズ〕
量子ドット(quantum dots; QD)は蛍光標識物質として特異的特長を呈する。我々の研究室では2種類の量子ドットを種々の割合で混じたビーズ(10 – 20 μm)を作製する。蛍光波長のスペクトルを解析することにより各ビーズの識別が可能である。現実には24種類のビーズを作製している。このことは、1度の実験操作で24種類の物質の測定ができることを意味している。測定の機器としては一般的なフローサイトメーターで十分である。

III. サイトメトリー
医学生物学や臨床検査では基本的は技術であるサイトメトリーに関しては我々は豊富な経験がある。サイトメトリーにはフローサイトメトリー(FCM)とlaser scanning cytometry (LSC)のようなイメージサイトメトリー(ICM)とがある。我々はこれらの両者を利用して細胞の解析を行っているし、上記の量子ドットをこの技術として応用を行っている。

追記
バーチャルスライドシステム
バーチャルスライド(VS)システムは医師や学生の病理教育におけるデジタル画像技術である。実際の顕微鏡でする組織標本を観ると同様に観察可能とする。この技術は教育のみではなく、遠隔病理診断にも利用できる。我々の施設でも大学から離れた病院と遠隔病理カンファレンスに利用している。誰でもVS画像を実感できる。
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