山口大学大学院医学系研究科眼科学

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オメガ3脂肪酸由来チトクロームP450代謝産物による血管新生抑制効果

山口大学大学院医学系研究科眼科学
柳井 亮二
(山口大学医学部医学科 平成9年卒)

 この度は,栄えある霜仁会学術振興賞本賞を賜り,誠にありがとうございます。選考くださいました選考委員ならびに霜仁会会員の先生方に心より感謝申し上げます。
 受賞論文はオメガ(ω)-3脂肪酸に由来するチトクロームP450代謝産物によって,加齢黄斑変性による新生血管を退縮させる効果があることをマウスモデルを用いて世界で初めて報告した研究です。ω-3脂肪酸は脳や網膜のリン脂質に含まれる主要な不飽和脂肪酸で,生体内で合成することができない必須脂肪酸です。ω-3脂肪酸を摂取させたマウスでは,全身の白血球の炎症反応が抑制され,脈絡膜新生血管領域に侵入するマクロファージが減少することで脈絡膜新生血管が退縮することがわかりました。
 加齢黄斑変性は欧米の失明原因の第1位の眼疾患で,本邦では現在第3位です。急激な高齢化と生活様式の欧米化によって,今後本邦においても著しく増加することが予想されている眼疾患です。加齢黄斑変性の終末期の病態には血管内皮増殖因子 (VEGF)が関与しており,現在VEGF阻害薬による新生血管退縮治療が行われています。この治療法により網脈絡膜血管新生が主因の滲出型加齢黄斑変性に対しては、視力を維持することが可能になってきました。しかしながら、完全な新生血管の退縮は難しく、長期的には視力が維持できていないことも報告されています。このように加齢黄斑変性がどのようにして発症するのかについては未だ明らかにされておらず、根治的な治療法は皆無です。
 本研究のスタートはハーバード大学・マサチューセッツ眼科耳鼻科病院に留学中に「日本人は魚をたくさん食べるから加齢黄斑変性が少ないですね」という会話から始まりました。確かに先進国の中で,日本人は加齢黄斑変性が少ないことが報告されていますが,過去10年ほどで有病率は顕著に増加しており,食生活の欧米化との関係が示唆されていました。特に魚類摂取量の減少との関連が疑われていたことから,魚類由来の脂肪酸であるω-3脂肪酸に着目したことが研究の発端でした。研究の遂行から論文の完成までには多くの先生方,スタッフの皆様に支えていただきました。特に園田教授のご高配により2011年1月より2013年8月までボストンのハーバード大学 マサチューセッツ眼科耳鼻科病院Massachusetts Eye & Ear Infirmary, Ophthalmology, Angiogenesis Labに留学させていただいく機会を得たことが大きなインパクトとなりました。
 本研究の成果は,未だ根治的な治療法がない加齢黄斑変性に対する新たな治療方法の開発に繋がるものと期待されます。加齢黄斑変性の病態に即した,より明確な治療方法の開発に繋げるため,現在もハーバード大学との共同研究を進めており,世界中の患者さんを救うことができる新たな治療方法を山口から発信できるよう研究を発展させて参ります。霜仁会の先生方には今後ともご指導ご鞭撻を賜りますようよろしくお願い申し上げます。

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