山口大学医学部附属病院眼科

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新聞掲載記事

目 次

角膜の傷治療

自己血成分点眼が効果

大分県の農業男性(74)は昨年暮れ、ミカンの小枝が左目に刺さり、角膜が傷ついてしまった。傷口からの細菌感染が長引き、今年3月、山口大病院眼科に転院。抗菌薬による治療で感染は治ったものの、傷ついた角膜は元に戻らず、視力は0・01まで落ちた。角膜移植も考えられたが、「手術はせず、自分の血液から採った成分を点眼して治す方法がある」と説明を受け、点眼薬で治療を始めた。1日4回、4週間の点眼を続けたところ、角膜の傷は癒え、視力も0・6まで回復した。「車の運転もでき、元通りの生活に戻れた」と喜ぶ。(田村良彦)

角膜障害の点眼薬治療

点眼治療に用いられるのは、体になくてはならない糖たんぱく質の一つで、フィブロネクチンという成分だ。細胞と細胞を結びつけ、体の組織を作ったり、傷を治したりするのにかかわっている。山口大眼科教授の西田輝夫さんは1980年代から、角膜の傷が治る際、フィブロネクチンが治癒を促進させる重要な役割を果たしていることを初めて突き止め、治療への応用を研究してきた。
フィブロネクチンは血液中に多く含まれている。ただし人の血液から採った成分を一般用の点眼薬として使う場合、ウイルス感染の可能性がある。そこで西田さんは、患者本人から採った血液から、数時間でこの成分を抽出して点眼薬を作る簡易装置を開発。自己血を用いることで、治療の安全性を確保した。
患者は1週間に1度通院。採取した10~20ミリ・リットルの血液から、1週間分にあたる2ミリ・リットルのフィブロネクチン点眼薬が精製される。患者が検査や診察を受けている間に出来上がり、当日に点眼薬を持ち帰れる。1日4回点眼し、通常4週間続ける。
角膜の傷は、外傷のほか、角膜ヘルペス感染、糖尿病による神経障害で角膜の表面が損なわれる糖尿病角膜症、三叉(さんさ)神経の手術後のまひ、コンタクトレンズによる障害と、多様な原因で生じる。軽い傷なら、体内にあるフィブロネクチンの作用などで多くは治るが、感染や神経障害が長引くと治りづらくなる。自己血による点眼治療は、この成分を補って治癒を促す。
山口大病院で、2000年4月から昨年3月までに点眼治療した249例では、202例(81%)に効果がみられた。障害の種類によっても効果に差があり、ヘルペス感染や糖尿病神経障害で角膜表面が損なわれた場合(有効率74%)に比べ、外傷性(同94%)などには効果が高かった。  今年9月から、山口大のほか、国立病院機構・東京医療センター(東京都目黒区)、眼科三宅病院(名古屋市)、宮田眼科病院(宮崎県都城市)の4病院で、同大で開発した点眼薬の自動作製装置を用いた臨床試験が始まった。
西田さんは「これまで有効な治療法がなかった角膜障害が治る可能性が高まった。自己血で作るので、安全性も高い」と話す。
山口大病院ではさらに、治癒の難しい糖尿病角膜症やヘルペス感染後の角膜障害に、神経伝達物質(サブスタンスP)とインスリンに似た成長因子(IGF-1)の成分から作った新しい点眼薬を開発。フィブロネクチンだけでは効果がない患者への応用を進めている。

(2006年11月24日 読売新聞)

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