山口大学医学部附属病院眼科

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眼の病気について

眼の病気-角膜移植、緑内障、白内障、アレルギー、糖尿病網膜症

角膜移植

角膜移植について

体の部分の働きが悪くなり,修復できないような場合には,人工の臓器を埋め込むかあるいはなくなった方の厚意にすがって,正常に働いている臓器を移植するかが現在の一つの治療法である。1997年の臓器の移植に関する法律が施行され,我が国でも脳死の方から心臓や肝臓を提供して頂いて臓器移植手術を行うことが出来るようになってきた。しかしながら,従来からの人の死の基準である心臓死(心臓が止まった時を死亡とする判断基準)の方からも臓器を提供頂いて移植手術を行うことが出来るのが,角膜と腎臓です。
角膜移植の研究は古くは1800年代から行われており,1930年から40年にかけて,ヒトでの手術の成功例が報告されて,現在私たちが行っているような手術の基本が完成した。世界中では一万件以上の角膜移植手術が毎年行われており,我が国でも健康保険で認められている手術として,視力回復や開眼のための手術として定着してきた。ただ現実には他の臓器移植と同じで,角膜移植手術によって視力を回復することが出来るにもかかわらず,厚意でご自分の死後角膜を提供してくださるお志の方の数が絶対的に少なく,提供角膜の不足から十分に手術を行うことが出来ないのが現実である。
移植医療は,1997年の臓器の移植に関する法律の制定以来,日本でも積極的に行われるようになってきた。角膜移植に関しては,1958年に角膜移植に関する法律が制定され,さらに1979年に角膜および腎臓の移植に関する法律の制定でさらに整備され,積極的に行われるようになった。角膜移植は社会的なコンセンサスも早い時期に得られ,日本の移植医療の中でも最も歴史の古いものである。

角膜移植とは

私たちを取り巻く環境や社会と円滑な関わりを持って生活できることが大切である。そのためには,いわゆる感覚器(目,耳,鼻,喉,皮膚など)が大切であるが,人間にとって特に"見える"ということが大切である。視覚には,角膜や結膜,強膜,水晶体,硝子体,網膜,ぶどう膜,視神経,脳など多くの部分が関わっている。これらの眼を構成するすべての部分が健康でなければ正しくものを見ることが出来ない。そのなかで角膜は,厚さ0.5mmの透明な膜で,眼の最も前面にあり,「外の光の眼への窓口」とも言われている。角膜に病気があり,角膜が濁っている場合や形が極端にゆがんでいる場合,眼の中に光がきれいに届かずに十分な視力を手に入れることが出来ない。角膜移植手術は,形の異常や角膜の濁りのために十分な視力がでない方に対して,角膜を切除した後に臓器提供者すなわちドナーからいただいた角膜を移植する手術である。


角膜移植が必要な病気

角膜移植の適応(手術の対象となる病気)は,不可逆性の角膜疾患により視力低下をきたしている病気である。このような病気の患者さんの角膜を,ドナーからいただいた健康な角膜に置き換える(図1)。1993年10月から2002年3月までに,山口大学医学部附属病院眼科において行った角膜移植の原因となった病気の内訳を図2に示す。角膜の混濁が原因で視力が悪い場合,外界からの光が眼球内にきれいに入ってこないため,見え方が著しく悪い。昔からある病気として,ヘルペスや麻疹などの角膜感染症の後に生じる角膜白斑が代表的であるが,最近ではこの病気に代わり水疱性角膜症が多くを占めるようになってきた。また,角膜は透明でも角膜の形が極端にゆがんでコンタクトレンズさえつけられない円錐角膜や遺伝的に角膜が濁ってくる角膜ジストロフィも角膜移植の適応である。また,角膜に感染を起こし,その病原微生物により角膜穿孔(角膜に穴があくこと)し失明の危険性のある場合には,病原微生物を取り除き眼を護るために角膜移植を行うこともある。

図1 図2 病気の内訳
図1:ドナー角膜と病気の角膜 図2:病気の内訳図
角膜移植の現状

現在,日本国内で角膜移植を希望し,待機している患者さんは5,000人以上とされているが,実際には3万人以上の患者様がおられると推定されている。しかしながら,提供角膜の不足により,日本国内で行われている角膜移植は年間2000件程度にとどまっている。
一方アメリカでは,2000年には年間4万6千件以上のドナーから提供があり, アメリカ国内で4万3千件以上の角膜移植が行われ,1万3千眼以上がアメリカ国外に提供された(アメリカアイバンク協会調べ)。日本国内でも,眼球の十分な供給のあるアメリカから角膜を提供してもらい,患者様に手術を行う施設も増えてきている。アメリカからの提供角膜は,ドナーが日本人ではないが,現在のところ人種が異なることが問題となったことは報告されていない。また,ドナー角膜の感染症についても厳重なチェックが行われているため,肝炎やエイズなどの感染の心配は皆無である。
図3に,1995年から2001年にかけて,山口大学医学部附属病院眼科において行った角膜移植の手術件数の年次推移を示す。1995年度には27件であった角膜移植件数は,2000年度には85件まで増加した。数年前には手術申し込みから手術までの待機期間は2~3年であったが,現在では3~6ヶ月まで短縮された。現在,山口県内のみならず,九州や広島からも多くの角膜移植対象患者様が来院され,手術を受けられている。
図4に,山口大学医学部附属病院眼科における角膜移植の手術成績を示す。角膜移植全体の透明治癒率(角膜が透明になって患者様のものになる)は,角膜穿孔などの緊急避難的な手術をのぞけば,90%以上の良い成績を示している。

図3 角膜移植件数(件) 図4 角膜移植の透明治療率
図3 角膜移植件数(件) 図4 角膜移植の透明治療率
角膜移植の今後

角膜移植の今後を考えるとき,提供角膜の数の不足が最大の社会的問題点である。現在人工的な角膜を作る研究が盛んに行われているが,未だに完成していない。遠い将来には人工角膜を移植する時代がくるものと期待されるが,現時点では人工角膜はまだ夢の一つである。角膜移植は現在では確立された手術の一つであるが,角膜の病気でもすべての病気が角膜移植で治るわけではない。
とくに,難治性の角膜上皮疾患(角膜表面の皮の病気)では,普通の角膜移植では治療できない。このような治療困難な疾患に対し,羊膜移植や角膜輪部移植,培養角膜上皮移植などが行われている。
山口大学医学部附属病院眼科でも,病院の倫理委員会の承認を得た後に,1997年より羊膜移植を開始し,翼状片手術や角膜輪部移植術と併用して効果的であった症例をいくつも経験している。今後は,治療困難な角膜疾患をどう治療してゆくか,治療成績をより改善するにはどうすればよいかを検討していく必要があると思われる。

日刊ウベニチ 2002年9月14日 掲載

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