ポップ! ポップ!! ポップ!!!

 50's〜00'sまでのポップ・アート
 2002/4/5-5/19
 茨城県近代美術館

カタログについて

 論文:荒木扶佐子「ウォーホル死すとも、ポップ・アートは死なず」 pp.5-8
 作家略歴
 参考文献
 出品リスト

展覧会構成

 I. 世界にはじけたアメリカのポップ・アート
 II. 大英帝国のポップ・アート
 III. ジャパニーズ・ポップ

出品作品紹介



講義ノート

1 ポップ・アートの定義

  1-1 ロバート・アトキンス著 杉山悦子、及部奈津、水谷みつる訳 『現代美術のキーワード』 美術出版社 1993年1月 p.122-3
"「ポップ」とは「ポピュラー・アート(大衆芸術)」の謂である。"

初出:ローレンス・アロウェイ「芸術とマス・メディア」 『アーキテクチュラル・デザイン』1958年2月号
最初のポップ・アート作品:リチャード・ハミルトン《いったい何が今日の家庭をこれほどまでに変え、魅力的にしているのか》 1956年 コラージュ

2つの展覧会
 1956年8-9月 「これが明日だ」展  ロンドン、ホワイトチャペル・アート・ギャラリー
 1962年11月 「ニュー・リアリスト」展 ニューヨーク、シドニー・ジャニス・ギャラリー

 1962年、『タイム』、『ライフ』、『ニューズウィーク』がポップ・アートをカヴァー・ストーリーとして取り上げる

ポップ・アートの先駆者
 ダダ:消費物資や都市の生み出す残骸に関心を示した
 スチュアート・デイヴィス:1920年代にタバコのラッキー・ストライクのパッケージを主題に絵画やコラージュを制作
 ジャスパー・ジョーンズ:旗や標的を絵画化
 ヌーヴォー・レアリスム
 →"1950年代のイギリス、フランス、アメリカにおける時代精神(ツァイトガイスト)のなかにすでに用意されていたもの"

ポップ・アートの主題
 ウォーホル:マリリン・モンローなど有名人の肖像
 リキテンスタイン:漫画
 オルデンバーグ:洗濯ばさみや氷枕といったありふれたもの
 →"ポップ・アーティストたちに主題を提供したのは、広告やメディアを含む大衆文化であった。"

抽象表現主義に対する反動
 "ポップ・アーティストたちは、抽象表現主義のアーティストたちのヒロイックな孤高の姿勢や、その作品の精神的、心理学的要素を否定して、芸術と人生に対してもっとおどけた、皮肉な態度をとろうとした。"

ポップ・アートの影響
 ポストモダニズム、ネオ・ジオ、アプロプリエーション(流用)など、大衆文化やマス・メディア、記号論的解釈に基盤を置く芸術の先駆者



  1-2 Ian Chilvers, A Dictionary of Twentieth Century Art, Oxford UP, Oxford, New York, 1998. pp.484-5
ポップ・アートの特色
 :「高級芸術と大衆芸術の境をなくすこと」と「現代社会に対し批判的にコメントするための大衆文化の利用」との間の緊張した精神、良い趣味/悪趣味といった価値判断を捨て去ること
 "..., and it was a feature of Pop art in both the USA and Britain that it rejected any distinction between good and bad taste: 'there was some tension between two aims: that of breaking down the distinction between high art and popular culture and that of using elements of popular culture in order to comment critically on modern society'(Jonathan Law, ed., European Culture: A Contemporary Companion, 1993)."

ポップ・アートの商業的成功と批評家達からの不評
 ・ハミルトンによるポップ・アートの定義:「大衆的で、一過性の、消費可能な、低予算の、大量生産の、若い、機知に富んだ、セクシーな、見かけ倒しの、魅惑的な、そして大儲けの仕事」
 ・大衆社会への浸透とコレクターたちからの注目:物質的な成功
 ・"広告は嫌いだと自己宣伝している芸術"
 "Richard Hamilton defined Pop art as 'popular, transient, expendable, low-cost, massproduced, young, witty, sexy, gimmicky, glamorous, and Big Business', and it was certainly a success on a material level, getting through to the public in a way that few modern movements do and attracting big-money collectors. However, it was scorned by many critics. Harold Rosenberg, for example, described Pop as being 'Like a joke without humour, told over and over again until it begins to sound like a threat...Advertising art which advertises itself as art that hates advertising.'"


2 ジャパニーズ・ポップ

  2-1 カタログ章解説
 1960年安保の真っ只中にあった日本
 1960年4月、「ネオ・ダダイズム・オルガナイザーズ」結成:赤瀬川原平、篠原有司男、吉村益信、荒川修作、風倉匠ら
 ほかにも多くの芸術家集団があいついで誕生→『日本の夏』展カタログ参照(水戸芸術館)
 赤瀬川原平「資本主義リアリズム」、「模造千円札事件」
 篠原有司男「イミテーション・アート」

 "...ウォーホル同様に商業美術からアートの分野に活動範囲を広げた横尾忠則などをはじめとして、何人かが日本のポップ・アートの作家と呼ばれています。しかし、彼らの作品にはどこか、ネオ・ダダ的臭いが残っていたり、社会性が勝ちすぎていたり、ポップ・アートと呼ぶには妖しいところがなさすぎたりで、アメリカやイギリスのようなポップ・アートの規範で見ると、これが日本のポップ・アートというには、いささかためらいを感じずにはいられません。"

 "さて、大量生産、大量消費時代、そして高度に発達した情報化時代を経験した日本の新しい世代の作家が、今世界的に注目を集めています。―(中略)―これらをポップ・アートと呼ぶかどうかではなく、アメリカなみにファスト・フードを食べるようになりつつある世代のアートの現状をご覧いただきたいと思います。"


  2-2 特集:ポップ/ネオ・ポップ 『美術手帖』 1992年3月号

  2-2-1 上野俊哉「「闘争!」から「変身!」へ:アート・イントゥ・おたく、おたく・イントゥ・ポップ」 pp.45-53
p.49 "結局、ひとりのマルコム・マクラレンもジョン・ライドンも産み出すことのなかったこの国のポップに欠けていたものが何であったか?はあまりにも明白だろう。津村喬司、坂本龍一や平井玄のような少数の例外を除いて、ここではポップには「運動」が欠如していたし、「運動」にはサブ・カルチュアがスタイルとして組み込まれていなかった。"

p.51 "…おたくはゲイシャ、フジヤマと並んで日本を指すキーワードになっていくのかもしれない。「記号の帝国」ならぬ「おたくの帝国」?"

p.53 "共通感覚の不在を通して得られる共同性への方向感覚こそが、ぼくたちの"イントゥ"の部分をかろうじて保証する。"


  2-2-2 <座談会>「ポスト・ホビー・アート・ジャパン」 中原浩大、村上隆、ヤノベケンジ pp.68-81
p.69
ヤノベ「無責任さについていうと、僕も、昔から美術コンプレックスみたいなのがあって、いまいち浸れないというのがあるし、興味も映画や音楽に向いていたりしたわけだから、自分の居心地のいい場所をつくるために、とりあえず美術のちゃぶ台ひっくり返してやりたい。趣味と作品をどう分けているのなんでいうのもどうでもいい。本能に忠実につくっているという意識がすごくある。…」

p.69
村上「…現在アニメが日本の社会に受け入れられている座標点をちゃんと回収してあげたいと。そうしないとまた円谷英二が倒れてしまったような状況になって、「スターウォーズ」のようにアメリカに奪取されてしまうんじゃないかということ。その前に、今はくだらないと思われているものも見直されるべきじゃないかと思う。…」

p.74
村上「ほら、ヤノベさんがあれはモスゴジだって言ったじゃないですか。僕もモスゴジに見えたんですよ、本当に。」
ヤノベ「特に下半身はモスゴジが好きなんですよ。そこはマニアの視点でつくってます。でも、僕自身はもっと突き放したところから見てるつもりではあるんですけど。造形的な仕事をするときは究極的なマニアの視点になって、ヤノベケンジという人間性を見るには客観的にと思ってやっている。…」

p.74
中原「やっぱりえらいのはマニアですか。」
村上「超絶的に満足する、深い快感を求めていると思うんですよ。日常の生活より、さらに深い快感がそういう世界にあるから、みんな魅きつけられているんじゃないかな。」

p.74
ヤノベ「それは、ある意味では閉鎖的な世界ですよね。それに対する危険性は感じませんか。」
村上「閉鎖しているところじゃないと、もう超絶的なものは生まれてこないと思うんです。…」

p.79
中原「ヤノベのゴジラ足とかを、なんでマニアの人は喜ぶの。」
ヤノベ「プラモデルにしても映画にしても、やっぱり贋物の世界なんですよ。だからそれが実際に存在するとうれしい。あれが車と並んでガレージにあるとか、そういったリアリティに魅かれる。…」


  2-2-3 「合体ロボとしてのジャパニーズ・ネオ・ポップ」 pp.82-3
 ページ・イメージ


  2-2-4 椹木野衣「ロリ・ポップ―その最小限の生命」 pp.86-98
ロリ・ポップ=日本版ネオ・ポップ
p.92 "目を転じて日本を観察してみよう。考えてみれば、この国ほど「可愛いもの」が満ちあふれている国もない。ゲーム・センター、ネオン・サイン、掲示板、諸店舗……、至る所にあの徹底して深みを欠落した表層色が氾濫している。"

p.92 "「可愛い美術」―それはたしかに氾濫していたし、むしろ今日においてまた増加しつつあるとすらいえるかもしれない。…(中略)…そしてそれらの「少女美術」は、いまや木、紙、石などの自然素材を使用した美術、そして富士山、芸者的なジャポニズム美術、さらに電子技術を駆使したハイテク美術に加えて、新たなるオリエンタリズムを形成し始めているのである。"

ロリコン趣味→テレビ・モニター、コミックの空間といった疑似現実のなかにのみ生息が許される最小限の生命:異常なまでの防御性と攻撃性(=「可愛い」ことによって外敵の攻撃衝動を去勢し、延命をはかる)
・内藤礼《地上にひとつの場所を》(1991):閉鎖列島国家日本を思わせる子宮空間:亜天皇制のモデル

「可愛い美術」に対する批判を内包する「可愛い美術」
・柳幸典《World Frag Ant Farm》、《Hi-no-maru》(1991)、《BANZAI CORNER》(1991)
・村上隆《サインボードTAMIYA》(1991)、《サインボードTAKASHI》(1991)、《ランドセル・プロジェクト》(1991)
・中原浩大「佐谷画廊で開催された新作展」
・ヤノベケンジ《フット・ソルジャー:ゴジラ》
・太郎千恵蔵《ウィンクI + ウィンクII》
・MASATO《かいわれだいこん》(1988)
・西山美奈子《ザ、ピんくはうす》(1991)
・伊藤ガビン《事故(とりかえしのつかない感じ)》(1991)
 参考図版

参考文献

  クリストファー・フィンチ『ポップ・アート オブジェとイメージ』 石崎浩一郎訳 PARCO出版局 1976年11月 研究室
  日向あき子『ポップ・マニエリスムの画家たち』 PARCO出版局 1977年7月 研究室
  東野芳明『ジャスパー・ジョーンズ アメリカ美術の原基』 美術出版社 1986年4月 研究室
  リチャード・フランシス『ジャスパー・ジョーンズ』(モダン・マスターズ・シリーズ) 東野芳明、岩佐鉄男訳 美術出版社 1990年4月 研究室
  ピーター・ジダル『アンディ・ウォーホル ポップ・アーチスト』 チハーコヴァー・ヴラスタ訳 PARCO出版局 1978年5月 研究室
  カーター・ラトクリフ『アンディ・ウォーホル』(モダン・マスターズ・シリーズ) 日向あき子、古賀林幸訳 美術出版社 1989年5月 研究室
  エリック・シェーンズ『ウォーホル』(岩波 世界の巨匠) 水沢勉訳 岩波書店 1996年5月 研究室
  ローレンス・アロウェイ『ロイ・リキテンスタイン』(モダン・マスターズ・シリーズ) 高見堅志郎、坂上桂子訳 美術出版社 1990年11月 研究室
  Marco Livingstone, Pop Art: A Continuing History, Thames & Hudson, 1990 研究室
  Pop Art: A Critical History(The Documents of Twentieth-Century Art), ed. by Steven Henry Madoff, Univ. of California Press, 1997 研究室
  Jasper Johns: Writings, Sketchbook Notes, Interviews, ed. by Kirk Varnedoe, The Museum of Modern Art, New York, 1996 研究室


ネオ・ポップ(=ロリ・ポップ)以後
  特集:かわいい    『美術手帖』 1996年2月号
  特集:日本・未来・美術 『美術手帖』 1999年5月号
  特集:イノセント   『美術手帖』 2001年2月号

中原浩大
  上田高弘「ノスタルジア/反ノスタルジア 中原浩大の新作における批評の返礼」 『美術手帖』 1990年5月号 pp.181-7

村上隆
  「村上隆 ジャパニーズ・ポップを探れ!」(Artist Interview) 『美術手帖』 1994年11月号 pp.174-81
 特集2 村上隆スペシャル 2D世界の逆襲!! 『美術手帖』 1999年5月号 pp.125-42

ヤノベケンジ
  「ヤノベケンジ <彫刻服>を着た<一市民>」(連載26:STUDIO & TECHNIQUE) 『美術手帖』 1991年6月号 pp.130-5
  「ヤノベケンジ 未来の廃墟に立つアンテナ」(Artist Interview) 『美術手帖』 1998年7月号 pp.125-36