講義ノート1


ヴェルフリンについて

1 ヴェルフリンの位置づけと五対概念

  1-1 田中純「美術史の曖昧な対象 衰退期について」 『批評空間臨時増刊 モダニズムのハードコア』 p.276-291
    田中純(1960- )、ドイツ研究・表象文化論、東大
p.277
"学としての美術史を方法論的に基礎づけたのがウィーン学派のアロイス・リーグルや、ブルクハルトの弟子ハインリッヒ・ヴェルフリンである。<様式史>と呼ばれる彼らの手法は芸術作品の徹底した<形式化>だった。作品の主題や内容は捨象され、色彩や線といった基本要素への還元が行われる。<様式>とはそのような方法論的還元を通じて取り出された形式言語である。その形式分析は<触覚的/視覚的>(リーグル)、<線的/絵画的>(ヴェルフリン)といった没価値的二項対立を駆使して展開された。美術史はこのフォーマリズムによってはじめて開始され得たのである。"
  1-2 竹内敏雄編『美学事典』 pp80-81:プリント配布
「個々の作品のうちに一貫する様式」(「人名ぬきの美術史」)=「作品それ自体の視覚的形式」=↓「様式の表現方式そのものとしての内面的意義」=「純粋な視覚的直観形式」=「五対概念」→序論テキストpp.21-23

講読テキストについて

2 本の紹介

  2-1 2冊の『基礎概念』(1915年)とその訳者 64年隔てた新訳、師弟関係
守屋謙二(1898-1972) 慶應大学文学部哲学科卒。37年助教授。ライプツィヒ大学講師。45年帰国、教授就任。梅津の師。ヴェルフリン『古典美術』(1962年、美術出版社):原著は1899年
梅津忠雄(1930- ) 慶應大学文学部、大学院卒。バーゼル大学留学。同大学名誉教授。『ホルバイン』に関する著書2冊。ヨーゼフ・ガントナー『ロダンとミケランジェロ』
  2-2 多大な影響を与えた本/乗り越えられるべき本
1915年の初版以来、重版と改版を続け、1991年に第18版が出た。外国語訳は10以上。
美学、哲学、文学史に影響などを与えた→要実証
論争:ベネデット・クローチェ(1866-1952)からの批判:「人名なき美術史」不可視的な直観と可視的な表現、表現形式の容器の中に一定の内容が集められる←「直観は同時に表出である」=直観と表出は同一の美的出来事。
「本書はとりわけ完結した典籍の仲間入りをするものではなく、むしろ手探りをしながら扉を開いて行く書物の一種であり、できるだけ早い機会に、もっと徹底的な個別研究によって追い越されることを求めているものである。」(テキスト:iv)

序論精読1

3 序論の構成を把握する

  3-1 序論の構成

    1 様式の二重根源      pp. 3-19  ※一番長い、2、3は4ページずつしかない。
    2 最も普遍的な表現様式  pp.19-23
    3 模倣と装飾         pp.23-26

  3-2 「1 様式の二重根源」の構成

    pp. 3- 4 リヒター回想録の挿話
    pp. 4-11 個人様式の比較
    pp.11-13 流派の様式、地方の様式、種族の様式
    pp.13-15 時代様式
    pp.15-16 (通常の)美術史の目的のまとめと美術史への芸術家、公衆の批判
    pp.16-19 「視覚的な層」の曝露=美術史の最も基本的な課題

  3-3 キー・センテンス
p. 4 l.6-7 これらの個人様式はおのずからさらに明白に分かれるであろう。
p.11 l.7-8 単に個々の立場に分化して行くだけではない。個人個人は一層大きな集団に集約されるのである。
p.13 l.3-4 異なる時代は異なる美術を生むのであり、時代的特性と民族的特性が交錯するのである。
p.15 l.4  われわれは個人様式、民族様式、時代様式の三つの実例を略述しながら、美術史というものの目的を解説してきた。
p.15 l.10  もちろん芸術家は歴史的な様式問題にはなかなか興味をもってくれない。
p.16 l.9  とはいえ、品質や表出に基づいて分析をしてみても、まだ事実がすっかりわかったわけではない。