講義ノート2


序論精読2

1 様式の二重根源

p.4〜
●個人様式

(1)ボッティチェッリ(エネルギーにあふれる)とロレンツォ(気が抜けたように見える)
 ボッティチェッリ 《ウェヌスの誕生》 1485年頃 テンペラ・カンヴァス 172.5×278.5 ウフィツィ美術館

(2)テルボルフ(優雅)とメツー(鈍重)
 テルボルフ《家族音楽会》 1657年頃 油彩・板 ルーヴル美術館
 メツー《音楽の稽古》 57.8×43.5 マウリッツハイス美術館
 メツー*《朝食》 1660年 油彩・板 55.5×42 エルミタージュ美術館

(3)ホッベマ(軽快)とロイスダール(鈍重)
 ホッベマ 《水車小屋のある風景》 板 51.2×67.5 バッキンガム宮殿
 ホッベマ *《水車》 1663-68年 油彩・板 77.5×111 ブリュッセル王立美術館
 ロイスダール《狩猟》 カンヴァス 107×147 ドレスデン、国立絵画館
 ロイスダール*《雨後》 1631年 油彩・カンヴァス  56.0×86.5 ブタペスト美術館


p.11〜
●流派の様式、地方の様式、種族の様式

オランダとフランドルの対比:「ホッベマとロイスダール」(緻密、平穏)とリューベンス(重量感)
 リューベンス《家畜のいる風景》 板 84.5×127.5 バッキンガム宮殿
 リューベンス*《牛のいる風景》 1636年頃 油彩・板 ミュンヘン、アルテ・ピナコテーク

地平線の高さの違い


P.13〜
●時代的特性と民族的特性の交錯

(1)リューベンス
 "リューベンスが「恒常的」な民族性の表出であったと認めることはできない。リューベンスでは時代の風潮が一層強くものを言っているのである。"(p.13 l.7)
 →フランドル的(民族的特性)というよりは、バロック的(時代的特性)である。

(2)イタリア
 "イタリアでは発展が外圧と無関係におこなわれたのであり、どのような変化の中でもイタリア的特性が一貫していることが非常によく識別できるからである。"
 →イタリア的特性(民族的特性)が一貫しているから、そこに表れる「変化」は時代的特性の変化である。


p.14〜
●イタリアにおけるルネサンスとバロック

ルネサンス
・中心概念は完全な比例
・自己充足的な完全性のイメージ
・すべての形が完結した実存として見える
・関節が自由に動くようであり、
・すべての部分が独立して呼吸するようである
・それ自体に満足した生き方を発見させる
・人間の尺度を超えて長大
・想像力をもって常になお近づき得る
・高大で自由な生き方の理想像

バロック
・美しい比例という理想は消滅する
・完全で完成したものではなく、
・動的で生成するもの、存在ではなく生起
・限界が明確かつ手でつかめるものではなく、
・関節の芸術であることをやめる
・重厚で分節の不分明な塊量が運動を始める
・限界のない巨大なもの
・建築本体の徹底的な分節が消滅
・ほんとうの独立性をもたない部分の寄せ集め
・明らかに新しい人生の理想像

"心神は広大無辺なものの壮大さの中で無散する方向に突進する"
"「どんな犠牲を払ってでも手に入れる興奮」"


p.15〜
●(通常の)美術史の目的

様式をまず第一に表出として捉える:魅惑的で実りの多い課題;完成の域にはまだ遠く及ばない(l.9)
個人様式、時代様式、民族様式を形成するさまざまの条件を発見すること(p.16 l.7)


p.15〜
●美術史への芸術家、公衆の批判

"美術史家は第二の事柄を第一の事柄と思い込んでいる"、"ある芸術作品がいかにして成立したかということは説明しなかった"

芸術家の関心:第一の事柄:品質、芸術的課題、偉大な芸術を生み出すこと
美術史家の関心:第二の事柄:表出、外見の相違、人間における非芸術的な側面、芸術家の気質

"個人様式、時代様式、民族様式を形成するさまざまの条件を発見することは、やはり軽視できない問題である。"


p.16〜
●美術史の最も基本的な課題

「視覚的な層」の曝露:第三のもの、この研究の肝心な点、表現の仕方そのもの
(p.14 l.18 様式変遷の心的基底)


●最も異質な芸術家たちも共有することができるもの

(実例1)ベルニーニ(激烈な彫像)とテルボルフ(静かで優美な小品)
 ベルニーニ《プロセルピナの略奪》
 テルボルフ《家族音楽会》
 二人の素描:線ではなく斑点で見る手法、絵画的=完全な親近性
p.17 l.3-4 "ベルニーニのような芸術家が言おうとすることを言うには、絵画的様式を必要としたのであり、十六世紀の線的様式だったら、どのように表出しただろうかと問うのはばかげている。"
(十六世紀の線的様式←→(十七世紀の)絵画的様式:ベルニーニ)
「二つの異なる言語」

(実例2)
(2-1)ラファエッロ、ジョルジョーネ、サンソヴィーノ
 ラファエッロ 《システィーナの聖母》 ドレスデン、国立絵画館
 ジョルジョーネ 《ウェヌス》 ドレスデン、国立絵画館
 サンソヴィーノ 《若きバッカス》 バルジェッロ国立美術館
 →イタリア・ルネサンスの線、絵画と彫刻の線

(2-2)ミケランジェロ、ハンス・ホルバイン(子)
 ミケランジェロ《最後の審判》  ハンス・ホルバイン(子)《大使たち》  →国際的関連(アルプスの北と南:ドイツとイタリアでの一致)

p.17 l.18-p.18 l.1 "様式史では表現そのものに関連する概念によって下部の層があばき出され、西欧的視覚の発展史が造られるのである。"
 ※表現そのものに関連する概念=線
 「西欧的視覚の発展史」(p.18 l.1)
 「内的な視覚的発展」(p.18 l.2)
 「彼の時代の表現形式」(p.18 l.8)
 「「視覚的」基底」(p.18 l.11)
 「最初に与えられた表現形式」(p.18 l.15)
 「それぞれの把握の根底に異なる「視覚的」図式がある」(p.19 l.4)
 「視覚的分母」(p.19 l.6)