1.報告の趣旨

 1990年代、日本の美術界に「アジア・ブーム」が起こった。報告者は同じ90年代、美術史学を専攻する大学生として、のちには公立美術館の学芸員として、企画展やアート・フェア、あるいは 新聞・雑誌の記事を通して現代美術におけるアジア・ブームに触れた。その体験は、美術作品との出会いという記憶の蓄積、そして展覧会図録の入手という物理的な蓄積として堆積し続ける一方、その意味については考える機会を逸していた。この研究会参加の機会を得、 書棚のあちこちに埋もれていた図録類をあらためて目の前に積み上げ、収録論考等を読み直す中で、
 

  (1)90年代初頭と現在では、「アジア」が開く展望の土台そのものが変化した

  (2)土台の変化は、世界的な動向と歩調をあわせる形で日本の美術界に顕在化した

  (3)2000年代初頭、日本における「アジア・ブーム」はより大きな動向の中に解消した
 

という観測を得た。以下、むしろ今後の課題が続々と明らかになった中途の段階ではありながらも、上記の観測に報告者が至った筋道を報告し、研究会参加者のご助言を仰ぎたい。

 

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