ハピネス

 アートにみる幸福への鍵 モネ、若冲、そしてジェフ・クーンズへ
 10/18-04.1/18
 森美術館


カタログについて

 ごあいさつ

 巻頭論文

  デヴィッド・エリオット「なぜハピネスなのだろう? アート&ライフのためのサバイバルガイド」

  ピエール・ルイジ・タッツィ「芸術と幸福 いくつかの省略をともないつつ並行する歴史」

 図版

  アルカディア

  ニルヴァーナ

  デザイア

  ハーモニー

 論文

  山下裕二「日本美術の『ハピネス』若冲、蕭白、白隠」

  丘山新「アジアの幸福論」

  スヴェン=オロフ・ヴァレンスタイン「自由、ユートピア、崇高」

  南條史生「幸福のメカニズム 欲望と枠とサバイバル」

  ジョン・C・ジェイ「欲望の祭壇」

  「あなたにとって『幸福』とは?」 対話[草間弥生+デヴィッド・エリオット]

  赤瀬川源平「アートのカーテン」

  松井みどり「柔らかな想像力 オノ・ヨーコと草間弥生における幸福の逸脱性」

  アピナン・ポーサヤーナン「ハッピー・アワーズよ、いつまでも」

  シモン・ジャミ「帝国の終焉」

  ダニエル・バーンバウム「これこそ幸福ではなかろうか。」

  ジョン・シウドマック「インド、ネパール、東西アジアの宗教美術」

  ヘルムート・ノイマン「チベット仏教美術とハーモニー」

 作家・作品紹介/作家一覧

 謝辞


カタログより

 ◆デヴィッド・エリオット「なぜハピネスなのだろう? アート&ライフのためのサバイバルガイド」

荘子に学ぶHappiness

胡蝶の夢
-斉物論より-

<本文>
昔者、荘周夢為胡蝶。
栩栩然胡蝶也。
自喩適志与。
不知周也。
俄然覚、則遽遽然周也。
不知周之夢為胡蝶与、胡蝶之夢為周与。
周与胡蝶、則必有分矣。
此之謂物化。

昔者、荘周夢に胡蝶と為る。
栩栩然として胡蝶なり。
自ら喩しみ志に適へるかな。
周なるを知らざるなり。
俄然として覚むれば、則ち遽遽然として周なり。
知らず周の夢に胡蝶と為れるか、胡蝶の夢に周と為れるか。
周と胡蝶とは、則ち必ず分有らん。
此れを之れ物化と謂ふ。

 参考文献:古典I漢文編 稲賀敬二 森野繁夫編 第一学習社


<通釈>

昔、荘周は夢で蝶になった。
ひらひらとして胡蝶そのものであった。
自然と楽しくなり、気持ちがのびのびしたことだった。
自分が荘周であることはわからなくなっていた。
にわかに目覚めると、なんと自分は荘周であった。
荘周の夢で蝶になったのか、蝶の夢で荘周になったのかはわからない。
しかし、荘周と胡蝶とには、間違いなく区別があるはずである。
こういうのを、「物化」というのである。

Source: I think; therefore I am! / 胡蝶の夢

(03/12/3)

p.8 "The Man of Character [TE] lives at home without exercising his mind and performs actions without worry. The notions of right and wrong and the praise and blame of others do not disturb him. When within the four seas all people can enjoy themselves, that is happiness for him | Chuang-Tzu, [3.13] China 4th Century BC"

「調和」の現在における重要性

p.20 "いったん見つけてしまえば、人生すべてを幸福にしてくれるような唯一の解決策や秘密の生活様式といったものは存在しない。調和は現在のわたしたちの存在そのものや在り方を最大限生かすことと関わっている。"

アートは新しい世界に向けた想像力への扉を開く

p.21 "アートはひとになにをしろと言いつけることはできない。それはアートの性質にも、目的にも反することだが、伝える内容が自由、自在であれば、これまでとはちがった方法で、新たなる世界観をつくりあげる可能性や想像力への扉を開くことができるかもしれない。"

幸福はわたしたちの思考と行動の結果:自己実現の充足感

p.22 "幸福はわたしたちの内面に根ざし、わたしたちの思考と行動の結果でなければならない。未来について考えるとき、美術はわたしたちに、なにが自分にとって本当に大切かを、固定観念や偏見に縛られることなく自由に考えられる、開放された空間を提供してくれる。そうした経験から得られる自己実現の充足感こそ、わたしたちに生き延びる力をあたえ、また運にも恵まれれば、 幸運を授けてくれるものだろう。"

 ◆ピエール・ルイジ・タッツィ「芸術と幸福 いくつかの省略をともないつつ並行する歴史」

芸術のエネルギーは生命の流れに並行する

p.25 "本来的に芸術には遵守すべき制限も、逸脱すべき境界もないのだから。芸術がつくり出す流れは、浮き沈みや緩急以上に、そのエネルギーの本質において生命の流れに近く、それと並行する関係にある。"

儚い幸福に形を与える芸術

p.25 "欲望との親密な関係から、永続性と同時にうつろいやすさが、幸福の根幹にあることが露わになる。幸福の儚さはこれより生まれているのだ。芸術は幸福の捉えどころのなさを捉え、それにフォルムを、あるいは瞬間を与えようとするのである。"

マルクーゼ『エロス的文明』

p.26 "…人間は一致団結して死の徴発官と闘うなかで、その本能に合った世界をつくるために社会の富を利用する方法を、つまり恋愛詩=楽しい知識(gaya sciencia)を、収得できるという考えである。"

ショーペンハウアー『幸福について:人生論』

p.28 "ところで幸福な生活とは何かといえば、…(中略)…冷静にとっくりと考えてみたうえで、生きていないよりは断然ましだと言えるような生活のことである、とでも定義するのが精一杯であろう。幸福な生活をこんなふうに考えれば、われわれがこれに執着するのは、幸福な生活そのものが動機となっているのであって、ただ単に死の恐怖が動機となっているのではない。またそうであればこそ、幸福な生活の無限の永続を願うのである。"


会場風景

出品作品紹介

夜景


リンク

 森美術館 / ハピネス展

(03/11/21)