魔境を幻視するバリ島絵画 イ・クトゥット・ブディアナ展
6/7-7/21
東京ステーションギャラリー
カタログについて
ごあいさつ/主催者
イ・クトゥット・ブディアナ展に寄せて/イ・マデ・バンダム
私の作品にながれている哲学/イ・クトゥット・ブディアナ
クトゥット・ブディアナ/ジャン・クトー
眠るイマージュの祝祭/伊藤俊治
脳と遺伝子を直撃する図像/大橋力
図版
第1群 歴史的作品
第2群 魔界と霊園
第3群 雲鱗の瞑想
第4群 夢幻の軌跡
第5群 神秘的小品
バリ島絵画小史
作品リスト
イ・クトゥット・ブディアナ年譜
カタログより
◆「ごあいさつ」より
伝統と革新
"バリ島の伝統的絵画の真髄―バリ島の聖獣バロンを始めとするヒンドゥの神々とその物語―を描きながらも従来のバリ島絵画の描写とは大きく異なる斬新な絵画空間を創りあげています。"
独自性と普遍性
"…作家独自の聖と邪、光と闇をうつし出す異次元的な空間があります。…(中略)…人類に普遍的に存在する感覚の表現であり、そして、人間に対する深い洞察をたたえたものといえましょう。"
◆「イ・クトゥット・ブディアナ展に寄せて」より
イ・マデ・バンダム:インドネシア芸術大学ジョグジャカルタ校総長、チプタ・ブダヤ・バリ財団理事長
◆「私の作品にながれている哲学」より
蒸気、人の純粋な源泉との一体化
"火が水に出逢った時、両者はお互いを中和し、蒸気という新しくより洗練されたものを生みだす。この状態は、瞑想を通じて自らの中に達成しうる。蒸気とは、人間においてはある精神的な状態、つまり、人がその純粋な源泉と少なくともある瞬間に一体化することが自由にできる状態を象徴している。神聖な人間の内なる精神の集中によってそれが達成される時、火と水との統一体は、“ディルタ・アメルタ”、すなわち“生命の万能薬”を生み出すことができる。それはあたかも蒸気が濃縮して水をからちづくるかのようである。この“水”は、生命が、新しく、清められた、あるいはより精神的な段階に達したことを象徴している。"
超越神との合一、真実への接近
"ひとりのアーティストとして、私は本来、自分の個性あるいは“エゴ”を表現することには携わらない。むしろ自分は、自らを超えた力によって動かされる乗り物や媒体にすぎないと感じている。…(中略)…バリ島においては、このオリジナルな統一体をTunggal (唯一のもの)、Acintya (超越的なもの)、Paramasiwa (パラマシワ神)、Siwa (シワ神)、Sang Hyang Widi (バリ島の最高神)、God (神)と呼んでいる。私は自分の芸術を通して、そうした“究極の真実”に近づくべく、自らの人間としての潜在能力を拓くよう努力しているのである。"
◆「クトゥット・ブディアナ」より
ジャン・クトー:美術批評家
"ブディアナは、完璧なバリ島の芸術家の典型といえます。ある日は寺院のための彫刻の一群をつくり、別の日には、火葬の準備―雄牛をかたどった壮麗なひつぎや豪華巨大な火葬塔などの製作指揮などを行います。また、寺院で自ら舞踊も踊るのです。そしてもちろん、絵を描きます。"
"また、人びとは、古典的・伝統的知識や見地によれば物事がどうあるべきかの教えを請うために、彼のもとを訪れます。ブディアナは、人びとの最高の導師であり、芸術創造者であり、神々と自然の崇拝者であるとみなすことができるのです。"