本は個人を育てる

小尾俊人「書物共同体への意志」 『図書新聞』2625号 2003年4月12日
 


"…文化の全体は、故人の遺産が大部分を占めている、といってもよい。ところが情報信仰によって過去の伝統がぜんぶ切られてしまった。そして文化の伝承が、教育で充分に行われないから、非常に栄養不良の人間が大勢を占めるようになった。それはやはり人間が貧しくなったということです。グローバリゼーションによって、我々は世界の同時的なニュースに追い回されているわけでしょう。たしかに、いかにも便利だし、文化の発展のように見えるけれども、つまらない情報にすっかりこき使われて、自分でもののなかに入って考え、感じ、自分を育てるということができなくなった。それでは、質の低下もあたりまえですね。"

"日本人というのは、基本的には勘はいいし、テクニカルな能力は高い。しかし、横ばかり見るから、いいものを育てることはできない。人間の体力的エネルギーはどうしたって限定されたものですから、問題はその配分原理にかかっているわけです。そして、どこにエネルギーを配分するかは完全に個人の判断ですからね。ですから、育つための防波堤をつくり個人を育てるより道はないんです。しかも、個人を育てるには本がいちばんいいんですよ。"

"…本を読んで、さらにその関連のものを探っていく。学問をするというのは、そうした構造関連を探すことなんですから。"