美術史2004


9. 社会史・社会学と美術史:バクサンドール

三浦篤「西洋美術史学の方法と歴史」、高階秀爾、三浦篤編『西洋美術史ハンドブック』、新書館、1997年6月、pp.212-215.

J 社会史的・社会学的アプローチ

p.212 l.1-2. "…美術作品とその制作者は特定の場所と時代に位置づけられる。そこから、歴史的な社会状況との関わりを踏まえて作品を解釈する、社会史的、社会学的な方法論が生まれ、一つの視座を形作ることになった。"

p.212 l.4-7. "マルクス主義的な「弁証法的唯物論」を芸術史に適用したハウザーは、主著『芸術と文学の社会史』(一九五一/『芸術の社会史』平凡社)において、西洋美術の大きな流れを宮廷芸術、市民芸術のように、社会構造の変化から説明しようとする。しかし、経済、社会という下部構造の反映として上部構造の文化、芸術を捉える、単純な決定論としての限界は否定できない。"

p.212 l.16-18. "美術の社会史とは異なる立場から、フランスのピエール・フランカステル(一九〇〇〜七〇)は芸術社会学を標榜した。美術作品を自律的な「造形言語」と文化的な産物という両面から捉えるフランカステルは、ある社会環境の中で形象思考から生まれる、物質的な記号の体系として美術を理解する。"

p.213 l.4-5. "美術制度、芸術保護者(パトロン)、趣味や流行、美術市場など、美術と社会に係わる重要なテーマの研究も盛んに行われている。"

p.213 l.13-15. "…この分野で最も注目に値するのは、パトロネージの問題や美術史と趣味の歴史との相関関係、言い換えれば美術作品の注文や受容、評価などの問題に初めて本格的に切り込んだ、イギリスのフランシス・ハスケル(一九二七〜)であろう。"

K 新しい美術史学(1)コンテクスト論、視覚文化史、受容研究

p.214 l.1-4. "一九七〇年代以降の「新しい美術史学」の方向性の一つは、社会史的なアプローチの洗練と深化である。単純な決定論、反映論を回避し、再構成された特定の歴史的コンテクスト(文脈)と美術作品との重層的な関係を浮き彫りにしていくこと。政治的、社会的、文化的等々、多様な条件を織り込みながら、視覚イメージの生成と受容の在り方により繊細な眼差しを向けつつ、作品を読解していくこと。"

p.214 l.13-15. "社会史を踏まえつつも、視覚文化史あるいは表象文化史の脈絡の中で、美術作品の特質を明らかにするのが、ヴァールブルク研究所の現在を担うマイケル・バクサンドール(一九三七〜)と、アメリカで活躍中のスヴェトラーナ・アルパースである。"

p.214 l.15-19. "…バクサンドールは、主著『十五世紀イタリアにおける絵画と経験』(一九七二/平凡社)では、絵画の注文制作や美術批評の問題に加え、教会の説教、舞踏、身振り言語など日常的な文化習慣と絵画表現との通底性に関して刺激的な考察を行った。ある社会に特有の視習慣や認識方法を具体的に把握することで絵画表現を理解するという、新たな美術史研究の枠組みを提出したのである。"

p.215 l.1-4. "…アルパースは、『描写の芸術』(一九八三/ありな書房)によって、美術史学の世界に大きなインパクトを与えた研究者である。イタリア・ルネサンス絵画と十七世紀オランダ絵画における認識や表現方法の根本的な差異を、「物語的芸術」と「描写的芸術」という概念で規定したアルパースは、現実世界の正確な描写を志向するオランダ絵画の独自性を、表象に関わるいくつかの問題系に沿って検証して見せた。"

p.215 l.8-10. "美術史学の新しい傾向として、美術作品を制作(者)の側だけではなく、受容(者)の側から見る立場がある。特に、文学研究の影響下に受容美学が進展したドイツの美術史学において、この受容の問題への関心の高さは明らかである。"


参考図書

アーノルド・ハウザー(Hauser, Arnold 1892-1978)

アーノルド・ハウザー『原始からルネサンスまで』(芸術の歴史 美術と文学の社会史1)、高橋義孝訳 、平凡社、1977年(第3版)

アーノルド・ハウザー『原始からルネサンスまで』(芸術と文学の社会史1)、高橋義孝訳、平凡社、1968年(第2版)

アーノルド・ハウザー『自然主義・印象主義から映画の時代まで』(芸術の歴史 美術と文学の社会史3)、高橋義孝訳 、平凡社、1977年(第3版)

アーノルド・ハウザー『自然主義・印象主義から映画の時代まで』(芸術と文学の社会史3)、高橋義孝訳、平凡社、1968年(第2版)

アーノルド・ハウザー『マニエリスムからロマン主義まで』(芸術の歴史 美術と文学の社会史2)、高橋義孝訳 、平凡社、1977年(第3版)

アーノルド・ハウザー『マニエリスムからロマン主義まで』(芸術と文学の社会史2)、高橋義孝訳、平凡社、1968年(第2版)

アーノルド・ハウザー『芸術の歴史』、1 - 3、高橋義孝訳 、平凡社、1958年

アーノルド・ハウザー『マニエリスム ルネサンスの危機と近代芸術の始源』(美術名著選書 12-14)、上 ・中・下、若桑みどり訳、岩崎美術社、1970年

フレデリック・アンタル(Antal, Frederick 1887-1954)

フレデリック・アンタル『ホガース ヨーロッパ美術に占める位置』、中森義宗、蛭川久康訳、英潮社、1975年

フレデリック・アンタル『フィレンツェ絵画とその社会的背景』(美術名著選書8)、中森義宗訳、岩崎美術社、1968年

フランシス・D・クリンジェンダー(Klingender, Francis D. 1907-1955)

Francis D. Klingender, Art and the Industrial Revolution, Noel Carrington, London, 1947.

ピエール・フランカステル(Francastel, Pierre 1900-1970)

フランカステル『人物画論』、天羽均訳、白水社、1987年

ピエール・フランカステル『形象の解読』、西野嘉章訳、新泉社、1981年

P.フランカステル『近代芸術と技術』、近藤昭訳、平凡社、1971年

ピエール・フランカステル『絵画と社会』(美術名著選書5)、大島清次訳、岩崎美術社、1968年

Pierre Francastel, Etudes de sociologie de l'art (Bibliotheque mediations 74), Denoël, Paris, 1970.

ニコラウス・ペヴスナー(Pevsner, Nikolaus 1902-1983)

ニコラウス・ペヴスナー『ラスキンとヴィオレ・ル・デュク ゴシック建築評価における英国性とフランス性』、鈴木博之訳、中央公論美術出版、1990年

ニコラウス・ペヴスナー『モダン・デザインの源泉 モリス.アール・ヌーヴォー.20世紀』、小野二郎訳、美術出版社、1989年(第8版)

ニコラウス・ペヴスナー『モダン・デザインの源泉 モリス アール・ヌーヴォー 20世紀』、小野二郎訳、美術出版社、1976年

ニコラウス・ペヴスナー『ヨーロッパ建築序説』、小林文次、山口廣、竹本碧訳、彰国社、1989年(新版)

ニコラウス・ペヴスナー『ヨーロッパ建築序説』、小林文次訳、彰国社、1954年

ニコラウス・ペヴスナー、ジョン・フレミング、ヒュー・オナー『世界建築事典』、鈴木博之監訳、鹿島出版会、1984年

ニコラウス・ペヴスナー『英国美術の英国性 絵画と建築にみる文化の特質』(美術名著選書23)、友部直、蛭川久康訳、岩崎美術社、1981年

ニコラウス・ペヴスナー『美術・建築・デザインの研究』(1、2)、鈴木博之、鈴木杜幾子訳、鹿島出版会、1980年

N. ペヴスナー『反合理主義者たち 建築とデザインにおけるアール・ヌーヴォー』、J. M. リチャーズ編、香山寿夫 [ほか] 訳、鹿島出版会、1976年

N.ペヴスナー『美術アカデミーの歴史』(UL双書25)、中森義宗、内藤秀雄訳、中央大学出版部、1974年

ニコラウス・ペヴスナー『モダン・デザインの展開 モリスからグロピウスまで』 、白石博三訳、みすず書房、1957年

ハリソン&シンシア・ホワイト(Harrison C. White , Cynthia A. White)

Canvases and careers: institutional change in the French painting world(1965)

ブルース・コール(Cole, Bruce 1938- )

ブルース・コール『ルネサンスの芸術家工房』、越川倫明、吉澤京子、諸川春樹訳、河口公生訳注、ぺりかん社、1995年

マルティン・ヴァルンケ(Warnke, Martin)

マルティン・ヴァルンケ『政治的風景 自然の美術史』(叢書・ウニベルシタス511)、福本義憲訳、法政大学出版局、1996年

マルティン・ヴァルンケ『クラーナハ《ルター》 イメージの模索』(作品とコンテクスト) 、岡部由紀子訳、三元社、1993年

Martin Warnke, Hofkunstler: zur Vorgeschichte des modernen Kunstlers, DuMont, Köln, 1985.

フランシス・ハスケル(Haskell, Francis 1928-2000)

Francis Haskell, History and its images: art and the interpretation of the past, Yale University Press, New Haven, 1993.

Francis Haskell, Past and present in art and taste: selected essays, Yale University Press, New Haven, 1987.

Francis Haskell, Rediscoveries in art : some aspects of taste, fashion and collecting in England and France (Wrightsman lectures ; v. 7), Phaidon Press, London, 1976.

Francis Haskell, Patrons and painters: a study in the relations between Italian art and society in the age of the Baroque, Chatto & Windus, London, 1963.

ティモシー・J・クラーク(Clark, Timothy J. 1943- )

T. J. Clark, The painting of modern life: Paris in the art of Manet and his followers, Thames and Hudson, London, 1985.

T. J. Clark, The absolute bourgeois: artists and politics in France, 1848-1851, Thames and Hudson, London, 1973.

T. J. Clark, Image of the people: Gustave Courbet and the 1848 revolution, Thames and Hudson, London, 1973.

マイケル・バクサンドール(Baxandall, Michael 1937- )

マイケル・バクサンドール『ルネサンス絵画の社会史』、篠塚二三男、石原宏、豊泉尚美、池上公平訳、平凡社、1989年

Michael Baxandall, Shadows and enlightenment, Yale University Press, New Haven, 1995.

Michael Baxandall, Patterns of intention: on the historical explanation of pictures, Yale University Press, New Haven, 1985.

Michael Baxandall, Painting and Experience in Fifteenth Century Italy: A Primer in the Social History of Pictorial Style (1972),  2nd edition, Oxford University Press, 1988.

Michael Baxandall, Giotto and the orators: humanist observers of painting in Italy and t
he discovery of pictorial composition, 1350-1450
(Oxford-Warburg studies)
, Clarendon Press, Oxford, 1971.

スヴェトラーナ・アルパース(Alpers, Svetlana )

スヴェトラーナ・アルパース『描写の芸術』、幸福輝訳、ありな書房、1993年

Svetlana Alpers, Michael Baxandall, Tiepolo and the pictorial intelligence, Yale University Press, New Haven, 1994.

Svetlana Alpers, Rembrandt's enterprise: the studio and the market, University of Chicago Press, Chicago, 1988.

Svetlana Alpers, The Art of Describing, University of Chicago Press, Chicago, 1984.

ハンス・ベルティング(Belting, Hans 1935- )

ハンス・ベルティング『ドイツ人とドイツ美術 やっかいな遺産』、仲間裕子訳、晃洋書房、1998年

ハンス・ベルティング『美術史の終焉?』、元木幸一訳、勁草書房、1991年

Hans Belting, Bild und Kult: eine Geschichte des Bildes vor dem Zeitalter der Kunst, C.H. Beck, München, 1990.

Hans Belting, Das Ende der Kunstgeschichte? Deutscher Kunstverlag, München, 1983.

Hans Belting, Das Bild und sein Publikum im Mittelalter: Form und Funktion fruher Bildtafeln der Passion (Gebr. Mann Studio-Reihe), Mann, Berlin , 1981.

ヴォルフガング・ケンプ(Kemp, Wolfgang 1946- )

ヴォルフガング・ケンプ『レンブラント「聖家族」 描かれたカーテンの内と外』(作品とコンテクスト)、加藤哲弘訳、三元社、2003(新装版)

ヴォルフガング・ケンプ『レンブラント「聖家族」 描かれたカーテンの内と外』(作品とコンテクスト)、加藤哲弘訳、三元社、1992年

Wolfgang Kemp, Rembrandt: die Heilige Familie, oder, Die Kunst, einen Vorhang zu luften (Kunststuck 3940), Originalausg, Fischer Taschenbuch Verlag, Frankfurt am Main, 1986.

Wolfgang Kemp, Der Anteil des Betrachters: rezeptionsasthetische Studien zur Malerei des 19. Jahrhunderts, Maander, München, 1983.

Wolfgang Kemp (Hrsg.), Der Betrachter ist im Bild: Kunstwissenschaft und Rezeptionsasthetik, DuMont, Köln, 1985.

トマス・クロウ(Crow, Thomas 1948- )

Thomas E. Crow, Painters and public life in eighteenth-century Paris, Yale University Press, New Haven, 1985.

ピエール・ヴェッス(Vaisse, Pierre  )

Pierre Vaisse, La Troisième République et les peintres, Flammarion, Paris, 1995.


マイケル・バクサンドール『ルネサンス絵画の社会史』、篠塚二三男、石原宏、豊泉尚美、池上公平訳、平凡社、1989年、pp.12-33

第一章 絵画取引のしくみ

  1 序論 p.12-p.16 l.9

p.12 l.1 "十五世紀のひとつの絵画作品は、ひとつの社会関係の証である。"

p.12 l.10-12 "十五世紀の絵画のうちすぐれた作品は、注文に基づいて制作されたのであり、顧客は自分用の細かな仕様書を用意したうえで画家に作品を依頼した。"

p.13 l.5-7 "美術の歴史において、金銭は非常に重要であり、作品にすすんで金をかけようとする顧客にとっての関心事であるばかりであなく、どのような基準で支払われるかという点においても絵画に影響を及ぼす。"

p.14 l.6-9 "ルチェッライはまた、教会や邸宅の建造や装飾に莫大な費用を投じているとも述べており、所有欲のほかにもさらに三つの動機があることをほのめかしている。つまり、これらの事業は、「神の栄光と、都市(ルビ:まち)の名誉、そして私自身の記念とに役立つので、最大の満足と最大の快楽を」与えてくれるというのである。"

p.14 l.11-13 "ルチェッライはさらに、五番目の動機を持ち出してくる。このような物品を購入することは、金銭を正しく使うという美徳や喜びのはけ口になるし、蓄財という公認された喜びよりも立派な喜びでもある、というのである。"

p.14 l.16-p.15 l.2 "そうした行為は、世間に対する望ましい還元であり、寄進と租税あるいは教会税の支払いとの中間に位置する行為であった。こうしたたてまえからゆくと、絵画には目立つわりに安価であるという一石二鳥の利点があったといわねばならない。鐘や大理石舗床、綿織りの掛物、そのほか教会への寄進などは、絵画より金がかかったのである。"

p.16 l.1-3 "現代の画家であったら、自分にとって最良の作品を描いてから次に買手を探すが、こうした近代ロマン派以降の状況と比べると、十五世紀の絵画の取引はまったく異なっていた。"

"本書のテーマも、こうした注文主の絵画への参加を考察しようとするものなのである。"


p.14に挙げられている画家

 ドメニコ・ヴェネツィアーノ(Domenico Veneziano) 《マギの礼拝》(ベルリン国立美術館)

 フィリッポ・リッピ(Filippo Lippi) 《聖母子と聖アンナの生涯(トンド・バルトリーニ)》(ピッティ美術館)

 ヴェロッキョ(Verrocchio) 《キリストの洗礼》(ウフィツィ美術館)

 ポッライウオーロ兄弟(Pollaiuolo) 《アポロとダフネ》(ロンドン、ナショナル・ギャラリー)

 アンドレア・デル・カスターニョ(Andrea del Castagno) 《最後の晩餐》(フィレンツェ、カスターニョ美術館)

 パオロ・ウッチェッロ(Paolo Uccello) 《狩猟》(オックスフォード、アシュモリアン美術館)

リンク

 ・アート at ドリアン

 ・Web Gallery of Art



  2 契約および注文主による干渉 p.16 l.10-p.33 l.8

    (1)注文主の干渉の例(フィリッポ・リッピ) p.16 l.10-p.20 l.12

p.20 l.2-6 "つまり、画家はふつう市民すなわち俗人の個人や宗教団体か修道院の長、また君主やその役人といった顧客とかなり直接的な関係を結んでいたということなのである。注文主の人脈がひどく込み入っている場合でも、画家はたいてい特定できる人のために作品を作った。そしてその注文主は、絵画の依頼を思い立ち、画家を選び、作品の姿を思い描きながら絵が完成するまで関わり続けたのである。"

    (2)典型的な契約の例(ギルランダイヨ) p.20 l.13-p.24 l.5

p.22 l.2-5 "こうした契約については、ひとつの都市のなかでさえ定まった書式というのはなかったので、完全に典型的な契約といったものもない。ただし次にあげるフィレンツェの画家ドメニコ・ギルランダイヨとフィレンツェのオスペダーレ・デリ・インノチェンティ[孤児養育院]の院長との間にかわされた契約は、かなり典型的な部類に入るだろう。"

契約内容抜粋
・板は、フランチェスコが準備
・ドメニコは、その板に自費で彩色し絵を仕上げる
・彼[ドメニコ]は板絵をすべて自分の手で彩色
下絵に示されたとおりに人物などを描かねばならない
・先の下絵にある様式、構図から逸脱してはならない
・装飾品などに良質の絵具や金粉を必要とする場合はすべて自費で板絵を彩色
青色は、一オンスあたり四フロリンほどの高価なウルトラマリンでなくてはならない
・三十箇月以内にこの板絵を仕上げて納品しなければならない
・また私[フラ・ベルナルド]は、その絵の価値や技倆に関して、最適の評価を下せると思われる人のところに出向いて意見を求めることができ、先に示した価格に値しないと判断した場合には、私フラ・ベルナルドが妥当と考える値引きをした額を、彼は受け取ることとする。
・期限内に板絵を納品できない場合には、十五大判フロリンの罰金が課せられる
・月々の支払いを怠った場合には、その違約金として、板絵が完成したときに残金全部を支払わなければならない

    (3)主題、支払い、顔料 p.24 l.6-p.30 l.8

p.24 l.7-8 "…描いてもらいたい画像を言葉で明確に示すのは難しいので、下絵に委ねるやり方がより一般的であったし、明らかに有効であった。"

p.26 l.11 "いずれにせよ支払い額を算出するうえでの基準は、必要経費と画家の手間賃の二点だったのである。"

p.27 l.3-8 "ウルトラマリンは金や銀についで高価な顔料で、画家にとって扱いにくい色でもあった。ウルトラマリンには安価なものと高価なものとがあり、<ドイツ青>【アズライト】と呼ばれるさらに安い代用品もあった【ウルトラマリンは粉末にしたラピス・ラズリから作るもので、東方から高い値段で輸入された。色を抽出するためにこの粉末を何度か水にさらすが、最初に取り出される深いヴァイオレット・ブルーがもっとも良質で高価であった。アズライトはただ銅を炭化させたもので色合いが冴えず、なお悪いことには性質が不安定で、特にフレスコ画に使うとそうであった】。"

p.30 l.2-4 "こうした例はほかにもあるが、契約書を見ると、青色に対する目が鋭敏で、さまざまな青に対する識別能力がうかがえる。こうした能力を現代のわれわれの文化はけっしてもちあわせてはいない。"

p.30 l.7-8 "重要さの度合いが、ヴァイオレット・ブルーの多少の差で示されているのである。"

    (4)契約関係にない画家の例(マンテーニャ),まとめ p.30 l.9-p.33 l.8

p.30 l.9-10 "俸給を得て王侯の下で働いた美術家も何人かいた。"

p.32 l.13-15 "しかしこのようなマンテーニャの地位は、ほかのすぐれた十五世紀の画家たちと比べて特殊なものである。王侯貴族のために絵を描いた画家たちであっても、家臣として定期的に給料を支給されるよりは、作品ごとに代金を支払われるのがふつうだった。"

p.32 l.15-17 "十五世紀当時の絵画取引の様子がわかるのは、契約書に繰り広げられた実際の商業上の取引によってであり、それは特にフィレンツェでもっとも明確に見ることができる。"

p.33 l.2-3 "そしてさらに興味深いのは、十五世紀の時の流れにつれ契約条項の強調点が変化していることである。"

p.33 l.7-8 "高価な絵具はさほど重視されなくなる一方で、画家の技倆に対する要求が増してゆくのである。"


2に挿入されている図版

 図1 フィリッポ・リッピ《三幅対祭壇画の構想スケッチ》

 図2 ドメニコ・ギルランダイヨ《マギの礼拝》

 図3 フラ・アンジェリコ《亜麻布商組合(リナイウオーリ)の祭壇画》

 図4 ステファーノ・ディ・ジョヴァンニ《聖フランチェスコの生涯》《貧しい兵士に外套を与える聖フランチェスコ》
  p.27 l.16-17 "…聖フランチェスコの脱ぎ捨てたガウンがウルトラマリンで描かれている…"

 図5 アンドレア・マンテーニャ《子息フランチェスコ・ゴンザーガ枢機卿を迎えるロドヴィコ・ゴンザーガ》、参考:カメラ・デリ・スポージ西壁と北壁、マントヴァ、パラッツォ・ドゥカーレ、(部分)

2で言及されている作品の図版

 p.30 マザッチョ《磔刑》【ナポリ、カポディモンテ美術館】
  l.1-2 "…この場面の本質的身振りとなる聖ヨハネの右腕がウルトラマリンで強調されている。"