08 ナムジュン・パイクとヴィデオ・アートの歴史


ヴィデオ・アートの定義

1. Osborne, Harold (ed). The Oxford Companion to Twentieth-Century Art. Oxford: Oxford UP, 1981.

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2. ロバート・アトキンス『現代美術のキーワード』、杉山悦子、及部奈津、水谷みつる訳、東京:美術出版社、1993年、149-51頁。

「ビデオ・アート」とは、アーティストによって制作されたビデオのことである。ビデオ・アートの歴史は、一九六五年に、韓国生まれのフルクサスのアーティスト、ナム・ジュン・パイクが、最新のソニーのポータブル・ビデオ・カメラを用いて初めてビデオ作品を撮り、数時間後にニューヨークのグリニッジ・ヴィレッジのカフェ・ア・ゴーゴーでそれを上映したときに始まった。…(後略)

3. 美術出版社編集部編『現代芸術事典』、美術出版社、1993年、24-25頁。

一九六〇年代前半におけるナムジュン・パイクヴォルフ・フォステルの、テレビ受像機を使った映像実験に起源する。テクノロジーの可能性と、同時にメディアによる意識支配への批判的契機に根ざした表現活動。撮影/編集によってヴィデオテープに完結させた作品形態と、各種のインスタレーションに大別できる。
一九七〇年代から八〇年代半ばのアメリカにおいて、おもにニューヨークやボストンなどの公共テレビ局が、財政的・技術的な支援を行ったことで内容やスタイルが洗練化し、また、いくつかの美術館での啓蒙的な展覧会が成功したことによって、八〇年代後半には世界的な広がりをみせた日本では七二年、中谷芙二子、山口勝弘、山本圭吾、小林はくどうほかのアーティストが「ビデオひろば」というグループをつくり、その後の展開に指針を与えた。ただし、近年ではコンピュータや通信技術との関係を深め、ヴィデオ・アートもその様相を変えつつある。 <森岡>

4. Chilvers, Ian. A Dictionary of Twentieth-Century Art. Oxford: Oxford UP, 1998.

A broad term applied to works created by visual artists in which video and television equipment and technology is used in any of various ways. Edward Lucie-Smith (Visual Arts in the Twentieth Century, 1996) writes that Frank Popper in his Art of the Electronic Age (1993), 'distinguishes at least six types of video art: the use of technological means to generate new visual imagery; the use of video to give performances a more permanent form; what he calls "guerrilla video"--that is, the use of video to distribute images and information likely to be supposed by the ruling establishment; the use of video-cameras and motions in sculptural installations; live performances which involve the incidental use of video; and finally, advanced technological manifestations, often involving the use of videos with computers.'
     Wolf Vostell incorporated working television sets in assemblages in 1959, but the creator of video art as a genre is usually regarded as Nam June Paik (1932- ), a Korean musician, Performance artist, and sculptor, who settled in New York in 1964 and acquired a portable Sony video recorder in 1965 as soon as this new equipment was available there. He is said to have made his first recording on the day he bought the recorder and to have showed the tape the same evening at an artists' club, the Ca-a-Go-Go. . . .
     Where Paik sees himself as an entertainer (he has often appeared on television chat shows), another well-known specialist in video art, the American Bill Viola (1951- ), is more serious--his detractors might say portentous--in tone. . . .

<要旨>

ヴィデオ・アートは、ヴィデオとテレビの装置または技術をさまざまなかたちで利用した視覚藝術家たちの作品の総称。

フランク・ポパーは1993年の彼の著作で6つに大別した:
 1. 新しい視覚イメージを生み出すためにテクノロジーを使用しているもの
 2. パフォーマンスの記録媒体としてヴィデオを使用したもの
 3. 支配的なメディアと同じ様に映像や情報を配信しようとする「ゲリラ・ヴィデオ」
 4. 彫刻的なインスタレーションに映像やカメラ装置を利用しているもの
 5. ヴィデオ映像の同時性をパフォーマンスの要素としていもの
 6. コンピュータを使用して、映像技術の先端性を表現内容としているもの

ヴォルフ・フォステルは1959年にテレビを組み込んだ作品を制作しているが、一般にジャンルとしてのヴィデオ・アートの確立者はナムジュン・パイクと見なされている。パイクがポータブル・ヴィデオ・レコーダーを手に入れたのは1965年である。

5. Rush, Michael. Video Art. London: Thames and Hudson, 2003, p.13.

Attempting a history of Video art is a complicated venture. The origins of the form were too multifaceted to be identified with one or two individuals, no matter how influential they may have been.

If the appearance of the Portapak in 1965 was a defining moment in the creation of this new medium, within minutes, or so it seemed, Video art found a place in galleries and museums, in the United States and Germany; festivals with Video art were springing up Paris and New York; public television stations were offering residencies to video artists; and cities like Buenos Aires (hardly ever mentioned in histories of Video art) were home to Video-art distribution centers.

<要旨>

ヴィデオ・アートの歴史は複雑で、たとえ影響が大きかったとしても1人や2人の個人にその起源を求められるようなものではない。

1965年の「ポータパック」の登場が決定的なきっかけとなったとはいえ、その数分後、といってもよいくらいの時間差で、ヴィデオ・アートは合衆国とドイツの美術館やギャラリーで見られるようになったし、パリやニューヨークではヴィデオ・アート・フェスティバルの開催が始まり、ヴィデオ・アーティストは公共の放送局にも活躍の場を見出した。ヴィデオ・アート・配信センターが設立されたブエノス・アイレスのような都市があったことは、これまでヴィデオ・アートの歴史で見過ごされてきた。


ナムジュン・パイク(白南準)について

1932年ソウル生まれ。1950年、朝鮮戦争を避けて来日、東京大学で音楽美学を学ぶ。1956年渡独し、作曲を学ぶ。1963年、ヴッパータールのパルナス画廊でテレビ受像機を使用した作品を発表。1964年、ニューヨークへ渡り、翌65年、発売されたばかりのポータブル・ヴィデオ・レコーダーを使った映像作品を発表。以後、チェロ奏者シャーロッテ・ムアマンとのパフォーマンス映像や、エンジニア阿部修也と協働して開発したヴィデオ・シンセサイザー、テレビ・モニターを自在に組み合わせたヴィデオ彫刻など、ソフトとハードの両面でヴィデオ・アートの可能性を開拓。その先駆者とされる。1977年、ニューヨーク近代美術館で個展。1984年、東京都美術館で個展。1992年、ソウル国立現代美術館で大規模な回顧展。1993年のヴェネツィア・ビエンナーレではドイツ館の出品作家として選出され、金獅子賞受賞。2000年、グッゲンハイム美術館で回顧展。奥さんの久保田成子もヴィデオ・アーティスト。


VIDEO上映

「エレクトロニック・スーパーハイウェイ:90年代のナムジュン・パイク」、1995年、発売元:ユーロスペース


リンク

ナムジュンパイクの経歴と作品

The Worlds of Nam June Paik -Guggenheim Museum

(12/15/04)