芸術論特殊講義2004


国際美術展とグローバリゼーション(2)

事前配布プリント

松井みどり「拡散する世界の地脈を求めて 極私的アレゴリーと絵画の流動」、『美術手帖』847号、2004年4月号、228-232頁。

市原研太郎、長谷川祐子、建畠晢(座談会)「グローバル・アートの行方 二〇〇〇年代の現代美術を考える」、『美術手帖』847号、2004年4月号、233-248頁。


DVD上映

「奈良美智の探求」(約17分)、『奈良美智×村上隆 ニュー・ポップ宣言』、発行:NHKソフトウェア、(C)NHKエデュケーショナル

◆「新日曜美術館」2001年9月23日放映分


サイト紹介

Universes in Universe

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(04/26/04)


講義ノート

松井みどり「拡散する世界の地脈を求めて 極私的アレゴリーと絵画の流動」

 1.はじめに:概観
 2.多声的な理論と画一的表現
 3.極私的な「アレゴリー」
 4.境界からの逃走
 5.結び

1.はじめに:概観

"…九〇年代は、「ポストモダン」芸術の爛熟期だったといえる。"

前半:言説性の強い表現

後半:関係性の芸術

"その流れのなかで、理論的思考による芸術や社会制度の批判から、個人の感情や身体性を重視した幸福の探求と共生の工夫への、表現目的の変換が行われた。"

"…近年の大きな関心事は、グローバル化を主題とする芸術表現や国際展の流行だろう。"

"現代美術が、同時代の世界に反応しながら新しい表現を生み出していくものである限り、その表現に「グローバル化」への意識が反映されることは、避けられないだろう。しかし、グローバル化への反応から生まれる表現と、グローバル化について語る表現は、同じではない。"

2.多声的な理論と画一的表現

"現代美術をめぐる「グローバル化」の問題点は、多くの場合それが、キュレーターを中心とする現象であり、また、個性よりも集団性、作品の美学的傾向よりも言説性を重視する傾向をもっているということだろう展覧会の目的は、理論的に強化された、現代世界を解明するための知的枠組みを示すことであり、アーティストはそのための記号であるという姿勢は、…(後略)。"

"…マーサ・ロスラーは、『アートフォーラム』誌の鼎談のなかで、「アーティストが国籍に関係なく創作できるというのは、美学的な幻想であり、現代の現実にコミットする限り、表現には、必ず国籍や地域性などの特殊性が反映される」と語っている。"

"それらは、明白すぎる象徴をとおしてひとつのメッセージにしか観客を導かない教条性と、それが集団的に繰り返されることから生まれる画一性によって、九〇年代半ばまでには、観客の支持を失った表現である。同様の傾向が、十年足らずのインターバルを得て復活し、政治的良心をもつ芸術として脚光を浴びる現状には、「多声性」や「流動性」を重要視するグローバル化の理論に矛盾する、キュレーター独裁体制の単一的な方向性を感じる。"

"…「トークン(token)」型のアーティストの再来により、その方法を選ばないアーティストへの圧迫が増えることが、懸念される。"

3.極私的な「アレゴリー」

"グローバル化がもたらす不確定な環境は、確実に若いアーティストに影響を与えている。"

ヤン・フードン(Yang FuDong)

オリヴァー・ペイン&ニック・レルフ(Oliver Payne & Nick Relph)

高嶺格(Takamine Tadasu)

"フードンと、レルフ&ペインの作品は、八〇年代にクレイグ・オーウェンスによって定義されたポストモダン・アレゴリーの変種と考えることもできる。オーウェンスは「アレゴリー」を「ふたつの関係がどれほど断片的で、間歇的で、混乱しているように思えても、ひとつのテキストを別のテキストをとおして読み取る行為」と定義した。"

"三組のアーティストのなかで、アートは、現代の社会を理解するための道具として使われているが、同時にそこには理論武装を必要としない、個人的な直感も、強く表れている。彼らの表現では、九〇年代前半のアートを特徴付けた言説性と、後半のそれのもち味である、理論化を拒む私的感情や特殊な仲間内の文化や共同体への愛着が組み合わさり、さらに知覚が体験の基礎として喚起されることで、新しい方向性が示されている。"

4.境界からの逃走

"二〇〇〇年前後から、絵画には、具象的な形象をとおした、オプ効果やカラー・フィールドが見られるようになった。"

ピーター・ドイグ(Peter Doig)

ママ・アンダーソン(Karin Mamma Andersson)

ローラ・オーウェンス(Laura Owens)

杉戸洋(Sugito Hiroshi)

→"幻覚的な効果"

伊藤存(Ito Zon)

青木陵子(Aoki Ryoko)

→"無意識のはたらきを写し取ったような、幻覚性"

"中心的な価値観をもたない、過渡期に反応する表現"

5.結び

"ここで論じたアーティストの作品には、理論を援用してグローバル化を説明する制度的な言説性ではなく、グローバル化がもたらす境界の喪失への誠実な反応が窺われる。"

"そこには、有機的な価値の全体像を失い断片化することへの不安と、固定化された意味や意識の境界からの逃走のスリルの狭間で制作することの、自由と危うさが表れている。"