美術史2005
ポストコロニアリズム2:オリエンタリズム
1.マネをめぐって
エドゥアール・マネ《草上の昼 食》(1863), 《オランピア》(1863)
ルネ・コックス(Renée Cox)《プッシー池のいとこたち》(2001), 《オランピアの少年たち》(2001)
森村泰昌《肖像(双子)》 1988-90年 カラー写真プリント、透明メディウム 130.3×162.0 広島市現代美術館
2.オリエンタリズム
オリエンタリズム Orientalism
西洋文明から見た東洋(中国・日本・中近東を含む)の芸術の解釈による、西洋の芸術への組み込み。その動機の多くは東洋への憧れに発していた。この傾向はヴェネツィア派の絵画に見られるが、東方への旅行が盛んになるにつれて、ナポレオンのエジプト遠征(1798−99)を契機にロマン主義において急速に強まった。オダリスク、トルコ風呂、東方風の衣服など多彩なモティーフが取り上げられた。アングル、シャッセリオーなど新古典主義の画家を含め、ドラクロワやアルマ・タデマなど19世紀画家において特に顕著に見られる。また、オリエンタリズムへの興味は1862年のイギリスでの開催に始まり、続いてパリ(1867)やウィーン(1873)で開かれた万国博覧会によっても高まった。万国博覧会での展示によってオリエンタリズムは印象主義やアール・ヌーヴォーに大きな影響を与えることとなった。またシノワズリー、ジャポニスム趣味の造形作品が盛んに生みだされた。しかし日本と中国がはっきりとは区別されて認識されているわけではなかったし、建築でもハーレムの幻想から「インド様式」には常にエロティックな要素が混入されるなど、一方的な西欧的解釈がなされていた。オリエンタリズムの要素を持つ建築物の多くは、例えばロンドンのアルハンブラ劇場やコペンハーゲンのティボリ遊園など娯楽のための施設であり、人々が気晴らしをするのに適した様式と考えられていた。(山口美果)出典:artscape / art words / オリエンタリズム
(6/29/05)
2.オリエンタリスムの絵画
ジャン・オーギュスト・ドミニク・アングル《グランド・オダリスク》, 1814, 油彩・カンヴァス, 91×162cm, ルーヴル美術館.
Source: Louvre / Une Odalisque
ジャン・オーギュスト・ドミニク・アングル《トルコ風呂》, 1859頃-63, 油彩・板に貼り付けたカンヴァス, 直径108cm, ルーヴル美術館.
Source: Louvre / The Turkish Bath
cf. 「ルーヴル美術館展」 / トルコ風呂
テオドール・シャセリオー《死体を引き取るアラブの騎兵たち》, 1850, 油彩・カンヴァス, 173×232cm, ケンブリッジ, フォッグ美術館.
Source: Harvard University Art Museum / Arab Horsemen Carrying Away Their Dead
ウジェーヌ・ドラクロワ《アルジェの女たち》, 1834, 油彩・カンヴァス, 180×229cm, ルーヴル美術館.
Source: Louvre / Femmes d'Alger dans leur appartement
ローレンス・アルマ=タデマ《モーゼの発見》, 1904, 油彩・カンヴァス,137.5×213.4cm, 個人蔵.
Source: ARC / The Finding of Moses
ローレンス・アルマ=タデマ《エジプトの曲芸師》, 1870, 油彩・カンヴァス, 45×66.1cm, 個人蔵.
Source: ARC / Egyptian Juggler
ジャン=レオン・ジェローム《奴隷市場》, 1866, 油彩・カンヴァス, 83.8×63.5cm, ウィリアムズタウン, クラーク美術研究所.
Source: Exhibition of Postcards / Jean-Leon Gerome
ジャン=レオン・ジェローム《蛇使い》, 1880, 油彩・カンヴァス, 84×122cm, ウィリアムズタウン, クラーク美術研究所.
Source: ARC / The Serpent Charmer
ジャン=レオン・ジェローム《ローマの奴隷市場》, ボルティモア, ウォルターズ美術館
Source: Exhibition of Postcards / Jean-Leon Gerome
ジャン=レオン・ジェローム《奴隷の正義》, ハンブルグ, クンストハレ
Source: Exhibition of Postcards / Jean-Leon Gerome
(6/29/05)
オリエント世界=イスラム文化圏
近東,小アジア,北アフリカを中心に,ギリシア,スペイン南部も含めた地中海沿岸地域
「永遠なるオリエント」
画家たちが再現し,強化したイメージ:依然として古代の神話や聖書の世界のまま変わる事のない東方世界.
→現実:近代化進む
暴力,残虐,野蛮,誘惑
ヨーロッパによってステレオタイプ化されたオリエント
東方女性の官能美=支配と欲望の対象
征服者・支配者としてのヨーロッパの主体化
参考文献
三浦篤「アカデミスムとオリエンタリスム」, 高階秀爾編『ロマン主義』(世界美術大全集 西洋編 20), 小学館, 1993, 181-88.
Source: ei / Remembering Edward Said (6/29/05)
サイード Edward W. Said 1935〜2003 アメリカの文芸批評家、ポストコロニアリズムの理論派。イギリス統治下のパレスティナに生まれる。1948年にエジプトのカイロに移住。51年に渡米し、プリンストン大学で文学士、ハーバード大学で学位を取得した後、コロンビア大学で英文学・比較文学の教授をつとめ、アメリカ国籍をとった。2003年9月25日、白血病のためにニューヨークの病院で死去。
出典:Microsoft Encarta2003/(C) 1993-2003 Microsoft Corporation. All rights reserved.
3−1.この世界に故郷なし
故郷を甘美に思う者はまだ嘴の黄色い未熟者である。
あらゆる場所を故郷と感じられる者は、すでにかなりの力をたくわえた者である。
だが、全世界を異郷と思う者こそ、完璧な人間である。
――聖ヴィクトルのフーゴー(1096-1141)『ディダスカリコン』から、アウエルバッハが行った引用
出典:エドワード・W・サイード『オリエンタリズム』下巻(平凡社ライブラリー)、板垣雄三・杉田英明監修、今沢紀子訳、1993年6月、138頁。
3−2.『オリエンタリズム』
表象の伝承
"「もしオリエントがみずから表象できるものなら実際にそうしていることだろう.オリエントにはそれができないからこそ,表象としう仕事が西洋のために,またやむをえず哀れな東洋のためになされるのだ」…(中略)…文化的言説と文化的交換に関連して,それらが文化の内部に流通させているものはたいていの場合「真実」ではなく表象なのだ."(上, 59).
対象化=脆弱化
"バルフォアにとって,知識の意味するところは,文明をその起源から,盛時,衰退に至るまで概観すること―そして,もちろん,概観することが可能だ,ということである.そしてまた,知識とは,直接性を乗り越え,自我を越え出て,異質性,遠隔性の彼方にまで上昇することを意味している.こうした知識によって対象化されるところのものは,本来,調査=詮索にもてあそばれる脆弱性を帯びざるをえない."(上, 82).
支配者の表象
"イギリスでは,インドその他の英国人行政官は五十五歳になると,停年退職して任地から引き上げるという慣行が広く行われるようになったが,これはオリエンタリズムに洗練の度を一段と加味するものであった.東洋人は,年老いて衰えた西洋人を決して目にしてはならなかったのであり,西洋人のほうは,従属的種族の目に映る自分が,強健で理性的で,敏捷さを失わぬ若きラージャ〔王侯貴族〕であればよいのであって,それ以外の姿をとる必要はまったくなかったのである."(上, 104).