美術史2005


ポストコロニアリズム3: 他者性の美術史

1.描かれた鏡

2.鏡としての絵画

3.鏡の歪み

4.自己の他者化

5.まとめ―アポリアとしての他者


1.描かれた鏡

 1-1.内省の鏡

ジョルジュ・ド・ラ・トゥール《悔悛するマグダラのマリア(2つの灯火の前のマグダラのマリア)》, 1638-43年, 油彩・カンヴァス, 134×92cm, メトロポリタン美術館

 1-2.虚栄の象徴

フランス・ファン・ミーリス(the Elder)《鏡の前の女》, 1670年頃, 油彩・板, ミュンヘン, アルテ・ピナコテーク

 1-3.ナルキッソス

ニコラ・プッサン《エコーとナルキッソス》, 1627-28年, 油彩・カンヴァス, 74×100cm, ルーヴル美術館

カラヴァッジョ《ナルキッソス》, 1595年頃, 油彩・カンヴァス, 112×92cm, ローマ国立美術館(パラッツォ・コルシーニ)

 1-4.浮遊する表象

ディエゴ・ベラスケス《ラス・メニーナス》, 1656年, 油彩・カンヴァス, 318×276cm, プラド美術館

Source: Web Gallery of Art


2.鏡としての絵画

 2-1.自画像

デューラー《1493年の自画像》, 1493年, 油彩・羊皮紙(カンヴァス), 56.5×44.5cm, ルーヴル美術館

デューラー《1498年の自画像》, 1498年, 油彩・板, 52×41cm, プラド美術館

デューラー《1500年の自画像》, 1500年, 油彩・板, 67×49cm, ミュンヘン, アルテ・ピナコテーク

Source: Web Gallery of Art

 2-2.世界像

パブロ・ピカソ《ゲルニカ》, 1937年5月1日〜6月4日, 油彩・カンヴァス, 349.3×776.6cm, レイナ・ソフィア芸術センター


3.鏡の歪み

 3-1.メタモルフォーズ

パルミジャニーノ《凸面鏡の自画像》, 1523-24年, 油彩・板, 直径24.4cm, ウィーン美術史美術館
 Source: Web Gallery of Art

 3-2.洋画―和製西洋鏡

萬鉄五郎《日傘の裸婦》, 1913(大正2)年, 油彩・カンヴァス, 80.5×53.0cm, 神奈川県立近代美術館

小出楢重《裸女と白布》, 1929(昭和4)年, 油彩・キャンバス, 52.0×64.0cm, 東京国立近代美術館
 Source: 東京国立近代美術館

岸田劉生《麗子》, 1921(大正10)年, 油彩・カンヴァス, 44.2×36.4cm, 東京国立博物館
 Source: 東京国立博物館


4.自己の他者化

 4−1.他者の取り込み

フリーダ・カーロ《私の心のディエゴ》、1943年、油彩、メゾナイト、76.0×61.0cm、ジャック&ナターシャ・ゲルマン・コレクション
 Source: Artchive / Frida Kalho

 4−2.異世界化

ヒエロニムス・ボッシュ《快楽の園》(中央パネル), 1510-15年頃, 220×195cm, プラド美術館
 Source: Web Gallery of Art

《鳥獣戯画》(部分), 12世紀(平安時代)
 Source: engei net / 縮小復刻巻物:国宝鳥獣戯画(全4巻セット)

河鍋暁斎《暁斎百鬼画談》(部分), 1889(明治22)年

フランシスコ・ゴヤ《わが子を喰らうサトゥルヌス》, 1820-23年, 146×83cm, プラド美術館
 Source: Web Gallery of Art


5.まとめ―アポリアとしての他者

 5−1.アポリア

〔英〕aporia 〔独〕Aporie 〔仏〕aporie

 原義は、通路または手段のないことを意味している。アリストテレスによれば解決しがたい事柄を意味し、同一の問いに対する答として二つの相反する合理的な意見が提出されるとき、アポリアがあるという。現代では、放置できない論理的難点をさすのに用いる。

『哲学事典』, (平凡社, 1971) 30.

 5−2.到達不可能な他者(ジャック・デリダ)

"こうして脱構築は、決定不可能なものの経験における決定の思考として、アポリアの思考であると言える。脱構築は単に、所与の言説の自己矛盾を暴露し、それを自壊に導くことを目的とするのではなく、肝心なのは、固定化し、自明化した既成の言説的・制度的構築物を決定不可能な他者の経験(アポリアの経験)へと開き、その経験の中で決定の責任を問いなおすことである。アポリアの経験のないところには他者との関係がない。他者との関係はアポリアである。他者を他者として知るためには他者を知ってはならない。他者を知るためには他者を私の世界の一部とし、私の理解可能な地平に他者をとりこみ、他者の他者性を内化、同化しなければならないが、そのとき他者はまったき他者ではなくなってしまう。他者は到達不可能なものとして到達されねばならない。"

『フランス哲学・思想事典』(編集委員:小林道夫, 小林康夫,坂部恵, 松永澄夫, (弘文堂, 1999) 541.

 5−3.サバルタンは語ることができない(G. C. スピヴァク)

サバルタン=従属的地位におかれた人々,抑圧を受けている人々.

"明らかにされて呈示されているのはなんのことはない、左翼知識人たちの挙げる、自分を知っており政治的狡智にたけたサバルタンたちのリストだけである。そして、かれらを表象しながら、知識人たちはみずからを透明な存在として表象しているのである。"(p.15)

"この奇妙なことにも否認の言葉によって〔知識人の〕透明性のなかにいっしょに縫いこまれてしまっている主体/主体は、労働の国際的分業の搾取者の側に属している。"(p.28)

"もしわたしたちが同類や自己という席に座っているわたしたち自身の場所にのみ引き合わせて一個の同質的な他者を構築するだけでおわってしまうならばわたしたちにはその意識をつかまえることの不可能な人々が存在する。"(p.54)

"ドゥルーズとフーコーが帝国主義の発動する認識の暴力と労働の国際的分業の双方を無視していることは…"(p.55)

"善意にみちた第一世界がこのようなかたちで他者として第三世界を領有し書きこみ直そうというのが、今日アメリカ合衆国の人文系諸科学の分野にあふれかえっている第三世界主義の基本的特徴にほかならないのである。"(p.56)

"…中心―周辺の分節化自体の欄外に位置する者たち(「真実の、そして差異的な存在としての、サバルタン」)の排除という事態を眼前につきつけられてみると…"(p.73)

"…それは結局のところ、学問や文明の進歩に認識の暴力を混ぜ合わせながら、帝国主義的な主体構成の作業に合体していくことにならざるをえないだろう。"(p.73)
 

"サバルタンは語ることができない。"(p.116)

G・C・スピヴァク『サバルタンは語ることができるか』, 上村忠男訳, みすず書房, 1998.