美術史2005


ポストコロニアリズム4: 文化の純粋性と異種混交性

1.続・鏡の歪み

2.日本の植民地政策

3.文化の純粋性と異種混交性

4.まとめ


1.続・鏡の歪み

 草創期の和製西洋鏡

本多錦吉郎《羽衣天女》, 1890(明治23)年, 油彩・カンヴァス, 127×89cm, 個人蔵

原田直次郎《騎龍観音》, 1890(明治23)年, 油彩・カンヴァス, 272×183cm, 東京国立近代美術館寄託

山本芳翠《浦島図》, 1893年(明治26)年, 油彩・カンヴァス, 121.8×167.9cm, 岐阜県美術館寄託

五姓田義松《富士》, 1905(明治38)年, 油彩・カンヴァス, 46.8×101.5cm, 静岡県立美術館

出典:『東アジア/絵画の近代―油画の誕生とその展開』展図録, 静岡県立美術館ほか, 1999.


2.日本の植民地政策

 2-1.日韓併合(朝鮮合併, 韓日併合)

1910年8月22日,京城において寺内正毅統監と李完用首相は,「韓国の統治権を完全かつ永久に日本に譲渡する」ことなどを規定した「韓国併合ニ関スル条約」に調印.

同規定は,1945年8月15日の日本の太平洋戦争敗戦,または1952年4月28日の日本国との平和条約(サンフランシスコ講和条約)発効時に無効となった.

 2−2.アジアに対する日本の「オリエンタリズム」

李王家徳寿宮日本美術品展示(1933-43)

"朝鮮には古代にしか見るべきものがなく,現代はその文化文明は沈滞しているが故に,日本による導きを必要としており,そのひとつの対策として日本のすばらしい近現代美術を展示させるという筋書き"

"徳寿宮石造殿での日本美術作品陳列は,日本が朝鮮で展開した朝鮮古蹟調査と似た文脈で理解できるものであり,朝鮮の美術向上という名目のもとで,朝鮮が望むことが実質的には無視され,日本の植民地文化政策の一環としてその広報的な役割を果たしていたことを明らかにするものである."

李美那「李王家徳寿宮日本美術品展示―植民地朝鮮における美術の役割」, 『東アジア/絵画の近代―油画の誕生とその展開』展図録, 静岡県立美術館ほか, 1999: 127-28.

 2-3.李王家徳寿宮日本美術品展示 第1輯(1933年)

速水御舟《炎舞》, 1925(大正14)年, 絹本彩色・額, 120.3×53.8cm, 山種美術館
  出典:山種美術館 / 速水御舟「炎舞」

鏑木清方《三遊亭圓朝像》, 1930(昭和5)年, 彩色・絹本・軸 138.5×76.0cm, 東京国立近代美術館
  出典:ARTLOG / 鏑木清方_三遊亭円朝像

黒田清輝《厨先》
  参考図版:黒田清輝《朝妝》
  出典:黒田記念館 / 田中淳「黒田清輝の生涯と芸術」

岡田三郎助《支那絹の前》

和田英作《懐郷》

荻原守衛《女》, 1910(明治43)年 ブロンズ, 98.5×47.0×61.0cm, 東京国立近代美術館
  出典: 東京国立近代美術館 / 荻原守衛《女》

新海竹太郎《老子》, 1926(大正15)年, ブロンズ, 51.0×55.5×20.5cm, 東京国立近代美術館
  出典: 東京国立近代美術館 / 新海竹太郎《老子》

高村光太郎《黒田清輝画伯》

板谷波山《彩磁孔雀紋花瓶》


3.文化の純粋性と異種混交性

 3-1.韓国における西洋化と近代化

"中国や日本に比べ,韓国の油絵受容の歴史は非常に短い.西洋との直接的な接触は300年以上も遅れている.中国の西洋との出会いが1530年代,日本の場合は1540年代からであり,それにしたがって西欧の科学技術が受容され始めたのに比べ,韓国の場合は1830年代になってようやく可能となった.そのような事実自体が論議の的となるわけではない.問題は,このような洋学の受容の遅延によって国が植民地化される結果を招いたという事実だ."

"日本の介入の下での西欧文化の受容は,その本質が歪曲されたかたちで行われ,その結果韓国近代美術からはオリジナリティ純粋性が欠如することになったと考えられてきたのである.…(中略)…近代油絵は西欧を模倣した日本のものをさらに模倣したものであるという点で低級なものだというわけである.それだけでなく,日本の植民地支配の残滓がまとわりついている近代美術は当然清算されなければならいないものであった."

李仁範「韓国における油絵の誕生と展開―近代性,植民性そして脱植民化のすきま」, 『東アジア/絵画の近代―油画の誕生とその展開』展図録, 静岡県立美術館ほか, 1999: 113-14.

 3-2.韓国からの留学生

朱慶(チュ・ギョン)《波欄》, 1923年, 油彩・カンヴァス, 53.2×45.6cm, ソウル国立現代美術館

金仁承(キム・インスン)《文学少女》, 1938年, 油彩・カンヴァス, 116.5×91cm, 個人蔵

金煥基(キム・ファンギ)《ロンド》, 1938年, 油彩・カンヴァス, 61×72cm, ソウル国立現代美術館

李快大《群像》, 1948年, 油彩・カンヴァス, 177×216cm, 李漢羽氏蔵

出典:『東アジア/絵画の近代―油画の誕生とその展開』展図録, 静岡県立美術館ほか, 1999.

 3-3.文化の純粋性とナショナリズム

純粋文化≒伝統文化

「不純な」文化→異種混交性(hybridity)

文化の「自律性」という神話⇔鎖国的状況


4.まとめ

ホミ・K・バーバ(Bhabha, Homi K. 1949- )

Source: Harvard Univ. / Department of English (7/14/04)

ボンベイに生まれる。ボンベイ大学にてBA取得ののち、オックスフォード大学クライスト・チャーチにてM.A.、M.Phil、D.Philを取得。現在、ハーバード大学教授。 ポスト・コロニアル研究の代表的研究者のひとり。ジャック・ラカンの精神分析論やフランス現代思想を援用し、「異種混交性」や「擬態」、「間性」等をキーワードとした論を展開している。

"文化における異種混交性は,捏造され,教え込まれた上下関係に関係なく,それらの間の差異を評価する."

Homi K. Bhabha. The Location of Culture (London: Routledge, 1994): 4.