芸術論特殊講義2005
1. 「マニフェスタ5」と「2004光州ビエンナーレ」
1. 脱中心主義の進行
マニフェスタ:非米,非西欧へ
光州ビエンナーレ:参加観客制度
2. 他の国際美術展との差別化・個性化
マニフェスタ:ヨーロッパに対象地域を限定
光州ビエンナーレ:韓国性の強調
3. マルチリンガル
マニフェスタ5:英語,バスク語,スペイン語のトリリンガル(3言語併記)
2004光州ビエンナーレ:韓国語,英語のバイリンガル
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多様性の尊重と民主主義の深化
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グローバリゼーション
2. 窓と扉
世界に開かれた窓:日本に居て海外を眺める
1990年代前半,日本の美術館にはある程度の予算があり,海外の作品を国内へ持ち込んで展覧会を開催していた.
→国家と地方自治体の財政赤字の余波を受けて,企画展予算の大幅な削減が断行される
→国内借用と館蔵品による展覧会の常態化
=窓は狭まる.特に現代美術に関しては「鎖国的状況」が拡がる
世界への扉:海外の展覧会を観に出掛ける日本人
インターネットで現地情報を収集,比較的安い航空運賃
国内企画展の低迷:大衆化路線
※国際美術展は「世界」の現代美術にまとめて触れる機会
3. 日本人出国者数(1981年〜2004年)
20年前は約400万人だった出国者数は,1996年に4倍の1600万人を突破して以降,ほぼ横ばいで推移.2003年は米・イラク戦争の開始とSARSの影響で前年と比べて約300万人の大幅減.2004年にほぼ回復.
日本の人口約1億2,770万人(2003年10月1日現在)に対し,約1,600万人の出国者は,10人に1人より少し多めの割合.
cf. 山口県の人口は約150万人,福岡県が約500万人,静岡県約380万人,東京約1,240万人(2003年10月1日現在)
参考:法務省「平成16年における外国人及び日本人の出入国者統計について」
Wikipedia / 都道府県の人口一覧
(5/23/05)
4. 空港の地球市民主義
地球市民,世界市民(Global Citizen, Cosmopolitan)
「空港の地球市民主義」:エリート主義批判
"最も闊達にグローバル化されているのは,エリートたちの文化である.この種の文化は,世界中のエリートたちが同様の文化的嗜好を持っているがゆえに,グローバルなのである.彼らがしばしば,《グローバルな文化》,さらには《地球市民主義》などを語る傾向にあるのは,そのような代物が,同じ小さな輪の中で経験されているからに他ならない.……《グローバルな地球市民主義》なるものは,同じようにメディアに接触し,同じような行動様式や文化的慣習を共有し,世界を旅するごく少数のエリートにしか関係のないまやかしものであり,極端に言えば《空港の地球市民主義》でしかないのである.それがいかに華々しく見えようとも,この小さな輪の中にいる人々と,それ以外の世界にいる人間とを混同しないように気をつけなければならない.……地球市民主義の必要性を語る者たちは,明らかに,グローバル化の動きがあるからこそ利益を得ている者たちである.……それをネタに利益を得る者なしに,地球市民主義はありえない.……エリートはグローバルな世界に生き,庶民は,当然のごとく,一つの国の内部に生きている.……異文化交流や地球市民主義は,おそらく,楽しい,そして流行のテーマなのであろう.快適に生き,快適に仕事をし,快適に旅をする人々だけにとって.だが,そのことは,大多数の人々の経験していることと,全く何の関係もない."
出典:薬師院仁志『英語を学べばバカになる:グローバル思考という妄想』,光文社,2005:237-38.
ドミニク・ヴォルトンの言葉として紹介:巻末文献表より,Dominique Wolton, L'aoutre mondialisation, Flammarion, 2003.と思われる.
→英語世界のみから情報を得ることによって構成される歪んだ「世界性」に警鐘をならし,多言語的な情報源の確保を勧める.
5. グローバル・コスモポリタン社会
"その輪郭はいまだおぼろげなままではあるが,グローバル・コスモポリタン社会に住む第一世代は私たちなのである.地球上どこに住んでいようとも,社会の変容が私たちの生き様を大きく変えるに違いない."(45)
"今日,広く実施されている集約農業は,持続可能性を欠いている.なぜなら集約農業は,環境を汚染する化学肥料や殺虫剤を大量に使うからである.だからといって,伝統的な農法にもどるのでは,世界人口を養っていけない.
遺伝子組み換え作物が,汚染化学物質の使用量を減らし,集約農業のはらむ問題点を解きほぐすという利点もまた,あながち否定できないのである.いずれにくみするにせよ,リスク管理を避けて通るわけにはゆかない.人工リスクが広まるに伴い,政府は,リスク管理を他人事のように見すごせなくなる.新しいリスクのほとんどが国境を越えるのだから,適切なリスク管理のためには,国際協力が欠かせないのもまた事実である."(72-73)
"民主化と経済発展を駆動する最強の力はなんなのか.それはまさしく,男女をわけへだてせずに,十分な教育を女性に与えることである.
そうするためには,なにを変えないといけないのか.この設問への私の答えこそが「伝統的家族を変えること」なのである."(132)"国民国家は依然として強力である.しかし,国民国家の力は――政治学者のデイビッド・ヘルドが指摘するように――国民の生命を脅かすグローバルな力には,はるかおよばない."(156)
"いったい民主主義は,国民国家の枠組みを超えて,どのように展開しようとしているのだろうか.国際組織に勝るとも劣らぬほど,私たちは,超国家的組織にも目配りしなければならない."(158)
アンソニー・ギデンズ『暴走する世界:グローバリゼーションは何をどう変えるのか』,ダイヤモンド社,2001.
5. 2005年開催の主な国際美術展
第5回サイト・サンタフェ 2004/6/18-2005/1/9 SITE Santa Fe
※テーマ:不均衡と歪み―私たちのグロテスク(Disparities and Deformations: Our Grotesque)
第4回台北ビエンナーレ 2004/10/23-2005/1/23 2004 Taipei Biennial(台北雙年展二〇〇四)
※テーマ:リアリティを信じますか?(在乎現實嗎)
第1回ポリ・グラフィカ・トリエンナーレ 2004/12/4-2005/2/28 Triennial Poli/Gráfica
※テーマ:超えること/渡ること(Trans/Migraciones)
ラテン・アメリカとカリブ海諸国の版画やポスター表現に範囲を絞った国際美術展.プエルトリコで開催.1970-2001までビエンナーレとして開催されてきた.海外からキュレイターを招聘するなど開催組織を刷新して再スタート.
第1回モスクワ・ビエンナーレ 1/28-2/28 1 Moscow Biennale of Contemporary Art
※テーマ:希望の弁証法(Dialectics of Hope)
第7回シャルジャ・ビエンナーレ 4/6-6/6 Sharjah International Biennial 7
※テーマ:所有物(Belonging)
アラブ首長国連邦に属するシャルジャ首長国で1993年から開催されている
第2回プラハ・ビエンナーレ 5/26-9/15 Prague Biennale 2
※2つのテーマ:拡張された絵画(Expanded Painting),直接行動(Acción Directa)
第51回ヴェネツィア・ビエンナーレ 6/12-11/6 La Biennale di Venezia/Visual Arts
※2つの企画展:「アートの経験(L'Esperienza dell'Arte)」(マリア・デ・コラル),「いつも少しだけ先へ(Sempre un po' più lontano)」(ローザ・マルティネス)
第3回ヨーテボリ・ビエンナーレ 9/3-11/6 Göteborgs International Biennal for Contemporary Art
※テーマ:これ以上に!―協定する複数の現実(More than This!: Negotiating Realities)
2001年から開催.開催地ヨーテボリはスウェーデン第2の産業都市.ボルボ,ハッセルブラッドなどがある
第3回ティラナ・ビエンナーレ 9/10-11/? Tirana Biennale
※詳細未定
第8回リヨン・ビエンナーレ 9/12-12/31 Lyon Biennial of Contemporary Art 2005
※テーマ:持続の経験(Expérience de la dureé)
第9回イスタンブール・ビエンナーレ 9/16-10/30 9th International Istanbul Biennial
※概念枠(≒テーマ):イスタンブール(İstanbul)
第3回福岡アジア美術トリエンナーレ 9/17-11/27 第3回福岡アジア美術トリエンナーレ2005
※テーマ:多重世界―アジア美術の現在(Parallel Realities: Asian Art Now)
第2回横浜トリエンナーレ 9/28-12/18 横浜トリエンナーレ2005
※テーマ:アートサーカス[日常からの跳躍](Art Circus: Jumping from the Ordinary)