<第九講> アートの通則論/現代美術
〜作品記述のための通則論〜
◆主題の検討
・題名は?
・題名は作品を見る手がかりになるか?
・同じ主題を別の仕方で表現すれば、別の理解が得られると思うか?
◆形式的要素の検討
・どのような線で表現されているか?
・全体を統一するような線か?
・あるいは断片化するような線か?
・伝統的な遠近法にのっとっているか? またはそれを無視しているか?
・空間と形の関係はどのようなものか?
・明暗の表現はどのようなものか? 色調は対比的か? あるいは抑制気味か?
・全体を統一する色調があるか? 補色が利用されたり、類似色が利用されていないか?
・ほかに重要な要素はないか? 絵肌など表面の質感はどうか? 鑑賞時間は作品理解に影響するか?
◆構図の検討
・リズムや反復の効果が利用されていないか?
・構図のバランスはどうか? 左右対称か、非対称か? 要素間のバランスはどうか? 作品の大きさから受ける印象は?
・統一的な構図になっているか? それとも各要素が独立しているか?
◆表現手法の検討
・作品のあらゆる効果は、特にその作品の表現手段によってしか表せないものか?
・複数の表現手法が採用されているならば、それらの関係はどのようになっているか?
◆作品解釈の検討
・主題について作者はどんなメッセージを込めているのか? 構図によってどのような感情や印象がもたらされているか? 特にそうした印象を導き出すために選択されたモティーフはないか?
出典:Henry M. Sayre, Writing about Art (Upper Saddle River, NJ: Prentice Hall, 2002): 64-65.
〜チェックリスト〜
◆論文全体
・表現に曖昧なところはないか?
・具体的な作品に焦点をあてて立論しているか?
・取り上げた作品について、必要十分な説明をしているか?
・取り上げた作品について、適切な評価と解釈をおこなっているか?
・題名に関する説明は十分か?
・より広い意味での美術史との関係を考察しているか?
・論旨は整っているか? 意味をなしているか?
◆段落
・導入部で論の方向性がきちんと示せているか?
・段落ごとの関係は明解か? 順番に問題はないか?
・結論に達成感はあるか?
・各段落は十分に内容を吟味されているか? 各段落は具体的で、典型的な例を扱っているか? それらは一般的な理解と齟齬していないか? そしてそれらの例は読者の関心を引き、かつ説得的なものか?
・一次史料、あるいは二次資料を効果的に利用しているか?
・引用や他人の意見に頼りすぎていないか?
・段落の結論部分にほかからの引用を用いない(引用文で終わっているのは、自分の議論を組み立てられていない証拠)。
◆文と語
・事実、数字、日付などに間違いはないか?
・註に誤記はないか?
・一次史料、二次資料等を参照した情報は、すべて註に記したか?
・一つの頁に対して註が三つ以上つく状態が続きすぎてはいないか?(これも他人の考えに頼りすぎて自分の思考を展開できていない証拠)
・語彙は精確か? 形の要素や構成原理、手法や材質を表現する語彙は具体的で特定的なものを使用しているか? 広義に使用される単語や曖昧な表現はないか?
・言葉遣いや言い回しは正しいか? 曖昧で一般的な表現を避け、具体的、特定的なものを目指すこと。
・論文に適した表現をとっているか? くだけた調子や口語的な表現、流行りの言葉や言い回しは、特別な理由のある場合を除いては避けるべき。
・差別表現に抵触していないか?
・型にはまった考えに陥っていないか?
出典:Henry M. Sayre, Writing about Art (Upper Saddle River, NJ: Prentice Hall, 2002): 117-118.
〜作例〜
・パブロ・ピカソ《ゲルニカ》、1937年5月1日〜6月4日、油彩・カンヴァス、349.3×776.6cm、レイナ・ソフィア芸術センター
・レオナルド・ダ・ヴィンチ《モナ・リザ(ジョコンダ)》、1503-5年頃、油彩・板、77×53cm、パリ、ルーヴル美術館
・ヴィンセント・ヴァン・ゴッホ《星月夜》、1889年、73×92cm、ニューヨーク近代美術館
・会田誠《紐育空爆之図》、1996年、169×378cm、六曲一隻屏風