パウル・クレーの魔方陣絵画

博物・芸術論2年 小倉大和


1. Motiv aus Hammamet,1914,48

2. Rote und Weisse Kuppeln,1914

3. Uber ein Motiv aus Hammamet,1914

4. 水彩 1914 メトロポリタン美術館

5. Das Fenster,1922,140

6. Bildarchitektur rot,gelb,blau,1923,80

7. Farbsteigerung vom Statischen ins Dynamische,1923,67

8. Harmonie aus Vierecken mit rot gelb blau weiss und schwarz 1923, 238

9. 青とオレンジのハーモニー(ただ四角形ばかり) 1923 ローゼンガルト・コレクション

10. Abstract mit Bezug auf einen bluhenden Baum,1925,119(B9)

11. Alter Klang , 1925, 236 (X 6)

12. 「リズミカルなもの」1930年 69.6x50.5cm 油彩・カンヴァス ポンピドー美術館

13. Farbtafel (auf maiorem Grau) 1930, 83 (R 3)

14. リズミカルなもの,もっと厳格に,もっと自由に 1930 レンバッハハウス美術館

15. 《花ひらいて》1934年 81.0×80.0cm ヴィンタートゥール美術館

16. パルナッソス山へ

17. ポリフォニー

18. 新しいハーモニー


要旨

 クレーは、「魔方陣絵画」と呼ばれる抽象絵画を多数制作している。それは四角形の色面を画面上に配置して構成するものであり、バウハウスに就任していた1920年代以降、集中的に制作された。彼の講義の中でも「構造的リズム」と関連して度々登場する。この「魔方陣絵画」の最後の作例が1936年の《新しいハーモニー》である。ここで、彼の「魔方陣絵画」は完成を見ることになる。
 この「魔方陣絵画」の原型が登場したのは、バウハウスに就任するより以前のことである。1912年にクレーは、カンディンスキーの紹介でロベール・ドローネーのアトリエを訪れる。このとき、ドローネーは抽象的な「窓の連作」を制作しており、クレーの抽象絵画に影響を与えたと考えられる。1914年には、ルイ・モワイエ、アウグスト・マッケとともにチュニジア旅行へと出かける。このときの体験についてクレーは、色彩に目覚めたと日記の中で強調する。そして、チュニジア旅行のあった1914年に、これらの体験を下敷きにして、「魔方陣絵画」の原型になったと思われる作品が複数制作される。その中の一つが水彩の小品《無題》である。水彩による透明感のある色の矩形が画面中に配置され、色彩同士が重なり合っている部分は下の色が透けて見えている。
この透明な色彩の重なり合いは、1930年代の「ポリフォニーの絵画」へと引き継がれる。その作例として最も重要な意味を持つのが、1932年の《パルナッソス山へ》である。
 「魔方陣絵画」は、「ポリフォニーの絵画」とは異なる形で発展した。1923年の《青とオレンジのハーモニー(ただ四角形ばかり)》はその一例である。画面は縦6、横6の、ほぼ等間隔の格子状に区切られている。ここでは透明な色彩の重なり合いは否定され、色彩は厳格に区切られた区画の中に納まっている。
 1925年の《いにしえの響き》も、ほぼ同じ大きさの色彩矩形が並ぶ画面構成となっている。ただし、周縁部の黒から画面中央に向かうほど明るくなる色彩は、《青とオレンジのハーモニー(ただ四角形ばかり)》にはない特徴である。
 同じ1925年の作である《花ひらく木をめぐる抽象》にも同様の色彩的特徴が見られる。《青とオレンジのハーモニー(ただ四角形ばかり)》や《いにしえの響き》と違い、大きさの異なる色彩矩形が同時に存在しているが、これらは無秩序に配置されているのではない。小さな矩形は、大きな矩形に囲まれるような形で中央部に集まり、暗い色彩の中に明るい色彩が浮かび上がるような様子を際立たせている。
 1930年には、一定のリズムで色彩が横へ遷移していく絵画が制作される。その中の一つが《リズミカルなもの》である。左から右へ、黒→灰色→白→黒→……のリズムを順守しながら流れていく六つの列はそれぞれ独立しているように見える。矩形の形や大きさにもばらつきがあり、縦の列同士のつながりはほとんど見受けられない。しかし、一つの色に着目してみると、同色の矩形が右上から左下に向かって、ほぼ一直線に並んでいることがわかる。この作品は、横のつながりだけではなく、画面全体で一つの「リズミカルなもの」を表していると考えるべきだろう。
 その後、1930年代の前半には先述の「ポリフォニーの絵画」が登場する。これは、透明な水彩によってではなく、色彩矩形の上に点描のように色の斑点を敷き詰めていくことで、複数の色彩の重なり合い、つまり他声性を表現したものである。特に《パルナッソス山へ》は、他の「ポリフォニーの絵画」以上に様々な要素を含む包括的な作品であり、クレーの全作品中でも重要な意味を持つ大作であるといえる。
 1936年の《新しいハーモニー》はクレーの独立した色彩矩形コンポジションの最後のものである。ここで彼の「魔方陣絵画」は、均等に区分けされた格子状の画面構成へと回帰する。色彩同士が重なり合うことはなく、「ポリフォニーの絵画」を多声的とするなら、《新しいハーモニー》は単声的(?)であるといえる。《いにしえの響き》のような、周縁部から中央部に向かって明るくなっていくような色彩的特徴も見られない。この作品は中央の二つの矩形を除き、右半分が左半分を上下左右反転させたものになるという特徴を持つ。同色の矩形がそれぞれの対角線上に配置され、この平衡により画面全体を秩序付けている。この《新しいハーモニー》に、アーノルド・シェーンベルクのテーマを持たない「12音」音楽との類似性を見出す説もある。

章立ての検討
・クレーと音楽の関わり
  とりあえずは序論あたりで軽く触れる程度にとどめておく。
・魔方陣絵画の原点
  1.ドローネーの影響
  2.チュニジア旅行
  この二つをメインにしつつ、1914年からの方形画について言及。
・バウハウス時代
  この時期に多く制作された魔方陣絵画を参考図版として挿入。
「構造的リズム」などの講義内容と絡めて。
・ポリフォニーの絵画
  魔方陣絵画とは別の形で達成された絵画として。
  論文のどこに組み込むかを検討。
・《新しいハーモニー》について
  最後の独立した色彩矩形コンポジションとして言及。
  《いにしえの響き》との比較。
  「ポリフォニーの絵画」との比較で、「単声的」とは違う表現を検討。