マウリッツハイス美術館展―オランダ・フランドルの至宝―


授業の目標

・展覧会の章立てについて理解する。

・企画展の知的生産性について考察する。


1.マウリッツハイス美術館展の概要 会場写真

企画展/コレクション展/巡回展

会期・会場:

 6月30日〜9月17日 東京都美術館
 9月29日〜2013年1月6日 神戸市立博物館


章立てとは

・展覧会におけるコーナー分け。鑑賞者の展覧会理解に資するよう、作品をグループ毎にまとめて展示する手法。

・公募展の場合はジャンル毎、回顧展の場合は時代毎あるいは主題毎、テーマ展の場合は時代毎あるいはサブテーマ毎に分類される。常設展にも適用される。

・章立ては、展覧会会場と展覧会図録の双方の構成に反映される。会場では解説パネルが、図録内では短い解説文あるいは、詳細な論文が章の冒頭におかれる。

・通常、3〜5章立てにまとめられるが、広領域にわたる時代や地域を調査対象とした展覧会の場合、10章を超える場合もある。


作品紹介

 T. 美術館の歴史

1. アントーン・フランソワ・ヘイリヘルス《マウリッツハイスの「レンブラントの間」》、1884年、油彩・板、47×59 cm

 U. 風景画

2. ヤーコブ・ファン・ライスダール《漂白場のあるハールレムの風景》、1670-75年、油彩・カンヴァス、55.5×62 cm

 V. 歴史画

3. ヤン・ブリューゲル(父)ヘンドリック・ファン・バーレン《四季の精から贈り物を受け取るケレス、それを取り巻く果実の花輪》、1621-22年、油彩・板、106.3×69.9 cm

4. ペーテル・パウル・ルーベンス《聖母被昇天(下絵)》、1622-25年頃、油彩・板、87.8×59.1 cm

5. レンブラント・ファン・レイン《スザンナ》、1636年、油彩・板(右側を拡張)、47.4×38.6 cm

6. レンブラント・ファン・レイン《シメオンの賛歌》、1631年、油彩・板、60.9×47.9 cm

7. ヨハネス・フェルメール《ディアナとニンフたち》、1653-54年、油彩・カンヴァス、97.8×104.6 cm

 W. 肖像画と「トローニー」

8. ヨハネス・フェルメール《真珠の耳飾りの少女》、1665年、油彩・カンヴァス、44.5×39 cm

9. アンソニー・ヴァン・ダイク《アンナ・ウェイクの肖像》、1628年、油彩・カンヴァス、112.5×99.3 cm

10. アンソニー・ヴァン・ダイク《ペーテル・ステーフェンスの肖像》、1627年、油彩・カンヴァス、112.5×99.4 cm

9, 10. アンソニー・ヴァン・ダイク《アンナ・ウェイクの肖像》 、《ペーテル・ステーフェンスの肖像》

11. レンブラント・ファン・レイン《自画像》、1669年、油彩・カンヴァス、65.4×60.2 cm

 X. 静物画

12. ヤン・ブリューゲル(父)《万暦染付の花瓶に生けた花》、1610-15年頃、油彩・板、42×34.5 cm
13. ヴィレム・ヘーダ《ワイングラスと懐中時計のある静物》、1629年、油彩・板、46×69.2 cm

 Y. 風俗画

14. ヘラルト・テル・ボルフ《手紙を書く女》、1655年頃、油彩・板、39×29.5 cm

15. ヤン・ステーン《手紙を書く女》、1658-60年頃、油彩・(上部の角を丸めた)板、20.5×14.5 cm

16. ピーテル・デ・ホーホ《デルフトの中庭(パイプを吸う男とビールを飲む女のいる庭)》、1658-60年頃、油彩・カンヴァス、78×65 cm


章解説(抜粋)

 T. 美術館の歴史

この建物はナッサウ=ジーゲン伯ヨーハン・マウリッツ(1604-1679)の私邸として17世紀に建設された。市中に建てられたこの邸宅が美術館に転用されるのは、19世紀以降のことである。王立美術館の所蔵する美術品は元来が総督コレクションに属し、波瀾万丈の興味深い歴史をもつ。…(中略)…フレデリック・ヘンドリック総督(1584-1647)が収集した絵画の膨大なコレクションのうち、現在もマウリッツハイス美術館に残るものは数えるほどしかない。17世紀と18世紀に幾度もの遺贈を経て、多数の美術品がコレクションを離れオランダ国外に持ち出され、そのまま永遠に異国にとどまることとなった。幸いなことに、ヴィレム4世(1711-1751)と息子ヴィレム5世(1748-1806)の尽力のおかげで、多数の傑作がコレクションに追加された。

 U. 風景画

どこまでも広がる平原、いたるところに姿を現す運河や河川、湖といったオランダ特有の風景を描いた画家は数えきれない。17世紀の初めに一群の画家が、オランダならではの風景描写に集中して取り組んだ。この専門分野の主題は幅広く、たとえば小屋の建つ森、街の景観、広大な海景、あるいは野原で草を食べる牛などがある。

 V. 歴史画

17世紀に著された美術の手引書では、歴史画家の評価が最も高かった。歴史画を描くには物語を読み、描写に適した挿話を選び、それにふさわしい構図を考案しなければならないからである。歴史画のジャンルには聖書、神話、古典文学などに書かれた物語、および重要な史実の寓意と描写が含まれる。手短にいうと、歴史画では特定の物語を描くか、隠喩的な意味合いを表現する人物を取り上げる。

 W. 肖像画と「トローニー」

17世紀にこれほど多くの肖像画が描かれた背景には、オランダ共和国の目ざましい経済発展がある。優れた商人や企業家が世間でも重視されるようになり、地方政府や市民の機関でも高い地位につく例が増えた。新たに社会的地位を確認し、自らの価値に目覚めた富裕な市民は、画家に注文して自分たちの肖像画を発注するにいたった。主に婚約や結婚、子供の誕生や名誉ある職への就任など特別な出来事が、肖像画を注文する契機となった。
 「トローニー」(頭部の習作を意味するオランダ語)は特定できないモデルを描いたもので、人物画の中でも独立したジャンルを形成する。人物の胸から上を描くこうした絵は、特定の人の似姿を追求するよりも、人物の表情や、性格のタイプの表現を探る習作として描かれた。

 X. 静物画

静物画を描いた画家は枚挙にいとまがない。静物画を専門とした画家は、競争相手との違いを明かにするために、何かひとつのテーマを選ぶのが一般的だった。多くが花や果物を集中して描く一方で、他の特定のテーマに画題を限定する画家もあった。こうして現在見られる作品には、台所を描いた絵、市場の情景、豪勢な料理、朝食、(喫煙者の必需品を描く)タバコの静物、魚あるいは家禽類だけを描いたものなどがある。

 Y. 風俗画

風俗画は日々の暮らしから抜き出したかのような情景を描写する。主題は千差万別で、田舎の居酒屋で浮かれ騒ぐ農夫から贅を尽くした室内で繰り広げられる上品な集まりまで、多岐におよぶ。日常生活を絵画の主題にする習慣は、南ネーデルラントからのフランドル移民がもたらしたもので、北部の多くの画家もすぐにこれを採り入れた。

『マウリッツハイス美術館展』図録(朝日新聞社、2012年)、35、49、67、81、109、125頁。


2.まとめ

 ・展覧会の章立て

―「展覧会」理解の手掛かり

―作品を鑑賞する/展覧会構成を読み解く

―休憩コーナーに置いてある図録を活用する

―独自に章構成を組み直す可能性を探る

 ・知的生産性

―展覧会見学を通して美術史の知識を増やす

―生涯学習の場としての美術館と展覧会

―研究成果報告としての展覧会図録

―自らのテーマをもって持続的に展覧会を見る

―「フェルメール全作品の制覇」など