3.11とアーティスト―進行形の記録


授業の目標

・現代アーティストの活動に学ぶ。

・現代美術展の企画と図録の編集について考察する。


1.「3.11とアーティスト」展の概要 会場写真

企画展/グループ展/単館開催

会期:2012年10月13日〜12月9日

会場:水戸芸術館

主催:財団法人水戸市芸術振興財団

助成:財団法人自治総合センター、公益財団法人花王 芸術・科学財団、GB Fund、アサヒグループ芸術文化財団、Stroom Den Haag

協力:アサヒビール株式会社


作品紹介

1. 照屋勇賢《自分にできることをする》、2011年、新聞紙

2. トーチカ+関根光才《きみでいて ぶじでいて × Safe And Sound Project 》、2011年、映像メッセージ

3. 藤井光《3.11アートドキュメンテーション》、2011年- (継続中)、ドキュメンテーション映像

4. 遠藤一郎《未来へ号》、2006年- (継続中)、プロジェクト

5. 宮下マキ《産む人》、2010年- (継続中)、カラープリント

6. 村上タカシ《3.11メモリアルプロジェクト》、2011年- (継続中)、プロジェクト

7. ニシコ《地震を直すプロジェクト》、2011年- (継続中)、プロジェクト

8. タノタイガ《タノンティア》、2011年- (継続中)、ボランティア活動

9. 加藤翼《The Lighthouses – 11.3 PROJECT》、2011/2012年 、プロジェクト

10. 遠藤一郎《RAINBOW JAPAN》、2012年、プロジェクト

11. 小森はるか+瀬尾なつみ《砂粒をひろう(Kさんの話していたこととさみしさについて)》、2012年、ビデオ、テキスト、ドローイング


作家の言葉 1(照屋勇賢)

地震発生直後、反射的に、自分のできることから始めた作品、「Minding my own business」は、当時僕が滞在していた、群馬県の上毛新聞から芽がどんどん成長している様子を表現しています。(…中略…)この作品は、前橋市の市民からなるグループの提案により、「未来の芽、里親プロジェクト」という、前橋市民主導のアート・プロジェクトに展開しています。プロジェクトでは、それぞれの芽の里親になる権利を販売し、最終的には、権利を買った人々がこの作品を共同購入し、市の美術館に寄贈することになります。販売で集められた資金は、東日本震災の支援金として、ボランティア団体を中心に役立ててもらうシステムです。

出典: 『 3.11とアーティスト―進行形の記録』展図録(水戸芸術館現代美術センター、2012年)、95頁。

作家の言葉 2(トーチカ)

3月11日に帰宅難民となり、翌日から仕事で関わってきた友人と一緒に、なにかできることはないかと探り始めました。はじめは、インターネット上で世界中からメッセージを集めて「きみでいて ぶじでいて」というビデオをつくりました。しかし、電気もまともに通らない被災地に届くはずもなく、このビデオを被災地にどのように届けようか、また、それ自体が不謹慎にはならないか、自己満足になってはいないかと自問自答を繰り返すことになりました。当時、被災地で瓦礫撤去や泥かきのボランティアを経験していたこともあり、この場所でどうすれば、遠く離れた人たちに対して被災地の状況を知ってもらえるのだろうかと考えるようになりました。

出典: 『 3.11とアーティスト―進行形の記録』展図録(水戸芸術館現代美術センター、2012年)、97頁。

作家の言葉 3(宮下マキ)

2010年より出産を間近に控えた妊婦さんたちを、彼女たちの自宅で撮影することをライフワークのひとつとしていました(2012年現在で、50人近い人数を撮りました。作品タイトルは「産む人」)。
震災後、3日ほど経ったころだったでしょうか。岩手県の被災地で出産した人のことをニュースで知りました。病室もろくに使えず、廊下に敷かれたマットで体を休めている。停電などで電気も満足に通っていない状況のなかでの出産は困難に違いない。けれども、そのニュースは被災した人々にどれだけの希望を与えたことだろうと思いました。
大勢の人が亡くなってしまった土地に、新たな命を誕生させようとしている女性たちがいる。会いたい、写真を撮らせてもらいたい、という気持ちが日を追うごとに強くなっていきました。反面、こんな状況のなかで頑張っている人たちに撮影なんて頼めないというためらいもありました。

出典: 『 3.11とアーティスト―進行形の記録』展図録(水戸芸術館現代美術センター、2012年)、109頁。

作家の言葉 4(小森はるか+瀬尾なつみ)

2011年の4月に岩手県陸前高田市で初めて出会い、以来ずっと会いに行き続けているKさんという女性がいます。
彼女の言葉のなかには、その場所のその時々のこと、例えば街、景色、人間関係、季節、流れ、音、過去、あの日、いま、そしてちょっと先のことが、数多く散りばめられていました。
この作品は、その出来事と対面するひとつの方法として、ここにあります。

出典: 『 3.11とアーティスト―進行形の記録』展図録(水戸芸術館現代美術センター、2012年)、137頁。


関連URL

 ・公式サイト/ブログ

未来の芽 里親プロジェクト
http://www.miraime.jp/miraimeindex.html

地震を直すプロジェクト Repairing earthquake project | | ニシコ Nishiko
http://nishiko55.com/eq/

 ・YouTube

タノタイガのタノンティアに参加した <1:12>
http://www.youtube.com/watch?v=nJQL6_ILEM8

3.11アート・ドキュメンテーション/岩手県大船渡市 <5:41>
http://www.youtube.com/watch?v=fSh7nyyB_qY

加藤翼 The Light Houses <5:12>
http://www.youtube.com/watch?v=1OyYMqFRLIQ

未来へ号 RAINBOW JAPAN 2012 <18:57>
http://www.youtube.com/watch?v=kAuDeUeHJXs

きみでいて ぶじでいて×Safe And Sound Project <1:37>
http://www.youtube.com/watch?v=t3aUYGhTlUc


震災と原発 関連年表

2011年
3月
 11日 東北地方太平洋沖にて地震発生(M9.0)
    岩手、宮城、福島沿岸で大津波警報発令
    原子力緊急事態宣言発令
    福島第一、第二原発から半径3キロ圏内に避難指示、3-10キロ圏内に屋内退避指示
 12日 福島第一原発から半径10キロ圏内に避難指示。のち、半径20キロ圏内に拡大
    福島第二原発から半径10キロ圏内に避難指示
    菅直人首相がヘリコプターで現地視察
    福島第一原発、放射性物質を含む空気を大気中へ放出措置
    福島第一原発1号機、水素爆発
    福島第一原発1号機に海水注入を開始
 14日 福島第一原発3号機、水素爆発
    福島第一原発2号機、燃料棒全露出
 15日 福島第一原発から20-30キロ圏内に屋内退避指示
    作業員の被爆上限100-250ミリシーベルトに引き上げ
 17日 福島第一原発3号機、陸上自衛隊ヘリコプターによる散水開始
 19日 茨城県産ほうれん草、福島県産原乳から暫定基準を上回る放射性物質検出
 21日 暫定基準値を上回る作物の出荷制限
 22日 福島第一原発付近の海水より安全基準濃度に対し最大126倍の放射性物質検出
 25日 福島第二原発から半径20-30キロ圏内に自主避難要請
    東日本大震災による死者1万人を超える
4月
 04日 東電、原発内の汚染水を海へ放出開始
 10日 高円寺で1万5千人規模の原発反対デモ
 12日 原子力安全・保安院、福島第一原発事故の深刻度を最悪の「レベル7」と発表
  福島第一原発から80キロ圏内で採取された土壌と葉物野菜からストロンチウム89と90検出。出荷制限
 21日 福島第一原発から半径20キロ圏内を警戒区域に設定(22日午前0時より)
 22日 計画的避難区域、緊急時避難準備区域を設定
5月
 12日 東電、福島第一原発1号機のメルトダウンを認める
6月
 11日 全国各地で大規模な脱原発デモ
 20日 復興基本法成立。
7月
 16日 「さよなら原発10万人集会」(代々木公園)に約17万人が参加(主催者発表)
 28日 14都県の浄水場で約10万トンの放射能汚染汚泥が保管されていることを発表(厚労省)
8月
 26日 福島第一原発から3キロ圏内の住民が初めて一時帰宅
9月
 08日 福島県の幼稚園、小中学校、高校全校で放射線量調査開始
10月
 09日 福島県の子どもを対象とした甲状腺検査開始
11月
 16日 福島県大波地区で収穫された米から暫定基準値を超える放射性セシウム検出
 21日 野田首相が瓦礫受け入れを全国知事に要請
12月
 07日 復興特別区域法案成立(11道県222市町村が対象)
 09日 復興庁設置法案成立
 10日 「みんなで決めよう『原発』国民投票」が署名運動開始(東京、大阪)
 16日 原発事故収束宣言
 26日 自衛隊、被災地からの全面撤収を決定

2012年
1月
 30日 被災東北3県の転出超過4万1,226人
2月
 21日 福島県の最後の避難所が閉鎖(被災3県ですべてが閉鎖)
3月
 07日 震災支援金が総額5千億円を突破。被災3県のボランティア参加者は延べ100万人に
4月
 20日 東電、福島第一原発1-4号機を廃止
5月
 23日 WHOが福島第一原発の事故による被爆線量推計結果公表。日本の推計値より高い数字が並ぶ
 24日 東電、福島第一原発の事故による放射性物質の大気中への放出総量の試算結果を90京と発表
6月
 20日 東電、福島第一原発の事故調査の最終報告書を公表
 29日 大飯原発再稼働に対する首相官邸前抗議デモに15万人(主催者発表)
7月
 17日 計画的避難区域の再編により、長沼地区が5年以上戻れない帰還困難区域となる
8月
 06日 東電、社内のテレビ会議映像の一部を公開
9月
 07日 震災死者数1万8,877人(厚労省発表)
 18日 原子力安全委員会廃止。原子力規制委員会に統合

参照:「年表」、 『 3.11とアーティスト―進行形の記録』展図録(水戸芸術館現代美術センター、2012年)、29-36頁。


2.まとめ

 ・現代アーティストの活動に学ぶ

―普段、自分がやっていることの延長線上で考える

―「普通」や「常識」の枠にとらわれない

―じっくりと時間をかける

―一人の考えや意見であったとしても、多くの人と共有する可能性を模索する

 ・現代美術展の企画と図録

―ばらばらの出来事を特定の主題や視点でまとめて見せる

―情報を集積、記録、発信する仕事

―評価の定まっていない活動に光を当て、社会との接点を拡大する