第十回 ラファエ(2)


1.はじめに

ラファエロ(1483-1520)

ラファエロ《アテネの学堂》1509-10年頃


2.ラファエ

 ◆画人伝より(1)

「この絵はラファエロが去った後はリドルフォ・ギルランダイオに委ねられ、彼が欠けていた青の服装の部分の仕上げをした。このような事態が生じたのは、法王ユリウス2世に仕えて働いていたウルビーノ出身のブラマンテが、ラファエロと遠縁であり同郷人でもあるところから、ラファエロに手紙をよこし、ヴァティカンの宮殿の新しい部屋でラファエロが絵を描いて才能を示すことができるよう法王にお頼みした、と言ったからである。この話を聞いてラファエロはたいへん喜び、フィレンツェのしかけた仕事もデーイ家から頼まれた板絵の仕事も中途のままで投げ出して、フィレンツェを去ってローマへ向かった。」 (p. 173.)

ヴァチカン、ヴァチカン美術館群
 ※画像ソース: http://upload.wikimedia.org/wikipedia/commons/4/4f/Watykan_Plac_sw_Piora_kolumnada_Berniniego.JPG

ヴァチカン美術館群 出口

入場を待つ人々

地図のギャラリー

《アテネの学堂》

1-1. ラファエロ 署名の間「天井画」、1508-11年、フレスコ、ヴァチカーノ宮

1-2. ラファエロ 署名の間「天井画」(中央部分:教皇ニコラウス5世の紋章)、1508-11年、フレスコ、ヴァチカーノ宮

美術用語(27) プット

1-3. ラファエロ 署名の間「天井画」(哲学)、1508-11年、フレスコ、ヴァチカーノ宮

 ◆画人伝より(2)

「第一の物語絵にラファエロは哲学、天文学、幾何学、詩学を描き、それらの諸学が神学と和解調停しているさまを描いたが、それに相応する円形模様のなかに事物の『認識』を象徴する女を描いた。その女は立派な椅子に坐っており、その椅子は左右の側で女神キュベレ(レア)に支えられている。その女神キュベレには実にたくさんの乳房があるが、古代以来それでもってディアナ・ポリマステスが表されるのが常であった。その服装は四大を意味する四色から成っている。頭から下は火の色で、腰帯から下は空気の色で、隠部から膝までは土の色で、それ以外は足にいたるまで水の色である。そしてその女神に数人の、真に美しい小さな男の子がつきそっている。」(p. 175)

1-4. ラファエロ 署名の間「天井画」(詩学)、1508-11年、フレスコ、ヴァチカーノ宮

 ◆画人伝より(3)

ベルヴェデーレを望む窓の方に向いた円形模様には、『詩学』がポリュヒムニアの姿をして描かれている。月桂冠を戴き、片方の手に古代の楽器を持ち、いま一方の手に書物を一冊持っている。両脚を組んで、その風采といい顔の美しさといい、不滅のものを感じさせる。ポリュヒムニアは両眼を天に向け、上に向かっている、という感じである。彼女のお伴をしている2人のプットは、いかにも気が利いて活潑で、ポリュヒムニアや他の像とともに、さまざまな組み合わせを形づくっている。ラファエロはこの同じ側の、すでに言及した窓の上に、パルナッソス山の絵も後に描いた。」(pp. 175-176.)

美術用語(28) ベルヴェデーレ

ベルヴェデーレ

1-5. ラファエロ 署名の間「天井画」(神学)、1508-11年、フレスコ、ヴァチカーノ宮

 ◆画人伝より(4)

「また教会の博士たちがミサの形式を取り決めている物語の上のもう一つの円形模様には、書物その他のものを周囲に配して『神学』を描いた。他の女神と同様、プットが何人か侍っている。この『神学』の女神も他に劣らず美しいものである。」(p. 176)

1-6. ラファエロ 署名の間「天井画」(正義)、1508-11年、フレスコ、ヴァチカーノ宮

 ◆画人伝より(5)

「中庭に面した他の窓の上の、いま一つの円形模様のなかには、『正義』の女神をその秤とふりあげた剣とともに描いた。他の女神たちの場合と同様、プットとともに描いたのはもちろんである。『正義』の女神は絶妙な美しさである。それというのも、後で詳しく述べるが、ラファエロがその下の画面の絵のなかで民法と教会法の授与の場面を描いているからである。」(p. 176)

 ◆画人伝より(6)

「それと同様に、同じ天井の四隅に、非常な勤勉をもってデザインから考えかつ色を塗った4つの物語を描いたが、しかしその人物の大きさはたいしたものではなかった。その1つ、『神学』に近い隅に、アダムが罪を犯している場面をいとも軽やかな様式で描いた。例の林檎を食べる場面である。『天文学』が描かれているところの隅には、その『天文学』の女神像が、恒星と惑星をそれぞれの場所に定めているところが描かれている。パルナッソス山が描かれている一隅には、アポロンの命令で、木に縛りつけられて、皮を 剥がれているマルシュアスが描かれている。また法王の教令集が授与される物語に近い隅には、ソロモンの審判の光景が描かれているが、それはソロモンが子供を2つに分けることを提案している場面である。この4つの物語絵はどれもこれも感情と感覚に富み、デッサンもまことに良く、彩色も気持よく魅力的である。」(p.176.)

1-7. ラファエロ 署名の間「天井画」(アダムとエヴァ)、1508-09年、フレスコ、120×105cm、ヴァチカーノ宮

1-8. ラファエロ 署名の間「天井画」(4つの物語)、フレスコ、ヴァチカーノ宮

美術用語(29) ソロモン

1-1. ラファエロ 署名の間「天井画」(主題解釈)

美術用語(30) イコノロジー

2-1. ラファエロほか「署名の間」壁画 《正義の壁》(左)と《聖体の論議》(右)

2-2. ラファエロほか《正義の壁》、1511年、フレスコ、横幅660cm、ヴァチカーノ宮

2-3. ラファエロほか《正義の壁》:「美徳(枢要徳と対神徳)」

2-4. ラファエロ《聖体の論議》、1509年、フレスコ、横幅770cm、ヴァチカーノ宮

2-5. ラファエロ《聖体の論議》(部分) フラ・アンジェリコ、ブラマンテほか

2-6. ラファエロ《聖体の論議》(部分) ドゥンス・スコトゥス、アルベルトゥス・マグヌス、ラテン四教父

2-7. ラファエロ《聖体の論議》(部分) トマス・アクィナス、ボナヴェントゥーラほか

2-8. ラファエロ《聖体の論議》(部分) マリア、キリスト、洗礼者ヨハネほか

2-9. ラファエロ 署名の間「壁画」 《パルナッソス》(左)と《アテネの学堂》(右)

2-10. ラファエロ《パルナッソス》、1510-11年、フレスコ、横幅670cm、ヴァチカーノ宮

2-11. ラファエロ《パルナッソス》(部分) アポロンとムーサイ

美術用語(31) ムーサ

2-12. ラファエロ《アテネの学堂》、1509-10年、フレスコ、横幅770cm、ヴァチカーノ宮

 ◆画人伝より(7)

「これらのなかにはディオゲネスもおり、彼は階段の上で盃を手にして横たわっている。これは非常によく考えて描かれた超然とした姿で、その美しさという点からも、またおよそ本人が構おうとしない服装という点からも賞讃に値するものである。そこには同様にアリストテレスもプラトンもいる。1人は『倫理学』を手に持ち、1人は『ティマイオス』を手に持っている。その周囲には一派の哲学者たちが環をなしている。」(p. 174)

 ◆画人伝より(8)

「そこにはまた地面へ体を傾けて、2つのコンパスを手に持ち、それを板の上でまわしている像もある。人の説によると、これは建築家ブラマンテだそうで、さながら生けるがごとく実物によく似せて描かれているという。背を向けて、手に天球を持っている人の隣にいるのは、ゾロアスターの肖像である。そしてその隣にいるのは、この作品の制作者ラファエロその人で、鏡に写して自画像を描いたのだという。それは非常につつましやかな様子をした、青年の頭像であるが、実に気持のよい、善良な優雅さを伴っており、頭には黒い帽子をかぶっている。」(p. 174)

2-13. ヴァチカーノ宮 署名の間の天井画と壁画における主題の照応性

3-1. ラファエロ《キリストの変容》、1518-20年、油彩・板、405×278cm、ヴァチカーノ絵画館

《キリストの変容》展示風景

 ◆画人伝より(9)

「ラファエロはまた、ジューリオ・デ・メディチ枢機卿兼聖 庁尚書次官のために『キリストの変容』の板絵を描いたが、これはフランスへ送られた。この板絵は彼が自分の手で絶えず描いた労作で、最高度の完成に達したものである。この絵のなかでは、キリストがタボル山で変容した図が描かれ、その下には11人の弟子がキリストを待っている。そこには悪霊に憑かれた若者が1人かつぎこまれたのが見える。それは山から降りて来るキリストに癒してもらおうという心算である。…(中略)…実際ラファエロはこの作品の中で、ただ単にすばらしく美しいというだけでなく、いかにも斬新で、多種多様で、美しい人物や表情を制作したので、画工たちの間では、ラファエロが制作した数多い作品のなかでもこの絵こそが最も美しく、真に神々しい、栄光と栄誉に包まれた作品である、という定評であった。 …(中略)…ラファエロは自分の力を振り絞って、絵画芸術の力と価値をキリストの顔に表現しようとしたらしい。このキリストの顔を描き終えるや、これが彼にとって最後の仕事となり、もはや2度と筆を取ることはなかった。死が訪れたからである。」(pp.201-202.)

3-2. ラファエロ《キリストの変容 》(部分) モーセ、キリスト、エリヤ/ヤコブ、ペテロ、ヨハネ

3-3. ラファエロ《キリストの変容 》(部分) 11人の弟子たちと悪魔憑きの少年

ラファエロ《アテネの学堂》 1509-10年頃


3.まとめ

この講義で紹介した美術館、教会など

ラファエロ=法王の御用画家。

ブラマンテ(1444-1514):建築家。ラファエロの同郷人。

用語:プット/ベルヴェデーレ(眺めのよい場所) /ソロモン/イコノロジー(図像解釈学) /ムーサ(詩神)

ヴァザーリの記述:レオナルド、ミケランジェロ、ラファエロを頂点とする「美術史観」= “かくも偉大なる人の足跡をたどりつつ、弟子たちが大勢進んで行く”