第5回福岡アジア美術トリエンナーレ2014


ビエンナーレ化現象

グローバリゼーションとビエンナーレを組み合わせた造語「biennalization」の訳語

・1990年代にビエンナーレが多数新設され、同じキュレーターが企画する同じような顔ぶれの美術家による国際美術展が増加した状況(=画一化)を指して、美術評論家のゲルハルト・ハウプトが2000年頃に使用しはじめたとされる

・日本は、1999年の福岡アジア美術トリエンナーレ、2000年の大地の芸術祭 越後妻有アートトリエンナーレ、2001年の横浜トリエンナーレの開始をもって、世紀の変わり目に本格的な国際美術展時代に入った

・2005年以降、地域性を強調する差違化の時代に入っている


周期展としての福岡アジア美術トリエンナーレ

第1回(1999年)コミュニケーション〜希望への回路
第2回(2002年)語る手 結ぶ手
第3回(2005年)多重世界―平行するリアリティ
第4回(2009年)共再生=明日をつくるために
第5回(2014年)未来世界のパノラマ―ほころぶ時代のなかへ

 福岡アジア美術トリエンナーレ前史

・福岡市美術館開館記念 アジア美術展第一部 近代アジアの美術―インド・中国・日本(1979年)
・福岡市美術館開館記念 アジア美術展第二部 アジア現代美術展(1980年)       カタログ表紙
・第2回アジア美術展(1985年)
・第3回アジア美術展(1989年)
・第4回アジア美術展(1994年)  カタログ表紙
・第5回アジア美術展(1999年)=第1回福岡アジア美術トリエンナーレ1999
 ※福岡アジア美術館開館記念展


第5回福岡アジア美術トリエンナーレ2014の概要 会場写真

企画展/周期展
会期: 9月6日〜11月30日(水休; 74日間)
会場:福岡アジア美術館ほか周辺地域
主催:第5回福岡アジア美術トリエンナーレ実行委員会(福岡アジア美術館、西日本新聞社、TVQ九州放送ほか)
テーマ:未来世界のパノラマ ―ほころぶ時代のなかへ


未来世界のパノラマ ― ほころぶ時代のなかへ

 ・「未来」―成長する時間

未来の世界がいつやって来るのかは誰にもわかりません。しかし、その萌芽はこの世界のいたるところにひそんでいて、私たちは気づいていないか、あるいは何かによって隠されているだけなのかもしれません。

 ・「未来世界のパノラマ」―拡張していくビジョン

未来世界のパノラマとは、閉ざされ、固定化された、独善的なビジョンではなく、複眼的につながり、逸脱し、果てしなく拡張していくビジョンなのです。

 ・「ほころび」―新しい世界の萌芽

今の私たちにとって必要なのは、迷宮のような現実から受ける圧力や限界、あるいはユートピアのような心地よい虚像のなかで思考停止することではなく、それらの矛盾やほころび(=破綻)を察知し、新しい世界像(イメージ、概念、関係性)へと変換するような想像力ではないでしょうか。

出典:「第5回福岡アジア美術トリエンナーレ2014」プレスリリース
<http://fukuokatriennale.ajibi.jp/press/img/pdf/FT5Pressrelease1.pdf> (2014/11/4)


5つのサブテーマ

 1 グローバリズムの果てから

多国籍企業による巨大な集権システムを支えているのは、その中心から遠く離れた場所に生きる人々

 2 共同性という幻想

国家、民族、宗教、イデオロギーなど人類は実にさまざまな集団意識を生み出してきた。…個人では抗しがたい暴力

 3 日常のなかの消失点

日常生活のなかで見過ごしているささやかな世界、あるいは意識的に気づかないふりをしている状況

 4 イメージの錬金術

視覚芸術は…その時代の世界の見方や関係性という形態(ゲシュタルト)を解体、再創造し続けてきた

 5 素晴らしき新世界へ

私たちが想像する新世界とは……。

出典:『FT5ビジュアル・ガイドブック』 (福岡アジア美術館、2014年): 9-10.


作品紹介

FT5アーティストマップ(21カ国・地域)

1. 日本 2. 韓国 3. 台湾 4. 中国 5. モンゴル 6. フィリピン 7. ブルネイ 8. インドネシア 9. ベトナム 10. カンボジア 11. ラオス 12. シンガポール 13. マレーシア 14. タイ 15. ミャンマー 16. バングラデシュ 17. ブータン 18. ネパール 19. スリランカ 20. インド 21. パキスタン

1. アニッダ・ユー・アリ(カンボジア, 1974- )《仏教蟲》 2013年

2. アニッダ・ユー・アリ《学食》 2012年

3. アニッダ・ユー・アリ《古い映画館》

4. シム・ウヒョン(韓国)《WATAGATA ドキュメント 2010-2014》

5. チョン・アルム(韓国, 1974- )展示風景

6. チョン・アルム《ある影響からの成長》

7. チョン・アルム《大いなる循環》

8. ムン・キョンウォン&チョン・ジュンホ(韓国, 1969- / 1969- )《妙香山館》

9. グエン・チン・ティ(ベトナム, 1973- )《風景シリーズ #1》(1)(2)(3)(4) 2013年

10. ヘイダル・アリ・ジャン(パキスタン, 1983- )展示風景

11. ヘイダル・アリ・ジャン《抜け目なく》 2010年

12. チェン・イージエ(陳怡潔, 台湾, 1980- )《連合島》(1)(2)

13. よしながこうたく(1979- )展示風景(1)(2)

14. よしながこうたく『ぼくだってウルトラマン』より

15. バドゥザグディン・ナンディン・エルデネ(モンゴル, 1981- )展示風景

16. バドゥザグディン・ナンディン・エルデネ《鏡のなかの失われた身体》(部分) 2013年

17. ジハン・カリム(バングラデシュ, 1984- )《光と影の闘い》

18. ユェン・グァンミン(袁廣鳴, 台湾, 1965- )《記憶の前》 2011年

19. ヤン・ヨンリァン(楊泳梁, 中国, 1980- )《極夜の昼》(部分) 2012年

20. あのラボ(日本, 2012- )《時空間のしっぽ》

21. ルー・ヤン(陸揚, 中国, 1984- )《子宮戦士》(1)(2)(3)(4)

22. ブー・ホァ(卜樺, 中国, 1973- )《西暦3012年》

23. ブー・ホァ《はびこる野蛮》 2008年

24. シャーマン・オン(マレーシア, 1971- )《母国:ジェスメン》 2011年

 特別部門「モンゴル画の新時代」

25. ダグヴァサムブーギーン・ウーリントゥヤ(モンゴル, 1979- )《誰が誰》(部分) 2012年

26. ガンボルディン・ゲレルフー(モンゴル, 1988- )《勝つのは誰か》(部分) 2013年


まとめ

 ・ビエンナーレ化現象

―1990年代に観察された国際美術展の均質化
―2005年以降の地域的特性の強調による差違化
―美術館文化とビエンナーレ文化(キャロライン・A・ジョーンズ)
―ビエンナーレの時限性と実験精神

 ・「アジア現代美術」

―「現代美術」のグローバル化
―アジア現代美術⇔欧米の現代美術/アフリカ、南米の現代美術/中東、旧共産圏の現代美術
―地域の独自性
―「アジア現代美術」とアジアの「現代の美術」