東京 ソウル 台北 長春 官展にみる近代美術
◆「官展にみる近代美術」展の概要 会場写真
企画展/巡回展
会期・会場:
2014年2月13日〜3月18日 福岡アジア美術館
2014年5月14日〜6月8日 府中市美術館
2014年6月14日〜7月21日 兵庫県立美術館
◆官展の種類と歴史
1907 文部省美術展覧会(文展)
1919 帝国美術院展覧会(帝展) ※文展から改称
1922 朝鮮美術展覧会(朝鮮美展)
1927 台湾美術展覧会(台展)
1938 台湾総督府美術展覧会(府展) ※主催者変更
満州国美術展覧会(満州国展)
◆美術展覧会規程(1907年6月8日告示)
・日本画・西洋画・彫刻の三科制
・鑑査を経たものに限り陳列(審査委員の作品は無鑑査)
・出品作品は本人が制作したものに限る
・風教に害ある作品は出品できない
・額あるいは軸などの装飾設備を備える
・優秀作品には褒賞の授与あるいは買上を行う→“日本の「美術」の近代制度が形式的のみならず、内容的に確立するための基準となった”
出典: 飯尾由貴子「日本における官設美術展覧会について」、『官展にみる近代美術』展図録(福岡アジア美術館ほか、2014年): 12-13.
◆展覧会図録
・展覧会図録は、企画展の開催に合わせて刊行される。出品作品の図版をカラー等で掲載したカタログ部分のほか、企画趣旨について述べた論文、出品作品リスト、作家略歴や年譜、作品解説、参考文献リスト、謝辞などから成る。
・企画趣旨について述べた論文は、開催館の展覧会担当学芸員が執筆するほか、大学の研究者や他館の学芸員、エッセイストなど外部の専門家に依頼して、複数の論文が掲載されることもある。巡回展の場合、巡回各館の学芸員がそれぞれ章立てやテーマ毎に論文を寄稿する。
・出品作品リストは、制作年、サイズ、素材と技法、所蔵先など、個々の作品の基本情報一覧である。回顧展の場合、出品歴や図版の掲載歴も記載され、作品研究の基礎情報となる。
・通常、展覧会会期の初日から開催美術館のミュージアムショップで販売され、会期中に売り切ることを目指す。発行部数は1,000部程度から10,000部以上まで、展覧会の集客数見込みに応じてさまざまある。観客総数の7%程度が購入すると見込まれている(約15人に1人が購入)。
・会期中に完売しない場合、巡回展であれば、次の会場で売られ、単館開催であれば、開催館で会期終了後も販売される。完売した時点で「品切れ」となり、増刷や復刊はされない(海外の美術館の企画展に復刊の事例有り)。 現代美術展の場合、会期途中や終了後に刊行される場合もある。
・公立美術館で開催される展覧会の図録の場合、利益は見込まれていない(制作費÷部数=価格)ことが多い。
◆「官展にみる近代美術」展図録の構成
・あいさつ/謝辞/凡例
・作品 エッセイ
▫ 東京―文展・帝展と日本の近代美術
▫ ソウル―朝鮮美展と韓国の近代美術
▫ 台北―台展・府展と台湾の近代美術
▫ 長春―満州国展と「満州」の近代美術
・エッセイ
▫ ラワンチャイクン寿子「官展の時代」
▫ 金正善「朝鮮美術展覧会の日本人審査員と朝鮮郷土色―西洋画部を中心に」
▫ 薛燕玲「異域の旅―日本統治期に日本から台湾に来た画家の遊歴の足跡とその作品をめぐる初歩的研究」
▫ 児島薫「朝鮮美術展覧会、台湾美術展覧会の『内地』からの審査員について」
▫ 後小路雅弘「東南アジアにおける日本軍政と公的な美術活動」
・資料
作家・作品解説/開催趣旨・規則/会期・会場・審査員表/年表/参考文献/出品作品リスト
◆官展審査員リスト
・スライド
◆「官展にみる近代美術」展の開催経緯と前史
前史
1992年 「洋画の動乱」(東京都庭園美術館)
1999年 「東アジア/絵画の近代」(静岡県立美術館、ほか)
2004年 「失楽園 風景表現の近代 1870-1945」(横浜美術館)
開催経緯
2004年 「日治時期台湾美術的〈地域色彩〉」展(国立台北美術館)
2006年 「日本時代の台湾絵画」展(福岡アジア美術館)
2014年 「官展にみる近代美術」展(福岡アジア美術館、ほか)
出典:ラワンチャイクン寿子「官展の時代」 『官展にみる近代美術』展図録(福岡アジア美術館ほか、2014年): 178.
◆出品作品紹介
東京
1. 松林桂月《春宵花影》、1944年、水墨、淡彩・紙、72.8×90.9cm、下関市立美術館
2. 野田九浦《故宮阯閑静》、1936年、着色・紙、225×144cm、水野美術館
3. 前田青邨《観画》、1936年、着色・絹、179×222cm、京都市美術館
4. 土田麦僊《平牀》、1932年、着色・絹、153×209cm、京都市美術館
5. 藤島武二《花籠》、1913年、油彩・画布、63×41cm、京都国立近代美術館
6. 岡田三郎助《満州記念》、1933年、油彩・合板、63×66.5cm、京都市美術館
7. 有島生馬《江南の春》、1938年、油彩・画布、194×112cm、薩摩川内市川内まごころ文学館
8. 梅原龍三郎《長安街》、1940年、油彩、岩絵具・紙、72.7×90.9cm、東京国立近代美術館
ソウル
9. キム・ギチャン(金基昶)《或日》、1943年、着色・紙、262×182cm、韓国国立現代美術館
10. チャン・ウソン(張遇聖)《画室》、1943年、着色・紙、210.5×167.5cm、リウム三星美術館
11. キム・インスン(金仁承)《裸婦》、1936年、油彩・画布、163×129cm、リウム三星美術館
12. キム・インスン(金仁承)《女人座像》、1941年、油彩・画布、60×50cm、高麗大学博物館
台北
13. 陳進(チェン・ジン)《アコーデオン》、1935年、着色・絹、180×170cm、台北市立美術館
14. 郭雪湖(グオ・シュエフ)《松壑飛泉》、1927年、水墨・紙、162×70cm、遺族所蔵
15. 郭雪湖(グオ・シュエフ)《円山付近》、1928年、着色・絹、94.5×188cm、台北市立美術館
16. 倪蔣懐(ニー・ジャンホワイ)《台北郊外》、1930年、水彩・紙、46.8×59.2cm、台北市立美術館
17. 李梅樹(リー・メイシュ)《花と乙女》、1940年、油彩・画布、145.5×112cm、李梅樹記念館
18. 洪瑞麟(ホン・ジュイリン)《日本の貧民窟》、1933年、油彩・画布、73×91.5cm、台北市立美術館
19. 石川欽一郎《裏町》、1945年以前、水彩・紙、43.5×28.5cm、台北市立美術館
長春
20. 赤羽末吉《満州の冬の街頭物売り》、1950年代、着色・紙、153×150cm、ちひろ美術館
21. 劉榮楓(リョウ・ロンフォン)《満州の収穫》、1930年、油彩・画布、91.2×116.8cm、星野画廊
◆まとめ
・展覧会図録
―美術館の企画力の表現と記録
―研究資料としての学術的な有用性
―過去に開催された展覧会の図録の積み上げの上に新しい展覧会が企画される
―自らのテーマをもって、企画展を見る
・北東アジアの「近代美術」
―大日本帝国による植民地支配
―内地日本の東京藝術大学教授陣を頂点とするアカデミズム
―穏健な写実主義
―台湾、朝鮮、満州における「郷土色」