<第十三講>総括:ビエンナリゼーションと本当に豊かなアート体験


1.授業で紹介した国際美術展

 ・国内5つ、アジア2つ、ヨーロッパ3つの国際美術展を紹介 <スライド>

1. UBEビエンナーレ
2. 瀬戸内国際芸術祭
3. あいちトリエンナーレ
4. ヨコハマトリエンナーレ
5. 大地の芸術祭 越後妻有アートトリエンナーレ
6. 光州ビエンナーレ
7. コーチ=ムジリス・ビエンナーレ
8. ヴェネツィア・ビエンナーレ国際美術展
9. ドクメンタ
10. ミュンスター彫刻プロジェクト

 ◆9, 1, 10, 5, 2 <スライド>

1955年〜 前衛芸術の紹介……………………………9(1995年:13万人 → 2012年:90万4,992人)
1962/77年〜 街づくり・コミュニティづくり……1, 10
2000/10年〜 過疎対策・観客誘致…………………5, 2

 ◆8, 6, 4, 3, 7 <スライド>

都市型:国家を代表する国際美術展 cf.「看板トリエンナーレ」
8(1895年:22.4万人 → 2015年:50万人)
1990年代、冷戦終結後の都市間競争の激化


2.ビエンナーレの増加現象

 ・1990年代以降、非欧米圏で国際美術展の新設が相次ぐ

1984年 ハバナ・ビエンナーレ
1987年 イスタンブール・ビエンナーレ
1991年 リヨン・ビエンナーレ
1992年 ダッカールト―アフリカ現代美術ビエンナーレ
1993年 アジア太平洋現代美術トライエニアル/シャルジャ・ビエンナーレ
1995年 光州ビエンナーレ
1996年 上海ビエンナーレ
1998年 台北ビエンナーレ
2000年 越後妻有アートトリエンナーレ
2001年 横浜トリエンナーレ
2002年 釜山ビエンナーレ
2010年 瀬戸内国際芸術祭/あいちトリエンナーレ
2012年 コーチ=ムジリス・ビエンナーレ


世界のビエンナーレ・トップ20

1位 ヴェネツィア・ビエンナーレ
2位 ドクメンタ
3位 ホイットニー・バイエニアル
4位 マニフェスタ―ヨーロッパ現代美術ビエンナーレ
5位 光州ビエンナーレ
6位 カーネギー・インターナショナル
7位 サンパウロ・ビエンナーレ
8位 シャルジャ・ビエンナーレ
9位 イスタンブール・ビエンナーレ
10位 リヨン・ビエンナーレ
11位 ハバナ・ビエンナーレ
12位 ベルリン・ビエンナーレ
13位 シドニー・ビエンナーレ
14位 ダッカールト―アフリカ現代美術ビエンナーレ
15位 リヴァプール・ビエンナーレ
16位 上海ビエンナーレ
17位 ヨコハマトリエンナーレ
18位 マラケシュ・ビエンナーレ
19位 台北ビエンナーレ
20位 プロスペクト―ニューオーリンズ

Source: http://news.artnet.com/art-world/worlds-top-20-biennials-triennials-and-miscellennials-18811(2015/1/26)


 ◆ヴェネツィア・ビエンナーレ国際美術展

・1895年に創始され、2015年に120周年を迎える
・1999年の第48回展より、毎回異なるキュレーターが独自のテーマを設定する「国際企画展部門」に注力

 ◆ドクメンタ

・1972年の第5回展から、総合監督がテーマを設定
・第13回展ではカーブル(アフガニスタン)やカイロ、アレクサンドリア(エジプト)、バンフ(カナダ)に、2017年の第14回展ではアテネ(ギリシア)にサテライト会場を設け、世界の政治状況や経済問題に切り込む

※ビエンナーレの増加現象を基点にグローバル化する現代社会について考察する <スライド>


 ◆イリヤ&エミリア・カバコフ《棚田》の読解

四月、輝く太陽。雪は消え、湿っぽい霞が空中を充たす。
ずんぐりした馬が、重い耕作用の鋤を懸命に引っ張る。
春のうちに、田んぼの準備を入念に。
新たな播種と種の植え付けのために。

五月の初め、太陽が照りつけ始める。
水に充たされた田の面が、暁の光に光る。
経験豊かな手が、暖まった大地に種を播いてゆく。
鋭く尖った芽が、大地から濃く生い立っていくように。

五月の太陽の下に木々は芽吹き、田の水はぬるんでくる。
大地から生えた茎は伸びてゆく。
植え付けられた植物が大地を着飾らせるように、
奇妙な木製の枠、タワクを転がして。

八月、暑さは頂点に達し、玉のような汗が滴り落ちる。
だが、休むいとまはなく、棚田から棚田へと刈ってゆく。
雑草が稲を覆ってしまわないように。
静かな稲。

人影は見えないほどに、高く成長した稲穂。
九月。鎌をふるい、一粒も残さず収穫を取り込み時だ。
田から、重い束をやっとのことで運び去る。
十月までにはすっかり乾燥させ、脱穀するためだ。

1. イリヤ&エミリア・カバコフ《棚田》(1)(2)(3) 2000年

 ・刈り入れ後の稲穂を干す光景
 ・「猫の額」ほどの土地にも開墾された田
 ・休耕田


  ・鑑賞者⇔作品

・テキストの読解/トリック・アート、スペクタクルとしての鑑賞

  ・鑑賞者⇔作品+作者

・作家の出自(ウクライナ出身/夫婦のコラボレーション)
・制作背景(周到なリサーチ)

“松代郷土資料館でここの住民の生活と労働の厳しさ、また、米作りがいかに大きな労力を要する作業であるのかを見ました。また、若い世代がこの土地に残らず、出て行ってしまうという現状を知りました。月日を要する厳しい手作業はもはや「魅力的」でなくなってしまったのです。我々はこの地区に注目を集め、新しい衝撃を与え、活性化するというプロジェクトの意図を理解しました。…(中略)…。川のこちら側、未来の文化センター周辺の「カルチャーゾーン」と、川向こうの現実の厳しい生産業は、私たちの考えではつながっていなければなりませんでした。このつながりは、文化センターを訪れる住民にとっては、地域の伝統的な財産である稲作のもつ高い意義と、それが芸術描写の対象になったということを明らかにすることで、また、遠方からやってきた旅行者にとっては、稲作という労働が記念碑を建てる価値のあるものであること、記念碑がどこからでも、どんなに遠くからでも見えるものであること、そして、記念碑は英雄をたたえるものではなく、何世紀にもわたってこれらの田んぼで頑張ってきた普通の人々に捧げられているということで表現しようと考えました。”

『大地の芸術祭 越後妻有アートトリエンナーレ2000』(越後妻有大地の芸術祭実行委員会、2001年)、265頁。

  ・鑑賞者⇔作品+作者+キュレーター

・脱都市型美術/近代化の負の側面(「アパルトヘイト否!」展)
・新潟県高田市(現上越市)生まれ/アートと公共事業

  ・鑑賞者⇔作品+作者+キュレーター+ビエンナリゼーション

・ドクメンタ(’92)、ヴェネツィア(’93, ’01)、ミュンスター(’97)
・西側世界の「他者」としての旧ソ連出身作家

2. イリヤ・カバコフ(ウクライナ)《見上げて、言葉を読んで…》 1997年


3.国際美術展とアーカイヴ

 ◆ヨコハマトリエンナーレ <スライド>

・公式サイトの「これまでの展覧会|Archive」 で、2001年〜2014年までの過去5回分の基本データを公開

 ◆コーチ=ムジリス・ビエンナーレ <スライド>

・Google Art Projectと共同して、公式サイトの「KMB2012」 に、2012年開催の第1回展の会場風景をアーカイヴ化

 ◆ヴェネツィア・ビエンナーレ国際美術展 <スライド>

・1895年展覧会創設
・1928年アーカイヴ設置

 ◆ドクメンタ <スライド1><スライド2>

・1955年展覧会創設
・1961年アーカイヴ設置
・公式サイトに1955年の第1回展から2017年の第13回展までの基本データを公開


 ◆M. ロシェ『メガ・イベントの近代性』

・In a world of ‘flows’ they provide symbolic and real channels, junctions and termini. In a world in which space-time is said to becoming increasingly ‘compressed’, their calendars and periodicities create distance and space. In a world which is arguably becoming culturally homogenised and in which places are becoming interchangeable, they create transitory uniqueness, difference and location in space and time. Sociologically they offer concrete, if transient, versions and visions of symbolic and participatory community.

・「流動的」な世界において、それら[=メガ・イベント]は、象徴的かつ現実的な回路、合流地点、そして終点を提供する。時空間がますます「圧縮」されつつあると言われる世界において、それらの暦と周期性は距離と空間を創出する。文化的に均質化し、それぞれの場所が互いに交換可能になりつつあると議論される世界において、それらは、時空間上に、刹那的な唯一性と差異性、場所性を生み出す。社会学的に、それらは、たとえ束の間ではあっても、象徴的かつ参加型の共同体の眺望と変奏*を具体的に提供する。

*変奏=ヴァージョン。連続性がありつつも何か新しい違いをもつもの。
Maurice Roche, Mega-events Modernity (London: Routledge, 2000): 7.


4.2016-17年に開催される国際美術展

 4-1. 瀬戸内国際芸術祭2016 <スライド>

夏:7/18(月・海の日) 〜 9/4(日) 49日間
秋:10/8(土) 〜 11/6(日) 30日間

 4-2. 「大地の芸術祭」の里 越後妻有2016夏 <スライド>

会期:2016年8月6日(土)〜21日(日) 16日間

 4-3. あいちトリエンナーレ2016 <スライド>

会期: 2016年8月11日〜10月23日(74日間)

 4-4. 光州ビエンナーレ2016 <スライド>

会期: 2016年9月2日〜11月6日

 4-5. 第27回UBEビエンナーレ応募作品展 <スライド>

会期:2016年10月3日〜11月3日
会場:ときわ湖水ホール
応募作品の中から、40点の入選模型作品を選考後、18点の実物制作指定作品を決定
(作品応募締め切り:9月2日)

 4-6. コーチ=ムジリス・ビエンナーレ2016 <スライド>

会期:2016年12月12日〜2017年3月29日
キュレーター:スダーシャン・シェッティ(Sudarshan Shetty)

 4-7. ヴェネツィア・ビエンナーレ第57回国際美術展 <スライド1><スライド2>

会期:2017年5月13日〜11月26日

 4-8. ドクメンタ14 <スライド>

会場・会期:アテネ  2017年4月8日〜7月16日
カッセル 2017年6月10日〜9月17日

 4-9. ミュンスター彫刻プロジェクト 2017 <スライド>

会期:2017年6月10日〜10月1日
会場:ノルトライン=ヴェストファーレン州立美術館ほか市内各所
芸術監督:カスパー・ケーニッヒ


5.本当に豊かなアート体験

 ◆「瀬戸内国際シンポジウム2010」より <スライド>

・北川フラム「ゆっくり歩けば、よく見える」
・カトリーヌ・グルー「多様な可能性に対しオープンであり続ける姿勢を持続すること」
・ヴィト・アコンチ「第1に、誰もが長生きできること。2つ目には、お金の心配をしなくてもよいということ。そして3つ目は、戦争のない世界です。」
・山出淳也「『豊かさ』は日常の中にある。ありふれた当り前のことが重要になっていく」
・森谷裕美子「それぞれの地域に暮らす人々が自分の文化に誇りを持ち、生きがいをもって生きること」
・シンティア・ネリ・ヤザス「『心地のよい人生・生活』の私のイメージは、午後、ハンモックに揺られながら昼寝をすることです。」
・清水博「自分が地球のために働いて、地球を豊かにして、地球からも受け取る」


 →「貧しいアート経験」とは?

・自らの判断基準を持たないまま「有名作家」の作品を有り難がる

・娯楽のような「わかりやすさ」、ファッションのような「新奇さ」を求め、満足する

※アートの「消費」

 →「豊かなアート経験」

・自らの趣味や価値観を大切にしつつも、自分とは異なる考え方に寛容で、知的探究心を行動に反映させられる

・時間をかけて鑑賞する/繰り返し思い出して再考する

※「創造的な」アート経験に育てる


6.まとめ

 ・前期授業の振り返り

―ビエンナリゼーション(ビエンナーレの増加現象)
―作品、作家、展覧会、キュレーターを通して現代社会の動向を見通す
―グローバル時代の周期展/アーカイヴと美術史

 ・本当に豊かなアート体験

―自分の判断基準(趣味や価値観)を他人に説明できる(=独自性を持つ)
―〈記憶に残る作品〉と残らない作品
―「他者に語りかける言葉」を紡ぎ出すことのできるアート体験