あいちトリエンナーレ2016(名古屋)


0. 「現代の美術」と「現代の」美術について

 「現代の美術=同時代を生きている人々の美術」⇔すべての美術が「現代の」美術

“「進化」という言葉を時々耳にする。何度も私の絵がどのように進化したのか説明を求められる。私にとって、私の芸術に過去や未来はない。もし、ある美術作品が常に現在に生きることが出来ないなら、それはまったく考慮されるべきではない。ギリシアやエジプトの美術も、ほかの時代を生きた偉大な画家たちも、過去の芸術ではない。今日こそ、それはこれまで以上に一層生き生きとしているだろう。芸術がそれ自体で進化するのではない。人びとの考えが変化し、それに伴って、考えの表現方法も変化するのだ。”(ピカソ、1923年)

I also often hear the word 'evolution'. Repeatedly I am asked to explain how my painting evolved. To me there is no past or future in my art. If a work of art cannot live always in the present it must not be considered at all. The art of the Greeks, of the Egyptians, of the great painters who lived in other times, is not an art of the past; perhaps it is more alive today than it ever was. Art does not evolve by itself, the ideas of people change and with them their mode of expression. (Paris 1923)

<https://en.wikiquote.org/wiki/Pablo_Picasso> (2016/10/17)


1. あいちトリエンナーレ2016

会期: 2016年8月11日〜10月23日(74日間) スライド
会場:愛知芸術文化センター、名古屋市美術館、名古屋・豊橋・岡崎市内のまちなか
主催:あいちトリエンナーレ実行委員会
テーマ:虹のキャラヴァンサライ 創造する人間の旅(Homo Faber: A Rainbow Caravan)
芸術監督:港千尋(写真家・著述家、多摩美術大学教授)


テーマ:虹のキャラヴァンサライ 創造する人間の旅

※キャラヴァンサライ:ペルシア語で「隊商宿」。広い中庭に厩や倉庫、取引所があり、2階に宿泊所を設ける。キャラヴァンが旅の疲れを癒す休息の場所。

“3回目となるあいちトリエンナーレは、創造しながら旅(キャラヴァン)を続ける人間をテーマにしたい。それは常に未知への、好奇心による無限の探求のかたちをとる。…(以下略)(港千尋) スライド


関連書籍

・コンセプトブック(2016年8月10日発行) スライド
・ガイドブック(2016年8月20日発行)
・カタログ(2016年10月7日発行)


展覧会図録

・展覧会図録は、企画展の開催に合わせて刊行される。出品作品の図版をカラー等で掲載したカタログ部分のほか、企画趣旨について述べた論文出品作品リスト作家略歴年譜作品解説参考文献リスト謝辞などから成る。

・企画趣旨について述べた論文は、開催館の展覧会担当学芸員が執筆するほか、大学の研究者他館の学芸員エッセイストなど外部の専門家に依頼して、複数の論文が掲載されることもある。巡回展の場合、巡回各館の学芸員がそれぞれ章立てやテーマ毎に論文を寄稿する。

・出品作品リストは、制作年サイズ素材技法所蔵先など、個々の作品の基本情報一覧である。回顧展の場合、出品歴図版の掲載歴も記載され、作品研究の基礎情報となる。

・通常、展覧会会期の初日から開催美術館のミュージアムショップで販売され、会期中に売り切ることを目指す。発行部数は1,000部程度から10,000部以上まで、展覧会の集客数見込みに応じてさまざまある。観客総数の7%程度が購入すると見込まれている(約15人に1人が購入)。

・会期中に完売しない場合、巡回展であれば、次の会場で売られ単館開催であれば、開催館で会期終了後も販売される。完売した時点で「品切れ」となり、増刷や復刊はされない(海外の美術館の企画展に復刊の事例有り)。 現代美術展の場合、会期途中や終了後に刊行される場合もある。

・公立美術館で開催される展覧会の図録の場合、利益は見込まれていない制作費÷部数=価格ことが多い。


2. 愛知芸術文化センター

1. ジェリー・グレッツィンガー(USA, 1942-)《Jerry’s Map》, (部分) 1963-2016年
2. 三田村光土里(1964- )《アート&ブレックファスト》, (部分1), (部分2), (部分3), (部分4), (部分5), (部分6), (部分7), (部分8), (部分9), (部分10), (部分11), (部分12), (部分13), (部分14), (部分15)   2006-16年
3. 大巻伸嗣(1971- )《Echoes-Infinity―永遠と一瞬》, (部分1), (部分2), (部分3), (部分4)
4. 松原慈(1977- )《接触化石》ほか展示風景
5. 松原慈《接触化石》より「ドアと階段のある家」
6. 松原慈《接触化石》より「太陽」と「月」
7. 西尾美也(1982- )+403architecture[dajiba]《パブローブ》, (部分1), (部分2)

 教育普及活動

キャラヴァン・ファクトリー


3. 名古屋市美術館

名古屋市美術館
・ノミン・ボルド(モンゴル, 1982- )《火》, 《水》
8. ノミン・ボルド《火》(部分1), (部分2), (部分3)
9. ノミン・ボルド《水》(部分1), (部分2), (部分3)
・佐藤克久(1973- )展示風景
10. 佐藤克久《降る夜・冠》
11. 佐藤克久《ありあり》(上)、《みすます》


4. 旧明治屋ビル

旧明治屋ビル
12. 寺田就子(1973- )《向かいあう光り 浮かび上がる影》, (部分1), (部分2), (部分3), (部分4), (部分5), (部分6)
13. 山城知佳子(1976- )《土の人》 (1), (2), (部分)

 ◆山城知佳子《土の人》会場配布資料より

 1. 「翼があるぞ」

「おどろいたか」と老人が言った。
「ここのみんなが翼をもっている
だが、役に立たないからもぎとれるものなら、そうしたかった」
「なぜ飛んで行かなかったんだ?」とたずねると
「自分の町から飛んで行かなければいけないのか?
ふるさとをすてて死んだものたちや神々も?」

高橋悠治「カフカノート」より

 7. ボゴぼごボゴぼご

湧水が膨れ流れるように
母語がひびく
母が語っていたことば
母と語り合ったことば
ことばはいわば血の約束
ボコボコにされても
ホゴにするわけにはいかない
異化の地殻変動だ
ことばを持たない自立はない

中里友豪「キッチャキ」より


5. 美術鑑賞の理想的サイクル スライド

 見る(展覧会鑑賞)⇔読む(展覧会図録のエッセイなど)⇔書く(展覧会レヴュー/中間レポート)

・展覧会レヴューを書く
=一度見たものについて「想起」しながら、再びより深く「見る」行為
=「書く」ことによって「見る」
=「書く」ことを通して「そのときの自分に出合う」


6. まとめ

 ・展覧会図録

―美術館の企画力の表現と記録
―研究資料としての学術的な有用性
―過去に開催された展覧会の図録の積み上げの上に新しい展覧会が企画される
―映画監督や俳優に注目して映画を見るように、企画者や参加作家に着目して美術展を見る

 ・芸術の力(詩の力)

―詩と散文の違い:象徴性と具体性
―芸術の力=鑑賞者の想像力の力
―作品の力=鑑賞者の想像力を刺激する力
―感性の豊かさ≒言語化能力の確かさ