釜山ビエンナーレ2016
周期展
会期: 9月3日〜11月30日(89日間)
会場:釜山市立美術館、F1963
主催:釜山広域市、社団法人 釜山ビエンナーレ組織委員会テーマ:ハイブリッド化する地球、議論する群衆/Hybridizing Earth, Discussing Multitude
芸術監督:ユン・チェガブ(Yun Cheagab)
◆ユン・チェガブ「議論する群衆」
・“The Biennale is a discussing multitude where artists and scholars of diverse religions, ethnicities and nationalities gather to discuss the issues of humanity’s past, present and future. Unlike literature, film and other cultural domains, this is a unique stage that can only be offered through the art genre and the biennale platform.”
・ビエンナーレはさまざまな地域、民族、国籍のアーティストや研究者が一堂に介して人間性の過去・現在・未来について討議する場である。それはまた、文学や映画、その他の文化領域ではなく、アートおよびビエンナーレの形式でしか提供しえない独自の舞台なのである。
・“The Busan Biennale 2016 will be consisted of two exhibitions (Project 1, Project 2) and a seminar (Project 3). It will address the relationship of continuity-discontinuity-interconnection between the avant-garde system before the 90’s and the global Biennale system that spurred since the 90’s.”
・釜山ビエンナーレ2016は、2つの展覧会と1つのセミナーを相互に関連させて、90年代以前の前衛と、90年代以降に急増したグローバルなビエンナーレ・システムを対比することになるだろう。
2. 釜山ビエンナーレ Project 1
2-1. 中国の前衛美術
◆中国の現代美術 1976-1995
・1976年の文化大革命終結を受けて、中国現代美術においても新しい歴史が始まった
・1946年から76年にかけては、政治的テーマやイコンが芸術制作の中心主題となっていた
・1976年の「天安門広場」以後の世代にとっては、社会と芸術をめぐる現代的な問いが差し迫った課題として突きつけられた
・過去30年にわたって、中国の美術研究者がこの時代についてさまざまな総括をし、議論を活発化させている
・本展は、これらの議論の成果を踏まえて構成した
――グオ・シャオヤン
1. ジャン・シャオガン(張暁剛, 1956- )《血縁―大家族 No.3》 1988年
2. ホァン・ヨンピン(黄永砅, 1956- )《顎ひげを生やした人は燃やしやすい》 1986年
3. ディン・イ(丁乙, 1962- )《十字の外観 1991-1》 1991年
4. ワン・グァンイ(王広義, 1956- )《偉大なる批評―カシオ》 1993年
5. ウー・シャンジュアン(呉山専, 1960- )《いかに何もしないか》 1993年
6. ツァイ・グオチャン(蔡國強, 1956- )《万里の長城を1万メートル延長するプロジェクト》 1993年
7. チャン・ダリ(張大力, 1963- )《対話―ボローニャ 199371》 1993年
8. チャン・ダリ《対話―徳勝門 199583》 1995年
9. チャン・ダリ《対話―興隆胡同 199593A》 1995年
10. シュー・ビン(徐冰, 1955- )《転移の事例研究》 1993-94年
11. ジャン・ホァン(張洹, 1965- )《12平方メートル》 1994年
12. マ・リュウミン(馬六明, 1969- )《万里の長城を歩く芬-馬六明》 1998年
2-2. 日本の前衛美術
◆戦後日本の現代美術
・日本に前衛芸術が紹介されたのは、ヨーロッパより少し遅れて第1次大戦後、来日した旅行者によるものだった
・ダダとシュルレアリスムを中心として、日本における前衛芸術の運動は1930年代にはその頂点に達する
・しかしその後、戦時体制へと向かう日本社会において前衛運動も下火となり40年代には途絶えてしまう
・戦後、岡本太郎を核として前衛芸術も息を吹き返すが、「否定」的な戦術をとったその運動は、「他者と違うこと」「誰もやっていないこと」を目指すこととなった
・具体派、九州派、反芸術、もの派、といった1950-60年代に登場した潮流がその例である
・1964年の東京オリンピック、1970年の大阪万博に象徴される高度経済成長期以後の日本の思潮は急進主義から虚無主義へと傾いた
・1980年代の日本の表現は、生産から消費へといった経済面での重心移動と並行して、従来の「何か新しいもの」の探求ではなく、サブカルチャーをはじめ、「どこかで見たもの」に操作を加えるポスト前衛へと展開した
・しかしながら、これらの源流には敗戦とその象徴である日本国憲法、広島・長崎への原爆投下といった歴史の忘却が指摘できる
――椹木野衣(英文からの抄訳:藤川哲)
13. 赤瀬川原平(1937-2014)《大日本零円札》 1967 年 ほか
14. 堀浩哉(1947- )《REVOLUTION》, (部分) 1971/2016年
15. 中原浩大(1961- )《レゴ・モンスター》, (背面) 1990 年
16. 柳幸典(1959- )《第9条》 1994 年
17. 榎忠(1944- )《RPM-1200》, (部分) 2006- 年
18. Chim↑Pom(2005- )《ピカッ!》 2008 年
19. Chim↑Pom《パヴィリオン》
20. 会田誠(1965- ) +21世紀のダンボール職人組合《MONUMENT FOR NOTHING II》, (部分) 2008- 年
2-3. 韓国の前衛美術
◆韓国の前衛運動―抵抗的闘争 1960年代後半〜1980年代後半
・本展では、韓国の1960年代後半から80年代後半にかけて、既存の体制を問い直し、それを克服するために前衛的な実験を探求した作家たちを紹介する
・この時期の主要な美術運動は、モノクローム派か民衆美術か、または近代的なフォーマリズムか社会主義リアリズムかといった構図で理解されている
・本展はこうした二項対立の間で新しい造形言語を探求した作家集団に焦点を当てる
・1980年代の多様な作家集団を取り上げることで、2000年代以降の韓国現代美術の多様性の源流に光を当てる
――キム・チャンドン
21. ジュン・カンジャ(1942- )《透明風船とヌードのカン・ククジン、ジュン・チャンンスン、ジュン・カンジャ》 1968/2016年
22. イ・スンテク(1932- )《風-民族の娯楽》 1970年
23. キム・クリム(1936- )《不可解芸術》 1970年
24. パク・スクウォン(1942- )《4つの影》 1972年
25. イ・クンヨン(1942- )《身体用語 71-2014》 1971年
26. イ・クンヨン《手の論理》/ 《場の論理》 1975年
27. パク・ヒュンキ(1942-2000)《傾斜水ヴィデオ》 1979年
28. スン・ニュンキョン(1944- )《新聞―1974年6月1日以後》(1), (2), (3) 1974年
29. キム・スンベ(1954- )《下下-松》 1987年
30. ハ・ヨンソク(1959- )《糞、尿、ゲロ》 1987年
31. ヨク・クンビョン(1957- )《風景の音+場のための目》 1989年
3. 釜山ビエンナーレ Project 2
◆ハイブリッド化する地球, 議論する群衆
・時間と空間を超越するデジタル技術が地球を1つの共同体、1つの市場として結び合わせることを可能にした
・手元のスマートフォンのアプリによって世界中の10億の人びとが宗教的、民族的、そして国籍の境界を越え、繋がり合う
・人間性は、かつてない「群衆(マルチチュード)の時代」を経験している「豊かで貧しい」この世界は、伝統と近代、人間と自然、東洋と西洋、アナログとデジタル、資本と技術などのハイブリッド化の帰結である
・ハイブリッド化する地球とは、資本と技術に還元されえないリアリティと対面する場であり、私たちはそこを拠点として抵抗と逃走を開始するのだ
・本展は、可能性について議論をする場である
・市場の非効率性や人間の非合理性、芸術における市場や制度からの影響の受けやすさに向き合うことは、遠回りで苦悩に満ちたものであるが、ベンヤミンに倣って、文明の記録とは、野蛮さの記録であることを想起したい
――ユン・チェガブ
・F1963 「ハイブリッド化する地球、議論する群衆」展
・F1963スクエア
・F1963スクエア パフォーマンス風景
・「ハイブリッド化する地球、議論する群衆」展
32. フォルカート・デ・ヨング(1972- )《平常業務:二重の幸福/“塔”》 2008年
33. フォルカート・デ・ヨング《操作調和》
34. イ・セヒュン(1967- )《赤の間-187》, (部分1), (部分2)
35. ダナ・リクセンベルク(1964- )《インペリアル・コーツ》, (部分1), (部分2)
36. ゾロ・ファイグル(1983- )《ポピー》 2012年
37. イベリッス・グァルディア・フェラグッチ(1979- )《縁》, (部分)
38. リダ・アブドゥル(1973- )《乗り換え》
39. ポン・ホンツー(彭弘智, 1969- )《神明収容所-釜山》, (部分1), (部分2)
40. ション・ジュンヘ(1974- )《囲い込み》, (部分)
41. チョイ・スンロク(1978- )《もぐら作戦―終局》
42. リウ・シンイ(刘辛夷, 1928- )《世界の中心》 2011年
43. プシュパマラ・N(1956- )《良い遺伝子》
44. プシュパマラ・N《良い遺伝子―産児制限》
45. ユ・スンフン(1975- )《空間の展覧会》
46. ターニャ・オストイッチ(1972- )《裸の生命 6》
47. ヨアンナ・ライコフスカ(1968- )《父は一度もそのように私に触れなかった》
4.まとめ
・中・日・韓の現代美術
―国別の美術史と北東アジアの美術史
―20世紀の北東アジア地域の歴史(政治・経済・文化)
―美術思潮における欧米との距離
―各国・都市・地域毎の文化的課題と「前衛」
・グローバル文化
―情報としてのグローバル
―生活実感としてのグローバル化
―グローバル化が可能にした文化的な選択肢
―グローバル(国際的な潮流)とローカル(地域の現代美術史)