<第一講>ヴェネツィア・ビエンナーレの歴史


0. ヴェネツィア

ヴェネツィアはイタリア北部、半島から約4km離れた潟の上の島
サン・マルコ広場の鐘楼とドゥカーレ宮殿
サン・マルコ広場
リアルト橋
サンタ・ルチア駅
モーゼ I


1.『広辞苑』で辿る「ビエンナーレ」「トリエンナーレ」の歴史 1969-2008

 『広辞苑』第6版(2008年)

・ビエンナーレ【biennale イタリア】(「二年ごとの」の意)二年に一度行なわれる美術展のこと。→トリエンナーレ(2335頁)
・トリエンナーレ【triennale イタリア】(「三年ごとの」の意)三年に一度行なわれる美術展覧会。→ビエンナーレ(2044頁)

 第1版(1955年)1786頁    〈スライド
  ↓ 「ビエンナーレ」が立項される
 第2版(1969年)1848頁
  ↓ 「ベニス」から「ヴェネチア」へ
 第3版(1983年)2000頁
  ↓ 「トリエンナーレ」への参照指示が追加
 第4版(1991年)2136頁
  ↓ 変更なし
 第5版(1998年)2220頁
  ↓ 1. 「国際的美術展」から「美術展」へ/2. ヴェネツィア・サン-パウロ・パリなどの例示が削除
 第6版(2008年)2335頁


 ◆国内で開催されているビエンナーレ、トリエンナーレ、芸術祭

1999 福岡アジア美術トリエンナーレ
2000 大地の芸術祭 越後妻有アート トリエンナーレ
2001 横浜トリエンナーレ (2011年以降、ヨコハマトリエンナーレへ改称)
    BIWAKOビエンナーレ
2007 中之条ビエンナーレ(群馬)
    北九州国際ビエンナーレ
    港で出合う芸術祭 神戸ビエンナーレ
2008 UBEビエンナーレ(山口) (現代日本彫刻展(1961〜 )から改称)
    姫路城 現代美術ビエンナーレ(兵庫)
2009 堂島リバービエンナーレ(大阪)
    開港都市にいがた 水と土の芸術祭 ※トリエンナーレ
    別府現代芸術フェスティバル 混浴温泉世界 ※トリエンナーレ
2010 瀬戸内国際芸術祭 ※トリエンナーレ
    あいちトリエンナーレ
    西宮船坂ビエンナーレ(兵庫)
2012 国東半島芸術祭 ※毎年
2013 十和田奥入瀬芸術祭
2014 中房総 国際芸術祭いちはらアート×ミックス
    札幌国際芸術祭
    みちのおくの芸術祭 山形ビエンナーレ
2015 PARASOPHIA 京都国際現代芸術祭
2016 KENPOKU ART 茨城県北芸術祭
   さいたまトリエンナーレ


2.ヴェネツィア・ビエンナーレの歴史1895-1942

 ◆第1回展(1895年)

第1回ヴェネツィア市国際美術展ポスター
・1895年、イタリア国王ウンベルト一世と王妃マルゲリータの成婚25周年を記念する事業として「ヴェネツィア市国際美術展」の名称で開始。 〈スライド
・参加国数15カ国(オーストリア、ベルギー、デンマーク、フランス、ドイツ、イギリス、イタリア、ノルウェー、オランダ、スペイン、スウェーデン、スイス、ハンガリー、ロシア、アメリカ合衆国)。展示室は11室。  〈スライド

1. フランチェスコ・パオロ・ミケッティ《ジョリオの娘》、1895年、油彩、テンペラ、282×555 cm、ペスカーラ県管理局、第1回展出品、ヴェネツィア市賞
2. フレデリック・レイトン《ペルセウスとアンドロメダ》、1891年、油彩・カンヴァス、235.0×129.2cm、リヴァプール、ウォーカー・アート・ギャラリー、第1回展出品 ※2016年3-5月「英国の夢―ラファエル前派展」(山口県美)で展示
3. ジェームズ・ホイッスラー《白のシンフォニーNo.2―白衣の少女》、1864年、油彩・カンヴァス、76×51cm、テート・コレクション、第1回展出品 ※2014年12-2015年3月「ホイッスラー展」(横浜市美)で展示
4. ジャコモ・グロッソ《至高の集い》、1895年 ※火災により焼失
主題の道徳性を問われ、ヴェネツィア司教より撤去を申し入れられた(主催者側は聞き入れなかった)


 ◆第2回展(1897年)には、日本美術が特集展示された 〈スライド

5. 荒木寛畝《秋草野雉圖》
6. 鈴木松年《雪中枯木鳶豆圖》
7. 久保田桃水《游鯉図》


 ◆ジャポニスムに関する出品の例 〈スライド

8. フレデリック・カール・フリージキー(1874-1939)《日本傘》、第8回展(1909年)出品
9. ジュゼッペ・デ・ニッティス(1846-1884)《小舟にて》、第11回展(1914年)出品
10. ガリレオ・キーニ(1873–1956)《オリエントのがらくた》、第11回展(1914年)出品


 ◆印象派・ヴェネツィア風景・分離派

11. ピエール=オーギュスト・ルノワール(フランス)《浴後》、1888年、油彩・カンヴァス、65×54cm、個人蔵、第5回展(1903年)出品
12. グリエルモ・チャルディ(イタリア)《夢の都市》、1909年、油彩・カンヴァス、97×195 cm、ヴェネツィア財団、第8回展(1909年)出品
13. グスタフ・クリムト(オーストリア)《ユーディットII ―サロメ》、1909年、油彩・カンヴァス、175×45cm、カ・ペーザロ近代美術館、第9回展(1910年)出品


 ◆第5回展(1903年)の展示室風景

ヴェネツィア展示室
エミリア展示室
国際展示室
肖像画展示室


 ◆各国館の建設 〈スライド

・1907年〜1914年、美術宮の周囲に各国の展示館が建設され、ジャルディーニの展示館は8館となった(ベルギー館=1907年、ハンガリー、イギリス、バイエルン館=1909年、スウェーデン、フランス館=1912年、ロシア館=1914年)


 ◆近代化と戦争の足音

14. グイド・カドリン(イタリア)《タバコ工場の女たち》、1920年、油彩・カンヴァス、150×122cm、ローマ、クイリナーレ・コレクション、第12回展(1920年)出品
15. フォルトゥナート・デペーロ(イタリア)《雷の作曲家》、1926年、油彩・カンヴァス、113×113cm、トレント・エ・ロヴェレート近代美術館、第18回展(1932年)出品
16. マリオ・シローニ(イタリア)《家族》、1929年、油彩・カンヴァス、160×210cm、個人蔵、第18回展(1932年)出品
17. トゥリオ・クラーリ(イタリア)《街へくさびのように突入する/都市への急降下》、1939年、油彩・カンヴァス、130×150cm、ミラノ、個人蔵、第22回展(1940年)出品

・1934年、ムッソリーニとヒトラーがヴェネツィア・ビエンナーレ会場を公式訪問。ロモロ・ヴァッツォーニの回想によれば「ヒトラーは一画家として、鑑賞しているようだった。」という。  〈スライド


 ◆ベニート・ムッソリーニ(Benito Mussolini, 1883-1945) 〈スライド

1883年(0歳) 3人兄弟の長男として生まれる。父アレッサンドロは熱心な社会主義者。
1902年(19歳) スイスを放浪。レーニンの知遇を得る
1911年(28歳) 伊土戦争に対する反戦運動で、半年間の懲役
1912年(29歳) 日刊紙『アヴァンティ』編集長に就任
1914年(31歳) 第一次大戦へのイタリア参戦を支持して日刊紙『ポポロ・イタリア』創刊。社会党から除名される
1915年(32歳) イタリア参戦。陸軍に志願入隊
1917年(34歳) 手榴弾による負傷。名誉退役
1921年(38歳) 「ファシスト党」結成
1922年(39歳) ローマ進軍により臨時政権樹立
1923年(40歳) 選挙法改正。小規模政党を解散に追い込む
1928年(45歳) 独裁体制確立
1929年(46歳) ラテラノ条約可決。ヴァチカン市国独立
1936年(53歳) エチオピア併合。イタリア領東アフリカを形成
1939年(56歳) 独伊軍事同盟締結。第二次大戦勃発
1945年(61歳) ガルバルディ自由旅団に拘束、銃殺される


 ◆ビエンナーレの拡張(7部門)

1895 美術展
 …
1928 歴史資料館
1930 音楽祭
1932 映画祭
1934 演劇祭      ※ファシズム政権時代に多ジャンル化
 …
1980 建築展
 …
1998 舞踊祭

ヴェネツィア・ビエンナーレ公式サイト(金獅子賞を授与されるルカ・ロンコーニ)


 ◆第23回展(1942年)

18. ルチアーノ・リッケッティ《鉄の統領》
19. アントニオ・ベルティ《統領》
20. ピエトロ・ガウデンツィ《統領》
21. A. G. サンンタガータ《飛行士》
22. マリオ・トッツィ《イタリア海兵》
23. マリオ・モスキ《労働と軍隊の勝利》      〈スライド
24. マルチェッロ・マスケリーニ《ペルセウス》
25. A. G. アンブロージ《男たちと兵器》
26. アルマンド・トネッロ《前線警備》
27. リナ・ロッソ《偉大な傷病兵のそばで》
28. レンツォ・マッツォリン《アルバニア、シュクンビン谷での引き上げ作業》 〈スライド
29. ミケーレ・カスチェッラ《エンジン試験》
30. アンセルモ・ブッチ《三発機》
31. リノ・ビアンキ・バッリヴィエラ《難破船の救出》
32. ナッツァレーノ・パンチーノ《小型船の着艦》
33. アッティリオ・ジュリアーニ《武装解除》     〈スライド


 ◆戦争・学生運動の余波による休止と調整

1895 第1回ヴェネツィア市国際美術展
 …
1909 第8回ヴェネツィア市国際美術展
1910 第9回ヴェネツィア市国際美術展
 …
1914 第11回ヴェネツィア市国際美術展
 ×
 ×
                   −2回
1920 第12回ヴェネツィア市国際美術展
 …
1930 第17回国際美術ビエンナーレ展
 …
1942 第23回国際美術ビエンナーレ展
 ×
 ×
                   −2回
1948 第24回ヴェネツィア・ビエンナーレ
 …
1972 第36回ヴェネツィア・ビエンナーレ
 ×                   −1回
1976 第37回ヴェネツィア・ビエンナーレ
 …
1990 第44回国際美術展ヴェネツィア・ビエンナーレ
1993 ヴェネツィア・ビエンナーレ第45回国際美術展


3.ヴェネツィア・ビエンナーレの歴史 1948-2017

 ◆ジャルディーニの各国館建設の歴史

1895 美術宮(1)建設
 …
1907 ベルギー館(2)建設
1909 ハンガリー館(3)、イギリス館(4)、バイエルン館(5)建設
 …
1912 フランス館(6)、スウェーデン館(7)建設
1914 ロシア館(8)建設
 …
1922 スペイン館(9)建設
 …
1926 チェコスロバキア館(10)建設
 …
1930 アメリカ館(11)建設
1932 デンマーク館(12)、ヴェネツィア工芸館(13)建設。同館両脇にスイス館(14)、ポーランド館(15)開館
1934 オーストリア館(16)、ギリシア館(17)建設
 …
1938 工芸館両翼を拡張してユーゴスラビア館(18)、ルーマニア館(19)開館
 …
1952 新スイス館(20)、イスラエル館(21)建設
1954 ベネズエラ館(22)建設
1956 フィンランド館(23)、日本館(24)建設
1958 カナダ館(25)、ウルグアイ館(26)建設
 …
1962 北欧館(27)建設
1964 ブラジル館(28)建設
 …
1988 オーストラリア館(29)建設
 …
1995 韓国館(30)建設

日本館

34. 塩田千春《掌の鍵》(1), (2)

約30の国別パヴィリオンが建ち並ぶジャルディーニ会場

・欧州 19 :オーストリア、ベルギー、チェコ/スロバキア、デンマーク、フィンランド、フランス、ドイツ、イギリス、ギリシア、ハンガリー、オランダ、ポーランド、ルーマニア、ロシア、セルビア、スペイン、スウェーデン、スイス
・北米 2:カナダ、アメリカ合衆国             ※第1回展からの参加国
・中南米 2 :ブラジル、ベネズエラ
・アジア 2 :日本、韓国
・中東 1 :イスラエル
・アフリカ 1 :エジプト
・オセアニア 1 :オーストラリア

ジャルディーニ以外に、アルセナーレや市内各地に会場が拡がる


 ◆金獅子賞(1949〜/1986〜)

ヴェネツィア国際映画祭の最高賞(1949年〜)。

1951年 黒澤明「羅生門」
1958年 稲垣浩「無法松の一生」
1997年 北野武「HANABI」

1986年より、ヴェネツィア・ビエンナーレ国際美術展でも授与。2009年の第53回展では国別参加部門、国際企画展部門、生涯業績部門の3部門、および若手美術家へ銀獅子賞を設定。2003年の第51回展では35歳未満の美術家やイタリア若手女性美術家への金獅子賞も設定された。イタリア語で「Leone d'Oro」

獅子=ヴェネツィアの守護聖人聖マルコの象徴
金獅子賞を手にするアルメニア館の代表者
サン・ラザッロ・デッリ・アルメニ
アルメニア
サン・ラザッロ島
アルメニア教会入口
教会内部
アルメニア館「アルメニティ」
35. アンナ・ボヒジャン《アニ》(1), (2), (3), (4), (5), (6)
36. ロザナ・パラジアン《なぜ雑草を抜く?》(1), (2), (3),  2006-15年
37. イェルヴァント・ジャニキアン&アンジェラ・リッチ・ルッキ《アルメニア絵巻》(1), (2), (3),  2012年
古代エジプトの柩のある書斎
38. ハイグ・アイヴァジアン《私は病んでいる、だが生きている》 2014年
39. ニナ・カチャドゥーリアン《訛りの除去》(1), (2) 2005年


4.まとめ

 ・ヴェネツィア・ビエンナーレの歴史

―1895年に始まり、2015年で120周年を迎えた
―この約120年のうちに、美術そのものが大きく変化した(絵画中心の再現的な表現から、さまざまな手法による現代アートへ)
―世界約80か国が参加する芸術の祭典(「現代アートのオリンピック」とも称される)

 ・現代アートの受容

―1951年、日本の国際社会への復帰(’51年 サンパウロ参加、’52年日本国際美術展開始)
―1969年、『広辞苑』に立項→2008年の第6版では「美術展」に(≒domestification 土着化)
―2000年前後にトリエンナーレが開始され、 00年代にビエンナーレ、10年代に芸術祭が増加