<第三講>ヴェネツィア・ビエンナーレ国際企画展部門の歴史
1.ヴェネツィア・ビエンナーレ第57回国際美術展 〈スライド〉
会期:2017年5月13日〜11月26日
芸術監督:クリスティン・マセル(Christine Macel)
ポンピドゥー・センターのキュレーター。1969年生まれ。「ヴィヴァ・アルテ・ヴィヴァ」は、アーティストとともに、アーティストによって、そしてアーティストのためにデザインされたビエンナーレで、彼らが提示する形、投げかける問い、発展させてきた実践、選び取った生き方などに関するものである。
→「アーティスト本位」
VIVA ARTE VIVA is a Biennale designed with artists, by artists and for artists, about the forms they propose, the questions they ask, the practices they develop and the ways of life they choose.
◆9つのトランス=パヴィリオン
1. アーティストと本のパヴィリオン(The Pavilion of Artists and Books)
2. 歓喜と恐怖のパヴィリオン(The Pavilion of Joys and Fears)
3. 公共のパヴィリオン(The Pavilion of the Common)
4. 大地のパヴィリオン(The Pavilion of the Earth)
5. 伝統のパヴィリオン(The Pavilion of Traditions)
6. 霊媒師のパヴィリオン(The Pavilion of the Shamans)
7. ディオニソス的なパヴィリオン(The Dionysian Pavilion)
8. 色彩のパヴィリオン(The Pavilion of Colours)
9. 時間と無限のパヴィリオン(The Pavilion of Time and Infinity)
1-1. アーティストと本のパヴィリオン 〈スライド〉
1. レイモン・アンス(1926-2005, フランス)
Valises documentaires, miscalleneous documents in metallic suitcases. Archives of the artist.
Photo by Thomas Hains2. キャサリン・ヌニェス&イサイ・ロドリゲス(1992- /1991- フィリピン, マリキナ在住)
In Between the Lines, 2016, installation view
Photo : Marika Constantino
1-2. 歓喜と恐怖のパヴィリオン 〈スライド1〉〈スライド2〉
3. ティボル・ハヤシュ(1946-1980, ハンガリー)
Felületkízás (érzékek) (detail), 1978, black and white photograhs on cardboard, collection of the Hungarian National Gallery, Budapest, courtesy anna Kis Kovacs, Budapest4. マルワン(1934, シリア-2016, ドイツ)
Untitled, 1973-1976, oil on canvas, collection of the artist
Photo: Gerhard Milting5. フィレンツェ・ライ(1984- 香港在住)
Autism, 2013, oil on canvas, 150 x 115 cm, private collection
Photo: courtesy of the artist6. レイチェル・ローズ(1986- ニューヨーク在住)
(still), Lake Valley, 2016. HD Video, 8:25 min.
Courtesy of the artist, Pilar Corrias Gallery, London and Gavin Brown's Enterprise, New York/Rome
1-3. 公共のパヴィリオン 〈スライド〉
7. アンナ・ハルプリン(1920- アメリカ、ケントフィールド在住)
Planetary Dance, 2013
Photo © www.earthalive.com8. マルコス・アビラ・フォレロ(1983- フランス生まれ, パリ, ボゴタ在住)
Atrato, 2014, vidéo HD, 16/9, coulor, sound, 13’52’’. Courtesy of the artist and of the Gallerie Dohyang Lee
© Marcos Avila Forero
1-4. 大地のパヴィリオン 〈スライド〉
9. カナンギナク・ポートーゴーク(1951-2010 カナダ)
He thinks he has run out of gas, but his engine is shot....Kinggait Nunavut, 2009, ink and coloured pencil on paper, 56 x 76 cm, Private collection, Burlington, Ontario.
All rights reserved10. THE PLAY
IE Picnic: THE PLAY HAVE A HOUSE, 1972.8.5-10 from Kyoto to Osaka, Japan.
Photo Yuzo Otuka.
1-5. 伝統のパヴィリオン 〈スライド〉
11. フランシス・アップリチャード(1976- ニュージーランド生まれ, ロンドン在住)
A Beat, 2013, modelling material, fabric, steel and wire armature, human hair and paint, 107 x 68 x 46 cm
Photo courtesy: Anton Kern Gallery, New York by Thomas Müller12. イ・スギョン(1963- ソウル在住)
Translated Vase (detail), 2016, ceramic shards, epoxy, 24K gold leaf, 175x125x110cm, courtesy of the artist
Photo: Kwack Gongshin
1-6. 霊媒師のパヴィリオン 〈スライド〉
13. ユネス・ラムーン(1975- モロッコ, テトゥアン在住)
Taqiya-Nor, 2016, bonnets, résine, metal structure, light bulbs, electric cables and electricity, variable dimensions . Courtesy of the artist and Galerie Imane Farès
Photo : Younès Rahmoun14. ジェリリ・アティク(1968- ナイジェリア, ラゴス在住)
Alaagba, performance with Anne Letailleur at Richardplatz, Berlin, Germany, Saturday May 24 2014
photo by Chiara Cartuccia.
1-7. ディオニソス的なパヴィリオン 〈スライド〉
15. ユゲット・カランド(1931- レバノン生まれ, ロサンゼルス在住)
Self Portrait, 1971, ink on paper, 35,1 x 25,1 cm
Courtesy of the Caland family16. アイリーン・クインラン(1972- ニューヨーク在住)
Broken Figure, 2014, Silver gelatin print, 30 x 24 inches (76.2 x 61 cm), Edition AP1 of 3 + 2 APs
Courtesy of the artist; Campoli Presti, London / Paris and Miguel Abreu Gallery, New York
1-8. 色彩のパヴィリオン 〈スライド〉
17. ダン・ミラー(1961- アメリカ, オークランド在住)
Untitled, 2016, acrylic and ink on paper, 132 x 216 cm, 2016
© Creative Growth Art Center / Courtesy of Creative Growth Art Center18. ジョルジョ・グリッファ(1936- イタリア, トリノ在住)
Canone aureo 868, 2016, acrylic on canvas
Photo: Giulio Caresio, Courtesy of teh artist, Casey Kaplan Gallery - New York, Galleria Lorcan O'Neil - Rom
1-9. 時間と無限のパヴィリオン 〈スライド〉
19. エディス・デキント(1960- ベルギー生まれ, ベルリン在住)
One and Thousand Nights, 2016, installation view, Wiels, Brussels. Courtesy of the artist and Greta Meert Gallery, Brussels; Carl Freedman Gallery, London; Karin Guenther Gallery, Hamburg; Konrad Fischer Gallery, Berlin
Photo: Sven Laurent20. ヴァディム・フィシュキン(1965- ロシア生まれ,スロベニア, リュブリャナ在住)
Doorway, 2015, synchronised projections, dimensions variable
Courtesy of the artist and Galerija Gregor Podnar, Berlin
Photo : courtesy of the artist
・国際企画展部門の会場はジャルディーニとアルセナーレ 〈スライド〉
◆国際企画展部門
毎回異なるキュレーターが抜擢され、独自のコンセプトのもとで作家や作品を選定して構成される(1999年から始まる)◆国別参加部門
各国の代表作家による展示。ジャルディーニに展示館を持つ国が約30、アルセナーレの会場を長期で借りている国が約20、市内の教会などを一時的に借りて展示を行う国が約30ある(第57回展では85か国が参加)◆並行展部門
ビエンナーレ事務局から認定された参加企画展
2−1. 国際企画展部門の歴史(1999 / 2001年)
・ハラルド・ゼーマン(1933-2005)
◆人類の舞台(Platea dell’Umanita) 〈スライド〉
・私はつねに「プラトー・デア・メンシュハイト(人類のプラトー)」はテーマではなく、次元(ディメンション)だと主張してきた。
・「全解放」のあとの「プラトー」。この概念は多くの概念を内包している。それは大地であり、基礎であり、土台であり、プラットフォームである。ビエンナーレは人類の鏡であり、またプラットフォームなのだ。
2−2. 第50回国際美術展(2003年) 〈スライド〉
テーマ:夢と衝突(Dreams and Confricts)
総合監督:フランチェスコ・ボナーミ・ジャルディーニ入口「夢と衝突―観客の専制」
・ジャルディーニ
21. イザ・ゲンツケン《伸びたいように伸びる毛髪のためのプロジェクト》+サム・デュラン《似て、人に、飽きた(待つことに)》
22. サンディ・ヒラル&アレサンドロ・ペティ(パレスチナ)《国籍なき国家》
23. リヴァーニ・ノイエンシュヴァンダー(ブラジル)《球 2003》(1), (2)
・複数のキュレーターによる展覧会の集合体
24. 土屋信子(1972- )《テーブル・ラビット》
25. 高嶺格(1968- )《ゴッド・ブレス・アメリカ》 2002年
26. アトリエ・ワン(1992- )《ペット・アーキテクチャー・ガイドブック/美術館》
27. キュピキュピ(1996- )題不詳
28. オノ・ヨーコ(1933- )《イマジン・ピース》 2003年
29. オノ・ヨーコ《メンド・ピース》 1966/2003年
30. オノ・ヨーコ《イマジナリー・マップ・ピース》 1960/61/2003年
2−3. 第51回国際美術展(2005年) 〈スライド〉
テーマ:アートの経験(The Experience of Art)/いつも少しだけ先へ(Always a Little Further)
総合監督:マリア・デ・コラール/ローザ・マルティネス・ジャルディーニ入口:「アートの経験」
31. イタリア館:バーバラ・クルーガー(USA)《無題(ファサード)》
32. アルセナーレ:「いつも少しだけ先へ」/ジョアナ・ヴァスコンセロス(ポルトガル)《花嫁》(1), (2)
33. ゲリラ・ガールズ(USA)《メトロポリタン美術館に入るのに女は裸にならねばならないか?》
34. ゲリラ・ガールズ《ヴェネツィアの女性美術家はどこ?―男たちの支配下に》
35. 森万里子(1967- )《ウェーヴUFO》
2−4. 第52回国際美術展(2007年) 〈スライド〉
テーマ:感覚で考え、心で感じる―現在形の美術(Think with the Senses, Feel with the Mind, Art in the Present Tense)
総合監督:ロバート・ストー(元ニューヨーク近代美術館館長)・ジャルディーニ入口
36. イタリア館:ローレンス・ウェイナー(USA)展示風景
37. ジグマール・ポルケ(ドイツ)展示風景
38. アデル・アブデスメッド(アルジェリア)《出口》1996/2007年
39. 加藤泉(1969- )《無題》
40. 束芋(1975- )《ドールフルハウス》
41. レオン・フェラーリ(アルゼンチン)《西洋キリスト教文明》 1965年
42. 米田知子(1965- )展示風景
43. 藤本由紀夫(1950- )展示風景
2−5. 第53回国際美術展(2009年) 〈スライド〉
テーマ:世界を構築する(Fare Mondi // Making Worlds // Bantin Duniyan // Weltenmachen // Construire des Mondes …図録見返しに46通りで表記)
総合監督:ダニエル・バーンバウム(フランクフルト・シュテーデル美術大学学長、ポルティクス ディレクター)・ジャルディーニ入口
・ジャルディーニ
44. ジョン・バルデッサリ(USA)《海と空(2本のヤシの木を伴った)》(1), (2)
45. トマス・サラセーノ(アルゼンチン)《蜘蛛の巣をつたって集まる水滴のように、細い糸に沿って形成される銀河》
46. 具体美術協会(1954-72) 展示風景
47. 白髪一雄(1924-2008)《地雄星井木犴》 1961年
48. オノ・ヨーコ 展示風景
49. オノ・ヨーコ《釘を打つ絵画》
2−6. 第54回国際美術展(2011年) 〈スライド〉
テーマ:照明/国家群(ILLMInations)
総合監督:ビーチェ・クリーガー(チューリッヒ市立美術館のキュレーター、美術雑誌『パーケット(Parkett)』創設者)
◆ILLUMInations
・美術の特性の一つ――唯一かけがえのないものであることと明るく照らし出す経験――を表現
・異なる文化の地平からやって来て、異なる基準の下で活動している美術家たちのさまざま作品同士の間に、まったく思いもよらなかったいくつもの出会いを生み出すことを目指した
・予想外の選択であろうが、現代美術展の文脈にティントレットの作品を挿入した50. ジョシュ・スミス(USA)《照明/国家群》
51. マウリツィオ・カテラン(イタリア)《他者たち》
52. セス・プライス(イスラエル)展示風景
53. ティントレット 《最後の晩餐》、1591-94年、油彩・カンヴァス、366×570 cm、ヴェネツィア、サン・ジョルジョ・マッジョーレ教会
54. ウルス・フィッシャー(スイス)《無題》
55. クリスチャン・マークレイ(USA)《時計》
2−7.第55回国際美術展(2013年) 〈スライド〉
テーマ:百科事典的な宮殿(Il Palazzo Enciclopedico)
総合監督:マッシミリアーノ・ジオーニ「想像力の飛翔」
「現代美術、歴史的な事物、人類学的な資料」
「知識を視覚化する試み」
◆百科事典的な宮殿
・イタリアに生まれてアメリカで活躍した美術家マリノ・アウリーティ(Marino Auriti, 1891-1980)が1955年にアメリカの特許局のためにデザイン
・700メートル136階建て、16ブロックを占め、車輪から人工衛星まであらゆる世俗の知識を集積
・すべての知識を一堂に集めるというアウリティの野心的なアイデアは、さまざまな時代の美術家や作家、科学者たちに通じるものであり、ビエンナーレもまた、無限の広がりを持つ現代美術の世界を一箇所に集約しようという不可能な欲望に基づいている(マッシミリアーノ・ジオーニ)・中央館 外観
56. カール・グスタフ・ユング(スイス, 1875-1961)《赤の書》 1914-30年
57. ルドルフ・シュタイナー(旧オーストリア=現クロアチア, 1861-1925) 展示風景
58. 吉行耕平(1946- )「公園」シリーズ(1), (2) 1971-79
59. 大竹伸朗(1955- )展示風景
60. 大竹伸朗《スクラップブック》(1), (2), (3)
61. マリノ・アウリーティ(イタリア, 1891-1980)《世界の百科事典的な宮殿》 1955年
62. 澤田真一(1982- )展示風景
63. 澤田真一《無題》
2−8. 第56回国際美術展(2015年) 〈スライド〉
テーマ:世界のさまざまな未来のすべて(All the World’s Futures)
キュレーター:オクウィ・エンウェゾー(Okwui Enwezor)64. グレン・リゴン(USA)《小さなバンド》
65. イザ・ゲンツケン(ドイツ)《2本の蘭》
66. アイザック・ジュリアン(イギリス)《資本論・聖譚曲》
67. 石田徹也(1973-2005)展示風景
68. 石田徹也《トヨタ・イプサム》 1996年
69. 石田徹也《回収》 1998年
70. 石田徹也《めばえ》 1998年
71. 石田徹也《起床》 1999年
72. 石田徹也《兵士》 1996年
73. 石田徹也《くらげの夢》 1997年
74. ジェイソン・モラン(USA)《舞台用:3つのデュース》
75. レミ・ポニファシオ(サモア)《ラジモアナ》
◆キュレーターとテーマ、来場者数の推移
1999年 第48回 ハラルド・ゼーマン「全開放」=23万人
2001年 第49回 ハラルド・ゼーマン「人類のプラトー」=24万人
2003年 第50回 フランチェスコ・ボナーミ「夢と衝突」=26万人
2005年 第51回 マリア・デ・コラール「アートの経験」/ローザ・マルティネス「いつも少しだけ先へ」=26.5万人
2007年 第52回 ロバート・ストー「感覚で考え、心で感じる―現在形の美術」=31.9万人
2009年 第53回 ダニエル・バーンバウム「世界を構築する」=??万人
2011年 第54回 ビーチェ・クリーガー「照明/国家群」=44万人
2013年 第55回 マシミリアーノ・ジオーニ「百科事典的な宮殿」=47.2万人
2015年 第56回 オクウィ・エンウェゾー「世界のさまざまな未来のすべて」=50万人
3.まとめ
・日本人作家の作品と各回テーマとの相関
―ゆるやかな連関(女性作家、アウトサイダーなど)
―招待作家に含まれない場合も(2011年 ILLUMInations)
―台頭する若手作家の同時代的な紹介から、埋もれていた物故作家・中堅作家の紹介へ
・アーティスト本位
―紛争と衝撃にあふれた世界でアートは人間性の最後の砦
―現代社会をめぐる議論においてアーティストの発言の重要性が増している
―アーティストとして生きることの選択それ自体が社会から距離を置くこと