<第十一講>ヨコハマトリエンナーレ2017+総括


1.ヨコハマトリエンナーレ2017

ヨコハマトリエンナーレ2017(第6回展) 〈スライド

会期:2017年8月4日〜11月5日(88日間)

会場:横浜美術館、横浜赤レンガ倉庫1号館、横浜市開港記念会館 地下 ほか

参加作家:38組+1プロジェクト

ディレクターズ:逢坂恵理子、三木あき子、柏木智雄

構想会議メンバー:スハーニャ・ラフェル、スプツニ子!、高階秀爾、リクリット・ティラヴァーニャ、鷲田清一、養老孟司

・主会場の横浜美術館から、横浜市開港記念会館まで直線距離で約1.8km 〈スライド

1. アイ・ウェイウェイ(艾未未)《Reframe》、2016
2. パオラ・ピヴィ《I and I(芸術のために立ち上がらねば)、2014
3. ミスター《まるで胸に穴が開いたような、僕の知っている街、東京の夕暮》、2016
4. クリスチャン・ヤンコフスキー《重量級の歴史》、2013
5. ブルームバーグ&チャナリン《フロイトの長椅子の残存繊維を石英楔型検板を用いて暗殺した際の干渉縞》、2015
6. ザオ・ザオ(赵赵)《プロジェクト・タクラマカン》、2016(イメージ)
7. Don't Follow the Wind


島と星座とガラパゴス:コンセプト

 1.「接続性」と「孤立」から世界を考える(三木あき子)

“世界は今、従来の枠組みを超えて様々なネットワークが拡大する一方で、紛争や難民・移民の問題、保護主義や排外主義、ポピュリズムの台頭といった課題に直面し、大きく揺れています。”“ネット上の小さなコミュニティやグループの中だけに身を置くような世界観の島宇宙化”“異なる星や島が緩やかに繋がり星座や多島海を形成するように、作品世界が連なっていくイメージ”

 2.分断され孤立しているものを対話と思考と想像力でつなげ、新しい可能性を切り開く(逢坂恵理子)

“他者を知り、対話を重ねそして立ち止まって考えることの重要性”“9 月に横浜で開催予定のIBA* 総会”

*IBA=International Biennale Association(国際ビエンナーレ協会)

 3.「開港」の地・横浜からの発信(柏木智雄)

“…横浜村は、1859年に開港場の一つとなり、…(中略)…ガラパゴス的な「孤立」から「接続」する場へと劇的な変貌を遂げ、日本の近代化を牽引する街の一つとして発展を遂げました。”


2. 横浜/ヨコハマトリエンナーレの歴史

 ◆日本における国際美術展について(1997年(平成9)5月23日)

1.はじめに
 →相互理解、顔の見えない国、文化面での国際貢献
2.21世紀のキーワードは文化
 →文化的プレゼンスの構築、国際戦略
3.美術オリンピックとしての国際展
 →経済力に見合うだけの文化的責任
4.市民との相互交流の場
 →国民の国際化への意識向上
5.日本における国際美術展
 →横浜市が候補地として有力


 ◆第1回 メガ・ウェイブ―新たな総合に向けて 〈スライド1〉, 〈2

2001年9月2日−11月11日(67日間開場)
ディレクター:河本信治、建畠 晢、中村信夫、南條史生
主会場:パシフィコ横浜展示ホール、横浜赤レンガ倉庫1号館
参加作家数:109作家
作品数:113件
総事業費:約7億円
総入場者数(有料会場入場者数):約35万人(約35万人)
チケット販売枚数:約17万枚
ボランティア登録者数:719人


 ◆第2回 アートサーカス [日常からの跳躍] 〈スライド

2005年9月28日−12月18日(82日間開場)
総合ディレクター:川俣正
キュレーター:天野太郎、芹沢高志、山野真悟
主会場:山下ふ頭3・4号上屋
参加作家数:86作家
作品数:84件
総事業費:約9億円
総入場者数(有料会場入場者数):約19万人(約16万人)
チケット販売枚数:約12万枚
ボランティア登録者数:1,222人

7. ビュラン・サーカス・エトカン(フランス)公演風景
8. KOSUGE1+16+アトリエ・ワン+ヨココム《アスレチッククラブ4号プロジェクト》 2005年


 ◆第3回 TIME CREVASSE ―タイムクレヴァス― 〈スライド

2008年9月13日−11月30日(79日間開場)
総合ディレクター:水沢勉
キュレーター:ダニエル・バーンバウム、フー・ファン、三宅暁子、ハンス・ウルリッヒ・オブリスト、ベアトリクス・ルフ
主会場:新港ピア(新港ふ頭展示施設)、日本郵船海岸通倉庫(BankART Studio NYK)、横浜赤レンガ倉庫1号館、三渓園、他無料3会場
参加作家数:72作家
作品数:66件
総事業費:約9億円
総入場者数(有料会場入場者数):約55万人(約31万人)
チケット販売枚数:約9万枚
ボランティア登録者数:1,510人

9. マイケル・エルムグリーン&インガー・ドラッグセット《落っこちたら受けとめて》
10. ヘルマン・ニッチュ(オーストリア, 1938- )《アクション1962-2003》1962-2003年


第4回 OUR MAGIC HOUR―世界はどこまで知ることができるか?― 〈スライド

2011年8月6日−11月6日(83日間開場)
総合ディレクター:逢坂恵理子
アーティスティック・ディレクター:三木あき子
主会場:横浜美術館、日本郵船海岸通倉庫(BankART Studio NYK)
参加作家数:77組(79作家)/1コレクション
作品数:337件
総事業費:約9億円
総入場者数(有料会場入場者数):約33万人(約30万人)
チケット販売枚数:約17万枚
サポーター登録者数:940人

11. 砂澤ビッキ《午前3時の玩具》 1987年
12. 岩崎貴宏《アウト・オブ・ディスオーダー(コスモワールド)


第5回 華氏451の芸術:世界の中心には忘却の海がある 〈スライド

2014年8月1日−11月3日(89日間開場)
アーティスティック・ディレクター:森村泰昌
主会場:横浜美術館、新港ピア(新港ふ頭展示施設)
参加作家数:65組(79作家)
作品数:444件
総事業費:約10億円
総入場者数(有料会場入場者数):約21万人(約21万人)
チケット販売枚数:約10万枚
サポーター登録者数:1631人

13. マイケル・ランディ(イギリス, 1963- )《アート・ビン》 2010年
14. 釜ヶ崎芸術大学


講師による各回テーマの解釈

2001=メガ・ウェイヴ−新たな総合に向けて
→国際美術展の開催によって、日本から世界に向けて美術の大きな波を起こそう(=日本は美術大国だ)
2005=アート・サーカス[日常からの跳躍]
→現代美術展はサーカスのようなもの。非日常的な体験をしてみませんか?(=千客万来)
2008=タイム・クレヴァス
→非日常的体験とはサーカスというより、日常の「深淵」をのぞき込むこと(=知的レヴェルの高さを世界に印象づけなければ、一流の美術家を海外から呼び続けられない)
2011=アワー・マジック・アワー−世界はどこまで知ることができるか?
 →「不思議」をキーワードに、レヴェルを保ちつつ、地元市民のもの(私たちのもの)へ 
2014=華氏451の芸術−世界の中心には忘却の海がある
→企画コンセプトはやはり「芸術とは何か」が問われるべき。芸術を通して、世界や人類の歴史について思いをめぐらそう


来場者アンケート

 横浜トリエンナーレ全般に対する期待

・ヨコハマトリエンナーレ2014では、アジ美との連携をはじめ、地方国際展との連携はとても良いと思いました。横浜では日本の代表的な看板トリエンナーレとして世界に注目されているし、続けてほしいと思います。

・なぜ、横浜でトリエンナーレをやらなければならないのかをはっきりと提示した方が良い。一般社会の大企業と中小企業の構図と同じ。大企業の東京の役割をそのまま横浜が背負わされている印象。

国際シンポジウム(発言の抜粋)

池田 横浜は、誤解を恐れずに言うと150年前、今の沖縄みたいな形で日本国家が推進して作ったところです。…(中略)…その流れに確実にこの横浜トリエンナーレは乗っているのです。
問われるのは、「国際展としてのリーダーシップ」、「街づくりのイニシアチブ、あるいはメタフォリカルな存在」という、二つのテーマを抱えることになります。だから僕らはこの二つは、確実に避けられないミッションであろうというふうに考えているのです。

山野 一つ感じるのは、いわゆる「出来合いのもの」と言いますか、「既にもう作られたものを持ってきて、展覧会をやる」というパターンにどんどん近づいてきているかなというのがあり、新しいものを見る機会とはなっていません。横浜としての特性というものが何も出ないまま、いろいろな所の国際展で面白かったものを「ではその作品を借りてこよう」みたいなもので、それのつまみ食いになってしまっているかも知れないと。ある意味非常に、「それはどこでやってもいいんじゃない」というものにどんどん近づいていっていると言うか、それが少し気になるとは思っています。

ゴンザレス=ロレンテ どの国際展も目指すところは同じで、最先端のものをそれぞれの地域の美術におけるさまざまな現象に役立てることなのです


世界のビエンナーレ・トップ20

1位 ヴェネツィア・ビエンナーレ
2位 ドクメンタ
3位 ホイットニー・バイエニアル
4位 マニフェスタ―ヨーロッパ現代美術ビエンナーレ
5位 光州ビエンナーレ
6位 カーネギー・インターナショナル
7位 サンパウロ・ビエンナーレ
8位 シャルジャ・ビエンナーレ
9位 イスタンブール・ビエンナーレ
10位 リヨン・ビエンナーレ
11位 ハバナ・ビエンナーレ
12位 ベルリン・ビエンナーレ
13位 シドニー・ビエンナーレ
14位 ダッカールト―アフリカ現代美術ビエンナーレ
15位 リヴァプール・ビエンナーレ
16位 上海ビエンナーレ
17位 ヨコハマトリエンナーレ
18位 マラケシュ・ビエンナーレ
19位 台北ビエンナーレ
20位 プロスペクト―ニューオーリンズ

Source: http://news.artnet.com/art-world/worlds-top-20-biennials-triennials-and-miscellennials-18811(2015/1/26)


3.総括

国際美術展の「当たり年」 〈スライド

グランド・ツアー2017
ドクメンタ14(アテネ 4/8〜7/16)
ヴェネツィア・ビエンナーレ第57回国際美術展(5/13〜11/26)
ドクメンタ14(カッセル 6/10〜9/17)
ミュンスター彫刻プロジェクト2017(第5回)(6/10〜10/1)
アート・バーゼル(6/15〜18)

・北アルプス国際芸術祭2017(6/4〜7/30)
・ヨコハマトリエンナーレ2017(8/4〜11/5)
・札幌国際芸術祭2017(8/6〜10/1)
・第27回UBEビエンナーレ(10/1〜11/26)

 ・ビエンナーレの増加現象を基点にグローバル化する現代社会について考察する 〈スライド


4.まとめ

 ・期待されている役割

―日本の代表的な看板トリエンナーレ
―国家事業を地方自治体で
―世界に200近くある国際美術展の中でのリーダーシップ
―IBA総会の併催

 ・グローバル化する現代社会

―各地で国際芸術祭が開催されるようになり、世界のアートが身近になった
―大型国際美術展の開催によって、現代アートに触れる観客が増加した
―日本も含めて、グローバル化する現代社会で「共有できる問題」とそれに対する取り組み・解決策を学ぶ場