<第十講>光州ビエンナーレ2018
1. 展覧会の概要
◆山口→釜山→光州 スライド
光州=東経127度(東京=139度/山口=131度)
時差:なし
博多-釜山間:3時間5分(BEETLE利用)
釜山-光州間:約3時間半(高速バス利用)
人口:150万人(光州)
通貨:1ウォン≒0.106円
光州・釜山調査:9/17(月・祝)-23(日)
6泊7日(うち、光州は9/17-20)
◆光州ビエンナーレ2018概要 スライド
周期展
会期: 9月7日~11月11日(66日間)
会場:光州ビエンナーレ展示館(仲外公園)、アジア文化センター(ACC)、旧国軍病院、ムガクサ(無覚寺)、シミンフェガン(光州市民会館)、リー・カンハ美術館
テーマ:想像の境界線/Imagined Borders
参加作家数:163作家(43カ国)
キュレーター:クララ・キム, クリッティヤー・カーウィーウォン, リタ・ゴンザレス, クリスティン・キム, ヨン・シム・チョン, イーワン・クーン,
マンソク・キム, ソンウ・キム, ジョンオク・ペク, ムン・ボム・ガン, デイヴィッド・テ(11人)
◆周期展について
・ビエンナーレ(biennale
2年毎)、トリエンナーレ(triennale
3年毎)など定期的に開催される展覧会を総称する「recurrent
exhibition」の訳語
・1895年に開始されたヴェネツィア市国際美術展(1928-30年頃ビエンナーレに改称)を先例とし、英語圏でもイタリア語の「biennale」を使用する例がある(Biennale
of Sydneyなど)
・日本でもイタリア語、フランス語からカタカナ語化して1950年代に定着したが、近年では英語をもとにアニュアル(annual
1年に1回)、バイエニアル(biennial 2年毎)、トライエニアル(triennial
3年毎)などの言い方も広まっている
・現代美術の先端的な表現(cutting
edge)を紹介する展覧会
◆展覧会の章立て スライド
1. 想像の国家/近代のユートピア(クララ・キム)
2. 幻の境界と向き合う(クリッティヤー・カーウィーウォン)
3. 行き止まり―ポスト・インターネット時代における参加の政治学(リタ・ゴンザレス, クリスティン・キム)
4. 帰還(デイヴィッド・テ)
5. 断層線(ヨン・シム・チョン, イーワン・クーン)
6. サバイバルの技術:集会, 持続性, シフト(ジョンオク・ペク, ソンウ・キム, マンソク・キム)
7. 北朝鮮の美術:矛盾を孕んだリアリズム(ムン・ボム・ガン)
・GB コミッション
・パヴィリオン・プロジェクト
―ヘルシンキ・インターナショナル・アーティスト・プログラム
―パレ・ド・トーキョー
―フィリピン・コンテンポラリー・アート・ネットワーク
2. 「5. 18 光州事件」とGB コミッション
◆5. 18 光州事件を題材とした韓国映画 スライド
・「光州5.18」(2007年製作) 主演:イ・ヨウォン、イ・ジュンギ、キム・サンギョン、アン・ソンギ 原題:『화려한휴가』〈華麗なる休暇〉=軍の非公式な作戦名
・「タクシー運転手」(2017年製作) 主演:ソン・ガンホ, トーマス・クレッチマン http://klockworx-asia.com/taxi-driver/
◆光州事件(1980年)
・光州市で1980年5月18日から27日にかけて起こった、活動家、市民、学生らによる民主化運動と韓国軍の衝突
5月17日、非常戒厳を全国に拡大。国会などの政府機関、大学、各種言論出版社、放送局などに戒厳軍を駐屯させる。大学に休校令を下し、政治活動の中止を公布して屋内外の集会やデモの禁止、出版、報道及び放送の事前検閲などを発令。ソウル、釜山、大邱、光州などの大都市に軍隊を投入し、民主化運動の勢力を制圧
5月18日、戒厳軍が全南大正門前で学生らの出入りを制止。学生の抗議に暴力で応じ、仲裁に入った市民にも暴力を振るった。大学生らが市内に集まって「非常戒厳の解除」と「全斗煥の退陣」を求めて座り込みを開始。これに対しても戒厳軍は暴力を加え、市内各地で戒厳軍と市民との対立が深まった
5月19日、戒厳軍は装甲車とヘリコプターを動員。光州駅前で発砲し、高校生キム・ヨンチャンが重症を負ったほか、前日戒厳軍に激しく殴打されていたキム・ギョンチョルも19日に死亡。市民は、深夜までにバス、貨物車、タクシーなど200台以上の車両で構成されたデモ隊を組織し、錦南路を占拠
5月20日、戒厳軍は光州と外部をつなぐ電話を遮断、光州市民を孤立させた。市民らは武装して市民軍となり、戒厳軍が駐屯していた全南道庁を掌握。21日から26日までの7日間、全南道庁を占拠し市民集会を行った
5月27日、戒厳軍の特攻隊が投入され、1時間余りの交戦で市民軍を制圧。多数の死者が出たが、正確な数は現在も不明
◆韓国現代史
1953年7月、朝鮮戦争休戦協定締結
1961年5月、朴正煕(パク・チョンヒ)クーデターで政権を奪取。1963年より第5代大統領就任(~79年、第9代大統領)
1979年10月、朴正煕が側近の金載圭(キム・ジェギュ)によって射殺され、全斗煥(チャン・ドゥホアン)将軍が実験掌握。金大中ら野党政治家を逮捕または軟禁。非常戒厳令を全国に拡大
1980年5月、光州事件
1980年9月、全斗煥、第11代大統領(1980~88年、 ~第12代大統領)就任
1987年6月、大統領候補盧泰愚(ノ・テウ)による民主化宣言
1988年2月、盧泰愚、第13代大統領に就任
1988年9月、ソウル・オリンピック開催
1991年9月、南北朝鮮、国連に同時加盟
1993年2月、金泳三(キム・ヨンサム)、第14代大統領に就任
1995年6月、ヴェネツィア・ビエンナーレ会場に韓国館開館
1995年9月、光州ビエンナーレ開始
1998年2月、金大中、第15代大統領に就任
2002年5月、日韓ワールドカップ開催
2003年2月、盧武鉉(ノ・ムヒョン)、第16代大統領に就任
2008年2月、李明博(イ・ミョンバク)、第17代大統領に就任
2011年5月、5.18民主化運動の記録物がユネスコ世界記録遺産に登録
2013年2月、朴槿恵(パク・クネ)、第18代大統領に就任
2017年5月、文在寅(ムン・ジェイン)、第19代大統領に就任
1. カデール・アティア(フランス, 1970- )《永遠の今》、2018年
2. マイク・ネルソン(イギリス, 1967- )《鏡の残響》、2018年
3. アピチャッポン・ウィーラセタクン(タイ, 1970- )、《星座》
4. アドリアン・ヴィジャール・ロハス(アルゼンチン, 1980- )《戦争における最も美しい瞬間》、2017年
/ 《星々の戦争》 、2018年
3. 第1回光州ビエンナーレ(1995年)の振り返り スライド
5. イ・ウンノ(韓国, 1904- )「群像」シリーズ ※第1回展で展示
6. カン・ヨンキュン(韓国, 1941- )が保管していた「祭杆」 ※1995年の光州統一芸術祭で使用
7. カチョー(キューバ, 1970- )《忘却のために》 第1回光州ビエンナーレ大賞
4. 現代アートを通して見る現代社会
8. 壷井明(1976- )「無主物」シリーズ
9. 壷井明「約45年後の告白―日本軍性奴隷制度被害者女性群像―」シリーズ
10. 下道基行(1978- )《境界のかけら》 スライド
11. 下道基行《14歳と世界と境》
12. 奈良美智(1959- )《飛生》
13. シルパ・グプタ(インド, 1976- )《継承の改変―100物語(ラスト・ネーム)》、2012-14年 スライド
14. フランシス・アリス(ベルギー, 1959- )《アニの静寂―トルコ-アルメニア国境》
15. フランシス・アリス《水の色、トルコ、トラブゾン―ヨルダン、アカバ》
16. フランシス・アリス《無題》
17. フランシス・アリス《無題(過去/未来)》
18. フランシス・アリス《拒絶/客体/主体》
19. ジュン・ヤン(中国, 1975- )+松根充和(1973-)《過去は別の国》 スライド
20. ティファニー・チュン(ベトナム, 1969- )《移動史の再構築―キャンプからの飛行ルートとODP制度》、2017年
21. ティファニー・チュン《水彩夢景絵巻―ジャッキーという名のチンピラ, 眠る人びと, 出国》
22. ホー・ルイ・アン(シンガポール, 1990- )《奇跡的でないアジア》 スライド
※2018年12月15日(土)、16日(日)「アジア・ザ・アンミラキュラス」レクチャー@YCAM
23. ハリル・アルティンデレ(トルコ, 1971- )《キョフテ航空》、2016年
24. ハリル・アルティンデレ《宇宙難民》、2016年
◆壷井明「日本軍性奴隷制度被害者女性群像―」シリーズより
インドネシア/エレン・コリー・ファン・デル・プルフ(1923年ハーグ生まれ)
1942年春、私は高校を卒業したばかりの19歳で、1944年1月のある日、収容所の若い女性が広場に集められ、日本軍の高官の前を歩くように命じられました。3日後、私を含む15人が選び出されてスマランのクラブに連行されました。病院や事務所やたばこ会社で働くと聞かされていたのに、そこは将校用の「慰安所」で、彼らに性的な満足を与えることを強制されました。2月に慰安所がオープンすると、たくさんの軍人たちがやってきました。私は性のことは何も知らず、恐ろしく抵抗もできず、ただ痛くないように、早く終わることだけを祈りました。それから浴室に駆け込み体を洗いました。自分の体中からすべての汚いものを流し出してしまいたいと思いました。普段は1日2、3人の将校らしい軍人が相手でしたが、日曜日は「兵隊の日」で、別な場所にある大きな建物に連れて行かれて、大勢の兵隊の餌食にされたのです。地獄のような日々でした。3か月経ち、私たちは突然解放されてコタパリス収容所に入れられました。1992年にジャン=ラフ=オハーンさんがオランダ人として初めて名乗り出ました。彼女はとても勇気があります。被害者はみんな名乗り出るべきだと思いました。私が名乗り出たのは、「戦争が起これば、女性や子どもがレイプされる」という事実を知ってほしい。そして「世の中を変えたい」と願ったからです。1994年には日本政府を訴えた裁判の原告になり、2度、日本の法廷に立ちあいました。年配の日本人男性に会うたびに、「この男が父を殺したかもしれない」と考えたものです。私は日本人の自己批判の欠如と無責任さに腹が立ったので、「女性のためのアジア平和国民基金」は受け取りませんでした。
◆女性のためのアジア平和国民基金
元「慰安婦」に対する補償、および女性の名誉と尊厳に関わる今日的問題の解決を目的として1995年7月に設立。2007年3月、すべての補償事業が終了したとして解散。
5. 北朝鮮の絵画 スライド
25. チュェ・ユソン《参詣の一休み》、2016年、112×192cm
26. ユン・コンほか6人合作《青年突撃隊》、2016年、212×524cm
27. ホン・ヨンチョル、ソ・グァンチョル、キム・ヒョクチョル、キム・イルギョン《平壌の闘い》、2016年、インク・ライスペーパー、206×407cm
6. まとめ
・周期展
―登竜門(=若手作家の発表機会)
―授賞制度による奨励と権威づけ
―選考基準や審査過程に対する批判
―公募展と企画展/グループ展と個展
・現代美術展の社会性
―街なか展示(普段、美術館を利用しない観客に向けた展示)
―アーティストの滞在制作に地域住民を巻き込む
―地域の課題と外部の視点(共通点と差違)
―教育普及(次世代の育成)