美学・美術史特殊講義二〇一八


期末試験問題概略告知

1.講義で紹介した展覧会について基礎的な知識を問う/○×問題/10問/各2点(20点)

2.企画展と巡回展について解説した文の空欄に適切な用語を選んで文章を完成させよ/穴埋め問題・選択肢あり/10問/各2点(20点)

3.ビエンナーレ、トリエンナーレなどの周期展について、指定される五つの用語を適切に用いて論述せよ/論述問題・用語指定/字数制限なし/20点

4.芸術家と社会との関わりについて、具体的な作家名を三人(・組)挙げて、それぞれを比較して論述せよ/論述問題・自由形式/字数制限なし/40点


成績評価方法

試験:100点満点×0.9(計90点)

授業への参加度をオピニオンシートへの記述等をもとに加算(10点程度)


美学・美術史特殊講義(後期)試験問題

実施日時 二〇一九年一月二十九日(火)
12時50分〜14時20分(90分)

 

(各二点、計二〇点)

一、次に示される(1)〜(10)の短文のうち、内容の正しいものに○印を、誤ったものに×印をそれぞれ解答用紙の各欄に記せ。

 (1)中原中也記念館で現在開催中の「文士の肖像―林忠彦写真展」は、山口県徳山町(現・周南市)生まれの林忠彦の生誕一〇〇年を記念する企画展である。

 (2)「メディアアートの輪廻転生」は、山口情報芸術センターの開館二五周年を記念して開催された。

 (3)広島市現代美術館は、丸木位里・俊の《原爆の図》第一〜三部の再制作ヴァージョンを所蔵している。同作品の原作は、埼玉県東松山市にある原爆の図丸木美術館に所蔵されている。

 (4)ブリューゲル作品にたびたび描かれている峻厳な山岳風景は、彼の生まれ故郷に特有の風景である。

 (5)フェルメールの真作は三三〜三七点とされており、近年の人気上昇に伴って全点を見て回る「フェルメール巡回」を試みる人も出てきた。

 (6)ムンクの作品は、ナチスによって「退廃芸術」と見なされ、一九三七年にはドイツ国内のムンク作品八二点が押収されるなどしている。

 (7)国際巡回展「アジアにめざめたら」展は、東京都現代美術館での開催後、韓国国立現代美術館、ナショナル・ギャラリー・シンガポールでも開催される。

 (8)UBEビエンナーレでは、毎回三〇〇点を超える応募作品の中から三〇点の入選作品を選出して、さらにその中から一〇点の実物制作指定作品を決定する。

 (9)光州ビエンナーレ二〇一八のGBコミッションは、ビエンナーレのための新作を依頼するプログラムで、光州事件と縁の深い旧国軍病院を会場に三人の作家がインスタレーション作品を発表したほか、アジア文化センターでは、韓国の非武装地帯周辺の村で撮影された映像作品が上映された。

 (10)シドニー・ビエンナーレ二〇一八は、芸術監督に森美術館のチーフキュレーターである片岡真実を抜擢したが、同展の芸術監督をアジア人のキュレーターが務めるのは、四五年にわたる同展史上初めてのことだった。

 

 

(各二点、計二〇点)

二、次の文を読み、空欄となっている( A )〜( J )に、のちに記されている(1)〜(30)のうち最も適当と思われる言葉を補い、文を完成せよ。解答用紙には、( A )〜( J )の各欄に該当する言葉を1〜30の番号で記すこと。

 美術館における企画展は、他の美術館や個人の所蔵者等より作品を借用し、一定期間のみ開催される展覧会を指す。日本の公立美術館の多くが、企画展を開催する展示室のほかに、その美術館独自の収蔵品を展示する( A )展示室を持っている。( A )展の観覧券は、企画展の観覧券とセットになっていることが多いが、通常、( A )展のみの観覧料は、企画展の観覧料より安く設定されている。その理由の一つとして、開催経費の違いが挙げられる。館外からの作品借用を伴う企画展の開催には、輸送費や保険料が必須となる。また、開催期間が限られていることから、広報のための( B
 )やチラシ、招待券等の印刷費も必要となる。そうした企画展開催に必要な経費のうち、共通する部分を複数の美術館で分担して一館あたりの負担を軽減する工夫が巡回展である。
 巡回展では、同程度の会場規模を持ち、適度に( C )が離れていることが、巡回会場に加わる条件となる。また、開催する展覧会について、担当可能な専門の学芸員が在籍するか否かも大きな要素と言える。すべての美術館があらゆる分野の学芸員を雇っている訳ではない。各美術館は、コレクションの特性に合った専門分野の学芸員を、運営母体となる( D )や企業、財団等の規模に見合った数だけ雇用している。限られた予算で多岐にわたるコレクションをカバーし、調査・研究、保存・活用するためにも、同じ分野を専門とする学芸員を複数採用している館は少ない。こうした現実に照らしても、専門を同じくする学芸員同士の横のつながりが大切となってくる。実際、企画展の準備にあたり、研究会を組織して出品作品を合同で調査したり、別々に調査した成果を持ち寄って報告会を行う場合もある。
 企画展は、こうした( E )の社会への還元であるとも言える。企画展の開催中に販売されている( F )もまた、( E )をまとめたものである。( F )のテキストの( G )は、展覧会の会場構成と一致させてある場合が多い。展覧会会場における( G )は、鑑賞者の作品理解に資するよう、時代やジャンル、テーマ毎に作品をグループ分けして展示する手法であるが、こうしたグループ分けによって類似点や相違点を( H )可能にすることが、普段はばらばらに所蔵されている作品を一堂に集めて展覧する意義なのである。実作品による( H )は、図版による( H )では詳しく検討することが難しい、サイズ感や色調、質感などを観察可能にする。
 こうしてさまざまな場所から集められた作品も、もともとはそれぞれの美術館で( A )展示室の壁を飾っていた作品である。貴重な名品が他館へと貸し出されるには、( I )の学術的意義と社会的意義とが、広い意味での( J )に適っている必要がある。( I )の学術的意義を判断する根拠は、企画展のテーマが企画展を開催する美術館のコレクションに沿ったものになっているかという点に求められる。なぜならば、本来、企画展は、開催館のコレクションをより深く理解するために開催されるべきものだからである。観覧料が安い( A )展示は、企画展示よりも軽視されがちである。話題性や時代性で大量に観客を集める展覧会にも人々の関心に応え、美術ファンを増やすという意味では意義が認められるが、( A )展示や美術館のコレクションの価値を深く理解する鑑賞者を育てることが、地域に根づいた美術館文化の育成にとって、堅実な道なのである。

(1)DM  (2)NPO法人  (3)案内  (4)官公庁  (5)関連グッズ  (6)企画趣旨  
(7)客層  (8)議論  (9)研究成果  (10)公益  (11)作品解説  (12)自治体  (13)実現  
(14)市民のニーズ  (15)借用依頼  (16)消去  (17)常設  (18)章立て  (19)所在地  
(20)資料  (21)専門性  (22)テレビCM  (23)展覧会図録  (24)特別  (25)比較  
(26)美術全集  (27)美術評論  (28)文化政策  (29)ポスター  (30)翻訳

 

 

 

(二〇点)

三、ビエンナーレ、トリエンナーレなどの周期展について、次の五つの単語を適切に用いて論述せよ。なお、各語の初出時には傍線を引くこと(字数制限なし)

グローバル化   一八九五年    カッティング・エッジ    地域の課題    街なか展示

 

 

 

(四〇点)

四、芸術家と社会との関わりについて、具体的な作家名を三人(・組)挙げて、それぞれを比較して論述せよ(字数制限なし)

 

 

 

評価基準は、秀=一〇〇〜九〇、優=八九〜八〇、良=七九〜七〇、可=六九〜六〇、不可=五九〜〇である。本試験の結果をもとに各自の出席数による調整点等を加算したものを評点とする。また、三、四の解答のうち優れたものは、試験問題を蓄積し、今期以後の学生の参考に供するため、ウェブ上で公開する予定である。


一、二の解答