オリヴィエ・ブランカール

Olivier BLANCKART


オリヴィエ・ブランカール98/8/27 ナディッフにて
photo: Satoshi Fujikawa

8月13日(木)

 午後3時、池袋西武2階セゾン美術館出口前のカフェで待ち合わせ。その後東武東上線で朝霞まで。そこからタクシーに乗って丸沼のアトリエへ。彼は9月中旬に6ヶ月の滞在期間を終了し、パリへ戻ると話していた。丸沼のアトリエはその辺り一帯の土地を所有する実業家の好意で借りているそうだ。同じ敷地内には村上隆のアトリエも。

 彼とは、今年5〜6月に前橋の北関東造形美術館で開催された「フィリップ・カザル<後退して前進>」展のオープニングで知り合った。「普通に考えると信じられない話だが、現在、作家は自ら積極的に動いて自分をプロモートせざるを得ない」と語る彼は、ちょうど一週間ほど前に私あてに電話を掛けてきて、この日の約束を取りつけた。

 彼が見せてくれた作品は、おおよそ3つのタイプに分かれていた。1つ目は写真によるセルフポートレート。あごの周りに無精ひげを生やし「ダイ・ハード3」のブルース・ウィルスになりきった写真だ。その風貌から、その日の彼はさらにひげを伸ばし、頭を丸めていた。これで現在、ワールドカップ、フランス代表チームのゴールキーパー、バルテズのなりきり写真を撮影中らしい。さらに彼はその撮影が終わると、今度はひげを剃って、「ナチュラル・ボーン・キラー」の主人公ミッキーを演じたウッディ・ハレルソンのなりきり写真を撮影し、「ナチュラル・ボーン・アーティスト」を決め込むのだ、と話してくれた。

 2つ目は、彼が「クワシ(quasi=擬)・オブジェ」と呼んでいる、段ボールやScotchのテープで作っているオブジェたち。マシンガンや斧を型どりし、段ボールで平べったく作ったり、ペットボトルやアルミ缶をScotchテープを貼り合わせて作る(本物と同じようにへこむ)。「ペットボトルの処分は環境問題のひとつ。モティーフとして現代性があっていいね」と関心を示したら、ひとつ記念にくれた(ブランカールさんアリガトウ)。

 3つ目は、やはりScotchテープを使っているが、歴史的事件の写真を実物大の群像で再現したもの。ほぼ完成した2つの作品があった。ひとつはサイゴンでのベトナム人の射殺シーン。もうひとつは、社会党委員長浅沼稲次郎の刺殺シーンだった。「写真を立体で表現しなおすことによって、よりリアリティが増す」のだ。「2つのシーンともそのシーンを見つめている第3の人物が写真の中に写り込んでいる」ことに、彼は注目している。そのほか、4冊のポートフォリオを見せてもらったが、いずれも彼の強烈な芸術観、信念に貫かれたもので好感が持てた。「もし自分が牢獄にいても制作はできる」とハナクソと陰毛で「精子」を作り、卵子に見立てたゆで卵の断面のまわりに集まっている様子を撮った写真は、ウィーンでオペラの背景に使われたそうだ。また、他の作家を糾弾するアグレッシヴな評論を寄稿したり、ルンペンの格好でギャラリーのレセプション・パーティーに訪れるなど、彼の活動の全体は一言では語れない。エイズや、ゲイ・レズビアンのための運動も行っている。

 終始エネルギッシュに語る彼が強調するのは、「あらゆる素材から作品を作ることができる。今ここ、から始めることができる。アーティストとしてものを作ることが基本だが、段ボールをもののシルエット通りに切り抜いただけのクワシ・オブジェは、ある種の原点。どんな時でも、最初の地点に戻ってまたスタートすることが大事だ。」と語っていた。


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