田中良法君の卒業論文のデータの一部が、国際ジャーナルであるReproduction, Fertility, and Developmentにアクセプトされました。
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卒論も良い戦略の元に、真面目に取り組めば、立派な成果が得られるという事の証明ですね。実際、この論文はエディターが非常に評価をしてくれています。
分娩は、母子ともに生命の存続がおびやかされ、死にいたる非常に危険性の高いことです。ヒトを含めて、多くの動物がこれまで難産のために、子供、母親、また両方が命を落としてきました。もし無事に生まれたとしても、難産によって子供に重い障害が一生残ることもあります。また母体にも悪影響が残り、分娩後の回復、いわゆる、”産後のひだち”が悪く、健康に悪影響を与えます。壷井栄の不朽の名作、二十四の瞳では、貧乏な家庭のマツエの母親が産後のひだちが悪く死んでしまい、生まれた子も死んでしまいました。
しかし、どのようなメカニズムで難産が起きるかには、いまだ不明点が多いです。さらには難産を研究するための良いモデル動物もいないのが現状です。
私達は、雌ラットが妊娠を開始し、妊娠後半に至ったときに、エネルギーや蛋白の摂取量が少ないと、最初の子ラットの娩出から最後の子ラットの娩出までの時間が延長する、つまり難産になることを発見しました。雄との交配を第0日に実施し、妊娠期中盤である第11日になったときにエネルギーや蛋白などの栄養価の低い飼料から高い飼料へ早期に切り替えたグループ(早期改善群)と、第16日に栄養価の低い飼料から高い飼料へ早期に切り替えたグループ(遅延改善群)と、分娩まで栄養価の低い飼料を与え続けたグループ(無改善群)を設定しました。分娩日に、最初の子ラットの娩出から最後の子ラットの娩出までの時間はビデオ撮影で行いました。
その結果、早期改善群は分娩時間が46.9 ± 5.6分と短かったのに比べ、遅延改善群は分娩時間が55.4 ± 5.5分と延長し(P<0.05)、無改善群は分娩時間が73.7
± 5.分とさらに延長しました(P<0.01)。無改善群の分娩時間は、早期改善群の分娩時間よりも、50%も延長していることになりますので、母子共に危険にさらされたことになります。
分娩日のビデオ撮影以外の手法は、ただひたすらに、毎日エサを与え、翌日に食べのこしたエサの量の重さをはかり、摂取したエネルギーや蛋白の量を計算するという、方法としては極めて単純なものです。手間がかかるけれども、動物のことは動物から学びましょう、という私達の基本スタイルに基づく研究です。
この論文は、ラットを用いた実験ですが、途上国などで今なお問題になる栄養不足による難産を 解決するための良いモデル動物が開発できたという事になります。
英語アブストラクトは次の通りです。
Providing a diet containing only maintenance levels of energy and protein during the latter stages of pregnancy resulted in a prolonged delivery time during parturition in rats.
Y. Tanaka and H. Kadokawa
In mammals, a prolonged delivery time during parturition is dangerous for
both mother and fetus, although the mechanisms that prolong delivery are
unclear. To investigate whether nutrition affects delivery time, we administered
two feeds containing maintenance (L-feed) or higher (H-feed) levels of
energy and protein at different points during the latter half of pregnancy
and compared the effects of the various treatments on delivery time in
rats. After the rats had been maintained on the L-feed and then copulated
on pro-oestrus (Day 0), pregnant females were randomly allocated to one
of three groups: (1) the no-improvement group, which was fed L-feed throughout
gestation; (2) the early group, which was fed L-feed until Day 11 of gestation
and then switched to H-feed; and (3) the late group, which was fed L-feed
until Day 16 of gestation and then switched to H-feed. There was no significant
difference in the number of pups among the three groups. However, delivery
time was significantly longer in the no-improvement group (73.7 ± 5.2 min)
than the early (46.9 ± 5.6 min) and late (55.4 ± 5.5 min) groups. Consuming
a maintenance diet during the latter half of pregnancy resulted in a prolonged
delivery time.
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