これまでの私達の研究成果を基に、日本繁殖生物学会から、学術賞を受賞しました。
角川博哉准教授が、日本繁殖生物学会の2019年度学術賞を受賞しました。授賞式は2019年9月4日に北海道大学で行われました。
授賞式の様子は次で御覧になれます: リンク
日本繁殖生物学会は動物の繁殖に関する学術研究を振興し、研究成果の普及を図ることを目的として1948年に設立された歴史を誇る学会で、国内外から我国における生殖科学の中心的学会として広く認知されています。
受賞対象研究題目は、次です。
「ウシゴナドトロフからのLH・FSH分泌を調節する新規受容体の発見ならびにそれらの家畜繁殖上の重要性の解明」
また受賞理由は、次です。
下垂体前葉中のゴナドトロフは、繁殖のために重要な性腺刺激ホルモンであるLHやFSHを分泌する、極めて重要な細胞です。同細胞からのLH・FSH分泌は、視床下部からの性腺刺激ホルモン放出ホルモン(GnRH)が細胞膜上の受容体、GnRH受容体、に結合することや、卵巣からのエストラジオール(E2)が核内受容体のERαやERβに結合することで調節されています。しかしこれらの既知の知識では説明できない現象が家畜繁殖現場では観察され、繁殖障害等の問題に結びつくことを、これまでに角川准教授は報告してきました。ゴナドトロフについては動物全般で未解明な点が多かったのですが、角川准教授は、ウシのゴナドトロフについて精力的に研究し、次のような他動物種にも貢献しうる多くの成果をあげてきました。
1.
ウシGnRH受容体に対する抗体を開発し、ウシ下垂体前葉に対する免疫染色法等に用い、GnRH受容体はゴナドトロフの細胞表面(原型質膜中)のリピッドラフト(脂質イカダ)という特殊部位に存在することを解明しました(図1)。また同抗体を用いウシ下垂体前葉から純度100%のゴナドトロフを単離精製する方法も開発しました。
図1 ウシ下垂体前葉から単離精製されたウシのゴナドトロフ。細胞表面の緑色部は、ゴナドトロフの細胞表面のリピッドラフト(脂質イカダ)に乗るGnRH受容体を示す。
2.
次世代シーケンサーを用い、ウシ下垂体前葉で発現する遺伝子の全貌を解明しました。続いてリピッドラフトにGnRH受容体と同乗している新規の受容体を3つ(GPR61、GPR153、AMHR2)も発見しました。そのうち2つの受容体(GPR61、AMHR2)は、リガンドが結合して活性化すると、ウシゴナドトロフからのLH・FSH分泌を促進することも発見しました(図2)。なおこれらの成果からは、老化後の性機能低下にゴナドトロフが重要な役割を担っている可能性が強く考えられるようになったため、現在、研究をさらに進展させています。
AMHR2についての詳細は次のリンクで御覧になれます:ここ
図2 発見された新規受容体GPR61はウシのゴナドトロフの細胞表面で、リピッドラフト(脂質イカダ)の上にGnRH受容体と同乗している。またリガンドが結合して活性化するとLHやFSHの分泌を促進する。
3.
ウシのゴナドトロフはGPR30という新規エストロジェン受容体も発現しており、エストロジェンが数分程度の短時間に結合するとLH分泌抑制することも発見しました。またGPR30にはこれまで重要視されなかった内因性エストロジェンであるエストロン(E1)やエストリオール(E3)も結合し、LH分泌を抑制することも発見しました。さらに飼料に発生するカビが作るゼアラレノンも結合し、LH分泌抑制することも発見しました。
なおゼアラレノンについては、共同獣医学部の高木光博教授が長年、精力的に研究をされています。
これらの新規受容体は、繁殖生物学において、基礎、応用、臨床への大いなる展開が期待される極めて重要なものです。これらの研究成果や、繁殖学や日本繁殖生物学会の発展への貢献も大きいことから、角川博哉准教授に対して日本繁殖生物学会の学術賞が授与されました。