学費について 国会での重要な質問
第153回国会参議院文教科学委員会平成13年10月30日 第2号 議事録抜粋
1418 ○鈴木寛君 私は、ぜひ学生の側からもう少しきちっと実態を踏まえて御議論
1419 をいただきたいというふうに思いますが、私は、国際的に見て日本の大学生が
1420 いかに苦労しているかということについて少しお話をしたいと思いますが、現
1421 在、日本の場合は、奨学金をもらっている、これは育英会だけじゃなくて民間
1422 すべてでございますけれども、もらっている学生は二割でございます。そして、
1423 その二割の学生といえども必要額の約三割しか賄われていないというのが日本
1424 の実態でございます。
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1426 では、海外はどうなっているかということを申し上げますと、ヨーロッパ主
1427 要国におきましては、学費、生活費が学生やその家族の家計を圧迫するという
1428 状況は全くございません。例えばドイツの場合は、大学のほとんどは州立大学
1429 でございますから原則学費は無償でございます。加えまして、生活費は、連邦
1430 奨学金法という法律があって、必要生活費と家族収入の差額をすべて全部の学
1431 生がもらえると、こういうことになっていますし、イギリスにおいても、年間
1432 の学費は二十万円で、しかも四割の学生がそれを免除されている。加えて、生
1433 活費については、希望者全員に奨学金制度というものが実現をされております
1434 し、その額も十分な水準になっております。
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1436 アメリカについて申し上げますと、アメリカはかなりヨーロッパと違います。
1437 私立大学、州立大学が中心でございますが、このアメリカにおきましても奨学
1438 金制度は大変充実をいたしておりまして、先ほど局長よりお話がございました
1439 日本の額の約十倍に上る五百億ドルの奨学金が総額で給付されておりますし、
1440 学生全体の七割が奨学金をもらっております。加えまして、給付型、貸与型、
1441 それから学業にマッチしたカレッジワーク、日本と違って学業と全く関係ない
1442 アルバイトじゃなくて、自分の学力増進にもつながるカレッジワークと、この
1443 三つのタイプの経済的支援制度が用意をされておりますから、これを大変うま
1444 く組み合わせて学生の皆さんは経済的な不安なく学習ができるということになっ
1445 ております。
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1447 各国の事情を申し上げるのはこれぐらいにいたしたいと思いますが、要する
1448 に先進諸国の中で、学生が経済的な理由で修学を断念をしたり、さらにそうし
1449 た学生の学費、生活費が親の家計を圧迫したりしている国は日本以外に見当た
1450 らないということを文教科学委員の先生方にはぜひ御理解をいただきたいと思
1451 います。
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1453 こうした諸外国の実情を踏まえまして、私は、ぜひ日本におきましても、経
1454 済的な理由による高等教育就学機会の損失をゼロにするという具体的な目標の
1455 もとに、奨学事業拡充方針を明快かつ明確に示していただきたいということを
1456 お願いを申し上げたいと思います。
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1458 私が申し上げておりますこの考え方は決して私の独善ではございませんで、
1459 実は一九七六年に発効をいたしました経済的、社会的及び文化的権利に関する
1460 国際条約、いわゆる国際人権A規約でございますが、この十三条の2の(c)
1461 では、「高等教育は、すべての適当な方法により、特に、無償教育の漸進的な
1462 導入により、能力に応じ、すべての者に対して均等に機会が与えられるものと
1463 する」と規定されておりますし、また、同条の(e)では、「すべての段階に
1464 わたる学校制度の発展を積極的に追求し、適当な奨学金制度を設立し」云々と
1465 規定をされております。これらの規定から明らかなように、私が申し上げてお
1466 ります目標は、国際条約に規定されている基本的人権の実現をしていただきた
1467 いということを申し上げているということを皆様方に御理解を賜りたいと思い
1468 ます。
1469
1470 実はしかし、驚くべき事実がございまして、我が国はこの条約の締結に当た
1471 り、同項の無償教育化について留保をいたしております。文部省にお伺いをい
1472 たしますが、締結国、百四十五カ国ございますが、日本以外にこの条項を留保
1473 している国があれば教えていただきたいと思います。
1474
1475 ○政府参考人(工藤智規君) 突然のお尋ねでございますが、手元にある資料
1476 によりますと、今御指摘の条項を留保しておりますのはマダガスカルと承知し
1477 てございます。
1478
1479 ○鈴木寛君 私は、この留保をぜひ解除をいたしていただき、きちんと国際条
1480 約の実現に向かって努力をすべきだというふうに考えておりますが、いずれに
1481 いたしましても、ほかの国は、百四十三カ国は、この条約に基づきまして、既
1482 に二十年間、それぞれの国民の高等教育の無償化に向けて懸命な努力をしてき
1483 ているわけでございます。その一方で、日本だけがどんどん取り残されてしまっ
1484 ているという実態には大変な危機感と懸念を感じるわけであります。
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1486 それから、私は、現行では余り奨学金の対象となっていない方々へも積極的
1487 に道を開くべきだと思っております。例えば、数多くの日本人がファッション、
1488 デザイン、スタイリスト、ゲーム、アート、アニメ、ミュージック、料理など
1489 の分野で世界的に活躍をしていらっしゃることをかんがみますと、現在約八%
1490 しか受給をしていない専修学校、専門学校生に対する奨学金制度の拡充にも特
1491 に御留意をいただきたいと思いますし、加えて、これからは大仁田委員のよう
1492 に一生涯学び続ける時代となると思います。社会人を初め年齢を問わず学びた
1493 いという意欲があるすべての方々への奨学金制度に向けて特段の配慮が必要だ
1494 と思います。
1495
1496 いずれにいたしましても、日本社会全体で総額、先ほどお話ございました約
1497 五千億強の奨学金をやはり急速にふやしていくということは喫緊の課題として
1498 取り組むべきだと思いますが、行革だけではなくて、こうした前向きな議論を
1499 ぜひとも進めていただきたいというふうに思います。
1500
1501 本日は高等教育における学生の経済的な支援に絞って議論を重ねてまいりま
1502 したけれども、学生やその保護者の方々の家計が大変に苦しんでいるというこ
1503 とを十分に踏まえていただきまして、奨学事業の抜本的な拡充を図るために、
1504 早急にそのための検討体制を整備をしていただきたいというふうに思います。
1505 そして、日本育英会の存廃問題の決着に合わせて、同時にその奨学事業強化の
1506 具体的な成案をまとめていただきたいというふうに思います。日本育英会の廃
1507 止法だけが国会に提出されるというのは大変残念な事態でございますので、決
1508 してそういうことがないように強くお願いを申し上げたいと思います。
1509
1510 私自身は、我が国における高等教育機会の均等を図ることを目的として、学
1511 習者に対し学費そして生活費も含めたそうした費用の確保を保障するために、
1512 官民あわせた奨学事業の抜本的な拡充とそれに必要な所要資金の確保、あるい
1513 は利子補給、政府保証などの実施を盛り込んだ高等教育における学習活動支援
1514 法の制定をぜひ御提案をしたいと思いますので、御一考を賜りますようにお願
1515 いを申し上げます。
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1517 我が国は、先ほども大仁田委員が御指摘ありましたように、本日議論をして
1518 まいりました奨学金を初め、余りにも教育に対する投資を怠ってきたというふ
1519 うに思います。まさに教育投資の量的、質的な拡充は不可欠だと思います。年
1520 間の高等教育に係る公財政の支出の対GDP、GNP比率を見ましても、アメ
1521 リカ一・一、イギリス一・三、フランス一・〇、ドイツ一・五に対しまして、
1522 日本は〇・七%。世界先進各国に比べていかにおくれているかということがよ
1523 くわかります。
1524
1525 遠山大臣は三十年余り文部省にいらっしゃいました。遠山大臣を初め多くの
1526 文教関係者が教育投資の充実を図るためにこれまで懸命な努力をされてこられ
1527 たことは私も十分承知いたしておりますし、本委員会には実は三名の文部大臣
1528 経験者がいらっしゃいますが、そうした先輩の皆様方の御努力にもかかわりま
1529 せず、我が国の公的教育投資がドイツの半分、民間教育投資主体の米国にすら
1530 劣後しているということは大変残念でございます。これは、日本の教育を充実
1531 をしたいとの遠山大臣を初め皆様方の思いが結局従来の与党の政治力学の中で
1532 いつも踏みにじられてきたことの結果であるということは言わざるを得ないと
1533 思います。従来型の建設・土木事業には野方図に予算を投下する一方で、教育
1534 投資がいつも後回しにされてきたことは、遠山大臣が一番よく御存じだと思い
1535 ます。
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1537 私も、隣の通産省にありまして知的立国日本創造のために我が青春の日々を
1538 ささげてまいりましたが、二十一世紀への準備がどんどんおくれていくことへ
1539 の焦りと、我々若手官僚の真摯な思いが通じない悔しさを毎日味わってまいり
1540 ました。その後、大学に身を転じ、やはり懸念したとおり日本の人づくりが危
1541 機的状況にあるということを目の当たりにいたしました。そして、私は今般、
1542 参議院選挙に当たりまして、皆さんの税金をコンクリートから人づくりへとい
1543 うメッセージを発しさせていただきまして、私のメッセージに対し東京だけで
1544 も七十六万人という多くの皆様方から賛同と共感をいただきましたことによっ
1545 て、本日、この場に立っている次第でございます。
1546
1547 人づくりは今やまさに国民の総意であると思います。私も大仁田委員とタッ
1548 グを組みながら頑張ってまいりたいと思いますが、全国に学ぶ三百五十万人の
1549 学生と、そして将来の学生、今の学生を抱えるすべての御家庭の切なる思いを
1550 十分にお酌み取りいただきまして、これまで日本の人づくりに人生をかけてこ
1551 られました遠山大臣より御決意のほどを伺いたいと思います。よろしくお願い
1552 を申し上げます。