以下の論文は、2003年10月18日の山口大学経済学部主催、東アジア国際シンポジウム「中国・韓国・日本における雇用構造の変化と政労使の課題」の原稿集です。当日これを手に入れられなかった学生用にここに掲載するもので、他の目的に使用しないでください。また、図表の一部は掲載が難しいので載せていません。

 

掲載順

 

尹辰浩

厳法善

浜島清史

横田伸子(レジュメは後に掲載します)

鄭在勲

高徳歩

李鋌

有田謙司

(総合コメントの張世珍氏の発言は別ページ参照)

 

 

 

 

IMF経済危機以降の韓国労働市場の柔軟化

−非正規職労働者を中心に−

 

                                              尹 辰浩(ユン・ジノ)

                                                   (韓国仁荷大学校経済学部教授)

 

1.はじめに

 

 vIMF経済危機と経済の回復(表1)

 v大量失業の減少と非正規職の拡大

 v非正規職拡大の効果:非正規職の賃金及び雇用条件、正規職の雇用条件の悪化、労     働市場の二重構造化と所得分配の悪化、様々な社会問題の頻発

 

2.非正規職の雇用形態の定義と拡散の実態

 

 1) 非正規職労働者の定義をめぐる論争

 v非正規職労働者の比重の急増(表2)

 v非正規職の定義をめぐる二つの概念:雇用契約期間 対 実際に長期勤続かどう                              か?

 v問題の焦点は「長期勤続非正規労働者」:内部の多様性→一律的な定義は無理である

 

 2)非正規職労働者の拡散の原因

 v労働力供給の変化:ライフスタイル変化仮説

 v労働力需要の変化:経済環境変化仮説、正規職保護仮説、産業構造の変化仮説

 v人事管理戦略の変化:正規職代替仮説、政府の政策の変化仮説

 v労使間の勢力関係の変化:労働組合勢力の弱体化仮説、労働組合の責任論

 v実証研究の結果:主に人件費の節減、労働力調整を容易にすることを目的にした企          業の人事管理戦略とこれに対する労働組合の対応の脆弱さ

 

 3)非正規職労働者の国際比較

 v国際的に見て非常に高い比重である(図2)

 v原因:非正規職労働者に対する政策及び制度の違い

 v日本との比較:非自発的、全面的代替型(韓国) 自発的、制限的代替型(日本)

 

3.非正規職労働者の雇用実態

 

 1)非正規労働者の雇用実態別構成

 v臨時職、独立請負、パートタイム、呼出勤労、用役勤労の順(表4)

 v臨時労働者:大部分臨時職

 v日雇い労働者:臨時職+呼出勤労、パートタイム

 

 2)非正規労働者の人的属性及び産業、職業別構成(表5)

 v性別:正規職−既婚男性中心、非正規職−既婚女性+既婚男性

 v年齢別:非正規職は若年労働者と老齢労働者の比重が高い

 v学歴別:非正規職労働者は低学歴

 v産業別:非正規職は低付加価値産業に集中している

 v職業別:非正規職は単純労務職、技能職、サービス職、販売職

 v企業規模別:非正規職は従業員10人未満の事業体に60%以上が就業

 

 3)正規職と非正規職の賃金格差

 v全体の賃金水準:正規職に対する比率の減少程度(表6)

 v男女とも類似した賃金格差

 v最低賃金未満階層は非正規職の8%

 v月賃金100万ウォン未満は正規職の20%、非正規職の70

 v性別、年齢別の賃金比率(図3,4):勤続効果があるかないかの違い

 

 4)正規職と非正規職の労働時間の比較

 v正規職の週当たり労働時間44時間、非正規職45.5時間(表7)

 vしかし、短時間労働者を除外すれば、非正規職はさらに長時間労働

 v非正規職の約4分の1が週当たり労働時間56時間以上

 

 5)非正規職労働者の雇用不安と職業移動

 v雇用契約期間が未確定な労働者が全非正規労働者の85(表8)

 v短期間契約を繰り返し更新する(表9)

 vbridge or trap→非正規職は一回はまりこんだら抜け出すことのできない陥穽

 

 6)非正規労働者の付加給付と社会保険適用率(10)

 v退職金、ボーナス、超過勤労手当の受給率は、非正規職は非常に低い

 v各種社会保険制度からの疎外

  

4.非正規労働者に対する労使政の対策

 

 v現行制度:1年未満の臨時労働に対する無規制

 v労働組合の対応:同一労働同一賃金、有期労働契約に対する規制、非正規職の正規          職への転換、社会保険の適用拡大

 v経営側の対応:雇用形態多様化の必然的結果、正規職「過保護」の緩和、労働市場         の柔軟化

 v政府の対応:非正規労働乱用の抑制と社会的保護+労働市場の柔軟性の拡大

 v労使政委員会の枠組みの中での非正規労働対策の論議:労使合意の失敗

 v公益委員案と政府の非正規職労働対策の推進方針

 v将来の課題(11)

 

5.結論

 

 vグローバリゼーションとその影響、韓国的特殊性:開放経済、資本蓄積の脆弱性

 v労働市場の柔軟化の悪影響は深刻であり、制度的装置の機能不全

 vこれを解決するための労、使、政の合意が難しい→社会的対立の持続

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

IMF経済危機以降の韓国労働市場の柔軟化

−非正規職労働者を中心に−

 

                                              尹 辰浩(ユン・ジノ)

                                                   (韓国仁荷大学校経済学部教授)

 

1.はじめに

 

 1997年末のIMF経済危機直後、韓国の労働市場環境は急速に悪化した。経済危機以降、急速なマイナス成長と企業の不渡、倒産が続き、企業の人員厳粛、整理解雇、早期退職なども持続的に行われたので大量失業の事態が引き起こされた。

 幸い、1999年から景気が予想以上に急速に回復するにともない、大量失業は減少趨勢を見せている。しかし、最近の失業率減少が正規職労働者の就業の拡大によるものであるというよりは、臨時職、日雇い労働者などの非正規職労働者の増加によって主導されるなど、雇用の質は大きく悪化しているのが問題である。現在、全賃金労働者の中、臨時職及び日雇い労働者の比重が過半数となるなど、韓国は0ECD諸国の中でもっとも高い非正規職労働者の比重を見せている。今や、企業は正規職労働者を減らし、パートタイム労働者、臨時職労働者、契約職労働者などの様々な非正規職労働者を増やすことによって、労働費用を節減し雇用の柔軟化を図ろうというのが、新しい雇用パターンとして定着して行っている(〈表1〉参照)

 企業側は、企業が市場の変化に積極的に対応し競争力を高めるためには、労働市場を柔軟化しなければならず、非正規職労働者の増加は、このような労働市場柔軟化の一環として起こっている雇用形態の多様化の必然的結果だと主張している。政府もこうした企業側の主張を受け入れ、これまで整理解雇制、勤労者派遣制などの労働市場の柔軟化政策を続々導入してきただけでなく、これからも解雇条件の緩和、勤労者派遣制の適用範囲の拡大、臨時職の雇用契約期間の延長など、労働市場の柔軟化のための追加的政策を検討している。

 反面、労働側では、このような労働市場柔軟化政策とこれにともなう非正規労働者の増加は、労働者の雇用と生活の質を大きく脅かすだけでなく、国民経済へ様々な副作用を引き起こしていると批判し、非正規労働者の増加を抑え、賃金及び勤労条件の差別を解消する政策を推進するよう政府に要求している。

 実際、非正規職労働者の増加は、労働市場と国民経済に様々な副作用を及ぼしている。ほかの何よりもまず、労働市場の脆弱階層である非正規労働者自身の雇用条件の悪化が深刻な問題として台頭している。非正規職労働者は、正規職労働者とほとんど同じ業務をしている場合でも、賃金と勤労条件の面で差別待遇を受けている場合が多い。彼らは低賃金と雇用不安に悩まされていて、勤労基準法の各種保護条項さえきちんと適用されていない場合が多い。各種手当と企業内福利厚生、各種社会保険制度の恵沢から疎外されているなど、彼らに対する差別の事例は数え切れないほど多く観察されている。このような低賃金と雇用不安によって、彼らはIMF経済危機以降発生した「新貧民層」隊列に合流しており、ともすれば彼らの貧困が永続化されるのではないかと憂慮されている。

 しかし、非正規職という雇用形態の拡散は単に非正規職労働者だけの問題に限定されるのではない。不安定な雇用形態の拡散は、まさに正規職労働者の雇用条件の悪化をもたらすという点に問題の深刻さがある。正規職労働者から非正規職労働者への労働力代替にともない正規職労働者の雇用不安定がどんどん進み、賃金及び勤労条件が悪化している。もちろん、IMF経済危機以前にも非正規職への代替現象がなかったわけではないが、最近のこうした趨勢が、清掃、警備業などの周辺的業務だけでなく、病院、銀行、証券、公共部門、製造業などの核心部門の核心業務まで急激に拡散しているという点が注目される現象である。

 非正規職雇用形態の拡散が国民経済に与える悪影響も注目の対象である。今日、企業と国家の競争力は人的資源の質に大きく依存しているのはよく知られている事実だ。雇用の安定は労働者の自発性と創意性を高め、人的資本の投資を促進する重要な要因になる。しかし、非正規職労働者の場合、仕事に対して献身的でなく責任感も低く、離職も頻繁におこなうので、人的資本の形成に問題が発生し、結果的に正規職労働者に比べて生産性がはるかに落ちるということは多くの研究で確認されている事実である。

 また、非正規職労働者の拡散は、労働市場を二重構造化し、所得分配構造を悪化させるだけでなく、さらには社会統合を損ねる要因として作用するのではないかという憂慮が大きくなっている。最近の韓国社会では、経済危機以降、中産層の崩壊と所得分配の両極化によって社会統合が阻害され、新貧民層による信用カードの借金累積、誘拐を始めとする各種の犯罪が増加し、自殺、家庭崩壊などの社会問題が次々と起こっており、大きな問題として提起されている。こうした社会問題の拡散には、非正規職雇用形態の増加とこれにともなう低賃金及び雇用不安も重要な要素として作用していると考えられる。したがって、非正規職雇用形態がこれ以上拡散することを防ぎ、彼らに対する賃金及び勤労条件の差別を撤廃し、各種社会保険の適用対象に含むことによって、彼らの生活の質を向上させることは韓国社会の重要な課題の一つとなっているのだ。

 本稿では、非正規職雇用形態の拡散現象及び賃金と勤労条件の実態を把握し、非正規職雇用形態に対する労、使、政などの労使関係の主体の政策的対応を考察することによって、非正規職雇用形態に対する望ましい政策の樹立に寄与するところにその目的がある。本稿の構成は、まず第2節で非正規職労働者の定義と拡散の実態を考察し、第3節では非正規職労働者の構成及び賃金、勤労条件などの雇用実態を明らかにし、第4節では非正規労働をめぐる労働組合、使用者、政府の対策を比較、検討した後、最後に第5節でこれまでの論議を要約して示唆点を探りたい。

 

2.非正規職雇用形態の定義をめぐる論争

 

 1)非正規職労働者の定義をめぐる論争

 

 非正規職労働者という用語は広く用いられてはいるが、国内外でこの概念に多くの混乱があり、確立された定義もないのが事実である。用語だけでも、非正規職、非典型労働者、不安定労働者、臨時職など多様な用語があり、英語でもnon-satandard, atypical, temporary,

fixed-term, contingent, marginal, peripheral, unstable, precarious jobなどの様々な表現が用いられている。

 これまでよく用いられてきた方法は、雇用契約期間を基準にした分類法で、韓国政府の公式統計でもこの方法を用いてきた。すなわち統計庁の「経済活動人口調査」をはじめとする政府の公式統計では、「常用勤労者=雇用契約期間の定めがないか、あるいは1年以上の場合」、「臨時勤労者=雇用契約期間が1ヶ月以上1年未満の場合」、「日雇い労働者=雇用契約期間が1ヶ月未満の場合」と分類されてきた1)。このような定義による非正規労働者の比重の推移を見ると、〈表2〉と〈図1〉が示すように、臨時労働者と日雇い労働者を合わせた非正規労働者が全賃金労働者に占める比重は、1997年の45.7%から急激に高まり、2002年には51.6%と全賃金労働者の過半数になっている。

 しかし、このように非正規職労働者の比重が急速に高まると、労働部と一部の労働経済学者は既存の非正規職労働者の概念に問題があると主張し、新しい概念をつくり出そうと試みた。すなわち、形式的には1年未満の短期雇用契約を結んでいるといっても、同一の事業所で契約を繰り返し更新し、実際には長期勤続していて「これからも特別な事情がないかぎり引き続き勤務が期待できる」労働者は皆、非正規労働者から除外されなければならないというのである。この反面、たとえ形式的には契約期間が定められていなかったり、1年以上といっても雇用が不安定なパートタイム労働者、呼出(on-call)労働者、独立請負労働者、派遣労働者、用役労働者、家内勤労労働者などは非正規労働者に分類しなければならないというのである。このような新しい概念による場合、2002年8月現在、非正規労働者の比重は、全賃金労働者の27.5%で、統計庁の概念による非正規労働者の比重51.6%と比べると大きな違いが生じるのである2)

 これに対して労働側では、このような労働部と一部の労働経済学者の主張は、繰り返し契約を更新することによって一つの事業所で引き続き勤務しているといっても、1年単位の雇用契約期間が終了すればいつでも解雇されうる「長期勤続非正規労働者」を非正規労働者概念から除外するという点で問題だと批判し、これまでの統計庁の概念をそのまま用いなければならないと主張している3)

 統計庁と労働部の両方とも『経済活動人口調査付加調査4)』という同一の調査資料を用いながらも、このように非正規職の規模において大きな違いが現れる理由はまさに、1年未満の短期雇用契約を結びつつも一つの事業所で契約の更新を繰り返すことによって引き続き勤務している「長期勤続非正規労働者」をどのように見るべきかに対する概念の違いによるものである。彼らの大部分は零細企業で就業しており、またほとんど大部分(88)

が文書で雇用契約を締結していないので、彼らの雇用契約期間や雇用の安定性の如何を把握するのが難しいからである。したがって、一方では彼らすべてを非正規労働者に含むのに対し、もう一方では彼らすべてを非正規労働者から除外しているのである。

 しかし、彼ら長期勤続非正規労働者は、雇用契約の内容や雇用の安定性、賃金及び付加給付の内容などでその内部でかなりの多様性を帯びているので、一律に彼らを非正規職労働者に含めたり、あるいは一律に除外するのは無理があるといえよう。したがって、現状としては韓国の非正規労働者の規模が全賃金労働者の最低27.5%から最高51.6%の間の水準にあるとしか確認のしようがなく、今後の追加的調査によってその規模を確定しなければならないだろう5)

 

 2)非正規職労働者の拡散の原因

 

 前で見たように、IMF経済危機以降、韓国の労働市場の柔軟化とともに非正規職労働者の比重は急速に高まってきた。もちろん、他の先進国でも1980年代以降、労働市場の柔軟化とともに多様な形態の非正規職労働者の比重が高まっているのが一般的現象であるが6)、韓国の場合にはとくにその増加速度が1997年以降非常に急速で、他の先進国とは違ってこれらの非正規労働者を保護するための法的、制度的装置が整っていない点に問題の深刻さがあるといえよう7)

 そうだとすれば、なぜこのように非正規労働者の比重が増加してきたのだろうか?これに対してキム・ユソン(2003a)(2003b)は、非正規職の増加の原因に関する仮説を労働市場(労働供給、労働需要)と行為主体(企業戦略、労使関係)の要因に区分して次のように類型化している。

 すなわち、第一に労働力供給の変化仮説として、既婚女性、青少年、高齢者などの労働市場への参加が増加し、彼らが自らのライフスタイルに適した臨時職、パートタイム労働を選好する方向に労働力構成が変化したことが主たる原因であるという説である。

 第二に、労働力需要の変化に注目し、グローバリゼーションとこれにともなう競争の激化、需要の不確実性の増加などにともない、採用と解雇が容易な非正規職労働者に対する需要が増加したという「経済環境の変化」仮説である。また、需要の変動性と不確実性から正規職を保護するために非正規職を用いるという「正規職保護緩衝装置」仮説や、技術構造や製品需要の変化によって既存の製造業からサービス産業へ雇用構造が変化することで、これに適した非正規職に対する需要が増加したという「産業構造の変化」仮説も労働力需要の変化仮説の一部だというべきだろう。

 第三に、行為主体としての企業の戦略変化に注目する「人事管理戦略の変化」仮説として、国内外の市場での競争激化と需要の不確実性増大にともない、企業が数量的柔軟性を高め、労働費用を節減する方法として非正規労働者の採用を増やしているというものである。この仮説はまた、このような企業の戦略変化にともなって、既存の正規職労働者を非正規職労働者に置き換えるという「正規職代替仮説」に結びつく。論者によっては、企業の戦略変化とともに政府の労働市場柔軟化政策の導入が非正規職労働者の拡散をもたらす主たる要因であるという「政府の政策変化」仮説も主張している。

 第四に、行為主体としての労使関係、とくに労働組合の役割に注目する「労使間の力関係の変化」仮説である。この仮説によれば、非正規職を導入するかどうかは労使間の力関係に依存するが、IMF経済危機以降、労働組合の組織率が低下し、労働市場全体で労働の力が弱まり、非正規職の拡大を防ごうとする労働組合の抵抗力が低下したところに非正規職拡大の原因を求める仮説である。しかし、もう一方で経済界では、労働組合が組織された部門での正規職労働者に対する度を超した「過保護」によって労務費用があまりに高まったので、企業はこれを回避するため労働組合加入率の低い非正規労働者を用いるようになるという「労働組合責任論」を主張しもする。

 キム・ユソンの実証研究の結果によれば、この四つの仮説の中で労働力の供給変化仮説、経済環境変化及び正規職保護緩衝装置仮説は棄却され、人事管理変化仮説と労使間の力関係の変化仮説は支持されている。すなわち、非正規職労働者の増加原因は、政府の労働市場柔軟化政策、企業の正規職から非正規職への代替を内容とする人事管理戦略、そして労組組織率の低下などの行為主体要因に主に起因するものだという説明である。

 シム・サンワン(1999)も、非正規職増加原因として労働力供給要因、経済環境の変化、制度的規制及び政策変数、景気循環的要因などを指摘し、そのなかで制度的要因及び政策変数がもっとも重要な要因として作用していると主張している。

 シン・ドンヨップ他(2003)は、韓国の製造企業における非正規職雇用の決定要因を調査した結果、非正規職が正規職にとってかわる常時雇用労働力となっていっており、企業が総賃金を減らし、労使間の対立を避けるのに非正規職を活用しようとするところに主要な原因があると明らかにしている。

 キム・チュイル(2001)もまた、非正規職が増加した主たる要因が企業の戦略変化と労働組合の有無にあることを実証的に証明している。

 実際、韓国で実施された何回もの実態調査で企業が非正規労働者を用いる理由を見ると、調査対象、調査方法などの違いがあるにはあるが、人件費の節減と労働力調節が容易であることをあげている企業の比重が圧倒的に高く、先進国でしばしば非正規職を用いる理由としてあげられる、一時的業務や専門的技術を利用するために採用するという理由はきわめて比重が低いということが分かる(〈表3〉)

 要約すれば、韓国において非正規職労働者の比重が急速に増加した主たる原因は、労務費の節減と雇用の柔軟性の確保を図る企業の戦略変化と、これを後押しする政府の労働市場の柔軟化政策の故であり、IMF経済危機以降、その力が大きく弱まった労働組合が企業と政府のこのような動きをしっかり抑えられなかったことも主要な要因として作用したといえる。

 

 3) 非正規職労働者の国際比較

 

 韓国の非正規職労働者の比重は、国際的に見ても類ない程度に高く表れている。前で見たように、非正規職労働者の定義が国ごとにかなり異なるので正確な比較は難しいが、OECDで発表した資料によれば、〈図2〉で見るように、韓国の臨時職労働者の比率はOECD加盟国の中で他を引き離して1位であり、仮に労働部の新しい非正規職労働者の定義を用いたとしてもスウェーデンに続いて第2位の高い比率を見せている。大部分の先進国では臨時職労働者の比重は15%未満にとどまっていることが分かる。

 それならば、韓国はなぜ他の先進国に比べて臨時職労働者をはじめとする非正規労働者の比率がはるかに高いのだろうか?これに対して韓国と他の先進国における非正規職労働者に対する政策及び制度の違いを指摘する研究が多い。すなわち、チョ・ギョンベ(1999)は、比較法的観点から韓国と主要先進国の非正規職労働者保護立法を分析した結果、フランス、スウェーデンの場合には積極的立法によって、ドイツと日本では判例及び学説によって、非正規職労働者の活用事由の制限、派遣勤労の規制、契約期間の制限、手続き上の制限、契約期間満了時の労働者の権利保障などがなされているので、非正規職労働者の拡散を防いでいる。これに対し韓国では、1年未満の短期雇用契約については無制限的に期間制(fixed-term)雇用が許容されており、これに対して何ら保護措置もないという点を指摘している。

 シム・サンワン(1999)も、韓国で短期雇用労働者の比重が先進国に比べて高い理由として、正規職との大きな賃金格差と各種の企業福祉の恵沢を受けられないでいること、勤労基準法上の保護条項が整っていない点などの制度的要因を指摘している。

 一方、チョン・イファン(2002a),(2002b)は、韓国と日本の非正規職労働者の性格とそれの決定要因に関する分析をとおして、韓国の非正規労働者は、正規職になりたいのだがそれが不可能な非自発的代替型であるのに対し、日本の非正規労働者は大体、非正規労働者に満足している自発的代替型だと主張している。また、このように両国の非正規労働者の性格に違いが出る理由は、使用者の雇用管理戦略のためである。すなわち、日本の使用者は非正規職に対しても長期雇用慣行を維持しようとする態度を取るのに対し、韓国の使用者は長期雇用に対する意志がはるかに弱いというのである。この結果、日本では正規職の非正規職による代替が制限的に起こっているのに対し、韓国では正規職の非正規職による代替が全面的に起こっていると、チョン・イファンは結論づけている。

 要約すると、韓国が他の先進国に比べて高い非正規職労働者の比率を見せている理由は、非正規職に対する法的、制度的保護が整っておらず、使用者の積極的代替戦略(これは再び正規職と非正規職間の賃金格差と各種付帯費用の違いが大きい故である)のためである判断される。

 

3.非正規労働者の雇用実態

 

 正規職労働者に比べて、非正規職労働者は、賃金、雇用条件、企業福祉、社会保険などの様々な側面において劣悪な状況におかれていることは容易に想像できよう。最近まで、非正規職労働者の雇用実態については、断片的な調査資料しかなかったためにその全貌を把握するのが難しかった。しかし、2000年8月から統計庁で実施している『経済活動人口付加調査』資料によって、非正規職労働者の雇用実態に対する全体的な把握が可能になった。以下では、2002年8月に実施された調査資料を基礎にして、非正規労働者の雇用実態を考察することにする。

 

 1) 非正規労働者の雇用形態別構成

 

 〈表4〉に見るように、2002年8月現在の韓国の賃金労働者総数は13,631千人で、そのうち6,598(48.4)が常用労働者、4,568千人(34.2)が臨時労働者、そして2,345千人(17.4)が日雇い労働者である。これを雇用形態別に見ると、常用労働者の場合、大部分が正規職であるが、多様な形態の非正規職労働者も10.2%に達しており、このなかには臨時職5.3%、独立請負2.1%、用役勤労1.7%などが含まれている。これに対し、臨時労働者の場合には、雇用契約期間が定められている臨時職が79.9%と圧倒的な比重を占めており、次に独立請負8.8%、臨時パートタイム5.0%、用役勤労3.8%の順である。一方、日雇い労働者の場合、56.1%が臨時職であり、次に呼出勤労15.3%、臨時パートタイム13.7%の順である。

 

 2) 非正規職労働者の人的属性及び産業、職業別構成

 

 次に、〈表5〉で正規職労働者と非正規職労働者の人的属性を比較してみよう。まず、性別、婚姻状態別構成を見ると、正規職の場合、既婚男子58.1%、未婚男子14.2%で、男性労働者が72.3%に達しており、女性労働者は既婚14.5%、未婚13.2%で29.7%の比重を占めている。これに対し、非正規労働者の場合、既婚女子36.9%、既婚男子31.7%、未婚男子17.0%、未婚女子14.3%の順で、男女の比率はほとんど類似している。すなわち、正規職労働者は既婚男性中心で、そして非正規職労働者は既婚女性が最も多くはあるが、男女比率が類似した構成を見せているのである。

 さらに、年齢別構成を見ると、正規職労働者の場合30代、40代、20代、50代の順に構成比が高く、若年層と高齢層の比率は非常に低い。これに比べて非正規職労働者の場合、20代、30代、40代の順に構成比が高く、若年労働者と高齢層労働者の比重は正規職に比べてはるかに高い方だ。

 学歴別構成を見ると、正規職労働者の場合、高卒者が40.7%、大卒以上の者が36.5%で、相対的に高学歴者を中心に構成されていることがわかる。これに比べて、非正規職労働者の場合、中卒以下の学歴の者が33.1%で、低学歴者を中心に構成されていて、大卒以上の者の比重は10.6%に過ぎない。学歴水準が、韓国の労働市場を分断する最も重要な要因の一つであるという事実をここでも確認することができる。

 次に、こうした労働者の従事する産業別構成を見てみると、正規職の場合、製造業が33.2%ともっとも高く、これに次いで教育−保健−社会福祉業、運輸−通信業、公共行政などの比較的付加価値が高い、近代的産業に集中している。これに対し、非正規職の場合、製造業の他に卸−小売業、宿泊−飲食業、建設業、各種サービス業などの比較的付加価値が低い産業に広範囲に分布していることがわかる。

 一方、企業規模別構成を見ると、正規職の場合、ほとんど大部分が大企業及び中小企業に分布しているのに対し、非正規職の場合、従業員10人未満の零細企業従事者が60%以上に達しており、非正規職労働者の大部分が零細企業に従事していることがわかる。

 

 3) 正規職と非正規職の賃金格差

 

 正規職労働者と非正規職労働者は、賃金水準及び賃金分布の面で大きな格差を見せている。まず、全体の平均賃金水準を見ると、正規職の場合、月平均182万ウォンであるのに比べて、非正規職の平均賃金は96万ウォンで、正規職の52.7%に過ぎない水準である。これを男女別に比較してみると、男性の場合、正規職202万ウォン対非正規職116万ウォンで57.4%の水準で、女性の場合、正規職131万ウォン対非正規職77万ウォンで58.8%の水準にとどまっている。

 一方、勤労時間を考慮した時間当たり賃金の水準では、正規職10,504ウォン対非正規職5,369ウォンで、非正規職労働者の時間当たり賃金は正規職の半分に過ぎない。

 他方、時間当たり2,100ウォンである法定最低賃金水準未満の賃金を受けている労働者の数は、正規職が2万人であるのに比べて、非正規職は62万人に達しており、その比重は、正規職が0.3%に過ぎないのに対し、非正規職は8%が法定最低賃金未満の賃金を受けている。

 また、賃金階層別分布を見ると、正規職の場合、ほとんど80%近くが月100万ウォン以上の賃金を受けており、月80万ウォン未満の低賃金労働者の比重は微々たる水準である。これに比べて、非正規職労働者の場合、全体の70%が月100万ウォン未満の賃金を受けており、月80万ウォン未満の賃金を受ける労働者も50%に達しており、非正規労働者の低賃金が深刻な状態であることがわかる。

 また、〈図3〉と〈図4〉で、性別、年齢別、賃金水準を比較してみると、男女両方ともすべての年齢水準で非正規労働者は正規労働者に比べて低い賃金を受けていることがわかる。とくに、正規労働者の場合、年齢が増えるにともない賃金水準が急速に上昇していく勤続効果が起こっているのに対し、非正規労働者の場合、賃金上昇速度が非常に緩慢で、勤続効果が小さいことがわかる。これにともない、正規労働者と非正規労働者の間の賃金格差は30-40代の核心年齢層で最も大きく開いているが、この年齢層は家族を扶養する責任が最も大きい年齢層であるという点で問題になっているのである。

 もちろん、正規職労働者と非正規職労働者の賃金水準を厳密に比較するためには、教育水準、勤続年数、産業、職業などの変数を統制した後の賃金水準を比較することが必要なのである。アン・ジュヨップ(2001)の研究によれば、様々な変数を統制した後にも正規職労働者と非正規職労働者の時間当たり賃金格差は19%に達し、その賃金格差の4分の1ないし3分の1程度は、生産性が同一の場合にも異なる賃金を支払う「同一労働差別賃金」の結果だという。また、チョン・ジノ(2001)の研究でも、賃金に影響を与える他の変数を統制した後の純賃金格差を分析した結果、正規職と非正規職間に20-27%の純賃金格差が発生しているものと報告した。

 

 4) 正規職と非正規職の労働時間の比較

 

 正規職と非正規職労働者は、単に賃金だけでなく多様な勤労条件の面で格差を見せている。ここでは、多様な勤労条件のなかで、『経済活動人口付加調査』で確認が可能な労働時間の面での格差を見てみることにしよう。

 〈表7〉で見るように、2002年8月現在の週当たり労働時間の平均は、非正規職が45.5時間で正規職に比べて1.5時間程度さらに長く働いていることと表れている。しかし、雇用形態別労働時間をより詳細に見てみると、こうした平均値の比較は問題があるということがわかる。すなわち、非正規職労働者の中には労働時間が非常に短いパートタイム労働者と家内勤労労働者などが含まれており、全体の平均労働時間を減少させる作用をしているためである。実際に非正規職労働者の労働時間分布を見ると、週当たり36時間未満の短時間労働の比率も高いが、これと同時に週当たり56時間を超過する長時間労働者の比率も正規職に比べてはるかに高いということがわかる。

 現行勤労基準法では、法定勤労時間を週当たり44時間と定めて、労使が合意する場合に週当たり12時間の限度で延長勤務をすることができるように規定している。したがって、週当たり56時間以上の勤務は、労使が合意する場合にも当然違法になるのだ。ところで、全体の非正規労働者のほとんど4分の1に達する労働者が、週当たり56時間以上働いているということは、まさに彼等の勤労条件がどれほど劣悪であるかを示す指標であると同時に、非正規職労働者の相当部分が事実上、正規労働者に取って代わっていることを示しているのである。

 

 5) 非正規労働者の雇用不安と職業移動

 

 非正規労働者は、低賃金、長時間労働等ともに、深刻な雇用不安に苦しめられている。非正規労働者は、その定義上、雇用が不安定な労働者であるので、彼等が雇用不安に苦しんでいることは、いずれにせよ当然なことだとも言えよう。しかし、韓国の非正規労働者は、臨時的労働を用いることができる客観的事由(季節的業務、期間が決められた業務等)もなく、労働条件についても労使間の明確な合意も成り立たないなかで雇用されており、したがって、恒常的な雇用不安状態にあるという点で問題になるのだ。

 〈表8〉を見ると、正規職労働者に比べて、非正規職労働者の中で雇用契約期間の定めがある比率が高い。これは自然なことであろう。しかし問題は、非正規職労働者のなかでも自分の契約期間がどのように定められているかを知らない労働者が85%に達するという事実である。すなわち、「短期間契約職、臨時職、日雇い労働者等、一時的に就業した労働者」だと答えた労働者のなかで、明示的な契約期間を労使が合意した場合は14.8%にすぎず、残りは文書、または口頭での契約期間が定められておらず、使用者がやめろといえばいつでもやめなければならない、極端に雇用が不安定な状態におかれているのである。

 非正規労働者と関連して、さらに問題になるのは短期契約を繰り返す労働者である。彼らは1年単位の短期雇用契約を繰り返し更新し、同じ事業所で長期間勤続しており、事実上、非正規労働者がしなければならない職務を担っている労働者である。〈表9〉で、2000年8月の『経済活動人口付加調査』で表れた雇用契約期間別、勤続年数別労働者数を見ると、1年未満の雇用契約期間を持った労働者のなかで20%を超える者が同一の事業所で1年以上勤務していることがわかり、とくに3年以上の勤務者も11.5%に達している。また、1年以上(1年も含まれる)の有期勤労契約を結んでいる者の中で61.6%が同一の事業所で3年以上勤続していると表れているが、韓国の勤労基準法では1年を超える有期雇用契約は認められていないので、彼らの大部分は1年単位の雇用契約を結び、これを繰り返し更新している労働者と考えられる。結局、かなりの数の非正規労働者が1年単位の有期雇用契約を繰り返し更新しながら、同一の企業で長期間勤続していることがわかるが、企業はこれによって退職金、各種手当てなどを減らして、契約期間が終了すればいつでも解雇できるという利点があるので、こうした形態の雇用を選好しているのである8)

 それでは、このように非正規労働者として長期間勤務する人々が、果たして正規職労働者になれる確率はどれくらいになるだろうか?これはしばしば、非正規労働者が正規職に行く過程で一時的に滞留する職務なのか(すなわち架橋bridge機能を指す)、さもなくば一度そこに落ち込んだら永遠に抜け出すことができない陥穽(trap)なのかの論争の性格を帯びる。これについて研究したナム・ジェリャンとキム・テギ(2000)の研究によれば、韓国の非正規労働者は主に脆弱階層に属している人々で、低い職務能力と技能があればよい分野に従事しており、正規職に行く確率が非常に低く、したがって、韓国の非正規職は架橋であるというよりは陥穽の機能をしていると明らかにしている。また、ハン・ジュンとチャン・ジヨン(2000)もまた、非正規職勤労者が労働市場に進入し退出する過程で、一時的に経験する勤労形態か、さもなくば女性と低学歴労働者のような特定の人口集団が持続的に経験する勤労形態なのかを検討した。その結果、非正規職雇用は、正規職勤労をした後、これをもはや継続できなくなった人々が入り込んだり、あるいは一生を通じて一貫して非正規労働だけを行う雇用形態であり、したがってここでもまた陥穽の役割を果たしていると明らかにしている。

 結局、韓国の非正規労働は、低学歴者、高齢者、女性などの労働市場の脆弱階層が正規職に進入できないので選ぶ劣悪な勤労形態であり、一度そこに落ち込んだら抜け出すのが困難で、低賃金と雇用不安に苦しみながら生涯を送る雇用形態だと結論づけることができる。

 

 6) 非正規労働者のその他の勤労条件と社会保険の適用率

 

 非正規労働者は低賃金と雇用不安以外にも、退職金、手当などの企業の各種福祉恵沢や社会保険などから疎外されている。〈表10〉を見ると、非正規労働者が受ける差別は、退職金、手当など、企業の福祉恵沢の面でさらに目立って表れていることがわかる。退職金受恵率は、正規職が93.2%であるのに対し、非正規職は13.9%に過ぎない。また、ボーナスの受恵率は、正規職92.5%に対して、非正規職は14.0%に過ぎない実情である。また、勤労基準法上、当然支給されなければならない超過勤労手当についても、正規職の76.8%が該当者であるのに対し、非正規職は21.6%に過ぎない。

 もちろん、非正規労働者が退職金やボーナス、超過勤労手当などを受けられない理由のなかでは、労働時間や勤続期間が短くて除外されたということもありうる。しかし、韓国の勤労基準法では、週当たり労働時間が15時間未満の労働者以外では、雇用形態を問わずすべての労働者に法定休暇や手当てを支給するようになっていて、『経済活動人口付加調査』では、実際に付加給付を受けたかではなく、その恵沢を受ける可能性があるかを訊ねている点から、結局のところ使用者が法律に定められた手当などを非正規労働者にきちんと支給していなかった結果と考えられる(チョン・イファン他(2001))

 韓国には現在、雇用保険、健康保険、国民年金、産業災害保険など4大社会保険制度が導入されている。このうち、使用者が保険料全額を負担する強制保険の産業災害保険を除く、残りの3大社会保険の適用実態を見てみると、これもまた非正規労働者はこの恵沢から疎外されていることがわかる。正規職労働者の場合、国民年金、健康保険ではほとんど大分部が適用対象で、雇用保険でも79%が適用対象となっている。これに対し、非正規労働者の場合、国民年金21.6%、健康保険24.9%、雇用保険23.2%と、全体の4分の1程度だけが社会保険の恵沢を享受しており、残りは老後の生活、疾病、失業などに対して完全に無防備な状態におかれているのである。低賃金と雇用不安はすぐに、貧困、疾病、失業などに直結するという点を考えると、誰よりも社会保険の恵沢を享受しなければならない非正規労働者の大部分が社会保険の適用対象から除外されているということは深刻な社会問題だと言えよう。

 

4.非正規労働者に対する労働組合、使用者、政府の対策の比較

 

 現行の韓国労働法の下では、雇用契約期間が1年未満の臨時労働に対しては、何の規制もない状況である。使用者は、どのような事由であれ臨時労働者を雇用することができ、雇用契約期間が終われば自由に解雇できる。さらに、必要に応じて、1年単位の雇用契約を更新しながらいつまででも臨時労働者を用いることができる。

 まさに、このように臨時労働者に対して何ら制約のない状況下で非正規職労働が拡散するのは、労働組合に対しても大きな挑戦として立ち現れている。韓国の労働組合も日本と同様に、正規職労働者中心の企業別労組体制をとっている。ところで、非正規路職労働者は雇用が不安定で、職場移動が頻繁であるので、労組の組織化が難しく、いったん組織化されたといってもそれを維持するのが難しい。しかも、正規職労働者から非正規職労働者への代替によって、既存の労組員の雇用安定と賃金及び勤労条件の維持にも大きな脅威となっている9)。 

 韓国の労働組合の二大ナショナル・センターである韓国労総と民主労総は、1989年以降、持続的な組織率の低下を経験してきた。とくに1997年末の経済危機以降、IMFの要求で整理解雇制と勤労者派遣制が導入されるなど、労働市場の柔軟化政策と構造調整政策が本格化し、労組員に対する大量解雇が進められ、その抜けた穴を非正規職労働者で代替する現象が拡散し、労働組合は深刻な危機意識を抱くようになった10)。とくに1999年に入って、非正規職俄然賃金労働者の過半数となるや、彼らに対する保護と組織化が労働組合運動における至急の課題として台頭した11)

 一方、市民社会団体もまた、経済危機以降、貧富格差が拡大するなかで、貧困層に転落している失業者と非正規労働者の問題を社会正義に対する脅威と認識するようになり、これに対する対策を講究し始めた。

 これに応じて、2000年6月、二大労総をはじめとする26の労働、市民、社会、宗教団体で構成された「非正規労働者の権利保障と差別撤廃のための共同対策委員会(非正規共対委)」が出帆することになった12)。非正規共対委は、90年代以降、人件費節減と雇用調整が容易であること、そして労働組合を避けることを目的に、企業が非正規職雇用を持続的に増やしてきて、経済危機以降、整理解雇制が認められ、勤労者派遣法が施行されるなど、一連の立法上の規制緩和措置がこれを促進したという認識のもとに、非正規労働者保護のための法律改正を推進した。この具体的内容は、▲非正規労働者に対する均等待遇、▲有期勤労契約の事由制限及び反復更新回数の制限、正規職への転換義務、▲学習誌教師、保険設計者、ゴルフ場キャディー、持ち込み車主等の特殊雇用形態(すなわち独立請負勤労)の労働者に対する勤労基準法適用、▲健康保険、国民年金、雇用保険の適用の拡大などである13)

 これに対して、経営側では、非正規職雇用は今日全世界で現れている雇用形態多様化の必然的結果に過ぎず、韓国でとくに非正規職雇用の比重が高い理由は、正規職労働者の解雇が難しい等、正規職労働者に対する過剰な保護のせいであると主張する。したがって、非正規職の比重を下げるためには、正規職に対する過保護を緩和しなければならず、これができない状況で非正規雇用に対する規制を過度に強化すれば、労働市場の柔軟性を落として企業の競争力を低下させるのはもちろん、さらには雇用縮小を引き起こすことで非正規職労働者の職をも奪う結果になるのだと主張している14)

 このように、非正規職労働者に対する保護が社会的問題として提起されるにともない、労使政委員会は2000年4月から非正規勤労対策樹立のための論議を始め、2001年7月には労使政委員会内に「非正規勤労者対策特別委員会」を構成し、本格的な法律及び制度改革のための論議を始めた。労、使、政、公益代表の19人で構成された非正規特委は、委員会内での協議の他にも実態調査、現場訪問、討論会など様々な活動をし、その結果、2002年7月「非正規職勤労者対策関連労使政合意文」を発表した15)。しかし、この合意は、非正規統計と分類方式、勤労監督強化、社会保険を拡大して適用することなど、割合、基礎的な事項に限定された者で、非正規労働者の保護のための立法問題は労使間の意見対立で合意に至らなかった。

 こうしたなかで、2002年末の大統領選挙で親労働的だと評価される盧武鉉大統領が当選したことで、非正規職対策のための議論は新しい様相を迎えることになった。盧武鉉新政府は、重要公約の一つとして、「非正規職に対する差別撤廃」を掲げ、新政府出帆後、青瓦台(大統領府)政策室に「貧富格差緩和と差別是正企画団」を設置するなど、非正規職労働者対策作りに着手した。これにともない、労使政委員会の内での議論も活発に進められたが、結局、労使は意見対立によって合意に至れなかった。これに2003年5月の非正規職特委内の公益委員(主に大学教授)は、労、使双方の意見を折衷した内容の「非正規勤労者対策法案(公益委員案)」を発表したが、政府は今後、この公益委員案を土台に非正規職労働対策に関する立法案を作成する予定であるので注目されている。公益委員案が発表されるや、労働側は即刻、この案が臨時職労働者に対する事由規制を全く含んでいないなど、期待はずれの内容であると批判した。このように、公益委員案を土台にした政府案が立法されるまでには、労働側の反発と、国会内の多数党である野党の反対などを乗り越えなければならないために、立法される見通しは現在のところでは不確実な状況である。

 以下では、非正規特委の公益委員案を労、使の主張と比較して見ることにする16)

 

 1) 非正規職に対する差別禁止原則

 

 現在の労働関連法では、非正規職に対する差別禁止に関する明文化された規定がない。これに対し、労働側では「同一労働同一賃金」を明文化しようと主張している。反面、経営側では「同一労働同一賃金原則」や「差別禁止」原則などを明文化するのに反対している。公益委員案では「合理的な理由なしには同一の事業所内で、期間制、派遣、短時間勤労であること事由に差別をしないように」する「差別禁止原則」を明文化しているが、「同一労働同一賃金」原則はそれを定義することや施行することの難しさを理由に明文化しないことにした。

 

 2) 期間制勤労

 

 現行の勤労基準法では、「勤労契約は期間の定めがないものと一定の事業完了に必要な期間を定めたものを除外してはその期間は1年を超えることができない」と規定することによって、1年以上の有期契約を禁止すると同時に、1年以内の有期契約に対する反復更新及び使用事由については何ら規制もしないでいる。

 これに対して労働側では、▲一定の事由(出産、疾病、季節的事業、一時的事由等)がある場合に限り期間制雇用を認める、▲期間制雇用の許容期間は最長1年にするが、1回に限って更新契約を認めることで最大2年まで認める、▲2年を超過した時、期間の定めのない無期限勤労契約とみなすことなどを要求している。

 他方、経営側では、▲有期勤労契約に対する事由制限に対して反対、▲契約期間の上限を現行の1年から3年に延長、▲最大許容期間を超過した時に無期限契約とみなしたり、正規職転換義務を課することに対して反対であるなどの主張をしている。

 公益委員案では、▲原則的に期間制勤労を雇用するが、その内容については適切に規制する、▲一定期間が経過した後にも勤労関係が持続される場合、無期限勤労契約とみなす(ただし、例外的な場合には一定期間の超過作用は可能である)、▲勤労条件を書面で明示することを義務化する、▲正規職勤労者を採用する場合はすでに雇用されている期間制雇用者を優先的に雇用するよう努力する、▲現行1年の契約期間の上限を延長(具体的な期間は確定されていない)等を提示している。

 

 3) 派遣勤労

 

 1998年に制定された現行の「派遣勤労者保護などに関する法律」では、派遣勤労の業種、契約期間などを規定している。しかし、請負、用役、委託などの形態をとる不法派遣が拡散していて、常用型派遣よりは登録型、募集型派遣等、実質的に派遣労働者を派遣先に紹介して、中間手数料だけ着服する型の派遣業体が大部分で問題となっている。

 これに対して、労働側では、▲職業安定法上の職業紹介と勤労者供給事業などを利用して派遣勤労制に替えることで、実質的に派遣勤労を廃止すること、▲派遣対象業務は、専門知識、技術、経験などを要求する適当な事由がある業務に限定すること、▲派遣勤労の許容期間は1年とするが、1回に限って更新を認めることで、最大2年まで許容する現行規定を維持すること、▲同一業務に派遣勤労者を引き続き用いることを禁止することなどを主張している。

 他方、経営側では、▲派遣勤労の許容業種を現在のpositive方式(法律に許容業種を列挙して、残りの業種については禁止する方式)から、negative方式(法律に禁止業種を列挙して、残りの業種については許容する方式)へ転換すること17)、▲派遣期間に対する制限を廃止し、労使の合意によって更新を可能にすることを認めること、▲中高齢者に対する派遣期間の延長、▲同一業務に引き続き用いることを認めることなどを主張している。

 公益委員案は、▲不法派遣に対する規制の実効性の確保のために行政監督の強化すること、▲労使が参与する別の機構を設け、派遣勤労の許容業務を定例的に決定すること、▲派遣期間2年満了後、引き続き用いるときは用いる事業主の直接雇用とみなす現行規定を維持するが、高齢者については派遣期間の延長を認めること、▲派遣事業主と使用事業主の間の派遣契約事項を派遣勤労者に書面で知らせること、▲職業紹介と区別ができない登録、募集型派遣の是正、▲派遣勤労者の使用事業主に対する団結権などの関連労働権と勤労者の参与を保障する制度的な方案の模索などを提案した。

 

 4) 短時間勤労(パートタイム)

 

 現行の勤労基準法では、「1週間の所定勤労時間が当該事業所の同種の業務に従事する通常勤労者の1週間の所定勤労時間に比べて短い勤労者」を「短時間勤労者」と定義し、「短時間勤労者の勤労条件は、当該事業所における同種の業務に従事する通常勤労者の勤労時間を基準に算定した比率によって決定されなければならない」と規定されている。しかし、短時間労働者の中のかなり多数が全日制(フル・タイム)労働者と類似した労働時間を働いているのに(いわゆる「名目上のパートタイム労働者」)、時間制という雇用形態ゆえに、超過勤労手当てを支給されないでいる等、差別されており問題となっている。

 これに対して、労働側では、▲短時間勤労に対する超過勤労の上限線の設定(通常勤労者の所定勤労時間より30%以上短い場合にだけ短時間勤労者とみなす)、▲所定勤労時間を超過した時、加算賃金を支給すること、▲超短時間勤労者(1週15時間未満)に対する法適用の除外規定(休暇、退職金)の廃止などを主張している。

 他方、経営側では、▲短時間勤労に対する超過勤労の上限線の設定に反対(現行規定を維持すること)、▲短時間勤労に対して別途の加算賃金を支給することに反対(現行規定の維持)などを主張している。

 公益委員案では、▲短時間勤労者の勤労条件は、当該事業所の同種業務に従事する通常勤労者の勤労時間を基準で算定した比率によって決定する「比例保護原則」を維持するが、休暇、休日日数などは通常勤労者と同一にし、▲短時間勤労者の実勤労時間が通常勤労者の所定勤労時間を超過する場合、通常勤労者と見なすかあるいは、短時間勤労の所定勤労時間超過に対して、加算賃金を与えるなど、名目的な短時間勤労を救済し、▲所定勤労時間が週15時間未満である超短時間勤労者の保護法案を講究し、▲短時間勤労者と通常勤労者間の転換を容易にしつつ、▲短時間勤労者に対して差別を禁止し、書面契約の締結を義務化するなどを提案した。

 

 5) 特殊形態(独立請負)勤労

 

 「特殊形態勤労」というのは、学習誌の家庭訪問教師、保険の外交員、ゴルフ場のキャディ、貨物車などを所有しつつ運輸会社で持ち込み制18)で働くものなど、事実上従属労働者でありながらも、独立請負形態をとっていて、「労働者性」を認められないでいる労働者である。現行の勤労基準法では、「この法で『勤労者』と呼ぶのは、職業の種類を問わず事業または、事業所で賃金を目的に勤労を提供する者」と定義している。しかし、これらの特殊形態労働者は、実際には使用者の指揮、監督の下で働いているが、勤労契約でなく請負契約を結び、賃金でなく下請け請負額を受けているために、「勤労者」と認められず、したがって、労働関係法上の各種保護措置(勤労基準、団結権、団体行動権)から除外されているのである。

 これに対して、労働側では、▲これらの特殊形態勤労に対して、勤労者性を部分的に認め、▲労働組合及び労働関係調整法上の勤労者及び使用者の定義を追加的に補完しつつ、▲勤労基準法上の使用者と勤労者の概念も拡大する必要があると主張している。

 他方、経営側では、▲特殊形態勤労に対する勤労者性を認めることに反対し、現行のまま個別事案別に法院の判例の解釈に従わなければならず、▲労働組合及び労働関係調整法の改定にも反対し、▲特殊形態勤労者の保護は労働法でなく、民法、商法、または経済法の適用によって解決が可能だと主張している。

 これに対して、公益委員案は、特殊形態勤労従事者に対する保護の必要性を認めながらも、これが労働法上の「勤労者」に関する定義を根本的に変える可能性がある重大な事案であるだけに、もう少し深みのある議論と研究が必要であると指摘している。これによって、労使政委員会内に特殊委員会を設置し、特殊形態勤労従事者に対する保護法案(労働関係法、特別法、経済法など)について追加的な議論を進めることで労使の合意が成立した。今、以上の労使及び公益委員案を表にまとめると、〈表11〉のようになる。

 

5.要約と結論

 

 今日、グローバリゼーションの効果は全世界的に労働市場に影響を与えている。グローバリゼーションによる資本間の競争の激化と、これに対処した労働市場の柔軟化、雇用の不安定化、各種非正規労働者の増加、社会福祉の後退などは、先進国、低開発国を問わず

表れている広範な現象として、実際に我々すべては「不安定の時代(=age of insecurity)」に生きていると言えよう(Elliott and Atkinson,1998; Heery and Salmon, 2000)

 韓国の労働市場柔軟化とその原因としての非正規職労働者の拡大現象も、このような全世界的な現象の一つだと言える。しかし、韓国は輸出依存度が高く、依然として資本蓄積の基盤が脆弱なために、こうしたグローバリゼーションの影響をさらに激烈に感じるだけでなく、ここから生じる副作用に対処できる制度的基盤すら脆弱だという点で、他の先進国に比べてより大きな問題を抱えているのだ。

 1997年末の経済危機以降、大きく悪化した韓国の労働市場環境は、99年から再び急速に回復の様相を見せているが、しかし、大量失業の減少にもかかわらず、これが正規職労働者より臨時職、日雇いなどの非正規職労働者の増加によって主導されたものだという点で雇用の質が大きく悪化している。現在、非正規職労働者の比重は、全体の賃金労働者の過半数を占めており、これによって非正規職労働者自身の雇用不安と低賃金及び、勤労条件の劣悪さだけでなく、正規職労働者の雇用条件さえ悪化させている。さらに進んで、非正規職の雇用形態の拡散は、労働市場を二重構造化し、所得分配構造を悪化させており、各種の社会問題を引き起こす原因にもなっている。

 韓国の非正規労働者の比重は、他の先進国と比較してみてもきわめて高い水準にあり、とくに先進国では自発的非正規職が多いのに比べて、韓国の非正規職は、大部分が正規職になりたいが職がないためやむを得ず非正規職として就業している非自発的非正規職が大部分だという点で問題になる。

 韓国の非正規職労働者は、正規職労働者に比べてきわめて劣悪な環境におかれている。非正規職労働者の賃金水準は正規職の約半分に過ぎない水準で、法定最低賃金未満の賃金を受けている労働者が8%に達するなど、非正規職の低賃金現象は深刻な水準にある。また、労働時間の面では、パートタイム労働者などの短時間労働者も多いが、正規職労働者に劣らず長時間労働をしている非正規職労働者も多く存在する。全非正規職労働者の約4分の1程度が、週当たり労働時間56時間以上の超長時間労働をしているものと表れている。

 非正規労働者の絶対多数は、労働条件に関する労使間の明白な合意なく雇用されており、契約期間が終わればいつでも解雇(契約更新の拒絶)をされうる不安定な雇用状態の下にいる。また、短期雇用契約を繰り返し行うことによって、同一の事業所で長期間勤続している非正規労働者も多数存在しているが、彼らは事実上、正規職労働者を採用しなければならない業務に配置されているものと見られる。

 非正規労働者は、低賃金と雇用不安の他にも退職金、各種手当てなど、企業の各種福祉の恵沢や社会保険などからも疎外されているが、これは、非正規労働者が貧困、疾病、失業、老後の生活不安などの社会問題に対して無防備な状態におかれていることを意味する。

 このように、非正規職労働者問題が深刻にもかかわらず、これに対処できる制度的装置はきわめて不備な状況である。1年未満の期間制契約を無限定に許している法制度、各種社会保険の未整備による非正規職労働者の疎外、正規職従業員中心の企業別労組体制によって非正規職を代弁する機能が脆弱であるなどの構造的問題が山積している。このような構造的問題を解決するために、これまで労、使、政等の社会的主体は労使政委員会の枠組みを通してこの問題を論議してきた。しかし、労使関係の主体の立場によってかなり異なる立場の違いを見せており、合意が難しいのが実情である。労働側では、1990年代以降、企業が人件費節減と雇用調整を容易にし、労働組合の抵抗を避けるためなどの目的で非正規職雇用を増やしてきたと主張し、非正規職労働者に対する均等待遇、有期勤労契約の事由制限及び、反復更新回数の制限、特殊雇用形態(独立請負勤労)労働者に対する勤労基準法の適用、社会保険の適用拡大などを主張している。

 これに対して、経営側では、非正規職雇用は今日、全世界的に表れている雇用形態の多様化の一つの現象であり、韓国でとくに非正規職の比重が高いのは正規職労働者に対する過保護のせいだと主張し、非正規職の比重を減らすためには正規職に対する過保護を緩和しなければならないと主張する。また、労働側が主張している非正規職に対する均等待遇、有期勤労契約の事由制限及び、反復更新回数の制限、特殊雇用形態の労働者に対する労働法適用などについても大部分が反対している。

 他方、政府は、一方では非正規労働者の過度な乱用を抑制することと一定の保護の必要性を認めながらも、それが労働市場全体の柔軟性を損なわない方向でなされなければならないという折衷論を展開している。

 労使政委員会は、2000年以降、持続的に非正規労働者対策の樹立のための方案を論議してきたが、結局労使間の意見の対立で合意にいたれないまま、2003年5月の公益委員が独自の対策案を発表した。政府は、今後公益委員案に基づいて非正規職保護のための各種の政策を推進する方針であることを明らかにしている。しかし、公益委員案に対する労働側の反発と、国会内で少数党の位置にとどまる与党の立場などによって、推してみるに短時日内に非正規職保護のための立法が推進される可能性は低いものと見られる。

 結局のところ、韓国の労働市場柔軟化政策とこれにともなう非正規職労働者の拡大現象は、今後ともかなり長い期間、労使、労政間の社会的対立を引き起こすような原因の一つとなるものと予想される。

 

【注】

1) 統計庁『経済活動人口年報』各年度版。

2) チェ・ギョンス(2001);パク・キソン(2001)

3) キム・ユソン(2001)

4) 日本の厚生労働省で実施している『就業形態の多様化に関する総合実態調査』と類似 した調査として、臨時職労働者、日雇い労働者、派遣、用役勤労などの多様な就業形態 を細部にわたって把握するために、2000年8月から毎年2回統計庁で実施している調 査である。

5) 非正規労働者の概念と規模に関する論争としては上の注2)3)のほかに、ナム・キゴン (2002);アン・ジュヨップ(2001a)(2001b);丁怡煥(2003);丁怡煥他(2001)などを参照 のこと。

6) OECD(1999)(2002)

7) チェ・クムック(2002)

8) 丁怡煥他(2001)

9) 尹辰浩他(2001)

10) IMF経済危機以降、当時の金大中政府は構造調整問題を協議するための社会的な機構 として「労使政委員会」を構成した。労働組合、経営側、政府、公益代表などで構成さ れた労使政委員会は、1998年2月に歴史的な社会的合意に成功したが、その内容は、 一方では整理解雇制と勤労者派遣制の導入などの労働市場柔軟化政策を導入しながら、 もう一方では教員労組を認めることと、労働組合の政治活動の保障などといった労働権 の強化を認めることであった。しかし、その後、公共部門、金融部門、企業部門などで、 構造調整が引き続き行われるなか、大量解雇が発生するや民主労総は労使政委員会から 撤収した。労使政委員会の経過については尹辰浩(1999)参照のこと。

11) 尹辰浩(2002)

12) 丁怡煥他(2001)

13) 丁怡煥他(2001)

14) 丁怡煥他(2001)

15) 労使政委員会 非正規職勤労者対策特別委員会(2003a)

16) 労使政委員会 非正規職勤労者対策特別委員会(2003b)

17) 日本は1999年の労働関連法の改定によって、positive方式からnegative方式に転換し た。

18) 車両の実質的所有者は労働者自身であるが、名目上運輸会社の所有で登録し、一定の 金額を運輸会社に持ち込み料として支払う方式。車両を最低何台以上か所有していて、 初めて運輸会社として登録が可能であるために起こる制度である。

19) 労使政委員会(2003)

 

 〈参考文献〉

 沿政識(キム・ユソン)(2001)「搾舛鋭送 鋭乞人 叔殿(非正規職の規模と実態)」『葛疑  紫噺(労働社会)』, 55(55),廃厩葛疑紫噺尻姥社(韓国労働社会研究所).   沿政識(キム・ユソン)(2003a)『廃厩 葛疑獣舌税 搾舛鋭送 装亜 据昔拭 企廃 叔装尻姥  (韓国労働市場の非正規職増加の原因に対する実証研究),壱戟企俳嘘 企俳据 井薦  俳引 酵紫俳是轄庚(高麗大学校大学院経済学科博士学位論文)

 沿政識(キム・ユソン)(2003b)1980鰍企 戚掘 搾舛鋭送 装亜 据昔(1980年代以来の非  正規職増加の原因)」『葛疑紫噺(労働社会),78(78),廃厩葛疑紫噺尻姥社(韓  国労働社会研究所)

 沿政識(キム・ユソン)(2003c)「搾舛鋭送 鋭乞人 叔殿--搭域短, `井薦醗疑昔姥繕紫 採亜  繕紫'(2002,8) 衣引--(非正規職の規模と実態--統計庁『経済活動人口調査付加調査   (2002,8)』結果--), 『葛疑紫噺(労働社会),71(71), 廃厩葛疑紫噺尻姥  社(韓国労働社会研究所)

 沿政識(キム・ユソン)(2003d)「奄穣税 搾舛鋭送 紫遂搾晴 衣舛推昔(企業の非正規職使  用比率の決定要因)」『薦1 紫穣端 鳶確 俳綬企噺 切戟増(第1回事業体パネル学  術大会資料集),廃厩葛疑尻姥据(韓国労働研究院).

 沿爽析(キム・チュイル)(2001)「搾舛鋭送 壱遂税 慎狽推昔拭 淫廃 尻姥(非正規職  雇用の影響要因に関する研究)」,廃厩井慎俳噺(韓国経営学会)『井慎煽確(経営ジャ  ーナル),2 1(第2巻第1号)                                     害奄逸(ナム・キゴン)(2002)「廃獣悦稽切税 鋭乞人 失維(一時勤労者の規模と性格)」,   廃厩至穣葛疑俳噺(韓国産業労働学会)『至穣葛疑尻姥(産業労働研究)』,8 1  硲(第8巻第1号)                                             

 害仙勲, 沿殿奄(ナム・ジェリャン,キム・テギ)(2000)「搾舛鋭送, 亜嘘(bridge)昔亜,   敗舛(trap)昔亜?(非正規職、架橋なのか、陥穽なのか?),廃厩葛疑井薦俳噺(韓国  労働経済学会)『葛疑井薦轄増(労働経済論集),23 2(23巻第2号). 葛紫舛是据噺(労使政委員会)(2003) 『搾舛鋭送 企奪 盗送尻榎薦亀 轄税薄発(非  正規職対策及び退職年金制度の論議現況), 葛紫舛是据噺(労使政委員会) 

 葛紫舛是据噺 搾舛鋭送悦稽切企奪働紺是据噺(労使政委員会非正規職勤労者対策特別  委員会)(2003a) 『搾舛鋭送悦稽切企奪 轄税井引 置曽左壱(非正規職勤労者対策の  論議の経過最終報告), 葛紫舛是据噺(労使政委員会).                         葛紫舛是据噺 搾舛鋭送悦稽切企奪働紺是据噺(労使政委員会非正規職勤労者対策特別  委員会)(2003b)『搾舛鋭送悦稽切 企奪号照--, 脊舌搾嘘 因斥是据照(非正  規職勤労者対策方案--労、使の立場の比較及び公益委員案), 葛紫舛是据噺(労使政  委員会).

 朴基性(2001) 「搾舛莫悦稽切税 著舛引 薦照 (非典型勤労者の測定と提案、非典型勤  労者の規模と実態)」廃厩葛疑井薦俳噺(韓国労働経済学会)『搾舛莫悦稽切税 鋭乞人  叔殿(非典型勤労者の規模と実態)』,  .                                     重疑娠, 丞舶渋, 戚雌酔, 戚走幻(シン・ドンヨップ、ヤン・ヒョクスン、イ・サンウ、  イ・チマン)(2003) 「廃厩 薦繕穣拭辞 搾舛鋭送 壱遂税 衣舛推昔(韓国の製造業に  おける非正規職雇用の決定要因),廃厩至穣葛疑俳噺(韓国産業労働学会)『至穣葛疑  尻姥(産業労働研究),9映薦1(第9巻第1号)                            宿雌刃(シム・サンワン)(1999)「搾舛鋭 壱遂税 溌企人 葛疑差走(非正規雇用の拡大と  労働福祉),廃厩至穣葛疑俳噺(韓国産業労働学会)『至穣葛疑尻姥(産業労働研究),   薦5映薦2(第5巻第2号)                                             

 照爽娠(アン・ジュヨップ)(2001a)『搾舛莫悦稽税 叔殿人 舛奪引薦(1)(非典型勤労の  実態と政策課題(1)),廃厩葛疑尻姥据(韓国労働研究院)                                                           

 照爽娠(2001b)(アン・ジュヨップ)『搾舛莫悦稽税 叔殿人 舛奪引薦(2)(非典型勤労の  実態と政策課題(2)),廃厩葛疑尻姥据(韓国労働研究院)

 照爽娠(2001c)(アン・ジュヨップ)「舛鋭悦稽人 搾舛鋭悦稽税 績榎維託(正規勤労と非  正規勤労の賃金格差),廃厩葛疑井薦俳噺(韓国労働経済学会)『葛疑井薦轄増(労働  経済論集), 24 1(24巻第1号)                             

 訶鱆f(1999)「韓国労使関係の新たな実験()()」法政大学大原社会問題研究所『大  原社会問題研究所雑誌』No.492,493                    

 訶鱆f(2002)「搾舛鋭 葛疑税 叔殿人 繕送鉢 庚薦(非正規労働の実態と組織化の問題)

  」,廃厩至穣葛疑俳噺(韓国産業労働学会)『至穣葛疑尻姥(産業労働研究),8 2  硲(第8巻第2号)

  訶鱆f, 鑠谺ク, 畠爽発(ホン・ジュファン),辞舛慎爽(ソチョン・ヨンジュ)(2001)   搾舛鋭葛疑切人 葛疑繕杯(非正規労働者と労働組合), 穿厩肯爽葛疑繕杯恥尻戸(全  国民主労働組合総連盟)                                                      穿厩肯爽葛疑繕杯恥尻戸(全国民主労働組合総連盟)(1996)『葛疑獣舌 政尻鉢税 薄伐引  舛奪引薦(労働市場の柔軟化と現況と政策課題),穿厩肯爽葛疑繕杯恥尻戸(全国民主  労働組合総連盟)               

 鑠谺ク(2002a)「搾舛鋭 葛疑税 失維引 推昔: 廃厩引 析沙税 搾嘘(非正規労働の性  格とその要因:韓国と日本の比較),廃厩紫噺俳噺(韓国社会学会)『廃厩紫噺俳(韓  国社会学),36 1(36集第1号)                                  鑠谺ク(2002b)「析沙税 搾舛鋭葛疑切級精 嬢属辞 幻膳背 馬澗亜(日本の非正規労働者  はなぜ満足するのか),廃厩至穣葛疑俳噺(韓国産業労働学会)『至穣葛疑尻姥(産業  労働研究), 8 2(第8巻第2号)                                   鑠谺ク(2003)「搾舛鋭葛疑税 鯵割舛税 鋭乞蓄舛拭 企廃 馬蟹税 羨悦(非正規労働  の概念定義及び規模推定に対する一つの接近), 廃厩至穣葛疑俳噺(韓国産業労働学  会)『至穣葛疑尻姥(産業労働研究),9 1(第9巻第1号)              鑠谺ク他(2001)『搾舛鋭葛疑引 舛奪企照税 乞事-獣肯錘疑税 淫繊拭辞(非正規労働と  政策対案の模索−市民運動の観点から),凧食紫噺尻姥社(参与社会研究所)       舛昔呪(チョン・インス)(1997)『昼穣莫殿 陥丞鉢人 舛奪引薦(就業形態の多様化と政  策課題), 廃厩葛疑尻姥据(韓国労働研究院)

 舛遭硲(チョン・ジノ)(2001)「壱遂莫殿 陥丞鉢人 置悦税 績榎叔殿(雇用形態の多様化

  と最近の賃金実態),葛疑採(労働部)2000鰍亀 績榎叔殿繕紫(2000年度賃金実態  調査)』.  

 繕井壕(チョ・ギョンベ)(1999)「搾舛鋭送 悦稽切税 壱遂左舌(非正規職勤労者の雇用  保障),肯爽爽税狛俳尻姥噺(民主主義法学会)『肯爽狛俳(民主法学),15(15  号)      

 置姥幸(チェ・クムック)(2002)IMF 井薦是奄 戚板 搾舛鋭悦稽切税 装亜据昔 歳汐   貢引薦(IMF 経済危機以降の非正規勤労者の増加原因の分析及び課題),廃厩紫噺俳  噺(韓国社会学会)『廃厩紫噺俳(韓国社会学), 36 5(36集第5号)

 置井呪(チェ・ギョンス)(2001)「搾舛莫悦稽切税 鋭乞税 厩薦搾嘘(非典型勤労者の規  模の国際比較),廃厩葛疑井薦俳噺 2001 俳綬室耕格 切戟増(韓国労働経済学会  2001年学術セミナー資料集)『搾舛莫悦稽切税 鋭乞人 叔殿(非典型勤労者の規模と  実態)』.

 廃厩葛疑尻姥据(韓国労働研究院)(2001)『廃厩 亜姥税 鯵昔税 井薦醗疑(韓国世帯の個  人の経済活動)(2),廃厩葛疑尻姥据(韓国労働研究院)

 廃厩搾舛鋭葛疑湿斗(韓国非正規労働センター)(2002)「搭域稽 廃厩税 搾舛鋭葛疑  切 2002(統計で見た韓国の非正規労働者2002),廃厩搾舛鋭葛疑湿斗(韓国非正規労  働センター) 『搾舛鋭葛疑(非正規労働),2002 12杉硲(200212月号)

 廃層, 舌走尻(ハン・ジュン,チャン・ジヨン)(2000)「舛鋭/ 搾舛鋭 穿発聖 掻宿生稽 沙  昼穣径(Work History) 持蕉引舛(Life-Course)(正規/非正規転換を中心に見た就業歴  と生涯過程),廃厩葛疑井薦俳噺(韓国労働経済学会)『葛疑井薦轄増(労働経済論集),   薦23 働紺硲(23巻特別号)

 Elliot, L. and Atkinson, D.(1998), The Age of Insecurity, Verso. 

 Heery, E. and Salmon, J.(2000),The Insecurity Thesis in Heery and Salmon (eds.), The      Insecure Workforce, Routledge.     

 OECD(1999), Employment Outlook, OECD.

 OECD(2002),Taking the Measure of Temporary Employment, Employment Outlook, OECD.

 

 

〈表1〉IMF経済危機以降の韓国経済の主要指標の動向                                                     

 

 1997

 1998

 1999

 2000

 2001

 2002

 

実質経済成長率(%)

  5.0

  -6.7

 10.9

  9.3

  3.1

  6.3

 

消費者物価上昇率(%)

  4.4

  7.5

  0.8

  2.3

  4.1

  2.7

 

失業率(%)

  2.6

  7.0

  6.3

  4.1

  3.8

  3.1

 

非正規職比率(%)

 45.7

 46.9

 51.6

 52.1

 50.8

 51.6

 

ジニー係数(都市労働者世帯)

 0.283

 0.316

 0.320

 0.317

 0.319

 0.312

 

 

 

〈表2〉IMF経済危機以降の従事上の地位別賃金労働者の比重の推移

                                                        (単位:千人、%)                          

 

 賃金労働者

 常用労働者

 

 

 

 

 

  全 体

 (正規労働者)

  全 

 臨時労働者

 日雇い労働者

 

 1997

 13,404(100.0)

  7,282( 54.3)

  6,122( 45.7)

  4,236( 31.6)

  1,886( 14.1)

 

 1998

 12,296(100.0)

  6,534( 53.1)

  5,762( 46.9)

  4,042( 32.9)

  1,720( 14.0)

 

 1999

 12,663(100.0)

  6,135( 48.4)

  6,529( 51.6)

  4,255( 33.6)

  2,274( 18.0)

 

 2000

 13,360(100.0)

  6,395( 47.9)

  6,965( 52.1)

  4,608( 34.5)

  2,357( 17.6)

 

 2001

 13,659(100.0)

  6,714( 49.2)

  6,944( 50.8)

  4,726( 34.6)

  2,218( 16.2)

 

 2002

 14,181(100.0)

  6,862( 48.4)

  7,319( 51.6)

  4,886( 34.5)

  2,433( 17.2)

 

 資料:統計庁『経済活動人口年報』各年版.

 

〈表3〉非正規職労働者の活用理由

                                                             (単位:%)                        

 

 

 韓国労働研究院

 韓国労働研究院

 

 

     (1996)

     (1997)

     (2002)

 

人件費節減のため

     47.8

     17.1

     48.9

 

労働力調節が容易なため

     35.9

     17.1

     79.9

 

一時的な業務量の変化に対応するため

     20.0

     29.9

     49.9

 

専門的技術、知識のため

      5.4

      4.0

     20.4

 

正規職が嫌がる業務

     16.3

     12.2

     30.5

 

正規職確保が困難なため

     12.0

     13.4

     

 

労使紛糾を防ぐため

     21.7

     

     17.5

 

その他

     18.4

      6.4

     

 

 )民主労総(1996)の調査は複数回答,韓国労働研究院(1997)の調査は択一型応答,

  韓国労働研究院(2002)の調査は各項目に「はい」、「いいえ」で応答.

 資料:全国民主労働組合総連盟(1996);チョン・インス(1997);尹辰浩他(2001);キム・ユソン(2003c)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

〈表4〉雇用形態別労働者の構成(2002.8)

                                                             (単位:千人,%)                        

 

賃金労働者全体

 日雇い労働者

 

全体

 13,631(100.0)

  6,598(100.0)

  4,568(100.0)

  2,375(100.0)

 

正規職

     43.4

     89.8

      0.0

      0.0

 

臨時職

     39.7

      5.3

     79.9

     56.1

 

常用パートタイム

      0.0

      0.1

      0.0

      0.0

 

臨時パートタイム

      4.1

      0.0

      5.0

     13.7

 

呼出勤労

      2.7

      2.1

      0.0

     15.3

 

独立請負

      5.1

      0.7

      8.8

      6.5

 

派遣勤労

      0.6

      0.7

      0.6

      0.6

 

用役勤労

      2.5

      1.7

      3.8

      2.5

 

在宅勤労

      1.8

      0.4

      1.9

      5.4

 

 注)各雇用形態の定義は次の通りである

  正規職:期間を定めない雇用契約を結んでいる、フルタイムで働いている労働者で、非正規職雇用形態でな      い労働者。

臨時職:雇用契約期間が定められている労働者。

常用パートタイム:常用労働者として時間制で働いている労働者。

臨時パートタイム:臨時労働者または日雇い労働者として時間制で働いている労働者。

呼出勤労:勤労契約を定めないで、仕事ができたとき呼び出されて、数日または数週間働く労働者。

派遣勤労:雇用された業体と勤務する業体が異なり、賃金は元々所属している業体(派遣業体)から貰うが、     勤務は違う業体(派遣先業体)でする労働者。

用役勤労:用役業体で雇用されて賃金を貰うが、この業体と用役契約を結んだ異なる業体で勤労を提供して     いる労働者。

在宅勤労:在宅勤務、家内下請けなどのように、事業所でなく家庭で働いている労働者。

 資料:韓国非正規労働センター(2002)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

〈表5〉正規職と非正規職労働者の人的属性の比較

                                          (単位:%)                                                 

 

 

 非正規職

 

        全   体

   100.0

   100.0

 

性別・婚

未婚男子

    14.2

    17.0

 

姻状態別

既婚男子

    58.1

    31.7

 

 

未婚女子

    13.2

    14.3

 

 

既婚女子

    14.5

    36.9

 

年齢別

20才未満

     0.5

     3.5

 

 

2029

    25.9

    25.7

 

 

3039

    34.4

    25.1

 

 

4049

    26.5

    24.0

 

 

5059

    10.6

    13.1

 

 

60才以上

     2.0

     8.6

 

学歴別

中卒以下

     9.9

    33.1

 

 

高卒

    40.7

    48.1

 

 

短大卒

    13.9

     8.2

 

 

大卒以上

    35.5

    10.6

 

産業別

農林水産業

     0.1

     1.8

 

 

鉱工業

    33.2

    18.6

 

 

電気・ガス・水道業

     0.7

     0.1

 

 

建設業

     5.1

    12.7

 

 

卸・小売業

     8.0

    16.9

 

 

宿泊・飲食業

     1.2

    13.0

 

 

運輸・通信業

     9.3

     4.1

 

 

金融・保険・不動産業

     7.1

     6.2

 

 

事業サービス業

     7.4

     7.9

 

 

公共行政

     8.4

     2.3

 

 

教育・保険・社会福祉業

    14.4

     8.3

 

 

娯楽・文化・スポーツ業

     1.1

     2.0

 

 

その他サービス業

     3.9

     6.2

 

職業別

役員・管理職

     0.4

     0.5

 

 

専門職

    15.6

     4.7

 

 

技術職

    15.0

     7.8

 

 

事務職

    29.2

    10.7

 

 

サービス職

     4.5

    16.6

 

 

販売職

     2.1

    12.4

 

 

農林水産業職

     0.1

     0.6

 

 

技能職

     9.4

    17.1

 

 

生産職

    17.0

     7.9

 

 

単純労務職

     5.4

    21.7

 

企業

14

     4.8

    36.7

 

規模別

59

     9.4

    23.9

 

 

1029

    19.5

    19.9

 

 

3099

    28.1

    12.8

 

 

100299

    15.9

     3.4

 

 

300人以上

    22.3

     3.2

 

 注)企業規模別分布は2000年の調査資料である。

 資料:キム・ユソン(2003c);チェ・ギョンス(2001)

 

〈表6〉正規職と非正規職の賃金の比較(月平均)

                                                                                                    

 

 正規職

非正規職

 B/A(%)

 

全体平均(万ウォン)

  182

   96

  52.7

 

 男子

  202

  116

  57.4

 

 女子

  131

   77

  58.8

 

時間当たり賃金(ウォン)

 10,504

  5,369

  51.1

 

最低賃金未満(万人)

    2

   62

  31()

 

最低賃金未満比率(%)

   0.3

   8.0

  27()

 

 

20万ウォン未満

   0.0

   3.5

 

 

20-30万ウォン

   0.1

   3.8

 

 

30-40万ウォン

   0.0

   4.0

 

 

40-50万ウォン

   0.4

   7.6

 

 

50-60万ウォン

   1.2

   8.7

 

 

60-70万ウォン

   3.0

  10.1

 

 

70-80万ウォン

   4.5

  11.9

 

 

80-90万ウォン

   4.0

   7.5

 

 

%

90-100万ウォン

   7.0

  12.7

 

 

 

100万ウォン以上

  79.8

  30.3

 

 

 資料:キム・ユソン(2003c);韓国非正規労働センター(2002)

 

〈表7〉雇用形態別週当たり労働時間の比較

                                                                                                    

 

  平 均

              ()

 

 

(時 間)

36時間未満

 36-44時間

 45-50時間

 51-56時間

56時間超過

 

  全 体

    44.8

    17.2

    30.4

    20.0

  11.9

  20.5

 

   正規職

    44.0

    13.1

    38.1

    20.9

    11.6

    16.2

 

 非正規職

    45.5

    20.3

    24.5

    19.3

    12.1

    23.8

 

 臨時勤労

    45.3

    20.8

    24.5

    19.3

    12.1

    23.4

 

  パートタイム

    22.3

    89.0

     7.7

     1.5

     0.6

     1.2

 

  呼出勤労

    38.0

    39.6

    25.9

    13.9

     6.6

    13.9

 

  独立請負

    43.2

    21.7

    31.6

    18.3

     8.7

    19.8

 

 派遣勤労

    47.8

    14.8

    28.4

    15.9

     9.1

    31.8

 

 用役勤労

    50.3

    13.9

    24.3

    19.1

     9.8

    32.9

 

 家内勤労

    37.4

    40.8

    21.0

    13.0

    10.1

    15.1

 

 資料:キム・ユソン(2003c)

 

〈表8〉非正規労働者の雇用契約の有無

                                      (単位:%)                                              

 

  全 体

契約期限あり

契約期限なし

 

 全 体

   100.0

     5.7

    94.3

 

正規労働者

   100.0

     1.8

    98.2

 

非正規労働者

   100.0

    14.8

    85.2

 

  注:韓国労働研究院が調査した『韓国労働パネル』資料によるもの

 資料:韓国労働研究院(2001)

 

 

 

 

〈表9〉雇用契約期間別、勤続年数別労働者数

                                            (単位:千人,%)                                        

勤続年数

  

 無 期 限

  合 計

 

 

 1年未満

 1年以上

 

 

1年未満

  818( 79.3)

  113( 21.5)

 4,121( 36.1)

 5,052( 39.0)

 

1-2年未満

   70(  6.7)

   61( 11.6)

 1,497( 13.1)

 1,627( 12.5)

 

2-3年未満

   25(  2.5)

   28(  5.3)

  617(  5.4)

  668(  5.1)

 

3年以上

  119( 11.5)

  324( 61.6)

 5,176( 45.4)

 5,619( 43.3)

 

 1,081(100.0)

  526(100.0)

11,408(100.0)

12,966(100.0)

 

 資料:『経済活動人口付加調査』(2000.8)原資料(丁怡煥他(2001)から再引用)

 

〈表10〉雇用形態別付加給付及び社会保険の適用比率

                                                              (単位:%)                       

 

       付 加 給 付

       社 会 保 険

 

 

 退職金

 ボーナス

超過勤労手当

 国民年金

 健康保険

 雇用保険

 

全体

   48.3

   48.0

  39.0

   52.3

   55.1

   47.4

 

正規職

   93.2

   92.5

   76.8

   92.3

   94.6

   79.1

 

非正規職

   13.9

   14.0

   10.1

   21.6

   24.9

   23.2

 

  臨時職

   11.4

   11.7

    8.4

   19.3

   22.6

   21.2

 

  パートタイム

    1.5

    1.6

    3.0

    2.1

    2.6

    3.1

 

 呼出勤労

   

   

    1.2

   

   

    0.5

 

 独立請負

   18.6

   19.3

   13.8

   23.8

   26.1

   23.7

 

 派遣勤労

   51.7

   42.7

   29.2

   51.7

   52.8

   53.9

 

 用役勤労

   39.0

   32.9

   21.7

   48.0

   63.3

   50.0

 

 家内勤労

    8.4

    8.4

    7.6

   10.9

   12.6

   10.5

 

 資料:韓国非正規労働センター(2002);キム・ユソン(2003c)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

〈表11〉非正規勤労者対策に関する労、使、公益委員案の比較

                                                                                                                 

 項 目

     労 働 側

    経 営 側

   公 益 委 員 案

 

差別禁止

・同一労働同一賃金の明文化

・同一労働同一賃金及び差別禁止原

・差別禁止原則の明文化

 

 

 

  則の明文化反対

 

 

期間制勤労

・一定の事由(出産、疾病、季節的

・使用事由の制限反対

・一定期間経過した後にも勤労関係

 

(臨時労働者)

 業務、一時的事由など)に限って

・契約期間の上限の延長(1年→3

 が持続される場合、無期限勤労契

 

 

 認める

 年)

 約とみなす(具体的な期間は未

 

 

・契約期間1年の原則、1回更新を

・無期限契約とみなすことに対する

 定)

 

 

 認める(最長2年)

 反対

・勤労条件を書面で明示することを

 

 

・2年を超過した時には無期限契約

 

 義務づける

 

 

 とみなす

 

・期間制勤労者の通常勤労者への転

 

 

 

 

 換努力

 

 

 

 

・契約期間の上限線延長(1年→?)

 

派遣勤労

・現行派遣法の廃止

・派遣勤労許容業種をnegative方式

・不法派遣に対する規制の実効性の

 

 

・派遣対象業務の制限(専門知識を

 に転換

 確保

 

 

 要求されるなどの適切な事由があ

・派遣期間制限の廃止、労使合意で

・労使が参加する別の機構によって

 

 

 る業務)

 更新を可能に

 派遣許容業務を定例的に決める

 

 

・派遣勤労の許容期間は1年、反復

・中高年に対する派遣期間の延長

・派遣期間(2)満了後、引き続き

 

 

 更新して最長2年まで認める(現

・同一業務の継続使用を認める

 使用するとき、使用事業主の直接

 

 

 行維持)

 

 雇用と見なす(現行規制)

 

 

・同一業務の継続使用の禁止

 

・高齢者派遣期間の延長を認める

 

 

 

 

・登録、募集型派遣を是正する

 

 

 

 

・派遣勤労者に対する集団的権利を

 

 

 

 

 保障

 

短時間勤労

・短時間勤労の上限を設定(通常勤

・短時間勤労の上限設定反対(現行

・比例保護原則の適用(休暇、休日

 

 

  労者の所定勤労時間の70%)

 維持)

 は通常勤労者と同一に付与)

 

 

・所定勤労時間を超過する際には加

・加算賃金支給反対(現行維持)

・超過勤労の上限線の設定、または

 

 

 算賃金の支給

 

 法定勤労時間内の超過勤労に対し

 

 

・超短時間勤労者(115時間未満)

 

 て加算賃金を支給

 

 

 に対する法の適用除外(休暇、退

 

・超短時間勤労者の保護

 

 

 職金)を廃止する

 

・通常勤労者間の転換規定

 

 

 

 

・書面契約締結義務

 

特殊形態(

・労働法上の勤労者として(部分的

・勤労者性の認定に反対、個別事案

・特殊形態勤労従事者保護の必要性

 

立請負)勤労

 に)認定

 別判例に依る(現行維持)

 を認める

 

 

・労働組合法及び労働関係調整法上

・労働組合及び労働関係調整法の改

・事案の重大性に照らして深みのあ

 

 

 の勤労者及び使用者の定義の追加

 正反対

 る論議と研究が必要

 

 

 補完(労働三権の認定)

・民法、商法、経済法的保護法案の

・労使政委員会内に特別委員会を設

 

 

・勤労基準法上の使用者と勤労者概

 講究

 置して引き続き論議する

 

 

 念の拡大の必要(勤労基準法上の

 

 

 

 

 保護)

 

 

 

 資料:労使政委員会(2003);労使政委員会非正規勤労者対策特別委員会(2003a)(2003b);丁怡煥他(2001)等を    総合。

 

中国の雇用問題と政府役割(要旨)

中国 復旦大学 厳法善

 

 新中国成立後、中国人民の半世紀余りにわたる努力を経て、中国の社会経済は天地をくつがえさんばかりの変化が生じた。社会経済の迅速な発展につれて、労働就業面においても輝かしい実績を残した。それは主に以下の三つの側面に現れた。すなわち、就業規模が絶えず拡大したこと、就業構造が次第に最適化されたこと、社会主義市場経済の就業管理体制が形成されつつあることである。

現在中国が直面しているのは、都市部の新規労働力の就業問題、農村労働力移転の問題、一時帰休者の再就職問題が同時進行的に発生している状況であり、就業面における主要な矛盾は労働者の完全就業の要求及び労働力総量が過大である一方、労働力の素質が経済発展の要求に適応できていないことである。就業需要と提供可能な就業機会の側面からみて、今後かなり長い時期において、就業問題は中国の社会経済生活における際立った不安定要因となろう。

具体的に言うと、まずは、労働力の大幅な供給超過の問題である。中国は人口が多く、労働力も豊富で、しかも労働力の構造調整もあり、21世紀入ってから、中国都市部の新規労働力は毎年600万人ぐらいの勢いで増加しており、それに加えて、農村余剰労働力の都市への移動が毎年800万人ぐらいあり、一時帰休者で再就職希望者も600万人ぐらいいる。その上で前年度積み残し分の離職者などを足すと、就業圧力は毎年2500万人ぐらいになるものと思われる。しかし、GDPの7%成長と、産業構造、企業構造が雇用に有利なほうに調整されるとしても、せいぜい1000万程度の雇用を提供できるに過ぎず、雇用情勢はかなり厳しく、年度の労働力供給超過が1500万人に上る。その一方で、農村にはさらに1.5億にも達する余剰労働力が待機しており、都市と農村の雇用圧力が両者並存している状況にある。

2つ目は雇用構造のアンバランスが著しい問題である。国有企業改革と経済の構造調整の強化により、技術の進歩はますます加速され、伝統産業から大量な帰休者や失業者が現れ、多くの人が再就職難に遭遇した。一方、新興産業や職種が必要とする質の高い労働力人は供給不足になっている。

3番目の問題は一時帰休者の再就職問題である。競争が激化するなかで、企業は絶えず人員削減をしてきた。国有企業の戦略的調整により離職した人々を含むと、雇用総数の増加率いっそう低下した。

都市部の新規労働力は非弾力的で、経済の構造調整も揺るがないものである。国有企業の一時帰休者は国有企業の競争力向上に関わるもので、ないがしろにすることができない。農村労働力の都市部及び非農業産業への移動は、中国の工業化と都市化の必然の形勢でもある。「四管同時排水」は中国が特殊な時期に出くわした特殊な局面である。どれをとっても排水する必然性があり、絶対に必要なものだが、4本のパイプが集中して限られた時間と空間内で競って排水したことと、都市部の雇用を受け入れるキャパシティが近年ちょうど小さくなったところにこれが発生したことから、深刻な雇用困難がもたらされた。またこれらの問題は直接中国の社会の安定と発展に影響を与えかねないものでもある。

近年、農村から都市に就労する臨時就労者の規模の変動が大きく、都市部の労働力需要が一定の限度がある情況の下で、農民の都市部への就労は都市部の雇用圧力をいっそう増大させた。しかし農村から都会への流入が社会が発展していく過程で必然的に発生するものである以上、農村からの流入を人為的に阻止するのが得策ではなく、市場メカニズムを通じて調節すべきであろう

労働は人々が収入を得る主なルートで、大多数の人民の生計を立てる手段である。比較的に充分な雇用は、小康社会を建設する重要な手段だけではなく、小康社会の達成を評価するの重要な指標でもある。就業は人民の生活の基本的要求であり、雇用促進と全面的に小康社会を建設することは互いに補完し合うもので、分離して考えるべきものではない。

市場メカニズムの調節機能と政府の役割をうまく結び付けることが、中国の雇用及び再雇用問題を解決する正しい選択である。労働力資源の配置において存分に市場メカニズムの基礎的役割を発揮する前提の下で、政府の積極的雇用政策は以下の4つの内容を含むべきであると考える。すなわち、一、適切に帰休者の再雇用事業を行い、二、多様的雇用形式を引き続き創造し、三、都市部の新規労働力と農村余剰労働力の雇用を全般的に計画し、四、失業を抑える措置をとる。

現在中国が直面している厳しい雇用情勢に鑑みて、政府は以下のいくつかの面で努力すべきであろう。

政府は積極的な政策措置を通じて、経済のより速い成長を保証し、より多くの雇用機会を創出して、雇用問題の解決を図るべきである。そして、労働力市場の建設を強化し、労働力の供給と需要の間の橋渡しをすべきである。また、都市部の失業問題を解決するには、政府が職業訓練に力を入れ、労働者の技能と再就職能力を高め、全面的に就業にかかわるサービスを提供しなければならない。

一時帰休者及び失業者の一部は年齢が高く、教育水準が低く、労働技能も単一で、市場調節だけで再就職を実現するのは困難である。これらの人々に対して、自主就業を奨励すると同時に、政府は特殊な政策でサポートを与え、再就職できるように手助けをすべきである。

中小企業は雇用を吸収する最も主要なルートであり、中小企業の発展を促進することは雇用の増加につながる。

私営、個人、株式制企業が労働力市場の需要主体である。今後一定期間内において、私営、個人などの経済形態の就業者数が全就業者に占める比重(割合)がますます高くなるであろう。政府はより柔軟な政策環境をつくって、私営や個人経済の発展を促すようにすべきである。

発展は第一義的なもので、経済発展を通じて雇用拡大を図ることは、雇用問題解決の根本的な道である。中国はすでに積極的就業政策の基本的枠組みを初歩的に形成した。この枠組みの基本的な内容は以下のとおりである。1、経済成長を高めることで雇用拡大を図るマクロ経済政策。これらの政策は主に総就業者数の拡大と、雇用機会の創造を奨励するものである。2、一時帰休者の再就職促進を重点とする扶助政策。これらの政策は、主に政策的てこを使って新たに創出した雇用機会を、優先的に再就職困難な階層に与えることに用いられる。3、労働力需給の合理的な均衡を方向とする労働力市場政策。主に就業関連サービスと職業訓練を通じて、労働力市場の需給の間合理的均衡を促す。4、失業抑制を方向とするマクロコントロール政策。主に企業の雇用調整を規範化し、大企業による余剰人員の吸収を奨励し、社会の失業圧力を軽減する。5、一時帰休者の生活保障を方向とする社会保障政策。主に一時帰休者を中心とする就業困難者層の社会保障問題に関するものである。基本的な社会保障制度を作ることは、雇用問題の社会への圧力を緩和できるだけでなく、労働力の充分な流動を促すことで、就業圧力の分散と分解に役立ち、労働力市場にとって「緩衝装置」と「潤滑油」のような役割をも果たしている。これら五つの面の基本内容は相互関連性をもち、互いに支えあい、互いに促進する、ひとつの比較的に整った全体的体系を構成するものである。これらのことをきちんと実行できれば、中国の厳しい雇用問題は緩和ないし解決をみることもありうるであろう。

 

中国の雇用状況と政府の役割

中国 復旦大学 厳法善

 

 新中国成立後、中国人民の半世紀余りにわたる努力を経て、中国の社会経済は天地をくつがえさんばかりの変化が生じた。社会経済の迅速な発展につれて、労働就業面においても輝かしい実績を残した。それは主に以下の三つの側面に現れた。すなわち、就業規模が絶えず拡大したこと、就業構造が次第に最適化されたこと、社会主義市場経済の就業管理体制が形成されつつあることである。

 1949年、中国の都市労働力は普遍的な失業の状態にある。全都市部就業者が1533万人にすぎないのにたいして、失業者が474.2万人に達して、失業率は23.6%達していた。このような局面を迅速に転換させるために、中国政府は積極的に経済を発展させると同時に、さまざまな措置をとって都市の就業問題の解決を図った。1952年には、中国の都市部の従業員が急速に2486万人までに増加し、失業者が376.6万人まで減り、都市部の失業率が13.2%にまで下がった。1957年には、都市部の就業者が3205万人を達し、失業率も6%以下にまで低下した。以前の計画経済体制下の就業システムは、失業をなくすことを目標としていた。国家一手引受けによる統一配分方式をとり、企業においては「3人の仕事を5人でやり」、「広く就業門戸を開く代わりに、賃金水準を低く」され、効率が低くて、実際には潜在失業が存在した。1958年以降、特に文化大革命以降、就業問題はずっと中国社会に影さす重大な問題であった。1978年後、中国は全部で3.3億の就業ポストを創出し、都市と農村の就業者は現在7.3億人にまで増加した。2億余りの農村労働力は多種のチャンネルを通じて非農業就業を実現した。第3次産業就業者の全就業者に占める割合は1978年の 12.2%から2001年の27.7%にまで増加した。1998から2002年の間に、1800万人の国有企業一時休業者が多種多様の形式通じて再就職を実現した。しかし、市場メカニズムを通じて新しく増えた労働力の就業問題を解決することに比較的に明らかな効果を上げた一方で、国家一手引受による統一配分方式を廃止したために、国家は企業余剰人員問題の解決に着手した。冗員を減らすことで国有企業の効率を高めようとする、国有企業の改革調整は、一部の労働者を離職または失業させ、以前の計画経済体制下の潜在失業を顕在化したのである。2002年末には、中国の都市と農村の登録失業率が4%に達した。中国の失業者登録には一時帰休者を含まないため、実際の失業率は都市と農村の登録失業率よりも高くなっているはずである。

 現在中国が直面しているのは、都市部の新規労働力の就業問題、農村労働力移転の問題、一時帰休者の再就職問題が同時進行的に発生している状況であり、就業面における主要な矛盾は労働者の完全就業の要求及び労働力総量が過大である一方、労働力の素質が経済発展の要求に適応できていないことである。就業需要と提供可能な就業機会の側面からみて、今後かなり長い時期において、就業問題は中国の社会経済生活における際立った不安定要因となろう。具体的に言うと、

 まずは、労働力の大幅な供給超過の問題である。中国は人口が多く、労働力も豊富で、しかも労働力の構造調整もあり、21世紀入ってから、中国都市部の新規労働力は毎年600万人ぐらいの勢いで増加しており、それに加えて、農村余剰労働力の都市への移動が毎年800万人ぐらいあり、一時帰休者で再就職希望者も600万人ぐらいいる。その上で前年度積み残し分の離職者などを足すと、就業圧力は毎年2500万人ぐらいになるものと思われる。しかし、GDPの7%成長と、産業構造、企業構造が雇用に有利なほうに調整されるとしても、せいぜい1000万程度の雇用を提供できるに過ぎず、雇用情勢はかなり厳しく、年度の労働力供給超過が1500万人に上る。その一方で、農村にはさらに1.5億にも達する余剰労働力が待機しており、都市と農村の雇用圧力が両者並存している状況にある。

2つ目は雇用構造のアンバランスが著しい問題である。国有企業改革と経済の構造調整の強化により、技術の進歩はますます加速され、伝統産業から大量な帰休者や失業者が現れ、多くの人が再就職難に遭遇した。一方、新興産業や職種が必要とする質の高い労働力人は供給不足になっており、特にWTO(世界貿易機関)加盟の初期には、地域、産業ごとの労働力の需給のアンバランスがいっそう激化することも予想される。産業の高度化と資本集約型、技術集約型産業の比重の上昇にともない、吸収できる労働者が相対的に減少するであろう。ある試算によると、GDPの1ポイント成長がもたらす雇用増加率は、20世紀80年代は0.32であったが、90年代は0.1ポイントに下がったという。

3番目の問題は一時帰休者の再就職問題である。競争が激化するなかで、企業は絶えず人員削減をしてきた。国有企業の戦略的調整により離職した人々を含むと、雇用総数の増加率いっそう低下した。一時帰休者の多くが高齢者層に属し、その上で単一の労働技能しかもっていないものも多いため、労働力市場での競争力が弱く、再就職の難度はいっそう大きい。雇用問題の焦点が一時帰休者の再雇用に集中しており、すでに各方面に影響を及ぼす重大な社会経済問題となった。一時帰休者がかりに長期的に再就職が実現できなければ、社会的帰属感及び安全感を欠けるようになり、心理状態のアンバランスと消極的な情緒が生まれやすく、これ自身企業および社会に対する不安定要素となりうる。

人口予測によれば、2010年には、中国の15歳から59歳の労働年齢人口が9.2億人に達し、2020年には、さらに9.4億人にまで増加するといわれる。そのため、21世紀最初の20年において、雇用拡大は中国が長期的に直面するであろう重大な課題であり、いついかなる時も気をゆるめることはできない。現在中国に構造的失業問題が存在しているが、それよりも重大なのは、やはり労働力の供給総数が需要量をはるかに上回っていることである。特に経済のグローバル化を背景にして考えると、中国の労働力過剰問題はいっそう際立ってみえる。実は、これこそ中国が労働雇用分野において直面しているより深刻でより緊迫な問題なのである。

都市部の新規労働力は非弾力的で、経済の構造調整も揺るがないものである。国有企業の一時帰休者は国有企業の競争力向上に関わるもので、ないがしろにすることができない。農村労働力の都市部及び非農業産業への移動は、中国の工業化と都市化の必然の形勢でもある。「四管同時排水」は中国が特殊な時期に出くわした特殊な局面である。どれをとっても排水する必然性があり、絶対に必要なものだが、4本のパイプが集中して限られた時間と空間内で競って排水したことと、都市部の雇用を受け入れるキャパシティが近年ちょうど小さくなったところにこれが発生したことから、深刻な雇用困難がもたらされた。またこれらの問題は直接中国の社会の安定と発展に影響を与えかねないものでもある。

雇用戦略はトータルなもので、積極的な雇用政策も全社会の雇用問題に向けるべきである。そのため、重点として国有企業の一時帰休者及び失業者の再就職問題を解決する一方で、都市部の新規労働力及び農村からの転換労働力の雇用問題にも高度に重視し、それらを都市農村全体の雇用戦略に組み込み、しかも関連する政策的措置で保障すべきである。全体的に見て、東部地区と省都都市の雇用機会が比較的多く、これらの地域は当地区の労働力を吸収する以外に、毎年大量の外来労働力も吸収できるであろう。

近年、農村から都市に就労する臨時就労者の規模の変動が大きく、都市部の労働力需要が一定の限度がある情況の下で、農民の都市部への就労は都市部の雇用圧力をいっそう増大させた。しかし農村から都会への流入が社会が発展していく過程で必然的に発生するものである以上、農村からの流入を人為的に阻止するのが得策ではなく、市場メカニズムを通じて調節すべきであろう。国勢調査の資料もはっきり示しているように、都市における流動人口の失業率は都市住民のそれよりもずっと低い。全国の平均的水準で見ると、2000年の都市部の当地労働力失業率が年9.1%であるのに対し、都市間移動者の失業率が7.9%で、農村から都市への移動者の失業率が3.6%であった。都市間移動者の失業率は都市住民の失業率に近いが、農村から移動してきた労働者は都市部住民の失業率の半分にも満たない。一般的に、農村からの労働者は職集を選り好みすることなく、市場経済の要求に比較的にうまく適応できるようである。

労働は人々が収入を得る主なルートで、大多数の人民の生計を立てる手段である。仕事のポストを失うことは、ただ単に人々に“生活のよりどころ”を失わせ、生活を貧困に陥れるだけでなく、そのうえ人々を社会から隔離させ、時代の歩みについていけなくしてしまう。比較的に充分な雇用は、小康社会を建設する重要な手段だけではなく、小康社会の達成を評価するの重要な指標でもある。就業は人民の生活の基本的要求であり、比較的に普遍的な就業を実現することができなければ、小康社会の実現ができないばかりか、一定規模の都市部貧困者層を形成し、大多数の人民大衆の衣食住及び医療衛生、就学や旅行などの、人間生活における基本的かつ切実な生活利益に多大な影響を与えるであろう。したがって、雇用促進と全面的に小康社会を建設することは互いに補完し合うもので、分離して考えるべきものではない。

市場メカニズムの調節機能と政府の役割をうまく結び付けることが、中国の雇用及び再雇用問題を解決する正しい選択である。中国共産党中央と国務院が“合併を奨励し、破産を規範化し、帰休者を分散就職させ、リストラと効率アップと同時に再就職プロジェクトを実施する”方針を制定してから、“労働者主体で、市場調節を通じて、政府が促進する”就業メカニズムが一応形成された。労働力資源の配置において存分に市場メカニズムの基礎的役割を発揮する前提の下で、政府の積極的雇用政策は以下の4つの内容を含むべきであると考える。すなわち、一、適切に帰休者の再雇用事業を行い、二、多様的雇用形式を引き続き創造し、三、都市部の新規労働力と農村余剰労働力の雇用を全般的に計画し、四、失業を抑える措置をとる。

中国の雇用問題への対策として、労働力市場を大いに育成し、発展させる前提下において、政府が取れる政策措置が主に以下の3種類に分けることができる。1つは、中国の就業問題が主に構造的失業問題であるとの判断に基づき、労働力のサプライサイドに対して実施される各種の措置、たとえば、失業者、一時帰休者の再就業訓練、職業教育の拡大、高等教育の発展、全国の都市部であまねく労働予備制度の設置など、もう1つは経済発展、特に労働集約型産業の発展に関連するさまざまな政策措置で、経済発展を通じてより多くの労働力を吸収することに期待するもの、3番目は自ら職を求め、自ら雇用した労働者に対して提供される優遇政策に関連するものである。

現在中国が直面している厳しい雇用情勢に鑑みて、政府は以下のいくつかの面で努力すべきであろう。

経済発展を促進し、就業を拡大する。失業の問題の発生は、まず雇用に対する需要不足に起因するもので、政府は積極的な政策措置を通じて、経済のより速い成長を保証し、より多くの雇用機会を創出して、雇用問題の解決を図るべきである。大々的に第3次産業を発展させ、商業貿易、飲食などの伝統的なサービス業の雇用ルートを引き続き広く開拓し、観光業を発展させ雇用を増やし、特に積極的にコミュニティサービス分野を開拓し、重点的に地域住民向けの生活サービス、政府機関や事業所向けのロジスティックサービス及び団地公共管理の仕事や清掃、緑化、保安、公共施設の保全などの公益的就業機会を開拓すべきである。今後の発展趨勢を見ると、雇用問題を解決法の1つが第2次産業、特にコミュニティサービス業、労働集約型産業、中小企業と非公有制経済である。近年の統計データから明らかなように、中国経済は1ポイント成長するごとに、第2次産業に17万人の雇用をもたらすことができるが、第3次産業には85万人の雇用をもたらすことができる。1991年から2000年までの間に、中国の第1次産業就業者が2850万人減少したが、第2次産業は2350万人に増加し、第3次産業は7728万人に増加した。そのほかに、1996年から2001年までの間に、都市部の個人経営私営企業雇用者数が3000万人に近く増え、新規雇用者数の約75%に達する。全国工業部門1.5億人の労働者のうち、中小企業に就労するものが1.1億に上り、中小企業が都市部全体の新規雇用の80%を占めた。新しい情勢のもとでの雇用問題の解決は、経済構造の調整に注意を払うべきであり。より多くの雇用機会を創出するために、雇用吸収能力の強い産業に優遇政策が与えられるべきである。今後数年、中国の都市部新規労働力がピークを迎え、毎年1000万に達するであろう。「第十次五カ年計画期間中」は、およそ1.5億人の農村労働力が非農業分野へ移動する見込みである。改革及び構造調整の深化につれて、一帰休者がさらに増えるであろう。これらの要素が複合作用して、今後一時期、中国が直面する就業圧力がますます増大させよう。世界の経済発展に不確定な要素が存在し、デフレ圧力が依然として存在し、社会投資は本格的スタートが始まる前の状況下において、雇用問題を解決するためには、中国政府いままで確定した経済発展を促進する政策措置は堅持されなければならない。特に内需拡大方針を変えてはならず、積極財政政策は短期的にフェード・アウトすべきではない。

労働力市場の建設を強化し、労働力の供給と需要の間の橋渡しをすることは、政府が雇用促進のための重要な措置の1つである。科学化、規範化、近代化、情報化の要求に即して、投入を増やして、労働力市場の情報ネットワーク建設をきちんと整備し、すべてのコミュニティ、職業教育と訓練期間をこのネットワークでつなぎ、求人情報の集中と公開、求職情報の分析と予測に力を入れ、需給双方を緊密に結びつける。それと同時、地域閉鎖的慣習を打ち破り、労働力の都市と農村間、地域間流動や雇用に環境を作る。地域を跨ぐ労務協力と対外労務輸出を促進する。雇用圧力の大きい地域、特に資源採掘型都市や独立鉱山区に対して、市場ニーズに合わせて接続可能な産業を発展させるようにし、一時帰休者及び失業者を雇用需要のある地域に誘導し、または農村に荒れ山、荒地の開拓を請け負って、栽培業や養殖業に従事することを奨励する。そうすれば、雇用が促進されるだけでなく、そのうえ労働力資源の全国範囲での最適配分の実現にも有利である。沿海部の経済発達地域の競争力を強めることができるだけでなく、後進地域の経済発展を促すことにもつながる。こうした面の政策は早急に整備し、管理を強化して、都市農村間、地域間労働雇用に秩序を確立し、制度化すべきである。

都市部失業者の一部は、産業構造の調整過程の中で、知識や技能が適応できなくなったことが理由である。最近の中国労働力市場情報ネットワーク観測センターの提供したデータによれば、2003年第1四半期の一部都市において、求人が求職を上回る職種の求人率が、次のとおりである。北京では美容理容従事者が18,縫製熟練工が6、天津では保険外務員が8,仕入れ営業が9、重慶では裁縫熟練者への求人率が7,機械電気設備取り付け作業員が8、瀋陽ではNC機械オペレータの求人率が6,金型仕上げ工が7となっている(《経済日報》2003.06.19)。都市部の失業問題を解決するには、政府が職業訓練に力を入れ、労働者の技能と再就職能力を高め、全面的に就業にかかわるサービスを提供しなければならない。まずは各級政府が財政投入を増やし、就業訓練センター及び各種の訓練機関を設立すると同時に、社会の力を就業訓練に参入してくるよう奨励し、公平的な競争環境を形成する。次に大型企業においてあまねく職業訓練センターを設立させ、一時帰休者に対して再就職訓練を行い、知識と技能を更新させ、再就職の助けをする。それと同時に企業の発展要求に沿って、在職者への職業教育や研修なども行い、失業に備える。さらに、政府が就業サービス機関を設立し、失業者の求職や自主創業に対してあらゆる側面からバックアップやサービスを提供する。経済構造を調整する一方で、特に労働集約型産業と企業の発展を重視し、雇用キャパシティを拡大する。今後の重要な活動項目の1つは就業サービス機関を設立、整備し、定員、実員、予算を持った実働機関として、就業サービスを社会の隅々まで行き渡らせるようにすべきである。

一時帰休者及び失業者の一部は年齢が高く、教育水準が低く、労働技能も単一で、市場調節だけで再就職を実現するのは困難である。これらの人々に対して、自主就業を奨励すると同時に、政府は特殊な政策でサポートを与え、再就職できるように手助けをすべきである。これは市場経済諸国の一般的なやり方でもある。1つの方法は、再就職条件の悪い者を採用した企業に対して政府が一定の補助をする。たとえば、イギリス政府は長期失業者を6ヶ月以上雇用した雇い主に対して、週75ポンドの賃金補助を与えているし、韓国政府は55歳以上の高齢失業者を従業員数の6%以上の雇用した企業に対して、高齢失業者一人あたり9万ウォンと賃金の3分の1を補助している。また、再就業条件の悪い失業者を一定比率以上雇用した企業、特に新規企業に対して、一定期間内に税制上の優遇措置を与えることもできる。そのほかに、自営業をはじめた再就職困難者に対して、一定期間内で税金を免除することや、特に困難な人に対して、公益的な仕事を世話するとか、再就職困難者に対して就業援助とサポートを提供すること、たとえば、出張指導、就職の世話、社会保険の継続などもやっていかなければならない。

メディアや文化芸術などを各方面の力を動員して、多種多様なチャンネルを通じて、大衆に歓迎される形で、広く教育宣伝活動を行い、大多数の労働者に社会主義市場経済体制下の雇用制度の競争性、流動性、流動性及び市場シグナルの特徴を認識させ、新しい就業観を確立させ、自主就業観を確立させる。政府手配に依存する就業観を変えさせ、労働力市場ニーズに適応させ、自ら自発的に就職機会を見つけさせ、あるいは自主創業するように仕向ける。仕事に優劣をつける古い観念を捨てさせ、工業企業だけが就職先だという観念を打ち破る。今後は主として第3次産業のサービス業を通じて雇用問題の解決を図る。

中小企業は雇用を吸収する最も主要なルートであるが、長年来各クラスの政府と関連部門が企業の育成に際しては「大をつかみ、小を放す」やり方をとってきた。この政策により中小企業の発展が困難を極め、《中小企業発展促進法》が公表されたものの、関連措置はついて来ず、多くの項目が実効性を持たない。したがって、当面政府が早急にやらなければならないのは、中小企業の発展を奨励し、民間による企業設立時の登録資金の制限を緩和ないし撤廃し、登録手続きを簡素化し、登録費用を減免することと、多くの雇用者を吸収した中小企業に対して、資金援助を与え、税制面で優遇措置を施すこと、それに無料の職業教育制度を作り、失業者や一時帰休者の教育訓練を行うことである。小企業は社会経済生活の中でますます重要な役割を発揮するようになった。アメリカは国内総生産の40%、製品売上の54%、私営企業生産額の50%、雇用の60%及び科学技術の新プロジェクトの70%が小企業によって提供されまたは実現されたものだそうである(思遠《中国証券報》2002年1月9日)。現段階最も競争力のある企業は、中国の要素賦存と一致する労働集約型の中小企業である。労働集約型の中小企業はWTO加盟後に、国民経済の総合的競争力の向上、利潤創出、資金蓄積、要素賦存構造の変化、産業構造高度化の促進、堅実な物的基礎の建設、中国経済の健全的、高速的、安定的発展の促進などの方面において、かつてない役割を発揮するであろう。そのため、中小企業発展の資金需要を保証することが当面の金融体制改革の着眼点となるべきである。中小企業にとって、最も優れた融資方式は中小銀行を主とした間接融資であるから、中小銀行の発展が金融体制改革と発展の当面の急務である。中小企業のための金融市場を育てること、そのもっとも重要な一環が非国有投資会社、投資ファンド、投資銀行、金融仲介機構、民間銀行、民間保険会社を含めた民営の金融機関を育てることである。このようにしてはじめて、中国の中小企業が健全な発展を遂げることができるであろう。

私営、個人、株式制企業が労働力市場の需要主体となったことは、中国が多種の経済要素存の社会主義市場経済の政策を実施した結果である。まず、私営と個人、株式制企業などの経済形態が市場経済主体の柔軟な構造を備えており、これらの新しい経済の成長点は一方において以前の単一な固定工就業モデルと公有制の就職ルートの制限を打ち破り、労働力の就業形式の多様化と、就職ルートの多元化、労働力流動性の強化及び使用者側の柔軟な雇用をもたらし、旧体制内にある一部の労働力のために新しい就職チャンネルを開拓したが、他方においては、その柔軟な構造から、さらに大量の新規労働力を吸収し、農村余剰労働力を吸収するの主力となった。今後一定期間内において、私営、個人などの経済形態の就業者数が全就業者に占める比重(割合)がますます高くなるであろう。政府はより柔軟な政策環境をつくって、私営や個人経済の発展を促すようにすべきである。

経済発展を通じて雇用を促進し、雇用拡大を通じて経済発展を推進することで、経済発展と雇用拡大の良性循環を実現する。発展は第一義的なもので、経済発展を通じて雇用拡大を図ることは、雇用問題解決の根本的な道である。雇用は就業することでますます増えることが可能である。一部の就職者が収入を得て消費することで、新たな産業の発展を刺激することもありうる。それによって別の一部の人に就職の機会を与えることになり、そうした人々が収入を得て消費して、さらに多くの人のために就業機会を作り出していく。これがすなわち「雇用でもって雇用を拡大する”方針である。経済及び社会の発展計画を研究する時、雇用問題を重要な内容として全般的に考慮し、経済発展を通じて雇用拡大を図りながら、雇用拡大を通じて経済発展を促進するようにしていかなければならない。

中国はすでに積極的就業政策の基本的枠組みを初歩的に形成した。この枠組みの基本的な内容は以下のとおりである。1、経済成長を高めることで雇用拡大を図るマクロ経済政策。これらの政策は主に総就業者数の拡大と、雇用機会の創造を奨励するものである。2、一時帰休者の再就職促進を重点とする扶助政策。これらの政策は、主に政策的てこを使って新たに創出した雇用機会を、優先的に再就職困難な階層に与えることに用いられる。3、労働力需給の合理的な均衡を方向とする労働力市場政策。主に就業関連サービスと職業訓練を通じて、労働力市場の需給の間合理的均衡を促す。4、失業抑制を方向とするマクロコントロール政策。主に企業の雇用調整を規範化し、大企業による余剰人員の吸収を奨励し、社会の失業圧力を軽減する。5、一時帰休者の生活保障を方向とする社会保障政策。主に一時帰休者を中心とする就業困難者層の社会保障問題に関するものである。基本的な社会保障制度を作ることは、雇用問題の社会への圧力を緩和できるだけでなく、労働力の充分な流動を促すことで、就業圧力の分散と分解に役立ち、労働力市場にとって「緩衝装置」と「潤滑油」のような役割をも果たしている。これら五つの面の基本内容は相互関連性をもち、互いに支えあい、互いに促進する、ひとつの比較的に整った全体的体系を構成するものである。これらのことをきちんと実行できれば、中国の厳しい雇用問題は緩和ないし解決をみることもありうるであろう。

 

2003101718(金・土)

山口大学経済学部 東アジア国際シンポジウム:レジュメ

山口大学 浜島清史

 

*発表原稿では、論文としての統一性を保つために論点を長時間労働とワークシェアリング(ならびに非正規雇用)に限定しているが、レジュメではむしろ日本の労働問題の包括的な資料を提示するために、様々な論点をポイントを押さえて補足として提示している。

 

はじめに

T.日本の雇用情勢と長時間労働

U.日本的雇用慣行と雇用の流動化・多様化

V.ワークシェアリングと長時間労働の是正

おわりに―短時間労働とキャリア形成※

 

はじめに

T.日本の雇用情勢と長時間労働

▽日本の失業者数と失業率の変化

      失業者数:1975100万人、1995200万人台、1999300万人台(図表1)

      失業率:1976年2%台、1995年3%台、98年4%台、2001年5%台(図表2)

      *失業者数・失業率の上昇が最近急になっている。

 

▽日本の年齢別失業率

      若年層(1524)と高年層(5564)に集中。マスコミで騒がれる中年層(3554)は比較的少ない。(図表3)

      女性は中年層(3554)も相対的に多い。(図表4)→男女のパート比と関連。

      (補論)失業者の産業、職業、学歴…製造業・建設業、技能工・労務作業者、中卒・高卒

 

▽日本の労働時間の推移:「人減らしと労働時間増加」という「逆ワークシェアリング」

      60時間以上(バブル期に増大)・週4348時間の長時間労働の低下傾向、週3542時間労働の増大、女性を中心とした週34時間以下の労働者の増大。(図表5〜8)

 

      (補論)非自発的失業と自発的失業、長期失業、雇用のミスマッチ、学生の就職状況

      非自発的失業と自発的失業…非自発的失業が過半数を占める年齢層の低下:1997年まで5564歳、2002年では3544歳に。

      長期失業…2534歳の青年層の多さ。2001年で5564歳の高年層とともに22万人26.5%、それ以外の年齢層は逆に比率が低下。

      雇用のミスマッチ…呼称自体がミスマッチ:失業を@摩擦的失業、A景気循環的失業、B構造的失業に分けた場合、雇用のミスマッチとは@とBを共に含む。だが、@とBでは失業期間も異なり雇用対策も異なってくる。

      学生の就職状況…男性は戦後最悪、女性はバブル期を除いてまだまし。(通常、バブル期だけをみて女性の就職氷河期が強調されるため。ただし、質的に改善しているかどうかは別)

 

 

 

U.日本的雇用慣行と雇用の流動化・多様化

終身雇用制・年功序列型賃金体系の実態:「遅い選抜」

      通念的理解)終身雇用制・年功序列型賃金体系は経済成長が右肩上がりの時代にはポストが確保できて従業員のヤル気も引き出せて適していたが、バブル崩壊後のデフレ経済の時代には実力主義・成果主義へ変えていかなければならない。

      遅い選抜…入社後、1015年は同期同時昇進で、その後、昇進昇級の競争が激化し格差が広がっていく:日本の大企業ホワイトカラー。

      早い選抜…入社後数年の競争が激しく転職を繰り返すが、その後は比較的長期雇用となる:欧米、日本以外のアジア諸国も?

 

終身雇用制は元々少数派:日本は転職者中心社会

      終身雇用(標準労働者)30歳代には半分に減る(図表9)(賃金センサス)

      新期入職者のうち転職入職者が新規学卒者よりも元々圧倒的に多かった(図表1011)(雇用動向調査)

      国際比較においても、平均勤続年数では日本は11.6年でOECD16ヵ国中4位、10年以上の長期勤続者比率では日本は43.2%で同7位に過ぎない。

 

雇用の多様化:雇用の多様化と言い切れない側面

      パート・アルバイトの増大:19852001年、女性470万人→994万人(2.1)32.1%47.9%。男性187万人→366万人(2.0)、比率7.4%→12.5(図表12@A、13@A)

      女性の中年層(3554)の主婦(有配偶者)中心←正反対→男性は若年層(1524)と高年層(5564)(図表14@A、15@A)

      臨時雇・日雇は比率的には全体の約15%未満。戦後から高度経済成長期にかけて減少し、バブル崩壊後若干増加。(図表16@A)

      (補論) 非農林自営業者の縮小

 

非正規雇用の是正

      短時間労働者の均等処遇に関するガイドライン案

      パート社員の仕事内容・役割の変化や能力の向上、処遇の向上の制度化

      パート社員の常用フルタイム社員(あるいは短時間性社員)への転換の制度化

      フルとパートの均等待遇化

      *日本ではフリーター(定職を持たない若年層)の問題が脚光を浴びているが、上記はフリーターにも当てはまる。

 

日経連(1995)『新時代の「日本的経営」』雇用ポートフォリオ論

      雇用ポートフォリオ論「長期能力蓄積型グループ」「高度専門能力蓄積型グループ」「雇用柔軟型グループ」

      財界が雇用柔軟化グループを増やし、低賃金・低技能の拡大の懸念

      奥田日本経団連会長(トヨタ会長)「雇用を守れない経営者は失格だ。」

      御手洗日本経団連副会長(キャノン社長)「終身雇用は守るが、年功型ではなく実力主義である。」

      ただし、若年労働人口の減少が始まっていて、近い将来、労働力不足が見込まれる。景気が本格的に回復すれば、それが一挙に表面化する。雇用維持はその対応とも考えられることに注意。

      もう一つ、最近、厚生労働省や日本生産性本部に労働者よりの企業の負担を増やしかねない政策提言が相次いでいる→日本経団連は労使の間で決められるべきと政府が介入を牽制。(後述)

      労働者側としても、低賃金で低い技能しか認められない非正規雇用が蔓延する土壌があると宣伝するよりも、労働者には通常思われている以上の技能と専門知識があり、それは長期雇用によって培われるものである、だから雇用を守れと主張する方が説得的ではないだろうか?

 

 

V.ワークシェアリングと長時間労働の是正

日本におけるワークシェアリング議論の低迷化

      ワークシェアリングの4つの類型:@雇用維持型(緊急避難型)、A雇用維持型(中高年対策型)、B雇用創出型、C多様就業型(「ワークシェアリングに関する調査研究会」2001)

      個人選択型と一律型(熊沢誠):長時間労働の法的規制→多様就業型は分けるべし。

      ワッセナー合意:コーポラティズム(1982)と「コンビネーション・シナリオ」(1994)を峻別するべき(伊田)

 

ワークシェアリングと長時間労働の是正

      社会経済生産性本部(旧日本経済生産性本部)「サービス残業ゼロで雇用機会創出効果は90万人」、「残業削減(所定外労働時間ゼロ)では170万人」

      長時間労働の是正←割増賃金の算定基準にボーナス・社会保障負担部分を含ませる(久本)

      短時間正社員とジョブ・シェアリング

 

おわりに―短時間労働とキャリア形成

      終身雇用の崩壊や雇用の多様化はマスコミで騒がれるほど起こっていない。

      問題は失業・不況と女性労働者(+若年労働者)を中心に非正規雇用化

      日本の雇用システムは長期選抜システムであり、実力主義・能力主義的側面があった。

      現に成果主義の導入は以前の能力主義へ回帰していっている。

      長時間労働の是正とキャリア形成との関連

      労働者の仕事能力と専門性は通常思われているよりも高く、長期にわたって向上していく。キャリアを自覚しつつ、専門性を深めていくべき。家族や生活も重視しつつ。

      (補足)

      失業からの脱出の経緯としてのグローバリゼーション=アジア諸国の経済発展

      とりわけ中国の内需拡大≒元高は第2のプラザ合意・ルーブル合意となるか?

      その時、日本の若年労働者不足が顕在した場合、学生は必ず大学へ行け、楽に就職できるようになってしまう。→今から大学で卒業後に仕事のできる学生を養成する必要があるだろう。

 

2003101718(金・土)

山口大学経済学部 東アジア国際シンポジウム:発表用未定稿

山口大学 浜島清史

 

はじめに

T.日本の雇用情勢と長時間労働

U.日本的雇用慣行と雇用の流動化・多様化

V.ワークシェアリングと長時間労働の是正

おわりに―短時間労働とキャリア形成※

 

はじめに

21世紀に入り、グローバリゼーションの中、欧米大企業、中国・韓国を初めとした日本以外のアジア諸国とのメガ・コンペティションの時代を向かえて、日本のシステムは制度疲労を起こし、時代にそぐわなくなってきているといわれている。

従来の、日本的経営システムとは、@終身雇用、年功序列型賃金体系、企業別組合という3種の神器をその構成要素とする日本的雇用慣行、それとA旧6大財閥系の企業集団:メイン・バンク・システムと株式持合制、そして系列などを中心とする日本的経営をその2大構成要素としていた。本稿の主題は、日本の失業の現状と日本的雇用慣行のシステムの方向性である[1]

本稿では、まず、失業が深刻化している中で長時間労働が並存していることを確認する(T)。次に、日本的雇用慣行における通念を批判し、そのキャリア形成[2]に資する面を強調する。そして、「雇用の多様化」の実態を批判的に検討しつつ、非正規雇用問題の改善を訴える (U)。そして、雇用の多様化と関連するワークシェアリングの問題点を指摘し、長時間労働の是正とキャリア形成の問題とを統合的に検討する(V)

キャリア形成に関して、筆者は労働者の仕事に関する技能や知識は通常思われているよりも高く、しかもそれらは長いワークライフとともに伸びていっているのではないかと考えている。もし、そうであれば、仕事が自己実現となる可能性も高くなってこよう。もちろん、仕事のやりがいは仕事能力の向上以外にも自分で定めた仕事を達成することや、報酬を受け取ること、家族を養うこと、あるいは社会的貢献を果たしていると実感することなど様々であろう。そうだとしても、仕事に関する経験と専門知識を深めてより大きな仕事をこなしていくことは仕事を通した自己実現として感じられよう。だが、キャリア形成の問題は長時間労働の問題や非正規雇用の存在と深く結びついている。本稿が失業問題とともに日本の雇用慣行の光と影にどのように対処していくべきか考えていく契機の一助となることを願う。

 

T.日本の雇用情勢と長時間労働

ここでは、日本の失業の現状を時系列、年齢別、男女別など基本的データを確認しよう。そして労働時間の変遷などについてデータを提供する。[3]

まず、基礎的なデータとして日本の失業の現状を確認しておこう。日本の失業は1953年に現在の形で失業統計が取られるようになってから戦後最悪になっている。失業者は1955年の105万人を除き、高度経済成長期(195570)は一貫して100万人を下回り、1973年の第一次オイルショック以降の「減量経営」の中で失業者が増大し、1975年に再び100万人を上回るようになった(図表1)。それが1995年に210万人と200万人を超えて、1999年には317万人と300万人台の大台に乗った。失業者が100万人台から200万人台になるのには20年要したのに、200万人台から300万人台に上がるのにはわずか4年しか経過していない。いかに、最近の失業者の増加が急であるかわかろう。それに応じて、失業率は1950年代まではほぼ2%台だったが、60年代以降は2%を割っていた。それがやはりオイルショックの影響で1976年に再び2%台となり、1995年に3%台、金融危機のあった翌年の98年に4%台となり、2001年には遂に5%台に達してしまった(図表2)

次に失業率を年齢別にみると、1524歳の若年層と5564歳の高年層が高い(図表3・4)。マスコミでは読者の多いと思われる中高年層のリストラ解雇が脚光を浴びやすいが、実際には若年層と高年層が高い。このうち、高年層が多いのは定年制の影響といわれている。その中には、退職金と年金をもらい、その上で継続雇用を望んでいる者もいよう。

そこで、若手の研究者からは若年層の失業の方が問題であるという提起がなされてきた(太田2000、玄田2001)。とはいえ、中高年の失業も最近特に増大しており、やはり中高年の対策も重要であろう。男女で比べると、女性は男性よりも3554歳の中年層が高くなっているのが特徴である。女性の中年層が高いという特徴は、男女で非正規雇用者の人数と比率を比べた場合、より先鋭に出てくる。後にみるが、男女を比べた場合、女性は中高年がパートで働きに出ている人数と比率が高いために、この年齢層での職探しが比較的高くなって表われているのかもしれない。

なお、マスコミでは読者層の多い中高年ホワイトカラーの失業が脚光を浴びやすいが、実際にはブルーカラーの方が失業は深刻である。産業的には製造業・建設業、職業的には技能労働者・労務作業者、学歴的には高卒以下の失業者の比率が高い(浜島2003)

 

日本の労働時間の推移と労働基準監督強化の必要

日本の労働時間は先進国の中でも最も長いといわれてきた[4]。近年、労働時間は短縮しているといわれるが、それはパートや嘱託など非正規雇用が増大しているためと、いわゆるサービス残業=賃金不払い残業がホワイトカラーを中心に膨大な時間に達するためであり、さらに最近では企業のリストラが進む中で長時間労働者が増大してきているといわれている。熊沢(2003p.7p.119p.124)は、年齢階級別非農林業雇用者の1993年と2001年のデータを比較して、週60時間以上と週34時間以下の男女の比率が共に増大していることを指摘し、労働時間が減少しているようにみえるのはパートが増加したためで、長時間労働はむしろ増大していると指摘している。まさに、「人減らしと労働時間増加」という「逆ワークシェアリング」というべき自体と化している(松村2003)

そして、既に国際語と化しているkaroshi過労死の問題がある。働きすぎて死ぬ、死ぬまで働くという事態である。もちろん、自宅で脳溢血や心臓麻痺などにより亡くなることも含まれる。このような状態が正されなければならないのは間違いないし、労働基準監督署も厚生労働省も是正の方向で動くようになっている[5]

だが、もっと長いタイムスパンで歴史的に統計を追えば、以下に示すように労働時間は全体的に短くなってきているのは確かであり、その点は正確な事実認識が必要であろう。ここでは労働力調査のデータを用いよう。日本の労働時間を知るには、あと毎月勤労統計(毎勤)、賃金労働時間制度等総合調査、賃金構造基本調査(賃金センサス)などがあるが、これらは事業所内で行なわれる調査であり、所定労働時間や実労働時間の変化を知るには事業所の資料を基にするので正確ではあるが、問題となっているサービス残業は把握できない。その点、労働力調査は世帯調査なので、時間の把握に正確さを欠くし、パートやアルバイトなどで労働時間が極端に短い労働者も全体の中に一緒に入ってしまうという問題はあるが、実際に働いた時間に近い数値が出てくると期待できる。すると図表5〜8の様に、労働時間が全体的に減少していることがみてとれる。

男性でみると、確かに週60時間以上の長時間労働者の比率は1975年の13.4%から1988年には24.3%まで上昇していった局面はあった。だが、そのあと週60時間以上の長時間労働者の比率は逆転傾向にはある。男女別に改めて検討しよう。

 

男性の労働時間の推移

男性の労働時間を人数でみると、週4348時間は1992年の866万人をピークにから2002年の638万人へ減少してきている。反対に週3542時間が1994年から週4348時間を上回るようになっており、週法定労働時間の44時間から40時間への短縮を機に個人調査によっても労働時間が短縮してきていることを表わしている。ただし、週4959時間は横ばい、週60時間以上は1990年以降1994年まで減少してきていたのに、95年から再び微増基調にある。また週1534時間の者が特に1988年以降急速に増大し、1987年には117万人だったのが、1991年には100万人増の217万人、97年には320万人となっており、男性労働者においても短時間労働者が急速に増大していることを示している。

以上の傾向は、比率においても同じ傾向がより強く現れている。週4348時間の比率は1976年の38.4%から一貫して減少し、2002年には20.5%となっている。逆に、週3542時間が1988年の16.4%から2002年の28.9%へ上昇している。週60時間以上も1988年の24.3%から2002年の17.6%へと比率的には減少してきてはいる。

前述のように、95年以降、確かに週60時間以上の労働者が微増してきているのだが、趨勢からすればバブル期のように極端に増大しているわけではない。もちろん、このことはその陰で過労死に至る長時間労働が横行していることを免罪するものではない。とはいえ、趨勢的に労働時間が減少していることは確認しておくべきであろう。

 

女性の労働時間の推移

女性の労働時間の変化は男性以上にドラスティックである。何より目立つのは週35時間以上就業者の比率の著しい低下である。このことは週35時間以上労働が正規雇用と仮定すると(よく知られているように日本のパートタイマーは週35時間以上働いている者が多いことが特徴といわれているけれど)、正規雇用の減少と非正規雇用の増大を表わしている。

35時間以上就業者の比率は、1960年代前半の90%強から2001年には60%近くまで低下している。この低下は最近急激に起こったというよりも、ほぼ一直線上に低下している、このことは図表に補足した近似曲線からも読み取れる。ただし、一直線といっても1970年代後半から1990年にかけて週35時間以上の比率がいったん少し高くなり、その後90年代に入ってからその比率がやや低くなる傾向がある。それに関連して目立つのは、週1534時間の短時間労働者の増大である。これは1960年代の7%ほどから2001年の32.1%までこれもほぼ一直線に上昇してきている。

なお、週35時間以上の就業者についてみると、週3542時間の比率が緩やかに減少し、逆に週4348時間の比率が1970年代中頃から90年にかけてほぼ24%で水平だった以外は徐々に上昇し、最近、再びやや減少気味に33%前後で水平になっている。これも、労働基準法の改正によって、所定労働時間が週48時間から週40時間へと段階を経て減少してきたこと実現されていることが、労働力調査のような世帯調査によって裏づけされているとみることができよう。次に、労働時間減少の経緯についてみてみよう。

 

労働時間減少の経緯

バブルの始まった1980年代後半、日本の集中豪雨的輸出に対する先進各国からの非難に対処するために、1987年4月に新・前川レポートが作成され、内需主導型の経済転換が図られた。それは長時間労働の短縮を求めるものでもあった。1988年4月の改正労働基準法施行により、法定週労働時間は実質的に先送りされたとはいえ44時間から40時間となった[6]。同じく1988年には、『世界とともに生きる日本―経済運営五カ年計画』(198892)が閣議決定されて、週40労働時間の実現、年間総実労働時間1800時間程度への推進を計画目標として掲げられた。当時の「日本的ワークシェアリング」は長時間労働の短縮のためのものであった。

これは1992年の「生活大国5ヵ年計画」(199296)に引き継がれた。同92年6月には「労働時間の短縮の促進に関する臨時措置法(時短促進法)」が国会で可決され、労働省(当時)が年間1800労働時間実現の任務を負うことになった。1994年の労働時間短縮法により原則週40時間労働制が採用され、97年に一定の規模と業種についての猶予措置も撤廃された。

21世紀に入ってからは、2001年4月、厚生労働省が労働時間の把握を企業に求める指針を作成、さらに同年1011月にかけて、労働時間管理状況の確認のため、全国の労働基準監督署が異例の集中的な立ち入り調査を実施した。それによると全国の事業所の約3割が従業員に適正な時間外賃金を支払わない「サービス残業」をさせ、労働基準法に違反していたことが明らかになった。

厚生労働省は、2003年5月23日には賃金不払総合対策要綱を打ち出している。サービス残業に関しては、2002年では労働基準監督署が定期監督を実施した事業所は131878ヶ所、うち17077ヶ所(12.9)で、時間外、休日、深夜労働の割増賃金支払を定めた労働基準法違反で是正指導を受けた。これは過去30年で最多数であった。この理由として同省が1999年から監督を強化したこと、そして景気低迷の影響が挙げられている(日本経済新聞2003年7月8日)

他方、この間、変形労働時間制度、みなし労働時間、裁量労働制など実質的なサービス残業を増加させる可能性のある様々な手段が法制化されてきた。変形労働時間制度は1998年の改訂で週52時間労働が割増賃金なしで可能になってしまった。みなし労働時間制度は、職務の遂行に通常必要とされる時間を所定時間とみなすことにより、裁量労働制は自己裁量で法定労働時間を加減できることにより、実際には労働時間を無限に延長しかねない。それにもかかわらず、統計でみるかぎり、労働力調査による世帯調査によっても長時間労働は減少傾向にある。

労働時間が実際は減っているから対応を緩めてもよいというつもりはない。ただ、タイムスパンを短く取り、歴史的趨勢を見逃してしまうと、感情的に労働時間短縮を叫ぶ主張となってしまいがちなので、そうではなく、統計的に確かめられる事実に基づいて対策を打ち出していくべきであろう。そして、政府が労働基準法を強化することによって制度的に短時間労働化を図れば、結局はそれが実現できることも示している。それを急進的に行なうか漸進的に行なうかどちらがよいかは意見の分かれるところであるとしても。

だが、労働時間の短縮によって経済停滞を引き起こす可能性はないだろうか。たしかに、労働時間の短縮とバブル崩壊後の停滞の時期は重なっている。とはいえ、それは労働時間が短縮していったから経済が停滞してしまったというよりも、経済不況により派生需要たる労働需要が減少したとみるべきであろう。その中でリストラ解雇が行なわれている。それにもかかわらず、一部で残された労働者の労働時間は削られた労働者の分を補うために増大しているのである。

以上、日本では長時間労働が並存しているとはいえ、労働時間が全体的にみて減少傾向にあることがわかった。この労働時間短縮の動きをさらに促進し、仕事だけに追われない、豊かな生活を築いていくべきであろう。この問題はUで日本的雇用システムの議論を踏まえた上で、Vでワークシェアリングの課題として論じることにしよう。

 

U.日本的雇用慣行と雇用の流動化・多様化

終身雇用制・年功序列型賃金体系の実態:「遅い選抜」

ここでは終身雇用制、年功序列型賃金体系など、日本的雇用慣行について取り上げて、その社会通念的な理解を批判的な学説で検討する。

日本的雇用慣行の3つの神器(ジンギ)といわれている要素がある。終身雇用制、年功序列型賃金体系、企業別労働組合である。。周知のように、終身雇用制とは、新規学卒者を一つの企業で定年まで雇うことと典型的には定義される。すなわち学校を3月に卒業すると翌月の4月には就職して、その企業で定年まで勤めることである。年功序列型賃金体系(年功制)とは、昇給や昇進が年齢や勤続期間によって上昇していくような制度のことである。企業別労働組合とは、企業を中心に組織されている労働組合のことである。他に、労働組合の類型としては、産業革命期の英国に代表される職業別組合と米国や大陸ヨーロッパなどの産業別組合が挙げられる。

マスコミなどでは一般的に以下のような論議が流布している。日本が終身雇用制や年功序列型賃金体系を自明のこととみなし、これらは経済成長が右肩上がりの時代には、ポストが増やせるので適合していた。年功序列型賃金体系によって、一旦転職すると賃金が下がる。これにより終身雇用制を維持して、企業への忠誠心や団結力を強めていた。だが、経済成長が停滞し、これまでのように、ひとなみに働いていれば定年まで雇用が保障されて、勤続が長くなれば賃金も上昇していくような時代ではなくなった。これからは実力主義、成果主義の時代である。学術研究者の中でもこのような論議に便乗している者もいる。

だが、このような通念に対して、労働経済研究者の間ではかねてから批判が出されてきた。日本の雇用システムが実力主義に基づいていなかったのであれば、どうして曲がりなりにも世界第2位の経済大国の地位を保っているのだろうか。ひとなみに働いていれば雇用が保障されるような居心地のよいシステムであったのならば、どうして過労死のように死ぬまで働こうとするのであろうか。

学会では日本の雇用システムは文字通りの終身雇用制・年功制というよりも、むしろ欧米の「早い選抜」に対する「遅い選抜」、すなわち長期選抜方式であるというのが定説である。つまり、欧米においては入社当初の数年で出世が決まってしまうのに対して、日本の大企業においては10数年という長い年月をかけてほぼ同期が同時に昇進し、それ以降、課長以上の管理職になる頃に競争が激化し始め、昇給や昇進においても差がつき始める。そして大部分の者が管理職となる40歳代となる頃から「窓際族」が出始め、最近では中高年のリストラ、希望退職などとなって現出しているのである。年功制とは、主にこの最初の10数年の期間を定年までずっと続くものと思い込んだ幻想にすぎず、同様に終身雇用制も半数近くにとっては長くて数十年の長期雇用制に過ぎない、というものである。

 

遅い選抜におけるキャリア形成

さらに、「遅い選抜」におけるキャリア形成の仕組みについて説明しておこう。「遅い選抜」の過程では、ジョブ・ローテンションや配置転換によって幅の広い専門性を養っていくといわれている。ここで配置転換によって、一般的に理解されているように、経理と人事と営業をこなすといった関連のない職務を縦横無尽にこなしていってジェネラリストになるというわけではない。むしろ、経理ならば財務会計と管理会計と資金運用といった関連する職務をこなしていき、人事ならば採用・昇進・教育・福利厚生・労使関係などを担当する。また、販売(あるいは小売=リテール)と購買(あるいは卸売=ホールセール)を数年単位毎に交互に経験して、販売で顧客のニーズを掴み、購買で取引先のネットワークを把握し、そうすることによって商品企画を担当できるようにもなる。それから、営業であれば、担当エリアを変えながら、関西圏から首都圏、さらに全国と大きくしていく。現場を重視するので、経理や人事などスタッフ部門から現場のライン部門へ数年間人事異動を経験することはあるが、それは現場に精通するためであり、あくまでも経理や人事の担当として能力を向上させることに目的が置かれるといわれる。[7]

ただし、最近のように不況期には利益の上げられないスタッフ部門からライン部門へ異動させたり、辞職させる意図で無理矢理経験のない部門へ配置転換させられたりすることもある。このような事態は近年の不況でますます激しくなっているが、少なくとも1973年の第1次オイルショック以降には遡ることができる。さらに、これまで住みなれたところから離れた地域へと異動させられ、単身赴任によって家族が離散するなど負の側面もあることは確かである。また、女性労働にみられがちなように結婚や出産によって途中で退職を余儀なくされて、元の職場に戻ったり、あるいは関連する職業に正社員として勤めたりすることができなくなれば、キャリア形成に支障をきたす恐れもあるということになる。

しかしながら、そういった負の側面は認識しつつも、「遅い昇進」におけるジョブ・ローテンションによって、関連する職務をこなしながら仕事能力を向上させるというキャリア形成に関連する側面も考慮して対策を練るべきであろう。そうでないと、結局、日本人はこれまでの仕事中心の生活スタイルを変えなければならないといった批判に終始してしまいがちである。そのような批判は良心的で社会改革に寄与する反面、実は労働者の持つ技能の高さや専門知識の深さを看過し、暗黙のうちに蔑視しているともいえる。それでは個々人の仕事を通じた自己実現ということまで見過ごしてしまい、真の問題解決にはつながらないであろう。

以上、社会通念と異なる学説上の通説を概説した上で、批判的な観点をも付け加えて吟味したが、終身雇用制の歴史的存在そのものにも疑問が呈されている。次に統計資料に基づいてそれを明らかにしよう。

 

終身雇用制・年功序列型賃金体系の崩壊?雇用の流動化?→終身雇用制は元々少数派:日本は転職者中心社会

終身雇用制と年功制が崩れ、雇用の流動化が進んでいる、あるいは流動化を進めなければならないという議論が横行している。確かに、日本にいると転職はしにくいと実感するし、下記に述べるように、もっと会社に縛られないで、専門的能力を持って他の会社にも通用できるようなemployability(転職可能性)を身に付けなければならないということには筆者も賛成である。

だが、政府統計で確認できる限り、日本の雇用システムにおいていわゆる終身雇用制が支配的であったわけではない。日本は元々転職者の比率が過半数以上を占める転職者中心社会であったとしかいえないし、雇用流動化(失業ではなく転職という意味)が最近になって急激に高まっているともいえない。

(厚生)労働省の賃金センサスにより標準労働者(「学校卒業後直ちに起業に就職し、同一企業に継続勤務している労働者」、すなわち終身雇用制の下で働いている者といえる)の比率をみてみても、その比率は大企業においても思いのほか少ない。従業員1000人以上の会社の男性社員に限ってみても、25歳を過ぎれば残っている者は60%を割り込むのである(図表9)。もちろん、従業員規模がさらに小さい中小企業や低学歴の者においては、標準労働者として残っている比率はさらに小さくなる。[8]

また、同じく(厚生)労働省の雇用動向調査においては、転職者の方が圧倒的に新規学卒者や学卒未就業者をはるかに上回っている(図表10)。従業員千人以上の大企業のパート労働者を除いた男性労働者に限ってみても、転職者と新規学卒者はほぼ同数であり、むしろ転職者の方が多いのである(図表11)。これらの数値は当然、配置転換による同一企業からの新規の入職者は入っていない。この転職入職者の多さは総務省の就業構造基本調査においても、数値や比率は異なるが、確認できることである。ただし、絶対数では近年、全体の転職入職者の人数が急速に増大していることには注意すべきである。この絶対数での増加が、相対的な比率ではそれほど変わらないにもかかわらず、転職者が増大しているように多くの人に感じられる理由かもしれない。人数的に増えてはいるのだから、それに応じた労働政策と法制化が必要となってくるだろう。

では、国際比較によると日本の雇用システムはどうなのであろうか。2002年版労働経済白書では、OECD16ヵ国における平均勤続年数と勤続年数10年以上の長期勤続者の比率を出している。平均勤続年数では日本は11.6年でOECD16ヵ国中4位、長期勤続者比率に至っては日本は43.2%で同7位と平均をやや上回っているにすぎない[9]。平均勤続年数の長さや勤続年数10年以上の労働者の比率が大きいことをもって終身雇用的であるといえるとするならば、日本は国際比較において終身雇用制の強い方の国であるとはいえるが、日本以上に終身雇用的であるといえる国は結構存在することになる。

労働経済学の専門家の間では、日本において絵に描いたような終身雇用制が元々存在していなかったことはかねてから指摘されていた(小池1981、野村1994)。そして、政府の白書においても、政府統計を用いている労働経済白書(2002)や厚生労働白書(2002)においては、控えめながらそのことが指摘されている。

なぜ、このような統計的現実と社会通念の差が生じるのであろうか?まず、文化的伝統的な面である。日本人は昔から自国民が世界(とりわけ欧米)と異なっていることに奇妙な誇りを抱いてきた。いわゆる日本特殊性論である[10] 終身雇用制については、日本の特殊性意識とも関連してくるが、少なくとも1950年代から日本的雇用の特徴とみなされてきており、それが当然視されてきた。

とりわけアベグレンの1958年に『日本の経営』(原題The Japanese Factory)が取りざたされるが、それ以前から日本的雇用の特徴を、永年雇用、年功賃金、企業別労働組合とみる考えはあった。そして、今と同じように、技術革新のスピードが速いので年功型賃金が維持できなくなり、そうなると勤続していれば賃金が上昇するというインセンティブがなくなって終身雇用制が保てなくなり、終身雇用制によって企業に閉じ込められていた労働組合もその存立根拠を失って産業別組合へ転化するだろう(大河内1959p.114)、といった議論が繰り返されてきた。終身雇用制が日本的雇用慣行の特徴とみなされた背景には、雇用が保障されているという安心感のよりどころとなっていたからであろう。もともと終身雇用はイデオロギーに過ぎなかったと考えられる(野村1994p.194)

とはいえ、もともと存在しなかったからといって、もちろん雇用が保障されなくなってもよいというわけではない。むしろ、技能やキャリアの形成には長期間かかるということを合理的根拠として、労働者の雇用保障を求めていった方がよい。キャリア権という概念を主張している論者もいるが(諏訪1999)、これに先の技能形成システムについて加味すべきであろう。

 

雇用の多様化

雇用の多様化という非正規雇用に関わるテーマについては横田先生と重なるので、最低限触れておくべきことだけ言及しておこう。一つは、最近、非正規雇用は著しく増大しているが、それは女性と若年層を中心としているということ。もう一つは、ここ十数年をとってみると非正規雇用が増大しているのは事実であるが、戦後から追ってみると、少なくとも非正規雇用に含まれる臨時雇用や日雇労働者の比率はそれほど増大していないということである。

近年、不況と価格競争に伴うコストダウンの要請を背景に、パート、フリーターなど非正規雇用が増加している。これは事実なのであるが、注意しなければならないのは、非正規雇用が増加していて比率が高いのは、とりわけ女性の中高年の主婦層であり、男性の中高年ではそれほど顕著に増大していないということ。加えて、若年層の増加傾向が男女ともに激しいということである。若年層は男性の方が比率的には著しいが、人数的には女性の増加が大きい。これは横田報告も指摘しているとおり、少なくとも日本においてはジェンダー・バイアスが大きいことを示唆している。

以下、数値的に簡単に確認しておこう。労働力調査特別調査によると、パート・アルバイト・派遣その他嘱託などの非正規雇用の増加は19852001年で、女性では470万人から994万人へと2.1倍となり、比率では32.1%から47.9%へと過半数に迫っている(図表12@A、13@A)。同期間に男性では187万人から366万人へと2.0倍となり、比率では7.4%から12.5%へと増加している。

人数的には圧倒的に女性が多く、また年代別にみると、人数的または比率的に男女正反対ともいえる形状をなしている(図表14@A、15@A)。すなわち、女性の非正規雇用が中年層(3554)の主に主婦を中心に構成されているのに対して、男性は逆に若年層(1534)と高年層(55歳以上)を中心にしている。

なお、雇用期間でみると、労働力調査が常用雇・臨時雇・日雇で分類しているが、それによると臨時雇、日雇の比率はそれほど増加していないことにも留意すべきであろう(図表16@A)。これはもちろん近年の非正規雇用自体の増加が甚だしいことを否定するものではない。だが、非正規雇用自体の存在や多様な雇用形態が最近の特異な現象で過去に前例がないというのではなく、高度経済成長からオイルショック後の安定成長の時代に突入する中で、臨時雇や日雇が相対的に減少する過程になった。それが、遅くともバブル崩壊後、再び臨時雇や日雇が増大する局面に反転した、という流れは抑えておくべきであろう。

この理由は恐らく、高度経済成長期からオイルショック時にかけて第1次産業人口が減少し[11]、臨時雇や日雇の源泉となっていた農村からの出稼ぎ労働が減少したこと[12]、そして逆にオイルショック以降、パートやアルバイトといった形態の活用が増大していったことに原因が求められよう。

 

非正規雇用の是正

次に、非正規雇用と正規雇用の格差是正問題について論じよう[13]。厚生労働省が2002年7月に発表した「短時間労働者の均等処遇に関するガイドライン案」においては、以下の6つのルールが提案されている。

      ルール1 パート社員の処遇について常用フルタイム社員との違いやその理由について十分な説明を行うこと。

      ルール2 処遇の決定プロセスに、パート社員の意思が反映されるよう、工夫すること。

      ルール3 パート社員についても、仕事の内容・役割の変化や能力の向上に伴って、処遇を向上させる仕組みを作ること。

      ルール4 パート社員の意欲、能力、適正等に応じて、常用フルタイム社員(あるいは短時間正社員)への転換の道を開くこと。

      ルール5 フルかパートかの違いだけで、現在の仕事、責任が同じであり、また異動の幅、頻度などで判断されるキャリア管理実態の違いも明らかでない場合は、処遇決定方式を合わせること。

      ルール6 ルール5に照らして、処遇決定方式を異にする合理性がある場合でも、現在の仕事、責任が同じであれば、処遇の水準の均衡に配慮すること。

 

このうちとりわけ重要と思われるものは、ルール3のパート社員について仕事内容や役割・能力の向上に応じて、処遇を向上させる仕組を作ること。それとルール4のパートからフルへの転換制度であろう。ルール1の処遇の説明責任やルール2の処遇決定プロセスへの参画、それからルール5及び6の同一労働同一賃金の原則及びその変形は、守られていないことが多いとはいえ、かねてから指摘されてきたことである。それに対して、ルール3と4は、1990年代後半以降にオランダやドイツで転換制度が法制化され始めたばかりであって、まだ歴史的に浅い。すなわち、Vで展開するワークシェアリングとも関わってくる。

ルール3はもっと踏み込んで、パートに対しても仕事内容を変化させて能力を向上させる機会を与え、処遇を向上させる仕組を制度化すべきであるというところまで法制化、まずは努力義務としたいところである。ルール4にしても、非正社員から正社員への転換ばかりでなく、逆にフルタイムからパートへの転換も含むべきである。そして、それをオランダやドイツのように法制化するのである。

法制化に関しては、財界は必ず労使関係の問題であり、公が口を出すべきではないというだろう。また、知識人や政府関係者でも同様のことをいう者もいるであろう。だが、財界が反対するのは、非正規雇用の低賃金や技能訓練が少ないことによるコスト削減を本当の目的としていると考えられ、実際には法制化しなければ実行力は乏しい。また過度に急進的な改革でない限り、労働者にとって有利な改革は労働者の利益を損なわず、企業の業績にも悪影響のないまま、改善につながることがままあることにも留意されるべきである。

以上のことはパートばかりでなく、フリーター問題に対しても当てはまることである。この「短時間労働者の均等処遇に関するガイドライン案」は主に主婦のパートを念頭においているものと思われるが、フリーター[14]と呼ばれる若年層に対しても同様の均等化措置が必要になろう。フリーターというと、男性が多いように思われているようであるが、実際には女性の方が過半数を占めており、またフリーターから正社員への転換も女性の方が困難であるとする研究がある(小杉編2002)。昨今、高卒女性の就職は困難であり、また正社員への学卒未就業からの就職も女性の方が不利だからである。その意味からも、現在、社会問題化しているフリーター問題も、女性労働者やパート労働者と同根の問題を抱えているのである。

 

日経連(1995)『新時代の「日本的経営」』雇用ポートフォリオ論

非正規雇用とか変わることとして、日経連(1995)は『新時代の「日本的経営」』において、悪名高い雇用ポートフォリオ論を展開した。それによると、今後、雇用形態は「長期能力蓄積型グループ」「高度専門能力蓄積型グループ」「雇用柔軟型グループ」に分けられる。これを発表するや否や、労組や研究者からは従来の正社員は一部のエリートに限り、大多数を雇用が不安定で低賃金な非正規雇用に転換していくものだと批判が繰り返し行なわれている。

とはいえ、財界がそのように本当に狙っているとは考えにくい。例えば、日本経団連の会長であり、トヨタの会長でもある奥田硯氏は「雇用を守れないような経営者は失格だ。」といい、同じく日本経団連の副会長であり、キャノンの社長である御手洗氏は「終身雇用は守る(が、年功序列ではなく実力主義である)。」(日本経済新聞20011021)と常々主張している。これを単なるリップサービスとみることができないわけではない。また彼らはこのことを日本の文化的伝統が米国とは異なる、あるいは忠誠心は重要であるという点から論じている。

だが、それよりも日本の雇用システムには長期にわたって技能形成するシステムであって、そのためには長期雇用を求めていると考えられる。そして、長期雇用による人材形成の重要性は日経連や生産性本部によっても度々主張されていることなのである。少なくとも、3〜5年後の将来、「長期能力蓄積型グループ」がどの程度になるか日経連の会員会社に問うたアンケートでは、平均で70.8%となっている(日経連1996p.14)

ただし、日本経団連を弁護するつもりはない。次の諸点にも留意を要する。一つは若年労働人口の減少が既に始まっており、2005年からは労働力人口自体が減少傾向に向かうことが推測されていることである。現在は不況で感覚的に信じられないかもしれないが、今後中国や韓国の内需拡大などにより日本の景気が本格的に回復すれば、それが一挙に表面化するかもしれない。日本経団連も近い将来の労働力不足顕在化に対する懸念を表明しており、その対応のためにも雇用維持を訴えているのである。それから、最近、厚生労働省や日本生産性本部に労働者よりの企業の負担を増やしかねない政策提言が相次いでいることに関連する。前述の厚生労働省による「短時間労働者の均等処遇に関するガイドライン案」の提言や後述する社会経済生産性本部の残業規制のシミュレーションなどである。それらに対して日本経団連は労使の間で決められるべきと政府の介入を牽制していることも押さえておくべきであろう。

それはともかく、労働者側としても、低賃金で低い技能しか認められない非正規雇用が蔓延する土壌があると喧伝するよりも、労働者には通常思われている以上の技能と専門知識があり、それは長期雇用によって培われるものである、だから雇用を守れと主張する方が説得的ではないだろうか?

 

V.ワークシェアリングと長時間労働の是正

日本におけるワークシェアリング議論の低迷化

Tでは日本の失業と長時間労働の傾向を概観し、「人減らしと労働時間増加」という「逆ワークシェアリング」という現象が起こっていることに言及した。そして、Uでのキャリア形成と非正規雇用の分析を踏まえて、Vではワークシェアリングの問題は、労働時間の短縮の問題を孕み、さらに非正規雇用と正規雇用との均等待遇の問題に関連することを示唆しよう。

ワークシェアリングに関しては、昨年は日本でも議論が盛り上がったのだが、今年になって急激に熱が冷めてしまった印象を受ける。実際、ワークシェアリングの専門家に聞いても、昨年は様々な講演会に引っ張りだこだったが、今年はサッパリだと笑う。だが、ワークシェアリングの議論がすぐ下火になってしまったこと自体に日本の雇用システムに絡んだ問題があるのである。

というのは、ワークシェアリングの導入には職務の明確化と時間給の導入が必要といわれているが、日本の場合、欧米のように職務ごとに給与が決まっている職務給を採って職務に人を当てるのではなく、人に職務を与えるといったやり方が採られていること。そのため職務が曖昧になり、働いた時間と成果が比例しにくくなっていること。さらに、サービス残業(賃金不払残業)が横行していることにより、給与を時間によって測ることが困難になっており、さらに短時間労働者が活躍する場を潜在的に奪っているからである※。

以下、ワークシェアリングの類型とその問題点、そしてワークシェアリングの可能性と長時間労働の克服の問題を論じよう。

 

ワークシェアリングの4類型とその代替案

日本ではワークシェアリングは[15]、@雇用維持型(緊急避難型)、A雇用維持型(中高年対策型)、B雇用創出型、C多様就業型の4つの類的に分けることが定説のようになっている。これは元々、「ワークシェアリングに関する調査研究会」が2001年に発表したもので、それが様々なワークシェアリング関係の書で紹介され、普及していったものである。

だが、これはあまり的を射た定義とはいいがたい。というのは、1つの類型に様々な要素を混入し、錯綜させてしまい、かえってわかりにくくさせているからである。まず、@雇用維持型(緊急避難型)は、「雇用を維持するために賃金の削減が必要となる」場合とされ、ドイツのフォルクスワーゲンやフランスのルノーなどの個別企業の例が挙げられている。ワークシェアリングを賃金の削減と結びつける議論は、のちに竹信(2002)によって批判されている。また、別のワークシェアリング研究会(2001pp,12-16)によっても賃金削減を伴うワークシェアリングは成功しにくいことが示唆されている。必ずしも、賃下げの類型にする必要はないであろう。A雇用維持型(中高年対策型)では、中高年層の雇用対策と60歳以降の雇用延長対策となっている。後者は65歳定年延長の議論と重なるが、そもそもワークシェアリングの議論と関係がないという批判もあり(久本2002p.134)、「ワークシェアリングに関する調査研究会」の委員であった脇坂(2002p.69)は、むしろ前者の中高年に絞った時短の例を中心に描くようになっている。

そして、B雇用創出型は、フランスのように国が主体となる場合が主であるが、「一部、個別企業の取組み」としてフォルクスワーゲンのリレー方式が紹介されており、主体が国家でも企業でもあることになってしまっている。C多様就業型としては、「多様な就業の機会を与えることを目的として行なわれ」ているものと定義され、「個別企業による取組みが多い」として、ヒューレットパッカードのジョブ・シェアリングの例が挙げられている。そして、国家的な取組みの例として、オランダが挙げられている。以上のように、オリジナルの4類型では、国家と個別企業で、一見どこに共通点があるのか見失いがちな例が混入されてしまって、定義が判然としなくなってしまっている。

よって、もし、この類型を保つならば、むしろ、@の緊急避難型を個別企業において、一時的に一人当たりの労働時間を短縮して、全体の雇用を維持すること、Aの中高年対策型は、関係のない65歳定年延長問題を外して、中高年対策型は@の一部とする。Bの雇用創出型は、雇用維持に対して雇用創出を別類型としたのだろうが、個別企業を念頭におくと雇用維持と雇用創出との区別は実際には領域が不鮮明になるだろう。よって、個別企業は外して、フランスのように国家により法制度によって労働時間の短縮を全国的に義務付けるものとする。名称も「法制度型」する。Cの多様就業型は、名称はこのままでよいが、オランダ・モデルを念頭に置き、ジョブ・シェアリングはその中に入る場合もあるが、ひとまずワークシェアリングと概念的に分ける。以上のように、類型を変えることを主張したい。

ちなみに、熊沢はこの4類型から、ワークシェアリングを個人選択型と一律型とに分類しなおしている。ここで個人選択型とは多様就業型などであり、一律型は法制度型に当たる。熊沢が一律型を重視するのは、日本の労働時間が長く、まずはそれを法律により是正することが重要であると考えるからである。

ただし、ワークシェアリングの類型自体は、緊急避難型も個人選択型から分けて多様就業型と区別をつけておいた方がよいと思われる。オランダ・モデル[16]では1.5モデルといって、仕事を本来1としたら男女のカップルで共に0.75ずつ分け合い、家事もともにするというモデルが提唱されているが、そのようなモデルを理想と考える向きも多いと思われるからである。とはいえ、熊沢の長時間労働是正の主張自体は考慮されるべきであろう。次に、この問題をもっと包括的にみていこう。

 

ワークシェアリングと長時間労働の是正

日本の労働時間の長さと非正規雇用についてはTとUで検討した。ここではワークシェアリングの議論とも絡めて、時間外労働とサービス残業を労働基準監督を法律どおりに運用することによって削減し、労働時間の短縮とそれと裏腹の生活の充実を図ること。そして、このことは雇用の創出とさらに非正規雇用の均等待遇に結びついてくるということを明らかにしよう。

社会経済生産性本部は「サービス残業ゼロで雇用機会創出効果は90万人」、「残業削減(所定外労働時間ゼロ)では170万人」になると「労働時間短縮の雇用効果に関する調査研究」において推計した(ワークシェアリング研究会編2001p.63)[17]。社会経済生産性本部(旧日本生産性本部)は、財界における労働者の生産性向上運動や労使協調の研究を行なう機関とみなされており、そのような機関がこういった推計を行なったことは長時間労働の是正において一役買ったと思われる。労働者側もこの推計を多用しており、まもなく労働基準監督署による残業規制も本格化しだしたからである。

残業に関して、久本(2003p.70-79)氏は、日本においては残業させた方が実は割安になっていることを主張している。残業には割増制度があるがそれを加味しても、残業の算定基準が主に基本給により決められており、諸手当やボーナスそして社会保障負担分などが含まれていないので、結果として総額人件費としてみた時、社員を新たに雇うよりも既存の社員に残業させた方が起業にとって割安になるという。

すなわち、残業による実質的な賃金割引をなくせば、企業は残業をおこなわせるインセンティブを失うだろう。法律によって、残業割増率の算定基準をボーナス、手当て、退職金積立なども含めるように変えていくべきなのである。このことによって、日本では日常的に残業を行なうことによって、景気が悪くなった時に残業を減らして雇用を維持してきたといわれるメリットを失うことになるかもしれない。だが、現在では「人減らしと労働時間増加」というワークシェアリングに逆行する動きが起こっている。これならば労働時間を削減してよいであろう。このことによりワークシェアリングが導入されやすくなり、あるいは正社員を残業させる代わりに非正社員を雇うようになるであろう。

その上で、ワークシェアリングの可能性としては、注目されている短時間正社員の実現を目指すこと。それから、一つの仕事を2人で分かち合うジョブ・シェアリングを目指すことが考えられる。だが、この2つとも重要な短所があることを看過してはならない。すなわち、技能形成、キャリア形成の側面である。

正社員として勤めたことのある人だったら、ある程度のまとまった時間をかけて、甚だしい場合は突貫工事のように徹夜を重ねて、ようやく成果が挙げられたといった経験があるだろう。総合すれば同じ長さの時間であっても、ぶつ切りのように時間を分けていては同じ成果は挙げられない場合がある。果たして、いつも短時間の仕事でどれだけ成果が挙げられるだろうか。

ジョブ・シェアリングでは、例えば大学で、1人が4ヶ月講義を担当して、もう一人がその間休む。次の4ヶ月は交代して1人が同じ開講科目を教えて、もう一人が休職するというようにすると考える。このように考えると、ジョブ・シェアリングの方が、一人当たりの労働時間を同期間に一律に削減して全体の雇用を確保するという本来のワークシェアリングよりも、実行しやすいように思われる。だが、この場合問題なのは休職中の所得保障である。他のところで非常勤として働くことを一般のアルバイト的な仕事を含めて認めるか、失業手当など何らかの所得保障を認めることになろうが、それでも所得減少は避けがたい。住宅ローンなどが残っていれば、生活や将来設計に支障をきたすことになりかねない。

このように、ワークシェアリングの実現性は困難である。だが、まずサービス残業を減らし、残業(所定外労働)そのものを減らしていくようにし、さらに時短を進めていくようにする方向自体はしていくべきである。むしろ、ワークシェアリング自体に拘らず、ワークシェアリングの議論を契機に弾みのついた残業撤廃・時短の方向性を進めていく、そのような形でワークシェアリング論を総括していくことが求められているといえよう。

 

おわりに―短時間労働とキャリア形成

終身雇用制や年功制の崩壊や雇用の流動化・多様化は、マスコミでいわれるほど起こってはいないし、日本は信じられているほど元々終身雇用的ではなかったし、雇用の流動性がなかったわけでもない。問題はかつてない経済成長の停滞とそれに基づく失業率の高揚、女性・若年層を中心とした非正規雇用の増大、そしてそれに伴う国民の不安心理にある。ただし、横田報告にも書かれていることだが、日本においてジェンダー・バイアスはかなり強く、それが非正規雇用において女性が中心に展開している原因となっていると思われる。[18]

失業と並んで問題なのは、女性労働者を中心に非正規雇用化が進展しており、若年層においては男性労働者においてもフリーター問題という非正規雇用化の問題が生じていることである。ただし、「非典型雇用」や日経連のいう「雇用柔軟型」を中心にしようと為政者が目論んでいるとは考えにくい。もちろん、企業はコスト削減を追及し、できるだけ賃金コストを下げようとはするが、一方でスキルの高さも重要だからである。今後、スキルの高さや専門知識がますます求められるようになることが考えられる。そして、少なくとも日本においては、そういった職務の幅や専門知識が一部の管理職に要求されるのではなく、広く下位の労働者にも求められてきたのである。

だが、欧米であれば求められないような職務の幅を求められるがために、日本では長時間労働を強いられて過労死が問題として顕在化してしまうまでになってしまった。日本の労働時間は趨勢的には短縮傾向にあるとはいえ、まだ時間短縮は望ましい方向である。だが、キャリア形成との関係を考えていく必要がある。これまで明らかにしてきたように、日本型雇用慣行は長期にわたって技能を養成するというプラスの面もあった。その点を踏まえて、もっと専門性、企画立案能力、変化への対応能力を高め、何よりキャリア形成を自覚的に意識した取組みが個人、企業、そして公共機関に求められている。※

 

(参考文献)

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ワークシェアリング研究会編(2001)『ワークシェアリング』社会経済生産性本部.

脇坂明(2002)『日本型ワークシェアリング』PHP新書.

日本におけるパートタイム労働者の現況と問題点

 

                                 横田 伸子(山口大学経済学部教授)

 

T.はじめに

 

 1990年代後半以降、日本では様々な側面で規制緩和が進み、これにともない労働市場の構造も急激に柔軟化した。このことをもっともよく表しているのが、パートタイム労働者の規模の拡大と、その存在形態の変化である。『パートタイム労働者総合実態調査報告2001年版』(日本国厚生労働省(2003))によれば、1995798万人であったパートタイム労働者が2001年には1,118万人と、320万人も増えている。また、全賃金労働者に占めるパートタイム労働者の割合も、同期間17.8%から26.1%へと、8.3ポイントもの大幅な増大を見せている。

 本稿では、まずUで、日本のパートタイム労働者の定義づけを行い、その規模の推移を様々な側面から見てみたい。とくに、日本のパートタイム労働者の中には、単に所定労働時間が正社員より短い労働者だけでなく、正社員と所定労働時間が同じか長く、さらに処遇において正社員より著しく劣った「呼称パート(=その他パート)」注1)とよばれるグループが含まれている。この「呼称パート」こそ、日本のパートタイム労働者の特異なあり方であると言えよう。「呼称パート」の規模の推移にも注目することによって、日本のパートタイム労働の問題点を浮き彫りにしたい。また、2001年には、日本のパートタイム労働者の73.1%という圧倒的多数が女性によって占められていることからも、パートタイム労働問題は女性労働問題であるといっても過言ではない。したがって、Uではとくに、男女別のパートタイム労働者の規模の相違に注意を払いながら分析を行う。

 現在の日本のパートタイム労働者の規模を推定した後に、Vではパートタイム労働者の具体的なあり方と問題点を、正社員との処遇格差、基幹労働的・生計維持的・非自発的パートタイム労働者の増大という側面から明らかにしたい。元来、パートタイム労働は、基幹労働に対して補助的役割を果たし、主に主婦が、男性稼ぎ主による生計維持的労働に対する家計補助的労働を行なうものと位置づけられてきた。だからこそ、主婦のパートタイム労働は自発的であり、生計を支えるものでないから低賃金でも構わないという認識がまかり通ってきた。しかし、後に詳しく述べるように、1990年代後半以降、低賃金の基幹的・生計維持的パートタイム労働が顕著に増大し、こうした労働の拡大が「独立的に食べていける雇用」を侵食しているのが現状である。ここでは、パートタイム労働のあり方に焦点を当てることによって、日本の雇用の変化を浮き彫りにしたい。

最後に、Wでは、パートタイム労働者の急激な増加の背景を、日本の経済構造の変化と社会システムの型(pattern)から考察する。グローバリゼーションの進展の中で、「メガ・コンペティション(大競争)」はますます激化し、こうした波にのみこまれた日本経済も急速な構造改革を迫られている。当然のことながら、従来の経済成長を支えてきたシステム自体も再編あるいは再構築を余儀なくされており、なかでも男性稼ぎ主による長期安定雇用・年功賃金システムに象徴される日本的雇用慣行はコストがかかりすぎるという理由から大きく揺らいでいる。まさに、1990年代後半以降のパートタイム労働者の急増は、日本的雇用慣行の動揺と裏腹の関係にある。本稿では、日本的雇用慣行をジェンダー的視点から捉え直し、日本のパートタイム労働者の4分の3を女性労働者が占めるという現実と従来の日本の社会システムの型が不整合を起こしていることを論理的に明らかにしたい。

結論として、果たして日本のパートタイム労働は、オランダ・モデルに代表されるワーク・シェアリングと結びついて雇用創出を可能にし、ペイド・ワーク(paid work)とアンペイド・ワーク(unpaid work)を一元化し、男女がともにより豊かな職業・家庭・地域性生活を両立的に営む方向に進む方策となりうるのか? あるいは、市場競争原理が貫徹される中で、パートタイム労働がますます差別的な労働と化し、組織化されない経済分野を拡大し、貧富格差をより一層拡げていくのかどうかについて展望する。

本稿では、主に、『パートタイム労働者総合実態調査報告』(日本厚生労働省(2003))に拠りながら、分析・検討を進めていきたい。同調査は、1990年、1995年、2001年の3回にわたって行われた標本調査であり、日本国全域の常用労働者を5人以上雇用する事業所に対する事業所調査と、当該事業所で雇用されるパートタイム労働者に対する個人調査から成る。同調査の特徴は、1990年代を通じた時系列比較が可能であるとともに、パートタイム労働に対する事業所及び個人の考え方や認識の変化を明らかにし、パートタイム労働の実態により踏み込んだ設問設計がなされているところにある注2)。

 

注1)「呼称パートは、統計上その他パートと表記されている。以下、特別なことわりのない限り、その他パートと記した場合、呼称パートをさすものとする。

注2)調査対象産業は、日本標準産業分類による次の9大産業である。すなわち、鉱業、建設業、製造業、電気・ガス・熱供給・水道業、運輸・通信業、卸売・小売業・飲食店、金融・保険業、不動産業、サービス業である。また、調査事業所は、1990年約15000事業所、199513000事業所、200112,707事業所、パートタイム労働者は、それぞれ、30000人、30,000人、28,722人となっている。

 

U.日本におけるパートタイム労働者の定義と規模の推移

 

 (1).非正規労働者におけるパート労働者の位置

 

 まず、日本の厚生労働省『就業形態の多様化に関する総合実態調査報告』(1996)(2001)で、非正規労働者と正規労働者の全労働者に占める割合の推移を見てみよう。ここでは、非正社員を非正規労働者、正社員を正規労働者と考えてよいだろう。1994年に全労働者の22.8%を占めていた非正社員は、1999年では4.7ポイントも増えて、27.5%となっており、1990年代後半以降、労働力の非正規労働者化という形で労働市場の柔軟化が確実に進んだことがわかる。

 さらに、〈表1〉で就業形態別の全労働者に占める割合の変化に注目すると、1994年には非正社員のなかでもパートタイム労働者の割合が他を引き離して高く13.7%となっており、したがって非正社員に占める割合も60.1%に及んでいる。しかし、1999年になると、これらの割合がそれぞれ、20.3%、73.9%と大幅に高まっており、非正社員の約4分の3がパートタイム労働者で占められるようになった。よって、1990年代後半以降の日本の労働市場構造の柔軟化、言いかえれば労働力の非正規労働者化は、パートタイム労働者の増大によるものであったといえる。 

 

 (2).日本におけるパートタイム労働者の定義

 

 ところで、1994年に採択された「ILOパートタイム労働条約(175)及び勧告(182)」では、「パートタイム労働者」を「通常の労働時間(normal hour of work)が、比較可能なフルタイムの労働者のそれよりも少ない就業者」と規定している。また、日本で1993年に制定された短時間労働者の雇用管理の改善に関する法律(パートタイム労働法)でも、パートタイム労働者とは 、「1週間の所定労働時間が同一の事業所に雇用される通常の労働者の1週間の所定労働時間に比べて短い労働者」となっている。

 しかし、日本では、こうした国際基準や国内法の「短時間労働者」の規定に適合せず、正社員以外の労働者で、1週間の所定労働時間が正社員と同じか長いにもかかわらず、「勤め先の呼称がパートである」労働者が存在する。このことは、一般的に「パート」という概念が短時間労働者という意味だけでなく、「正社員でない者」という意味で用いられ、これらの人々が、賃金や手当て、ボーナス、退職金、社会保険、雇用の安定性などの面で正社員と比べて、著しい処遇の差別を受けている実態があることを示している。この「呼称パート」は、欧米諸国のパートタイム労働者のあり方とは大きく異なり、日本の「パートタイム労働」の一つの特徴を成していると考えられる。一方、この「呼称パート」は、2000年現在で韓国の非正規労働者の66.0%を占める「長期臨時労働者」(キム・ユソン(2001);p74)の概念と重なるところが大きいのではないだろうか。

 ともあれ、『パートタイム労働者総合実態調査報告書』(日本国厚生労働省(2003))によれば、2001年には、国際基準での短時間労働者である「短時間パート」は全労働者の22.1%を占め、統計上は「その他パート」と分類される「呼称パート」は同3.9%となっている。パートタイム労働者の全賃金労働者に占める割合が、1999年に比べて5.7ポイントも高まったことも目を引くが、「呼称パート」がパート労働者全体の15%の水準となっていることは重要である。というのは、長時間労働の上、正社員と同等の仕事をしているのにもかかわらず、合理的な理由なく低賃金の「呼称パート」の増大こそ、冒頭で触れた、労働力のパートタイム労働化による貧困の拡大に直接つながるからである。以下、「短時間パート」とともに、「呼称パート」の規模の変化や実態に迫っていきたい。

 

 (3).パートタイム労働者の規模の推移

 

 まず、性別でパートタイム労働者数と賃金労働者に占める割合を示した〈表2〉を見ると、1990年のパートタイム労働者は約607万人、14.6%であったのが、1995年には同798万人、17.8%となり、150万人、3.2ポイントの増加にとどまった。これに対し、2001年になると約1,118万人、26.1%となり、1995年から320万人、8.3ポイントもの急激な増大が目を引く。ここからもまた、1990年代後半以降、労働力のパートタイム労働者化が一層加速していることがわかる。

 さらに、1990年代後半以降を男女別で見てみると、男性パートタイム労働者は1995年に約209万人で、男性賃金労働者に占める割合が7.6%であったのが、2001年には同296万人、11.9%と、数にして87万人、比率では4.3ポイントと着実に増えている。しかし、これにも増して女性パートタイム労働者は、同期間、人数、女性賃金労働者に占める割合ともに急激に膨らんでいる。すなわち、1995589万人、34.0%であったのが、2001年には822万人、45.7%と、233万人、11.7ポイントも増大した。このように、1990年代後半以降のパートタイム労働者化が、女性を中心に進展したことが見てとれる。しかも、この間一貫して変わらないのが、パートタイム労働者の女性比率で、199573.8%、200173.5%となっており、女性がパートタイム労働者の4分の3近くを占め続け、常にその主軸であったことがわかる。このように、日本のパートタイム労働問題の多くは、女性の就労問題や日本的雇用慣行における性別役割分業構造(男性=正社員女性=家事+パートタイム労働)をつとに反映してきたと言えるが、これについては後に詳しく検討する。

 では、日本のパートタイム労働のあり方の一つの重要な特徴をなす、「呼称パート」=「その他パート」と、「短時間パート」の「パート」に分けて、1990年代後半以降のそれぞれの規模の変化を追ってみよう。同じく〈表2〉によれば、2001年には「短時間パート」の「パート」は、949万人、全賃金労働者に対する比率は22.1%と、1995年の669万人、14.9%に比べて280万人、比率では7.2ポイントと大きく増えている。一方、所定労働時間が正社員と同じか長い「その他パート」は、2001年には、約169万人、3.9%となり、1995年の130万人、2.9%より、39万人、1.0ポイントの増加で、拡大傾向を見せている。しかし、ここで注目されるのは、「短時間パート」の増加率は、女性労働者の40.2%よりむしろ男性労働者の47.4%が上回ったのに対し、「その他パート」の増加率は、男性25.5%、女性34.6%と男女が逆転している。つまり、「その他パート」の拡大が女性労働者を中心に起こっており、女性賃金労働者の4.2%から5.4%にまで拡がっている。「その他パート」が、家事の合間をぬって従事する家計補助的な「短時間パート」と異なり、ほとんどフルタイム労働かそれ以上の長時間就業し、実際的に生計維持的役割も大きいことから、「その他パート」の拡がりは女性パートタイム労働者の貧困の深刻化を示唆する現象である。

さらに、2001年の男女別による産業別、職業別、企業規模別パート労働者と正社員の割合を示したのが〈表3〉である。産業別では、卸売・小売業飲食店のパートタイム労働者比率が478%と際立って高く、この中でも小売業と飲食店のパートタイム労働者比率がそれぞれ58.075.9%と過半数を占めている。さらに男女別では男性は卸売・小売業、飲食店の75.6%を除いては、約90%から90%以上という圧倒的比率が正社員であるのに対して、女性は正社員比率が総じて低く、パートタイム労働者の比率が高い。ことに卸売・小売業、飲食店では、スーパーやコンビニエンス・ストアなどの小売業、外食産業などの飲食店を中心に正社員とパートタイム労働者の比率が逆転しており、これらの産業では女性労働者の約7割がパートタイム労働者として就労している。『パートタイム労働者総合実態調査報告』(日本国厚生労働省(2003))によれば、鉱業と建設業を除く全産業でパートタイム労働者の比重が高まる中、卸売・小売業、飲食店のパートタイム労働者の比率は、1995年の31.8%から2001年には47.8%とひとり突出して膨張している。1990年代後半以降は、この業界における女性パートタイム労働者の雇用の拡大によって、労働力の急速なパートタイマー化が牽引されたと考えて差し支えないであろう。

 職業別では、産業別労働者比率と相関して、卸売・小売業、飲食店に従事する職業の「保安職業、サービス職業」、「販売従事者」のパートタイム労働者比率がそれぞれ、44.7%、24.9%と相対的に高くなっている。しかし、職業別では産業別に比べて、男女のパートタイム労働者比率の対照性が一層際立っている。すなわち、男性はすべての職業で正社員比率がパートタイム労働者比率より断然高い。逆に、女性は全体としてパートタイム労働者比率が高いだけでなく、販売従事者、保安職業・サービス職業、農林業業作業者、技能工・製造・建設作業者、労務作業者ではパートタイム労働の割合が正社員のより高くなっていることは特記すべきである。中でも、販売従事者やサービス職業従事者の多くは、卸売・小売業、飲食店で就業していると考えられ、この分野で女性パートタイム労働者が主軸となっていることが十分うかがわれる。

 企業規模別では、韓国の非正規雇用の3分の2を占める長期臨時雇用者が10人未満の零細企業に集中している(チャン・ジヨン2001;79-80)のとは対照的に、日本の場合パートタイム労働者は大企業に比較的多く分布している。とりわけ、女性労働者にその傾向がはっきり表れており、企業規模が1000人以上では女性労働者のうち55.0%の過半数がパートタイム労働者である。

 要約しよう。1990年代後半以降の規制緩和の脈絡の中で、労働力のパートタイム労働者化がかつてないほど急速に進んだ。しかし、男性のパートタイム労働者化は一定程度進展するが、その中心は依然として、小売業や飲食店業に従事する女性であり、とりわけ大企業で女性パートタイム労働者の雇用を選好している点が注目される。また、男女ともに「短時間パート」と「その他パート」両方で、全労働者に占める割合を大きくしているが、より貧困の影の濃い「その他パート」の拡大を引っぱったのは女性であった。以上より、日本におけるパート労働者化は、きわめて強いジェンダー構造的特徴を帯びて進行したといえよう。

 

 V.日本におけるパートタイム労働者の現況と問題点

 

 (1).正社員との処遇格差とその拡大

 

 それでは、日本社会でつとに問題となってきたパートタイム労働者と正社員との処遇格差について検討してみたい。

 まず、正社員の1時間当り所定内給与額を100としてパートタイム労働者のそれを換算してみると、1999年現在で短時間パート47.2その他パート54.1となっている(横田(2003)p.47)。パートタイム労働者と正社員との間に勤続年数及び職種の違いがあり単純に比較できないことに留意しつつも、短時間パートその他パートを問わず、賃金において正社員と大きな格差があることが確認できる。次に、パートタイム労働者と正社員の1時間当り所定内給与額を性別で比較し、その格差が大きくなったのか、縮小したのかを見たのが〈表4〉である。正社員の賃金を100とした時パートタイム労働者の賃金は、1990年から2001年までの間、男性で55.4から50.7へ、女性で70.9から66.4へと両者の格差は持続的に拡大趨勢を見せている。なお、正社員の男女賃金格差は、男性を100とすると同期間の女性の賃金は60.6から65.3へとむしろ縮小する傾向にあり、この間の男女労働者の賃金格差の拡大は、男性正社員の賃金に対して常に4344%内外の水準にとどまる女性パートタイム労働者数の増大によるものであることがわかる。こうして、パートタイム労働者の規模の拡大と併行して、パートタイム労働者と正社員との賃金格差は拡大してきており、とくに女性パートタイム労働者が賃金位階の最下位に位置している。

 さらに、パートタイム労働者と正社員では賃金体系が全く異なる。一般に、日本的雇用慣行の特徴の一つとして年功賃金体系があげられるが、勤続年数別で就業形態別に賃金カーブを描いてみた〈図1〉によれば、パートタイム労働者と正社員の賃金体系の違いは一目瞭然である。つまり、正社員に対するパートタイム労働者の賃金水準の低さだけでなく、勤続にともなう賃金の上がり方の違いが顕著である。正社員は、まさに日本的雇用を象徴する年功賃金型カーブを描き、勤続にともない賃金額が上昇しているのに対し、パートタイム労働者の賃金はいくら勤続を重ねても、低い水準でフラット(flat)にねたままである。

こうしたパートタイム労働者と正社員との賃金格差は以下のように説明されてきた。すなわち、男性を中心とするフルタイム正社員は、長期勤続による企業内でのcareer形成に相応して賃金が上がる内部労働市場に属し、その賃金形態も生活給的な要素が含まれた月給制である。一方、主として女性が従事するパートタイム労働は、一般的に代替可能で基幹労働の補助的性格が強いため、労働力は市場賃金が直接に反映される外部労働市場から調達され、職務に対して賃金額が決定される時給制3であるため、勤続に応じて賃金は上昇することはほとんどない。実際、事業所にパートタイム労働者の賃金決定項目を尋ねた『パートタイム労働者総合実態調査報告2001年版』(日本国厚生労働省(2003)pp.100101)でも、「同じ地域・職種のパート賃金」とする事業所が67.4%と全体の約7割を占め、仕事の困難度に応じて26.5%、経験年数に応じて25.1%のように、労働者の技能やcareerに根拠をおいた賃金決定項目を大きく上回っている。しかし、次に見るようにパートタイム労働が基幹労働力部門にまでが急速に拡がっている現状では、正社員=内部労働市場対パートタイム労働者=外部労働市場論は、パートタイム労働者の賃金が地域の最低賃金に合わせた地域相場によって決定されることへの合理的理由にはなりえない。これについては後に詳しく考察する。

賃金格差だけでなく、パートタイム労働者と正社員では、〈表5〉のように各種手当や各種制度の受恵状況でも大きな差がある。通勤手当の約70%を例外として、パートタイム労働者に対しても各種手当を実施している事業所は、10%台か10%未満でごくわずかである。また、定期昇給、ベース・アップ、ボーナス、昇進・昇格、退職金制度、配置転換、能力活用制度などの各種制度の実施状況においても正社員との間に大きな格差があり、加えて、各種手当とともに、1995年と比べて2001年には、各事業所における実施状況はむしろ低下傾向にあり、格差拡大を示している。こうした事実は、「短時間パート」、「その他パート」を問わず当てはまる。ここには、正社員を雇用すれば各種手当や各種制度の費用としてかかるコストを、パートタイム労働者を用いることによって節減しようとする企業のねらいが明らかに表われている。

また、日本の厚生労働省の諮問機関、パートタイム労働研究会の最終報告では、日本のパートタイム労働者の特徴として、欧米諸国と比べて契約形態が、臨時や有期労働でない常用パートタイム労働者の割合が少ない点を指摘している(日本国厚生労働省(2002))。たとえば、オランダ、フランスの女性では常用パートタイム労働者が8割内外なのに対し、日本の女性では、「短時間パート」で54.8%、「その他パート」にいたっては正社員と同じかそれ以上の長時間働いているにもかかわらず、わずか37.3%が契約期限の定めのない労働者であるに過ぎない(日本国厚生労働省(2003p.154)。有期雇用に対する規制の緩やかな日本では、これがパートタイム労働者の著しい雇用の不安定性を条件づけるだけでなく、有期労働契約のもとで契約更新を何回も繰り返すことで、パートタイム労働者の賃金やその他の処遇は低い水準に据え置かれたまま長期雇用が可能となり、正社員との処遇格差を引き起こす要因となっている。そればかりでなく、最近の傾向として契約期間を短期化したり、非連続雇用や更新回数の制限によるパートタイム労働者の入れ替えなど、契約期間の変更が合理的な理由なく一方的に労働者に押し付けられた結果(酒井(2002)p.56)、パートタイム労働者の雇用が一段と不安定化している注4)

このような正社員との処遇格差を是正するためにも、パートタイム労働者の声を反映する労働組合の必要性は高まらざるをえない。しかし、2001年現在、会社にパートタイム労働者が加入できる労働組合があるのは全パートタイム労働者の321%で、逆にいえば3分の2の労働者に労働組合の加入資格が与えられていないことになる。加入資格のある労働者のうち労働組合に加入しているのはわずか7.7%、組織率にすると2.5%に過ぎない(日本国厚生労働省(2003)p.274)。日本の労働組合の組織率が低下傾向にあるとはいえ、2001年の労働者全体の組織率20.7%を大きく下回り、パートタイム労働者の処遇改善を促すための職場労働組合というチャンネルの機能は、極めて限られたものとなっている。

 

(2).基幹労働的・生計維持的・非自発的パートタイム労働者の拡大

 

前述したように、パートタイム労働者と正社員の間に処遇格差、とくに賃金格差が生じる理由は、パートタイム労働者の仕事が、正社員の基幹的労働に対して、技能水準が低くキャリア形成もそれほど必要とされず、責任も重くない補助的労働と考えられていた点に求められてきた。したがって、一般に家庭の主婦が従事するようなパートタイム労働には、一家の稼ぎ手として生計を支えることは期待されておらず、家計を補完する程度の賃金を稼げばよいという認識のもとに賃金水準が設定されたというのである。

しかしながら、1990年代後半以降パートタイム労働者の急速な拡大の中で、従来考えられてきたパートタイム労働の役割を大きく超える労働者が広範に現れるようになった。2001年の調査では、過去1年間にパートタイム労働者を雇い入れた際、以前正社員が行っていた業務に充てた事業所の割合は、「短時間パート」で、「ほとんどまたは全く充てなかった」31.1%に対し、「半分以上の労働者を充てた」27.7%と「半分未満の労働者を充てた」19.8%を合わせて47.5%となり、約半数の事業所で正社員の基幹的業務が「短時間パート」にシフトしている。この傾向は、「その他パート」でさらに強く表われている。つまり、「半分以上の労働者を充てた」が37.1%と、「短時間パート」より10ポインも高く、正社員と同じかそれ以上長く働く「その他パート」が正社員に取って代わりつつあることを示している(日本厚生労働省(2003)pp.82-83)

〈表6〉は、パート労働者を雇用している事業所のうち、職務・責任が正社員と同じパートタイム労働者がいる事業所の割合を産業別に見たものである。ここでも、「短時間パート」の40.7%に対して、「その他パート」を雇用する事業所の53.7%、つまり過半数で職務・責任が正社員と同じその他パートがいると答えており、その他パートにおいてより基幹労働力化が進んでいることがわかる。いずれにせよ、基幹的労働の補助的役割を担うと考えられてきたパートタイム労働観に転換を迫る事実である。とくに、産業別ではパートタイム労働者を多く雇用している卸売・小売業・飲食店、サービス業で、パートタイム労働の基幹労働力化が進展している注5)。

一方、正社員の賃金が生計維持的であるのに対し、パートタイム労働者のそれは家計補助的であるがゆえに、後者の賃金水準が低いという説明自体も覆されつつある。〈表7〉は、パートタイム労働者として働いている理由を1995年と2001年で比較したものである。同期間、何よりも「生活を維持するため」と答えた労働者数の割合が飛躍的に伸びており、ひときわ目を引く。一般的に、主婦が家計の足しにするために従事すると考えられてきた短時間パートでも、生活を維持するため33.8%から47.3%まで大きく増大しており、ことに女性だけでは30.2%から42.6%へと大幅増を示している。他方、最も多い家計の足しにするため53.5%から53.1%へとほとんど変化がない。さらに、本来、正社員と同等に働きながらも処遇において著しく劣ることの多いその他パートでは、生活を維持するためという答えの比率がもっとも高く、1995年から2001年の間にその他パート6割から7割にまで達している。中でも、生活を維持するためその他パートとして就労している女性の比率の伸び(46.8%61.6%)は、男性のそれ(75.3%81.2%)よりずっと大きく、女性の貧困化の深まりを暗示する。ともあれ、以上の調査結果は、1990年代後半以降、パートタイム労働が生計維持的な労働に移行しつつあるのを如実に示している。

こうなると、主婦が配偶者の所得を補填する程度に働けばよいというパートタイム労働のイメージもがらりと変わってこよう。パートタイム労働者としての働き方を選んだ理由を問うた質問に、正社員として働ける会社がなかったからと答えた短時間パートは比率こそ21.1%と少なかったが、1995年の13.7%から他を引き離して伸びたのがこの項目である。一方、その他パートでは、正社員を希望しながら、やむを得ずパートタイム労働を選ぶという非自発性を表すこの答えが最も多いだけでなく、1995年の31.7%から2001年の38.0%へともっとも大きく増えた(日本国厚生労働省(2003)pp.228-233)

 

以上のように、1990年代後半以降、パートタイム労働者の規模が拡大するとともに、賃金や各種手当、各種制度などでパートタイム労働者と正社員の間の処遇格差が拡がり、パートタイム労働者の雇用の不安定性は増す一方である。こうしたパートタイム労働者の雇用条件の悪化にもかかわらず、むしろ、パートタイム労働は基幹的労働力化し、低賃金で

生計を維持していかなければならない傾向が強まっている。つまり、正社員と同等の仕事をしているのにもかかわらず、処遇において大きく差別され、独立的に食べていくのが困難な労働を拡散させているのである。このことはまさに、正社員から最末端の女性パートタイム労働者まで、日本の雇用を重層化させることに他ならず、貧富格差を拡大し、社会的不平等感・不公平感をますます広範囲に醸成させていくであろう。

Wでは、こうしたパートタイム労働者拡大の要因を、日本の経済構造の変化、社会システムの特徴の中から探っていく。とくに、分析枠組みの中にジェンダー的視点を取り入れることによって、日本の雇用構造の最下層に位置する多くの女性パートタイム労働者の増加の背景を浮き彫りにしたい。

 

 注3)2001年の調査では、パートタイム労働者の81.7%が時間給で、7.0%が日給、9.1%が月給、2.2%が歩合給・その他となっており、時間給が圧倒的多数である。しかし、「短時間パート」と「その他パート」では相違が見られる。「短時間パート」は時間給が88.0%9割近くにのぼるのに対し、長時間労働の「その他パート」の時間給の割合は46.9%と、最も多くはあるが過半数を割り、代わって月給制が28.1%を占める(日本厚生労働省(2003p.161)。

 注4) 2001年の調査では、パートタイム労働者の会社に対する不満で最も多いのは、 「賃金が安い」の50.5%であったが、次に多いのが雇用が不安定22.7%であった。とくに、「その他パート」では、雇用の不安定性を上げる労働者が30.6%とその比率を一段と高めている。

 注5) 日本のパートタイム労働に関する事例研究は、デパート、スーパー、外食産業などに集中して表われているのも、これらの産業でパートタイム労働の基幹労働力化=戦力化が進んでいることが背景にあると考えられる。

 

W.日本におけるパートタイム労働者増加の構造的背景 

 

 (1).コスト要因

 

 1990年代後半以降、パートタイム労働者が絶対数においても比率においても急速に増大しているが、これと相関して、1990年代後半以降とそれ以前では、景気後退期における正社員と非正社員の増減パターンに大きな変化が見られ、対照的である。すなわち、〈図2〉に見るように、1990年代半ばまでは景気後退期でも正社員の増加は維持され、パートタイム労働者を中心とする非正社員の増加を抑えることによって雇用調整が行われてきたと考えられるが、19972001年の景気後退期では、初めて正社員が171万人も大幅に減少する一方で、逆に非正社員は206万人も大きく増えている。さらに、ここでも正社員の減少は男女の間でそれほど差はないが、とりわけその多くがパートタイム労働者である女性非正社員の増加が著しい。また、総務省『労働力調査特別調査』によれば、19992001年に非正社員を週労働時間40時間以上と40時間未満に分けてみると、40時間未満労働者数はそれほど変わらないか、むしろ減少傾向を見せているのに対し、40時間以上の長時間労働者は同期間307万人から418万人へとここ数年のうちに急激に増えている(日本総務省(2001))。つまり、1990年代後半以降の規制緩和の流れの中で、従来の日本的雇用慣行に支えられた男性労働者を中心とする正規雇用の維持という至上命題が崩れ始め、正社員を女性パートタイム労働者などの非正社員に置き換える方向へと転換しつつある。しかも、これら非正社員の労働時間は長時間化する趨勢を見せている。

 では、パートタイム労働者を雇用している事業所の雇用理由を〈図3〉で見てみよう。前回調査の1995年より2001年が伸びているのは、「人件費が割安だから」、「一日の忙しい時間帯に対処するため」、「一時的な繁忙に対処するため」、「仕事量が減ったときに雇用調整が容易だから」の4項目である。中でも、人件費を理由に挙げた事業所は、1995年の38.3%から2001年には65.3%へと飛躍的に高まり、他の項目を圧倒的に引き離し、調査事業所の3つに2つが人件費を節減するためにパートタイム労働者を雇用していることになる。これに、同期間12.4%から16.4%へと4ポイント比率を高めた雇用調整要因と合わせて、1990年代後半以降、日本企業は、正社員をパートタイム労働に置き換えることによって、パートタイム労働を主にコスト削減と雇用調整の手段として用いる方向に大きく転回している。

 こうした企業行動の変化は、1990年代の「失われた10年」と呼ばれる長期不況によって、従来の経済成長に頼った雇用創出が困難になると同時に、グローバリゼーションの急進展にともなうメガ・コンペティションの激化に対応して、賃金総額を抑えながら雇用形態や労働時間の違いに応じて賃金や雇用条件を差別化していくという、企業の戦略転換を意味する。とくに、大企業でも常に倒産の危機にさらされている先行き不透明感や不安感の高まりの中で、正社員数を絞りこみながらパートタイム労働を用いてコスト削減をする方法は、Uで見たように大企業でより選好されている。このような大企業を中心とする雇用における戦略転換が、日本的雇用を切り崩しつつあるのは言うまでもない。

 

 (2). 経済のサービス化

 

 ふたたび〈図3〉にもどると、各事業所のパートタイム労働者の雇用理由において、「人件費要因」とならんで19952001年に大幅に伸張して目を引くのが、「一時的な繁忙に対処するため」で、同期間9.3%から27.3%へと、増加率だけとれば「人件費要因」以上に突出している。この理由は、雇用調整の意図も含まれているが、2001年に約40%にものぼった「一日の忙しい時間帯に対処するため」とあわせて、日本経済のサービス化の急進展が引き起こした業務の繁閑の拡大に対応するためと解釈できる。

 流通業や外食産業を中心に、24時間営業化に向かって営業時間の延長が進んだことともあいまって、繁忙時に集中的かつフレキシブルに配置しうるパートタイム労働者に対する需要が爆発的に高まった。これは、前述した産業別労働者の比率において、19952001年に、卸売・小売業、飲食店従事者のうちパートタイム労働者の比率、とくに女性パートタイム労働者の比率がひときわ大きくなっている事実とも一致する。こうして、大手流通業の売り場での労働時間の8割がパートタイム労働者によって担われている事例が一般化するなど、責任がそれほど重くなく特別な技術や技能が必要とされない販売店員やレジなどの単純な定型的業務において、パートタイム労働を量的戦力として用いる趨勢が主流となりつつある(三山(2003),p22)

 しかし、この業界では単純な定型的業務にとどまらず、下位管理職の主任レベルからスーパーの店長やマネージャーにいたるまでパートタイム労働者を登用する動きがもっとも進んでおり、パートタイム労働者を職場の中核労働力として用いるような、量的戦力化から質的戦力化へのシフトが主流になっている(三山(2003),pp22-24)。この産業のパートタイム労働に占める比重を考え合わせると、上のような戦略転換が、Vで見た、パートタイム労働の基幹労働力化の流れを強力に推し進めたと考えて差し支えあるまい。こうして経済のサービス化が進めば進むほど、パートタイム労働者への需要の高まりが構造化していくのである。

 

 (3).女性の労働力化とパートタイム労働化

 

 まず、〈図4〉で、性、年齢階層別パートタイム労働者数の割合(2001)を見てみよう。一見して、パートタイム労働者の男女の年齢階層別分布が異なることがわかる。すなわち、男性は、企業が新卒者および若年層を正社員として新規採用するのを差し控える傾向にあるのを反映して、2024歳にパートタイム労働者の27.2%が集中しているのに対し、女性は30代後半から50代前半までの中高齢層に過半数の56.6%が分布している。男性の若年層集中は企業行動あるいは、上で述べた企業戦略の変化から解釈できるが、パートタイム労働者の4分の3を占める女性の年齢別分布は何を意味しているのだろうか?

 〈図5〉は日本の女性の年齢階層別労働力率の推移を表したものである。男性が逆U字形曲線を描き、多くの人が定年まで継続して労働市場に残るのとは対照的に、女性の場合、曲線自体は上方にシフトして労働力率は高まってはいるが、1970年代から2000年まで一貫してM字形曲線を描いている注6)。日本の女性は、男性と同様に20代前半に労働市場に進入するが、M字の谷である20代後半から30代前半にかけていったん労働市場から退出し、二つ目の山の30代後半以降に再び労働市場に進入する。しかし、日本的雇用慣行は、勤続の積み重ねにともなう企業内キャリア形成とそれに見合った年功賃金を受け取る正社員層を根幹としており、一度勤続を中断させ、然る後に労働市場への再進入する場合、それ以前に形成されたキャリアは認められない。したがって、いったん仕事をやめ、30代後半以降に再び働きに出る女性たちの多くは、正社員の職を得るのはきわめて難しく、パートタイム労働者として就職するのが容易く、あるいはそれ以外に道は開かれていないのである。〈図5〉のM字形曲線の女性が再度労働力市場へ登場する二つ目の山の年齢層と、〈図4〉の中高年層に分布した女性パートタイム労働者の年齢構成が見事に一致する。このように、女性のライフステージ(life stage)における第二の労働力化は、その多くがパートタイム労働化によるものである。

 では、なぜ多くの女性が20代後半から30代前半にかけて労働市場から退出するのであろうか?日本総務省『就業構造基本調査』(日本総務省(1997))によれば、女性の非求職理由で最も多いのは「家事・育児や通学などで忙しい」の40.3%で、同理由での非求職の女性の年齢階層別割合を見ると、20代後半で71.9%30代前半で75.5%と他の年齢階層に比べて突出して高い。年齢からいって、通学というよりは家事・育児負担が重くのしかかるため、この年齢層の多くの女性は労働市場から退出せざるを得ない状況におかれるものと考えてよい。一方、パートタイム労働者として労働市場に進入した女性に、なぜパートタイム労働者になったのかをたずねたところ、20代の若年層にいくほど「正社員として働きたかったが希望に合う勤務先がなくやむを得ず」という回答が多くなっているが、30代から40代は約7割が「自ら進んでなった」と答え、さらにその6〜7割が育児・家事・介護がなかったら正社員を希望している(21世紀職業財団(2001))

 要するに、過重な家事・育児負担によって一度労働市場から退場した女性は、30代後半以降に労働市場に復帰する際、今度は過重な家事・育児・介護負担に加えて、勤続を重んじる日本的雇用慣行という二重の障害によって、フルタイムの正社員になるのは難しく、パートタイム労働者として就労せざるを得ない。だが、女性の正社員化を阻む二つの要因は両方とも、日本の男性稼ぎ主型社会システム注7)に端を発しているといえよう。この社会システムは、長期安定雇用のもと正社員として家族を養うに足る所得を稼ぎだす男性稼ぎ主と、家事・育児・介護等を専ら担当し、状況が許せばパートタイム労働をして配偶者の所得を少し補填しうる収入を得る主婦からなる、「標準的家族」を基本的単位と想定している。これによって、国家は、本来国家が担うべき社会福祉費用を家族、とりわけ家庭における福祉担当者の女性に転嫁し、企業は、企業丸抱えとなり残業や配転のような企業に対する高い拘束性にも応える会社人間的な正社員と、低廉で雇用調整が容易なパートタイム労働者を雇用することを得るのである。

日本の社会政策もまた、この標準的家族を核とする男性稼ぎ主型社会システムを側面から支えている。たとえば税制や社会保障制度において、被扶養者の妻の収入が一定額を超えなければ、所得税課税の際、夫は配偶者控除および配偶者特別控除が受けられ、公的年金制度でも被扶養者である妻は保険料が免除される注8)。企業の配偶者手当もまた、国家の税制や社会保障制度に準じて、男性稼ぎ主の夫と専業主婦かパートの妻という標準的家族に給付される。この結果、女性パートタイム労働者の中には、税・社会保険の免除を受けるため収入が一定額を超えないよう就業調整を行う者が2001年で24.6%存在し(日本厚生労働省(2003)pp.282-285)、このことがパートタイム労働者の賃金水準を全体として押し下げる働きをしているのは否めない。

 しかし、これまで述べてきたように、日本を取り巻く内外の情勢の急激な変化の中で、このような社会システム自体が現実の動きと整合性を持ち得なくなり、社会的軋轢を引き起こし綻びを見せ始めている。中でも、日本的雇用慣行の動揺によって、保障された雇用と安定的な所得を得る正社員層が急激に縮小しているのとは裏腹に、不安定な雇用と低賃金によって独立的に生活を営むのさえ困難なパートタイム労働者層が拡大している。また家族のあり方も多様化し、標準的家族の範疇では捉え切れない家族も急速に増大している。たとえば、離婚や未婚の母の増加とともに母子世帯が増え、長引く不況の中で夫が失業している世帯もまたかつてない勢いで増大している。こうした標準的でない世帯は、従来の男性稼ぎ主型社会システムからはじかれ、一切の保護と恩恵を受けることなく、多くの場合、女性が生計を維持する、低賃金のパートタイム労働者として就労せざるを得ない状況におかれている。  

 

注6) 韓国の女性の年齢階層別労働力率曲線もまた、日本と同様にM字形曲線を描く。(黄秀慶(2003)p.)  

 注7) 日本の男性稼ぎ主型社会システムについては、大沢真理(2002)に詳しい。

 注8) 被扶養者である妻の年収が103万円を超えなければ、夫は38万円の配偶者控除が受けられる。また、夫がサラリーマンの主婦の年収が130万円未満であり、労働時間が通常の労働者の4分の3以下であれば、妻は保険料を支払わずして、国民年金の給付を受けられる。ことに、年金制度については、共働きや独身の男女が、他人の主婦の分まで保険料を支払っていることになり、片働きの世帯に彼らの所得移転をしている。

 

X.結び

 

以上より、日本におけるパートタイム労働者の拡大と、フルタイムの正社員の縮小は不可逆的な流れであり、今後ますますこの傾向が強まることが確認された。しかも、現在のようにパートタイム労働者と正社員の間で、雇用の安定性や賃金水準などにおいて処遇格差が拡大する一方で、正社員と同等の基幹的労働を行うパートタイム労働者が増加したり、パートタイム労働者が低賃金で家計を支えなければならない状況が起こっている。これにともない、正社員を希望したのにやむなくパートタイム労働に従事している非自発的パートタイム労働者も、若年層を中心に増加趨勢を見せている。

しかし、市場競争原理の貫徹と歩調を合わせる形で、これまでの社会システムや雇用システムの中でこうしたパートタイム労働が無秩序に拡大されれば、ますます差別的な労働と化し、組織化されない経済分野を拡大し、貧富格差をより一層拡げていくのは目に見えている。この結果、不公平感や不平等感が広く蔓延し、社会的軋轢を生み出していくことになろう。そればかりではない。個々の労働者が能力を発揮することを阻害し、人材形成にも大きな支障をきたすことが予想される。

一方、社会民主主義、福祉国家の伝統を持つヨーロッパ諸国では、女性に対する雇用差別を改善し、最悪の状況にあった失業問題を解決するために、パートタイム労働の保護と制度の整備を行うことで雇用創出を図った。すなわち、就業を希望する者に対する雇用機会を増加させるために、総雇用量を再配分するワークシェアリング(=worksharing)を導入した。とくに不況期には、限られた労働量を分かち合うために労働時間の短縮、つまりパートタイム労働化は免れ得ない。そこで、ワークシェアリング導入のための大前提となったのが、性別・就業時間別(パートタイム労働かフルタイム労働かによって)で処遇差別が行われないことである。この結果、労働者は自分のライフスタイル(lifestyle)、ライフステージ(life stage)に合わせて働き方を自立的に選択できるようになり、労働者間のペイド・ワーク(paid work)だけでなく、男女間、あるいは夫婦間でのペイド・ワークと家事・育児などのアンペイド・ワーク(unpaid work)の分かち合いが可能になった。このヨーロッパ的パートタイム労働概念が結実したのが、1994年のILOパートタイム労働条約及び勧告の採択であった。

 日本でも、20023月に政労使の間でワークシェアリングの導入が合意された。しかし、日本のワークシェアリングは経営者が主導権を握ったため、その関心は賃金抑制による総人件費の削減に向かわざるを得なかった。したがって、日本型ワークシェアリングでは短時間労働のパートタイム労働者を増やして、賃金の安い仕事を広く薄くばら撒くことに力が注がれ、むしろ、一段と絞り込まれ比率の低下した正社員と、パートタイム労働者との間の処遇格差は拡がっていった。経営側は、雇用形態の違いに則した多様な雇用管理を促したように、正社員とパートタイム労働者の間の差別を強めていったのである。日本政府は、雇用差別を禁じるILO111号条約もILOパートタイム条約もいまだに批准しておらず、このことが日本のパートタイム労働やワークシェアリングの方向性をよく示していよう。

 

 

  

 

 

 

[参考文献]

1. 一次資料

日本総務省(1997)『就業構造基本調査』

日本総務省(2001)『労働力調査特別調査』

日本厚生労働省(1992)『パートタイム労働者総合実態調査報告1990年版』

日本厚生労働省(1997)『パートタイム労働者総合実態調査報告1995年版』

日本厚生労働省(2003)『パートタイム労働者総合実態調査報告2001年版』

日本厚生労働省(1996)『就業形態の多様化に関する総合実態調査報告1994年版』

日本厚生労働省(2001)『就業形態の多様化に関する総合実態調査報告1996年版』

日本厚生労働省『賃金構造基本統計調査』各年版.

21世紀職業財団(2001)『多様な就業形態のあり方に関する調査』

 

2.日本語文献

大沢真理(2002)『男女共同参画社会をつくる』NHKブックス.

日本厚生労働省(2002)『パートタイム労働研究会最終報告』.

酒井和子(2002)「厚生労働省のパートタイム労働研究会の中間報告をどう見るか」『賃金と社会保障』No.1322

竹信三恵子(2002)『ワークシェアリングの実像 雇用の分配か、分断か』岩波書店.

黄秀慶(2002)韓国における理工系分野の女性技術者養成政策の限界『山口大学東アジア国際会議−東アジアにおける開発とジェンダー−』発表論文

三山雅子(2003)「日本における労働力の重層化とジェンダー」法政大学大原社会問題研究所『大原社会問題研究所雑誌』No.536.

山岡ひろ子(2003)ILO労働基準とパートタイム労働の新潮流」法政大学大原社会問題研究所『大原社会問題研究所雑誌』No534

横田伸子(2003)「韓国における労働市場の柔軟化と非正規労働者の規模の拡大」法政大学大原社会問題研究所『大原社会問題研究所雑誌』No.535

 

〈表1〉日本における男女別非正規労働者の規模(1999年9月)

                                                                          (単位:千人,)                                                         

 

 

        人 

      注1)

        注2)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 賃金労働者

29,532.5

19,072.8

48,605.4

 100.0

 100.0

 100.0

  60.8

  39.2

 100.0

 

 

 正社員

25,133.6

10,118.1

35,251.8

  85.1

  53.0

  72.5

  71.3

  28.7

 100.0

 

 

 非正社員

 4,398.9

 8,954.7

13,353.6

  14.9

  47.0

  27.5

  32.9

  67.1

 100.0

 

      パートタイマー

 2,312.2

 7,552.2

 9,864.3

   7.8

  39.6

  20.3

  23.4

  76.6

 100.0

        (短時間のパート注3))

 1,550.0

 5,513.9

 7,063.9

   5.2

  28.9

  14.5

  21.9

  78.1

 100.0

 

  (その他のパート注4))

  762.2

 2,038.2

 2,800.4

   2.6

  10.7

   5.8

  27.2

  72.8

 100.0

 

      契約社員注5)

  634.2

  492.9

 1,127.1

   2.1

   2.6

   2.3

  56.3

  43.7

 100.0

      臨時的雇用者注6)

  517.4

  374.2

  891.6

   1.8

   2.0

   1.8

  58.0

  42.0

 100.0

      出向社員注7)

  538.6

   78.2

  616.8

   1.8

   0.4

   1.3

  87.3

  12.7

 100.0

      派遣労働者注8)

  170.5

  348.0

  518.5

   0.6

   1.8

   1.1

  32.9

  67.1

 100.0

 

     その他注9)

  226.0

  109.2

  335.2

   0.8

   0.6

   0.7

  67.4

  32.6

 100.0

 

 1)比重1はそれぞれの分類が賃金労働者に占める割合。

 2)比重2はそれぞれの分類の男女比。

 3)正社員より1日の所定労働時間が短いか、1週の所定労働日数が少ない者。

   雇用期間は1ヶ月を超えるか、または定めのない者。                                                       

 4)正社員と1日の所定労働時間と1週の所定労働日数がほぼ同じ者。

   雇用期間は1ヶ月を超えるか、または定めのない者で、パートタイマーその他これに類する名称で呼ぶ者。

 5)専門的職種に従事させることを目的に契約に基づき雇用し、雇用期間の定めのある者。                        

 6)臨時的にまたは日々雇用している者で、1ヶ月以内の雇用期間の定めのある者。             

 7)他企業より出向契約に基づき出向してきている者。出向元に籍を置いているかどうかは問わない。

 8)「労働者派遣法」に基づく派遣元事務所から派遣された者。

 9)上記以外の労働者

資料:厚生労働省大臣官房統計情報部『就業形態の多様化に関する総合実態調査報告』(2001)より作成。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

〈表2〉性別、就業形態別労働者数及び労働者数割合

                                                                                                                 (単位:千人、%)       

 

 

             2001年

             1995年

             1990年

 

 

 全労働者

 パートタ

 

 全労働者

 パートタ

 

 全労働者

 パートタ

 

 

 

 

   イム

 短時間

 その他

 

   イム

 短時間

 その他

 

 イム

 短時間

 その他

 

 

 

 

  労働者

 パート

 パート

 

  労働者

 パート

 パート

 

 労働者

 パート

 パート

 

 労働者数(千人)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

   男女計

  42,866

  11,178

   9,485

   1,693

  44,734

   7,983

   6,686

   1,296

  41,593

   6,067

   4,864

  1,203

 

   男性

  24,867

   2,959

   2,240

    719

  27,395

   2,093

   1,520

    573

  26,110

   1,512

   1,022

     490

 

 

  女性

  17,999

   8,218

   7,245

    973

  17,339

   5,889

   5,166

    723

  15,483

   4,555

   3,842

     713

 

 就業形態別構成比(%)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

   男女計

  100.0

   26.1

   22.1

    3.9

  100.0

   17.8

   14.9

    2.9

  100.0

   14.6

    11.7

    2.9

 

   男性

  100.0

   11.9

    9.0

    2.9

  100.0

    7.6

    5.6

    2.1

  100.0

    5.8

     3.9

    1.9

 

 

  女性

  100.0

   45.7

   40.3

    5.4

  100.0

   34.0

   29.8

    4.2

  100.0

   29.4

    24.8

    4.6

 

 男女別構成比(%)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

   男女計

  100.0

  100.0

  100.0

  100.0

  100.0

  100.0

  100.0

  100.0

  100.0

  100.0

  100.0

  100.0

 

   男性

   58.0

   26.5

   23.6

   42.5

   61.2

   26.2

   22.7

   44.2

   62.8

   24.9

   21.0

   40.7

 

 

  女性

   42.0

   73.5

   76.4

   57.5

   38.8

   73.8

   77.3

   55.8

   37.2

   75.1

   79.0

   59.3

 

資料)日本厚生労働省『パートタイム労働者総合実態調査報告』(2003),(1997),(1992)より作成。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

〈表3〉男女別の産業別及び職業別パートタイム労働者(1)の比率(2001)

                                                                                      (単位:%)                                                

 

 

       男 女 計

         男 性

         女 性

 

 

 

(%)

パートタイム

(%)

パートタイム

(%)

パートタイム

 

 

 

 

 労働者(%)

 

 労働者(%)

 

 労働者(%)

 

 

鉱 業

    96.2

     3.8

    97.8

     2.2

    86.2

    13.8

 

 

建 設 業

    94.6

     5.4

    96.4

     3.6

    83.4

    16.6

 

 

製 造 業

    84.2

    15.8

    94.7

     5.3

    65.4

    34.6

 

 

電気・ガス・熱供給・水道業

    94.6

     5.4

    97.6

     2.4

    73.2

    26.8

 

 

運輸・通信業

    84.7

    15.3

    90.9

     9.1

    52.5

    47.5

 

 

卸売・小売業、飲食店

    52.2

    47.8

    75.6

    24.4

    30.2

    69.8

 

 

        卸 売 業

    87.3

    47.8

    96.5

    3.5

    67.4

    32.6

 

 

        小 売 業

    42.0

    58.0

    69.1

    30.9

    25.6

    74.4

 

 

        飲 食 店

    24.1

    75.9

    40.4

    59.6

    11.7

    88.3

 

 別

金融・保険業

    90.9

     9.1

    97.8

     2.2

    84.6

    15.4

 

 

不 動 産 業

    78.6

    21.4

    88.4

    11.6

    59.4

    40.6

 

 

    75.4

    24.6

    86.3

    13.7

    65.0

    35.0

 

 

専門的・技術的職業

    83.8

    10.9

    92.1

     4.5

    75.3

    17.8

 

 職

管理的職業

    96.3

     0.0

    96.3

     0.0

   100.0

     0.0

 

 

事務従事者

    75.1

    18.9

    92.5

     3.3

    62.1

    30.5

 

 

販売従事者

    73.0

    24.9

    89.9

     8.4

    42.7

    54.6

 

 業

保安職業、サービス職業

    51.1

    44.7

    70.6

    25.0

    36.4

    59.6

 

 

農林漁業作業者

    63.4

    31.7

    78.6

    17.8

    25.0

    66.6

 

 

運輸・通信従事者

    87.1

     9.1

    88.3

     8.1

    66.7

    25.0

 

 別(2)

採掘作業者

   100.0

     0.0

   100.0

     0.0

     0.0

     0.0

 

 

技能工、製造・建設作業者

    77.5

    19.7

    89.7

     7.0

    44.5

    53.9

 

 

労務作業者

    46.3

    49.2

    68.4

    26.4

    19.1

    77.3

 

 

 1,000人以上

    72.1

    27.9

    88.0

    12.0

    45.0

    55.0

 

 

 500999

    74.6

    25.4

    89.5

    10.5

    51.4

    48.6

 

 業

  300499

    71.1

    28.9

    84.8

    15.2

    51.8

    48.2

 

 規

  100299

    72.8

    27.2

    87.3

    12.7

    54.9

    45.1

 

 模

   3099

    75.8

    24.2

    88.7

    11.3

    58.4

    41.6

 

 

    529

    74.2

    25.8

    88.2

    11.8

    57.4

    42.6

 

出所)厚生労働省『パートタイム労働者総合実態調査報告』(2003)及び総務省統計局『労働力調査特別調査2月』(2001)より作成。

(1)パートタイム労働者とは、「短時間パート」と「その他パート」を合わせた数字である。

(2)職業別の正社員とパートタイム労働者の比率は『労働力調査特別調査2月』より算出した。同資料は、正社員とパートタ

イム労働者の他に派遣社員とその他の項目があり、したがって、正社員とパートタイム労働者の比率を合計しても100.0にならない。

 

 

 

 

 

 

 

〈表4〉性別でのパートタイム労働者と正社員の1時間当たり所定内給与額の推移

                                                                                                                                                        

 

 

 

 

     

 

 

 

パートタイ

格差(正社

 

パートタイ

格差(正社

女性正社員-

男性正社員-

男性パート

 

 

ム労働者

=100)

 

ム労働者

=100)

男性正社員

女性パート

-女性パー

 

 

 

 

 

 

 

(男性=100)

タイム労働

(男性

 

 

 

 

 

 

 

 

 

(男性=100)

=100)

 

 1989

   934()

   662()

 70.9

  1542()

   855()

  55.4

  60.6

  42.9

  77.4

 1990

   989

   712

  72.0

  1632

   944

  57.8

  60.6

  43.6

  75.4

 1991

  1072

   770

  71.8

  1756

  1023

  58.3

  61.0

  43.8

  75.3

 1992

  1127

   809

  71.8

  1812

  1053

  58.1

  62.2

  44.6

  76.8

 1993

  1187

   832

  70.1

  1904

  1046

  54.9

  62.3

  43.7

  79.5

 1994

  1201

   848

  70.6

  1915

  1037

  54.2

  62.7

  44.3

  81.8

 1995

  1213

   854

  70.4

  1919

  1061

  55.3

  63.2

  44.5

  80.5

 1996

  1255

   870

  69.3

  1976

  1071

  54.2

  63.5

  44.0

  81.2

 1997

  1281

   871

  68.0

  2006

  1037

  51.7

  63.9

  43.4

  84.0

 1998

  1295

   886

  68.4

  2002

  1040

  51.9

  64.7

  44.3

  85.2

 1999

  1318

   887

  67.3

  2016

  1025

  50.8

  65.4

  44.0

  88.5

 2000

  1329

   889

  66.9

  2005

  1026

  51.2

  66.3

  44.3

  86.6

 

2001

  1340

   890

  66.4

  2028

  1029

  50.7

  65.3

  43.4

  86.5

 

 資料)日本国厚生労働省『賃金構造基本統計調査』各年版より作成。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

〈表5〉各種手当て及び各種制度の実施状況別事業所数の割合

                                                                           (単位:%)                                       

 

 

    手 当 の 種 類

         制 度 の 種 類

 

 

 

定期

ベー

ボー

昇進

退職

配置

 

 

通勤

精勤

役職

家族

住宅

スア

 ・

職能資

役職へ

 

 

 

 

 

 

 

格制度

の登用

 

 

2001

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

  短時間パート

 66.6

 11.1

  6.7

  1.9

  1.4

 12.9

 20.8

 14.3

 45.5

  5.4

  8.3

  9.2

  4.2

  2.6

  1.2

  その他パート

 73.2

 12.4

  7.4

  9.5

  9.6

 18.5

 22.5

 20.9

 53.7

  7.5

 14.2

 13.0

  7.0

  3.8

  3.1

 

 正社員

 90.5

 33.1

 75.3

 68.0

 51.6

 38.1

 67.4

 43.4

 88.1

 59.7

 77.8

 49.6

 31.1

 40.0

  6.5

 

 1995

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 短時間パート

 70.2

 13.3

  6.8

  2.0

  1.2

 13.9

 29.4

 30.7

 56.4

 14.8

  9.0

 14.5

  3.1

  3.1

  0.9

 

 その他パート

 70.5

 16.8

  7.4

 14.8

 13.7

 21.7

 33.4

 33.5

 66.7

 14.3

 21.3

 21.0

  6.9

  3.1

  2.2

 

 資料)日本厚生労働省『パートタイム労働者総合実態調査報告』(2003)より作成。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

〈表6〉正社員と職務・責任が同じパートタイム労働者のいる事業所数の割合

                                                         (単位:%)                                                                             

 

職務・責任が正社員

職務・責任が正社員

職務・責任が正社員

 

 

と同じパートタイム

と同じパートタイム

と同じパートタイム

 

 

労働者がいる事業所

労働者がいない事業所

 

 

 産業計

 

 

 

 

  短時間パート

      40.7

      55.7

       3.6

 

  その他パート

      53.7

      44.7

       1.6

 

 鉱業

 

 

 

 

  短時間パート

      28.5

      71.5

      

 

  その他パート

      34.0

      66.0

      

 

 建設業

 

 

 

 

  短時間パート

      37.0

      63.0

      

 

  その他パート

      48.4

      51.6

      

 

 製造業

 

 

 

 

  短時間パート

      38.1

      58.2

       3.7

 

  その他パート

      51.1

      48.8

       0.1

 

 電気・ガス・熱

 

 

 

 

 給・水道業

 

 

 

 

  短時間パート

      24.8

      75.2

      

 

 その他パート

      25.4

      74.6

      

 

 運輸・通信業

 

 

 

 

  短時間パート

      46.7

      53.2

       0.2

 

  その他パート

      71.8

      27.9

       0.3

 

 卸売・小売・

 

 

 

 

 飲食店

 

 

 

 

  短時間パート

      41.8

      53.0

       5.3

 

 その他パート

      58.6

      38.7

       2.7

 

 金融・保険業

 

 

 

 

 短時間パート

      26.4

      73.6

      

 

  その他パート

      35.4

      64.5

       0.0

 

 不動産業

 

 

 

 

 短時間パート

      21.1

      78.9

      

 

  その他パート

      49.2

      50.6

       0.2

 

 サービス業

 

 

 

 

 短時間パート

      42.0

      55.5

       2.5

 

  その他パート

      51.5

      46.3

       2.2

 

資料)〈表5〉と同じ

 

 

 

 

 

 

〈表7〉働いている理由別パートタイム労働者数の割合

                                                              (単位:%)                                                               

 

 

生活を

家計の

資格・

以前の

生きが

余暇時

子供に

その他

不 明

 

 

維持す

足しに

技能を

就業経

い・社

間を利

手がか

 

 

 

るため

するた

活かす

験を活

会参加

用する

からな

 

 

 

 

ため

かすた

のため

ため

くなっ

 

 

 

 

 

 

 

 

 

たため

 

 

 

 2001

 

 

 

 

 

 

 

 

 

  短時間パート

 

 

 

 

 

 

 

 

 

       

 47.3

 53.1

  6.4

  6.8

 23.6

 22.9

 17.2

  7.5

  0.1

        男性

 62.6

 32.1

  8.2

  8.7

 19.0

 24.0

  1.1

 13.1

  0.0

 

    女性

 42.6

 59.6

  5.8

  6.2

 25.0

 22.6

 22.2

  5.8

  0.1

 

  その他パート

 

 

 

 

 

 

 

 

 

        

 69.9

 32.0

 10.5

 11.2

 20.1

  8.7

  6.8

  6.9

  0.0

     男性

 81.2

 19.2

 10.4

 15.8

 16.3

  6.0

  1.2

  7.2

  0.1

 

    女性

 61.6

 41.5

 10.5

  7.8

 23.0

 10.8

 10.9

  6.7

  0.0

 

 1995

 

 

 

 

 

 

 

 

 

  短時間パート

 

 

 

 

 

 

 

 

 

    

 33.8

 53.5

  6.1

  6.8

 21.3

 27.0

 21.9

  8.6

 

        男性

 46.3

 31.0

  7.2

  9.0

 16.6

 26.5

  2.5

 15.6

 

 

    女性

 30.2

 60.1

  5.8

  6.2

 22.6

 27.2

 27.6

  6.6

 

 

  その他パート

 

 

 

 

 

 

 

 

 

       

 59.4

 32.1

 11.9

 11.2

 22.3

  9.6

  8.9

  7.4

 

     男性

 75.3

 15.3

 12.6

 14.7

 16.9

  4.9

  0.8

  7.4

 

 

    女性

 46.8

 45.4

 11.4

  8.4

 26.6

 13.4

 15.4

  7.5

 

 

 注)複数回答

 資料)〈表5〉と同じ。

 

韓国企業における構造改革と雇用調整、人事問題

 

                                                 (仁荷大学校教授)

 

    1.序論

    2.韓国企業の構造改革の展開と事例(K自動車)

    3.韓国企業の雇用調整の展開

    4.通貨危機以後の韓国企業の人的資源管理の変化

    5.結論

 

要 約

 1997年末の通貨危機以降、韓国経済は激しい経済的破局に直面し、IMFの救済金融を受けるにいたった。この危機を克服するために韓国は、経済、社会の各部門でいわゆる国際基準(global standard)受け入れざるを得ず、とくに政府は、金融、企業、労使、公共の4大部門に対する構造改革を推進した。2001年8月には、元々の計画より早くIMFの救済資金をすべて償還することによって、マクロ経済的側面から見ると、韓国は通貨危機を完全に克服したものと見ることが出来よう。大部分のマクロ経済指標は、通貨危機以前の水準を回復するか、上回るものとして表れているのである。

 構造改革の期間に、企業部門では過剰、重複投資問題を解決するために、政府主導で五大財閥を中心にしたビッグ・ディ−ルプログラム(Big Deal Program)が推進された。このプログラムは、一部成功を収めた事例もあったが、経済論理よりは政治論理が優勢になることによって、ハイニクス半導体の場合のように、むしろ問題をさらに悪化させもした。経済部門での望ましい変化としては、企業の財務構造の健全性を高めたとか、収益性を改善したことなどをあげることができる。この期間、多くの韓国企業は、競争力を維持するためには日常的な構造調整が必要だということをわかるようになり、同時に高費用、低効率の問題を解決できる機会を得るにいたった。本稿では、企業水準において成功した構造調整の事例として「K」自動車の事例を簡略にまとめている。

 経済システムの基盤が国際基準を指向するようになるとともに、個別企業における採用、報償、組織構造などのような人事管理の側面からも多くの変化が現れた。伝統的にマス・メディアを通じた新卒者中心の採用方法は、多くの企業でインターネットを通じた随時募集方式に変わった。新しい採用方式によって、多くの企業が募集費用を節減することができるだけでなく、より適合的な人材を適期に確保できるようになった。報償管理では、伝統的な年功を主とする報償方式に変わって、成果を主とする報償方式が拡がっている。組織構造は伝統的な位階構造の代わりに、業務担当者により多くの権限を配分するチーム制組織へと変わった。

 

 

 

 

〈略 歴〉

 姓 名:鄭 在勲(Jae Hoon Jeong)

 生年月日:195111月1日

 所 属:仁荷大学校経営大学経営学部教授

 

 学歴及び経歴

 1975年 嶺南大学校商経大学経営学士

 1980年 ソウル大学校大学院経営学修士

 1992年 ソウル大学校大学院経営学博士

 

 経歴

 1980.3-1981.2 嶺南大学校商経大学経営学科専任講師

 1981.3-1983.2 仁荷大学校経商大学経営学科専任講師

 1983.3-1987.2 仁荷大学校経商大学経営学科助教授

 1987.3-1992.2  仁荷大学校経商大学経営学科副教授

  1992.3-現在   仁荷大学校経商大学経営学部教授

 1987.12-現在 仁川広域市地方労働委員会公益委員

 1992.1-1992.12  神戸大学経営学部招聘研究員

 1995.4-1997.3  韓国人事組織学会常任理事

  1997.1-現在 三星経済研究所 人事・労務研究会会長

 2002.3-現在 仁荷大学校経営大学院院長

 

〈研究業績〉

 『現代労務管理の国際比較』(共著)ミネルヴァ書房,2000.

 『労使関係論』(単著)学硯社,1999(韓国語).

 「戦略的人的資源管理の理論と実践:韓国企業のSHRM方向設定のための探索的研究」 韓国人事管理学会『人事管理研究』,第26巻第3号,200212月.

 

 など他多数  

 

韓国企業における構造改革と雇用調整、人事問題

 

鄭在勲(仁荷大学校教授)

 

1.                序論

2.                韓国企業の構造改革の展開と事例(K自動車)

3.                韓国企業の雇用調整の展開

4.                通貨危機以後の韓国企業の人的資源管理の変化

5.                結論

 

1.       序論

 

199711月下旬のIMFに対する金融支援の要請を契機に触発された韓国の通貨危機は、韓国企業に計り知れない痛みと試練を与えた。通貨危機が起こってから既に6年が過ぎた現在、韓国経済は20018月に、IMFが支援した195億ドルをすべて償還したことにより、表面的にはIMF体制から脱却したといえる。これによって、大部分の経済指標も通貨危機以前の水準を回復するか、あるいはそれをも上回る数値を示している。世界的な景気沈滞のために今年度の成長見通しはかなり悲観的であるが、通貨危機以降の経済成長率をみると、1998年度に−6.7%の成長率を記録して以来、1999年から2002年までの年平均成長率は7.3%という高い数値を示した。失業率も1998年に6.8%に達して以来、徐々に低下し、2002年には3.1%まで低下した。物価上昇率は、1998年には7.5%であったが、現在は3%前後で安定している。株価、外国為替レート、金利などの金融指標が回復し、外貨保有高は世界第4位になるまでに上昇した。しかし、2002年第3四半期を起点に成長率が再び低下し、企業・消費者の体感景気が悪化しており、韓国経済が再び危機に陥る素地は依然として残っている。

こうした危機を克服する過程で、韓国企業は身を削るほどの構造調整と体質改善を通じて生き残りを図ってきたというのが事実である。通貨危機以降の韓国企業における構造改革は、マクロのレベルでは、産業別に重複投資を解消することを目的とした政府主導のビッグディール(大規模事業交換)政策および企業間の吸収合併などにより主導され、ミクロのレベルでは、個別企業の内部で競争力がない部門の統廃合および減量経営、雇用調整などにより推進された。

本稿は、企業レベルの構造調整と人事問題に焦点を当てるため、マクロ面での構造改革については簡単に整理するに留めたい。企業レベルの構造調整に関しては、代表的な事例であるK自動車企業を中心に整理し、構造調整の核心的な課題である雇用調整の問題を取り上げ、その実施状況を中心に整理したい。また、構造調整の過程で生じた韓国企業の人事管理における主要な変化を、IMF管理体制以前と比べて非常に大きな変化をみせている人員管理、報償管理、組織管理を中心に検討してみたい。

 

2.       韓国企業の構造改革の展開と事例

 

2-1. マクロ面での構造調整の展開

 

 通貨危機に直面してIMF管理体制下に入った韓国経済は、1998年に生じた株価暴落、韓国ウォンの対米ドルレートの急落、企業および金融機関の大量倒産などにより、1980年以来の最悪の不況に陥ったが、国民による金集め運動、改革に対する国民的な共感の形成、対外信認の回復などにともなって、外国為替市場が急速に改善し、1998年末から経済が急速に回復した。これ以降、緊張が解けて構造調整が遅れるなか、大宇グループの破綻、現代グループの解体、半導体価格の暴落などの懸念材料が突如として現れたうえに、20019月の米国テロとこれに続くイラク戦争により、経済が再び停滞期に差し掛かり、景気の行方が極めて不透明な状況にある。通貨危機に直面した当初、政府は金融、企業、労働、公共の4大部門の改革を重点的に推進することを明らかにしたが、構造改革の主導権を政府から市場に移行する過程がうまくいかず、無理に進めた過程で後遺症が生じることもあった。さらに、社会的な影響を憂慮して不振企業の整理を遅らせたために、問題がさらに複雑になり、公的資金を投入する過程でかなりのモラルハザードが生じることもあった(<表1>を参照)。

 

<表14大部門の構造改革の展開

部門

主な措置

成果

問題点

 

金融

▼金融機関の整理

 

▼公的資金の投入

−対外信認の上昇

−先進的な金融慣行の導入

−不良債権の解消、BIS比率の改善

−衡平性と不良債権の責任問題

 

−事後管理の不備と償還問題

−大型銀行の国有化による新たな官治金融の発生

 

 

 

企業

▼不振企業の整理(ワークアウト等)

▼財務構造の改善

 

▼経営透明性の向上

−再生機会の提供、不振企業の整理

−量的指標(負債比率200%)の達成

M&A市場の開放、機関投資家の議決権制限の緩和、社外理事制度の義務化

−モラルハザード、構造調整の遅延

−金融の不良債権化

−資本増加(増資)による負債比率の引き下げ

−新設された制度が効率的に機能できる与件の不備

 

労働

▼労働市場の柔軟化

 

▼社会的セーフティネットの構築

−フレキシビリティの上昇、労働条件の改善

−雇用保険の拡大、国民基礎生活保障法の実施

−臨時職、契約職の増加

 

−制度定着に必要なインフラ不備

−勤労意欲の低下、非受益者の反発

 

 

公共

▼行政構造の改編

 

 

 

▼民営化の推進

−組織改編(3次)と人員削減

 

 

 

−一部の公企業の売却成立

−中央行政機関の増加、下位職中心の人員削減

−機能の効率化、政策プロセスの効率化の達成に限界

−モラルハザード、売却の遅延

 

 企業部門の構造改革に関して、マクロ面では、政府主導のもとでの2次にわたる大々的な産業の構造調整を挙げることができる。

 1998年に断行された第1次構造調整では、精油、半導体、鉄道車両、航空、発電設備、船舶用エンジン、石油化学の7業種に対するビッグディールが推進された。2001年初めに断行された第2次構造調整では、供給過剰、重複投資により隘路に陥っている化学繊維、綿紡績、石油化学、製紙、電気炉、セメント、農業機械の7業種の構造調整を推進した(<表2>を参照)。

 

<表2>産業の構造調整の代表的な事例

業種

業界再編の推進状況

結果

半導体

LG半導体→現代(ハイニクス半導体)

経営悪化→部分売却・合併の推進

自動車

起亜→現代の統合

大宇→GMへの売却

4社体制→3社体制

鉄鋼

江原産業・三美特殊鋼→仁川製鉄(INI

韓宝の売却は未定

石油化学

大林−韓化のNCCへの統合、事業交換

三星−現代の統合および現代の売却の推進

統合は成功、経営権の摩擦

霧散、現代処理問題の残存

精油

韓化エネルギー→現代精油の統合

5社体制→4社体制

合繊

三養社→SKケミカル 化繊事業の統合

ヒュービスの設立、再編後に黒字化

機械

重工業

韓重−大宇−三星 船舶エンジンの事業統合

現代精工−大宇鉄車の統合

三星−現代−大宇 航空事業の統合

HSDの設立

韓国鉄車の設立

多額の負債で外資誘致が難航

造船

漢拏重工業→現代に委託経営

大宇重工業→機械、造船の分離

漢拏重工業の経営正常化

大宇機械、造船の経営正常化

注:被吸収企業→吸収企業であり、−は統合を示す

 

 政府主導の構造改革作業は、政府の構造調整ドライブと業界の協力にもかかわらず、依然として十分な成果は上がっていない。

 事業の統廃合などを通じて、部門レベルでは過当競争を解消することができる基盤を整え、一部では目に見える成果が現れていることも事実である。たとえば、赤字を出していた三養社とSKケミカルの化繊事業を統合して設立されたヒュービスが、1年後に黒字に転換したことがよい事例である。しかし、石油化学、鉄鋼、化繊などでは依然として供給過剰、重複投資の問題が残っている。たとえば、韓宝鉄鋼、現代石油化学などが解決しなければならない課題として残っており、GMが吸収した大宇自動車も、富平工場は委託生産方式であるため、完全には問題が解決されていないという状況にある。

 一方、統合後に一部の業種ではむしろ経営が悪化して多額の負債を抱えるなど、経営難に陥る場合も少なくなかった。LGと現代の半導体事業を統合したハイニクス半導体の経営悪化は、この代表的な例といえる。また、三星、現代、大宇の航空事業を統合して設立された韓国航空宇宙産業は、債権団の支援にもかかわらず、多額の負債から抜け出せないでいるのが実情である。さらに、大林と韓化が自主的に統合した麗川NCCの場合、労使問題をめぐって両社の経営陣の間で葛藤が続いている。

 このような構造調整の過程で、1997年以降の5年間に、30大企業集団に属する44グループのうち16グループがワークアウト、法定管理、和議の手続きを通じて、規模が縮小するか、あるいは解体された。こうしたなかで、三星、LGSK3大企業集団の時価総額が上場企業全体に占める比率は、1998年末の28%から20026月末には43%に上昇した(<表3>を参照)。

 他方、かなりの数の企業が構造調整と体質改善に失敗し、退出または衰退した。1998年に30大企業集団として指定されたグループのうち、20024月現在、大宇、東亞、漢拏などの12グループが脱落し、10企業集団のうち現代、錦湖、韓化が10位圏内から落ちて、雙龍、大宇などが脱落した(<表4>を参照)。

 

<表33大グループの時価総額の推移(上場企業基準)     単位:10億ウォン,

 

1998

1999

2000

2001

2002

三星

LG

SK

19,900

 4,979

 7,684

    63,569

    27,433

    40,007

    37,388

     5,784

    25,969

    62,142

    11,489

    28,298

    74,482

    25,104

    29,211

3大グループ(A

    32,563

   131,009

    69,141

   101,928

   128,798

上場企業合計(B

   117,422

   320,825

   169,398

   254,637

   297,282

比率(A/B

28

41

41

40

43

資料:ワイズネット

 

<表410大大規模企業集団の変化(資産規模基準)

 

1997

1998

1999

2000

2001

2002

1

2

3

4

5

6

7

8

9

10

現代

三星

LG

大宇

鮮京

雙龍

韓進

起亜

韓化

ロッテ

現代

三星

大宇

LG

SK

韓進

雙龍

韓化

錦湖

東亜

現代

大宇

三星

LG

SK

韓進

雙龍

韓化

錦湖

ロッテ

現代

三星

LG

SK

韓進

ロッテ

大宇

錦湖

韓化

雙龍

三星

現代

LG

SK

現代自動車

韓進

浦項製鉄

ロッテ

錦湖

韓化

韓国電力公司

三星

LG

SK

現代自動車

KT

韓国道路公司

韓進

浦項製鉄

ロッテ

注:2002年度は出資総額制限対象の企業集団を指す

 

 企業の構造調整の成果が差別化するなかで、上場製造企業のうち純利益上位30大企業と下位30大企業間の損益格差が大幅に拡大するなど、利益、株価などの経営実績に大きな違いが表れた。また、時価総額基準の上位100大企業でIT関連企業が占める比率は19%で、これら企業の時価総額が株式市場の時価総額の40%を占めるようになったことから明らかなように、IT関連の主力業種をもっている企業と構造調整に成功した企業が、財界の変化を主導するようになった。構造調整を完了した企業は、既存の主力事業のほかに、インターネットおよび電子商取引、情報通信、ベンチャー投資、生命工学など次世代の主力事業に挑戦している。斗山の場合、構造調整後に韓国重工業を吸収した。

 通貨危機を克服する過程で、韓国企業の間にあらわれた著しい特徴のひとつは、企業が持続的な構造調整と費用削減を通じた収益性の向上に経営の焦点をおいている点を挙げることができる(<表5>を参照)。この表で19992000年の売上高経常利益率が高いのは、為替レート、金利などの改善に起因する費用削減効果によるところが大きいと把握されており、2002年に入ってからは経営合理化、材料費の負担減などによって、史上最高の収益を記録していることが明らかである。

 

<表5>製造業の収益性指標

 

1997

1998

1999

2000

2001

2002年・上

営業利益/売上高

8.3

6.1

6.6

7.4

5.5

7.8

経常利益/売上高

0.3

1.8

1.7

1.3

0.4

7.3

資料:韓国銀行『企業経営分析』各号

 

2-2. 企業の構造調整の事例(K自動車)[19]

 

 K自動車は、1997年のIMF金融危機の発生とほぼ同時期に不渡りを出して、企業内部で構造調整を経験した。K自動車は構造調整を成功させたごく短期間に組織と労使関係が大きく変化した事例として、通貨危機を克服する過程を検証することができる代表的な事例といえる。

 K自動車は1997年に不渡りを出すまでは、韓国の他の財閥とは異なり、所有構造が分散した専門経営者体制をとっており、自動車業種に専門化した企業群として財界で第8位になるほどの有数なグループであった。K自動車の事務職員と生産職労働者の自社株持分(199712.4%)と国内外の友好的な株式持分のおかげで、専門経営者出身である金会長が経営権を維持し行使していく国民企業として、良いイメージをもっていた。1980年代に自動車産業の統廃合の難局を乗り越えて「ボンゴ」[註:K自動車の商品名]神話を作り出し、再起のために経営能力を発揮した金会長は、財閥所有者ではなかったのに、会社の内外に相当の信頼と権威をもっていた。労使関係においても、他の財閥のように当該企業の労働者が財閥トップに非難と敵対心をもつというのではなく、K自動車は金会長に対して高い信頼を維持していた。自社株持分比率の高さを反映して、労働者にとって会社は主人であって、労働者は会社経営に積極的に協力しなければならないという使用者側の論理も、労働者の間で比較的受容されていた。1997年に不渡り猶予協定[註:不渡りを一定期間猶予して経営再建を図る銀行間協定]が結ばれて以降、法定管理と国際競争入札など一連の過程のなかで、K自動車はIMF経済危機のきっかけになった企業として、その後に露見された莫大な負債と粉飾会計にまみれた不道徳な企業として、またこのような危機のなかで続いた労働者の闘争をあまりにも安易に処理した企業として非難を受けた。1998年末にK自動車は、Hグループに吸収されてから12年後に再起し、再び危機を克服し構造調整を成功させて再生した企業として称賛を浴びた。K自動車の急速な成長と危機からの再起は、韓国の大企業の成長―危機―再起の過程を示してくれる事例といえる。このような企業の運命の移り変わりのなかで、K自動車の労使関係も変化し、さらにIMF経済危機のなかで韓国企業の労使関係もまた再編の道を歩んできた。すなわち、K自動車という縮図を通じて、韓国の大企業の成長―危機―再生の過程とともに、韓国の労使関係の変遷を垣間見ることができるのである。

 時期的には1997年半ばから2001年上半期までの4年間に、K自動車は不渡りおよび売却と再起の過程を経て、企業支配構造を含む様々な次元での複合的な構造調整を経験するなかで、国内外の市場与件の好転および生産性と品質向上の結果、経営実績が大きく上向いた。K自動車が1997715日に不渡りを出した後、安建会計法人が199811月に行った資産評価では、総資産が61,302億ウォンであったのに対し、負債は95,096億ウォンであることが判明し、約33,794億ウォンの債務超過にあることがわかった。亜細亜自動車の負債まで含めると、総資産は74,246億ウォン、負債は128,762億ウォンで、純資産は約−54,516億ウォンにもなった。このように莫大な借金を築いていたK自動車は、わずか2年後の2001年初めに負債比率が158%になり、2000年には純利益3,307億ウォンを計上し、まさに見事な変身を遂げたのである(<表6>を参照)。

 

<表6K自動車の経営実績

 

1996

1997

1998

1999

2000

20016

市場占有率(%)

売上高(億ウォン)

純利益(億ウォン)

生産台数(万台)

販売台数(万台)

従業員数(人)

29.7

 

751.9

 

710.0

29,619

24.8

63,815

3,821

659.9

679.5

18,151

*42,966

21.4

45,107

66,496

389.5

414.0

17,652

*33,575

27.4

79,306

1,357

700.2

751.5

29,937

28.5

108,060

3,307

803.4

847.8

28.0

59,533

3,421

441.3

444.8

29,350

注:*K自動車グループ5社の従業員数で、これら5社はK自動車に統合された

資料:K自動車の内部資料、財務諸表など

 

 次に、K自動車が構造調整を成功させたごく短期間に、組織と労使関係、特に団体交渉と現場の労使関係がどのように変わったのかを簡単に整理してみよう。

 K自動車が見事に再起することができた核心的な要因は、国家主導による財務構造調整を通じて事実上、国民の税金で同社の負債が帳消しにされたところにあるといえる。すなわち、国家の主導のもとで財務構造調整が行われるなかで、国内外の市場与件が好転したことがK自動車の再生にとって決定的であった。これとともに、人員整理、所有構造の再編、企業内部の組織再編と組織文化の革新、部品供給システムの改革を通じて、不渡り猶予協定のもとで果敢な構造調整を行ってきた。さらに、H自動車とK自動車の機能的統合にともなう規模の経済のシナジー効果も費用削減、効率性の改善などに大きく寄与した。K自動車の労使関係の変化も、こうした構造調整の過程を促進するのに一定の役割を果たしながらも、また同時に、構造調整の過程のなかで一定の変化の圧力を受けてきた。

 K自動車では、1997年に不渡りを出すまでは、労使関係の主要な問題に対して、労組が経営陣とほとんど共同決定するほどの意思決定権をもっており、このような構造は談合的な労使関係によって維持されていた。しかし、法定管理にともないK自動車の経営陣が交代したため、談合的な労使関係は清算され、新たな労使葛藤の局面に入ったが、労組は会社が法定管理下にあるという危機的な状況を考慮せず、無理な闘争を行ったために孤立した。

 HグループがK自動車を吸収した後、新経営陣はK自動車の厳しい与件、労組の依然とした力の強さ、Hグループ内部の経営権の承継問題などにより、特に選択肢がない状況のなかで必要な人員整理を断行した直後、残った人員に対して雇用の安定を約束し、急激な労使関係の改革よりも、既存の慣行を尊重して漸進的にアプローチする方法を選んだ。したがって、労使関係の力関係や労組の制度的な安定という手続き的な(procedural)側面では、これまで通り形式的な労使関係の安定性が保障された。しかし、実質的な(substantive)側面での労使関係は、重要な変化を遂げたものとみられる。所有構造を含む企業支配構造の変化、構造調整および雇用不安という環境のなかで、団体交渉は既存の量的分配交渉から質的交渉へと焦点が移っていった。このような団体交渉における性格の変化は、現場労働者の主たる関心事が移っていったということであり、団体交渉の実質的な内容が変化したものと理解される。

 1997年までK自動車の作業現場では、労組優位の労使関係、「共同決定」レベルの労組の意思決定権と変化に対する拒否により、各種の作業現場の合理化と新しい作業慣行の導入が非常に難しかった。1999年にHグループがK自動車を吸収した後、新経営陣は既存の労使関係の慣行、作業慣行を尊重しつつも、経営陣の「協商を通じた変化(negotiated change)」戦略にしたがって、慎重かつ漸進的に労使関係の変化と構造調整の履行にアプローチした。労組も執行部を中心に前向きで柔軟な立場を見せることで、「協議的労使関係」を通じて構造調整で生じる労働者の一方的な犠牲を防ぐ可能性を確認したのである。構造調整問題に対して「協商を通じた変化」の可能性が労使関係で具体的に表現されたのは、「雇用安定委員会の運営」であった。雇用安定委員会を通じた配置転換の問題、時間当たり車両生産台数(UPH)の増加のための協商が、労使協議という形の妥協と折衷を通じて行われた。

 このような「協商を通じた変化」の途は、構造調整と質的な労使問題に対して、韓国の労使関係ではほぼ一般的になっている「対立と機会主義」というアプローチよりも、「労働者内部の利害調整」を経た労使間の協力主義(micro corporatism)の可能性を開くものとして注目に値する。それでも、K自動車内部でのこうした新しい変化の動きは、まだ根付いてはおらず、過渡的な段階にとどまっている。20019月に行われた労組執行部の交代、韓国の全体的な労使関係の対立、景気後退による経営陣の攻撃的な費用縮小や急進的な変化の動きは、新たに芽生え始めたK自動車内部の「労使協力主義(micro corporatism)」の可能性を激しく揺さぶる危険を残している。

 

3.       韓国企業の雇用調整の展開[20]

 

経済危機という外からの衝撃を十分に吸収する余力のない企業においてもっとも重要な懸案は、パイ(pie)の縮小分を労使の間で、さらに労働者の間でどのように分けるかということである。この代表的な葛藤のひとつが、賃金調整と雇用調整のどちらを選択するかということである。通貨危機に直面し、賃上げが既存の従業員の雇用不安につながらなかった従来の分配方式が崩れて、労使が賃金条件か雇用条件のどちらかを選択しなければならない状況がやってきたのである。労働組合の立場からみると、賃金調整は痛みを労働者の間で公平に分担する原則に近いとすれば、雇用調整方式はそれを一部の労働者に集中して分担させる方式に近い。どちらを選択し、それをどのような内容と形式で選択するかは、経済危機の幅と深さが、労使双方の主体的条件、理念的志向と行動様式に依拠するはずである。どちらの方向に進むのかは、今後の労使関係の方向を占う重要な物差しになる。

ここでは、通貨危機という外からの衝撃に対応するために、韓国企業が推進した構造調整のうち主に雇用調整に焦点をおいて、1998年から2000年までの雇用調整の基本統計を中心に、この展開過程を調べてみることにする。ここで使用する資料は、「賃金交渉実態調査(1998, 1999年)」[21]、「人力管理および雇用調整実態調査(19983月、199810月)」[22]、「構造調整期の人事管理の変化に関する実態調査(199810月)」[23]、「労使関係の意識および慣行に関する調査(1999年)」[24]、「経済危機以後の経営環境および人的資源管理の変化の調査(2000年)」、「事業体労使関係パネル予備調査(2000年)」など、これまで韓国労働研究院で実施されたアンケート調査の資料を活用した。このうち「構造調整期の人事管理の変化に関する実態調査」は、199810月の「人力管理および雇用調整実態調査」と同じ標本企業を対象に実施されたものである。使用した資料の概要は、<表7>から<表11>に整理した。本稿では、主に2次資料を使用しているため、研究結果が多少散漫になるという限界があることを予め断っておきたい。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

<表7>賃金交渉実態調査(199899年)

1998年の賃金交渉実態調査

調査対象

労働組合が存在する製造業のうち従業員100人以上の企業と労働組合

調査地域

全国

最終有効標本数

252企業の使用者側と労働組合側の代表の各252

調査期間

199811

1999年の賃金交渉実態調査

調査対象

労働組合が存在する製造業のうち従業員100人以上の企業と労働組合

最終有効標本数

251企業の使用者側と労働組合側の代表の各251

標本抽出方法

労働部の「全国労働組合組織現況」1998年度と毎日経済新聞社の『会社年鑑』1999年度版をあわせて業種別・規模別に層化系統抽出する

資料収集方法

郵便を通じた自計式調査方法を原則にしているが、自計式調査が不可能・不十分な場合には他計式調査方法も並行して用いる

調査期間

1999111日〜1120

 

 

 

<表8>人力管理および雇用調整実態調査(19983, 199810月)

19983月の人力管理および雇用調整実態調査

調査対象

農業以外のすべての産業の企業

最終有効標本数

300社の人事労務担当者600

標本抽出方法

19977月に韓国労働研究院が実施した雇用調整実態調査の標本企業600社を母集団として業種別・規模別に抽出する

資料収集方法

調査員が直接訪問して設問に答えてもらう

調査期間

1998310日〜331

199810月の人力管理および雇用調整実態調査

調査対象

農業以外のすべての産業の企業

最終有効標本数

355社の人事労務担当者355

標本抽出方法

19977月に韓国労働研究院が実施した雇用調整実態調査の標本企業600社を母集団として、業種別・規模別に抽出する

資料収集方法

調査員が企業を直接訪問して設問に答えてもらう

調査期間

199810月〜11

 

 

 

 

 

 

 

<表9>構造調整期の人事管理の変化に関する実態調査(199810月)

調査対象

農業以外のすべての産業の企業とその構成員

最終有効標本数

361社の人事労務担当者316名と30名の事務職社員

 

標本抽出方法

企業調査:19977月に韓国労働研究院が実施した雇用調整実態調査の標本企業600社と全国の上場企業を母集団として業種別・規模別分布を考慮し抽出する

構成員調査:全国の上場企業を母集団として企業調査に応じた上場企業123社の事務職社員を対象に各企業当たりの職級別分布を考慮し抽出する

資料収集方法

調査員が直接訪問して設問に答えてもらう

調査期間

1998112日〜1124

 

<表10>労使関係の慣行および意識に関する調査(1999年)

調査対象

従業員数300人以上の製造業

最終有効標本数

250社の人事管理または労使関係担当者と労働組合代表(労働組合がない企業は労使協議会の従業員代表)各250名と標本企業の従業員1,800

標本抽出方法

産業別(中分類)・規模別・地域別の標本に基づいて抽出する。従業員の標本は事業体の規模別に比例割当てし、各事業体内でも性別・年齢別に比例割当てして抽出する

資料収集方法

人事労務担当者、労働組合代表:面接調査と回答者記入方式の調査を並行して用いる

従業員:面接調査

調査期間

19998月〜9

 

<表11>事業体労使関係パネル予備調査(2000年)

調査対象

従業員数100人以上の全産業の企業

最終有効標本数

543社の使用者側と労働組合代表(労働組合がない企業は労使協議会の従業員代表)の各543

標本抽出方法

20003月の時点で労働部の雇用保険データベースに収録されている事業体リストを使用して業種別・規模別に層化抽出する

資料収集方法

面接員が事業場を訪問して調査票を渡し、直接作成してもらう自計式方法を原則とする。指定された期間後に再び訪問して回収する

調査期間

200010月〜11

 

まず、人員削減の現況を調べてみると、本稿で使用した資料を統計処理して求めた人員削減の現況は、<表12>に表れている。このうち「労使関係の慣行および意識に関する調査」の統計値は、回答者が直接答えた人員削減率に基づいたもので、他の統計値は該当時期直前の年末の従業員数を基準にして推定したものである。この推定値には、希望退職(早期退職)や辞職勧告あるいは整理解雇を通じて人員を削減した場合しか含まれておらず、自然減のような穏健な雇用調整方式を通じた人員削減は除いてある。このうち人員削減比率は、人員削減を実施しなかった企業もゼロとして処理して含まれているため、全体の標本企業の人員削減率の平均である。年末の従業員数を基準にしていることから、この推定値の正確性が低い可能性があるため、統計値の絶対性をみるのではなく、時系列的な変化の動きだけに注目したい。

 

<表12>経済危機直後の希望退職および整理解雇を通じた人員削減

使用資料

該当時期

N

人員削減企業の比率

人員削減率1)

19983月「人力管理および雇用調整実態調査」

19971月〜11

199712月〜19983

297

299

10.8

21.7

1.1

2.3

199810月「人力管理および雇用調整実態調査」

19984月〜10

369

49.7

6.1

「労使関係の慣行および意識調査」2)

199711月〜19988

221

76.7

14.4

「事業体労使関係パネル予備調査」

20001月〜9

509

17.7

0.9

「経済危機以後の経営環境および人的資源管理の変化の調査」

1998

1999

2000

383

386

395

52.2

28.2

10.9

16.2

4.0

2.0

注:1) 人員削減率は該当時期直前の年末の従業員数を基準にして推定されたもので、人員削減をしなかった企業は0%として処理して含めている

  2) 希望退職や整理解雇以外の方式を通じた人員削減を含み、回答者に直接人員削減率を質問したものである

 

この結果をみると、人員削減は1998年に最高値に達していることが見てとれる。19983月と10月の「人力管理および雇用調整実態調査」によれば、199711月にIMF管理体制に入る前は、雇用調整を行った企業の比率は10.8%、人員削減率は1.1%であったのに対して、199712月と19983月には各々21.7%と2.3%に増加し、19984月と10月には各々49.7%と6.1%にさらに跳ね上がっている。1998年以降に人員削減が急減している様子は、「経済危機以後の経営環境および人的資源管理の変化の調査」を通じて確認することができる。19982000年に人員削減を行った企業の比率は各々52.2%、28.2%、10.9%に減り、人員削減率も16.2%から4.0%、2.0%に各々減っている。「経営環境および人的資源管理の変化の調査」の母集団が上場企業であるという点を勘案し、中小企業まで含めた「事業体労使関係パネル予備調査」をみても、2000年度の人員削減率は0.9%で、それ以前に比べて著しく減少したものと推定される。

<表13>には、19983月と10月の「人力管理および雇用調整の実態調査」と「事業体労使関係パネル予備調査」から構造調整の実施の有無を、勤務時間の調整、人員調整、機能的調整、組織の改編、賃金調整の項目別に分析した結果である。各々の構造調整の項目はさらに細かい項目に区分されているが、ここでは、この細分類項目のうちひとつ以上を実施した企業はその項目の構造調整を実施したものとして扱った。3つのアンケート調査のいずれも非常に似通った項目を質問していることから、構造調整の内訳ごとに時系列的な変化を把握できるように構成してある。ただし、2000年の「事業体労使関係パネル予備調査」は、残業時間の短縮と所定勤務時間の短縮をひとつの項目に統合し、隔週休などの休日の増加と年月次休暇使用の奨励、一時帰休と一時休職制の実施、社外派遣と系列会社・関係会社への出向の各々の組み合わせをひとつの項目に統合した点が違うだけである。

<表13>構造調整の実施                       単位:%

 

区  分

19983

調査

199810月調査

2000

調査

19971

11

199712

19983

19984

10

20001

11

−勤務時間の調整

20.0

36.7

56.1

20.6

 ・残業時間の短縮

 ・所定勤務時間の短縮

 ・隔週休など休日の増加

 ・年月次休暇使用の積極的推奨

 ・一時帰休

 ・一時休職制の導入

6.0

1.3

9.0

13.7

1.3

17.3

4.3

9.7

31.3

2.7

1.0

23.1

6.2

16.3

47.6

7.3

4.5

6.3

19.2

2.9

−人員数の調整

19.7

43.7

69.6

26.9

 ・正規職を非正規職に代替

 ・採用の凍結または縮小

 ・希望(早期)退職の実施

 ・非正規職の削減

 ・整理解雇(辞職勧告)の実施

2.3

15.0

5.7

3.7

7.0

5.0

38.7

8.0

12.7

17.3

15.8

56.1

23.4

17.5

24.5

6.4

17.9

8.8

11.4

−機能的調整

12.7

24.3

29.9

12.9

 ・社内および社外での教育訓練

 ・配置転換の実施

 ・社外派遣(出向)

 ・系列会社・関係会社への転出(転籍)

1.7

10.3

0.3

2.3

4.0

20.0

0.7

4.3

39.0

23.4

3.1

8.7

11.8

4.1

 

−企業組織の再構築

6.0

11.3

30.7

13.4

 ・下請けや外注加工の拡大

 ・事業所の閉鎖または海外移転

 ・企業の吸収・合併

 ・事業部門(生産ライン)の縮小

 ・分社、ワークアウトの実施

2.0

1.0

0.3

3.0

1.0

3.0

2.0

7.0

1.3

11.5

9.0

5.4

16.1

6.5

4.6

2.2

3.3

7.4

4.6

−賃金調整

10.7

38.7

78.9

22.3

 ・賃上げの凍結

 ・ボーナス削減などの賃金削減

 ・賃金体系の改編

 ・その他の労働費用の削減

6.7

6.0

0.3

25.0

28.7

3.3

61.1

57.7

11.8

47.3

14.7

8.8

10.7

9.4

−構造調整実施企業の比率

32.3

60.3

85.6

37.4

−調査対象企業数

300

355

543

資料:19983月「人力管理オヨビ雇用調整実態調査」(崔康植・李奎鎔, 1998, 199810月「人力管理オヨビ雇用調整実態調査」(崔康植・李奎鎔, 1999, 「事業体労使関係パネル予備調査」より作成

この結果をみると、構造調整を実施した企業の比率は、19971月〜11月の32.3%、199712月〜19983月の60.3%、19984月〜10月の85.6%に増加した後、2000年には37.4%に再び減少している。全体的にみると、経済危機が発生する以前は、人員数の調整や勤務時間の調整などが多少高かったにせよ、項目別に大きな違いは見られなかった。人員数の調整も、採用の凍結や縮小など、主に自然減が多かったことが見てとれる。しかし、経済危機が発生してからは、人員数の調整と賃金調整が大幅に増加し、構造調整の中心的な方法として浮上している。人員数を調整した企業の比率は、19971月〜11月の19.7%、199712月〜19983月の43.7%、19984月〜10月の69.6%に増加した後、2000年には26.9%に再び減少している。また、賃金調整を行った企業の比率は、19971月〜11月の10.7%、199712月〜19983月の38.7%、19984月〜10月の78.9%に増加した後、2000年には22.3%に再び減少している。2000年の場合、他の構造調整方式を採択した企業の比率は、経済危機以前の状態に戻っているのに対し、人員数の調整と企業組織の再構築および賃金調整を実施した企業の比率は、経済危機以前の水準にまで回復していないことも特徴的である。人員数の調整のうち希望退職や整理解雇を通じた人員削減を実施した企業の比率も、経済危機以降かなり大幅に増加すると同時に、正規職を削減するか、あるいは非正規職に代替した企業の比率も、19984月〜10月にはかなり高かった。

<表14>は、構造調整の各方式の間にどのような関係があるのかを調べるために、構造調整の各方式の相関関係係数を求めたものである。構造調整の各方式の相関関係係数はいずれも高いが、この中でも人員数の調整、賃金調整、勤務時間の調整の間で相対的に高い相関関係を示している。全体的にみると、構造調整の各方式は相互代替関係というよりは、相互補完関係として利用されているものと見られる。ただし、ここでは他の条件が統制されていないため、その根拠は定かではないという点に注意する必要がある。

 

<表14>構造調整方式の相関関係:19984月〜10月の場合

 

勤務時間の調整

人員数の調整

機能的調整

組織改編

人員数の調整

機能的調整

組織の改編

賃金調整

0.414(0.0001)

0.317(0.0001)

0.334(0.0001)

0.459(0.0001)

 

0.324(0.0001)

0.296(0.0001)

0.483(0.0001)

 

 

0.339(0.0001)

0.292(0.0001)

 

 

 

0.293(0.0001)

資料:199810月「人力管理オヨビ雇用調整実態調査」

 

これをもう少し単純に調べてみるために、<表15>では、希望退職・整理解雇を実施した企業と実施しなかった企業の構造調整方式の違い、さらに賃金調整を実施した企業と実施しなかった企業の構造調整方式の違いを調べている。ここでは、希望退職と整理解雇だけを選びとって、人員数の調整を調べている。この結果は、1998年と2000年のいずれも、希望退職と整理解雇を実施した企業が実施しなかった企業よりも、また賃金調整を実施した企業が実施しなかった企業よりもさらに高い比率で、他の構造調整方式も実施していることが見てとれる。1998年に希望退職・整理解雇を実施した企業の場合、92.3%が賃金調整も実施し、賃金調整を行った企業の81.1%が人員調整を実施したことが明らかになった。

<表15>希望退職・整理解雇実施企業と不実施企業、賃金調整実施企業と不実施企業の構造調整方式の違い:19984月〜10月と2000年の場合  

 

希望退職・整理解雇

賃金調整

実施企業

不実施企業

実施企業

不実施企業

 

 

1998

勤務時間の調整

人員数の調整

機能的調整

組織の再編

賃金調整

71.0

42.6

41.9

92.3

44.5

20.0

14.0

68.5

67.9

81.1

36.8

32.9

12.0

26.7

4.0

1.3

 

 

2000

勤務時間の調整

人員数の調整

機能的調整

組織の再編

賃金調整

46.9

34.4

40.6

65.6

15.0

8.3

7.6

13.0

57.0

76.9

38.0

43.0

10.2

12.6

5.7

5.0

資料:199810月「人力管理オヨビ雇用調整実態調査」, 「労使関係事業体パネル予備調査」より作成

 

4.       通貨危機以後の韓国企業の人的資源管理の変化[25]

 

経済危機以降の韓国企業の人的資源管理の変化を正確に把握するのは容易なことではない。信頼に値する調査結果が大いに不足しているためである。また、人的資源管理の変化は非常に広範囲にわたっているのに対して、ほとんどの調査は人的資源管理の特定領域に限定されているためでもある。1998年と2000年の2回にわたって実施された韓国労働研究院の調査は、このような欠点を補完してくれる非常に重要な調査である。この2つの調査は韓国の上場企業を対象とするものであり、したがって一般的には大企業といえる。参考までに、調査が行われた1998年当時の上場企業数は744社、回答企業数は417社であることから56%の回答率を示しており、また、2000年の上場企業数は712社、回答企業数は376社で、53%の回答率を示している。以下では、この2つの調査を中心に、他の調査結果も活用しながら、最近の韓国企業の人的資源管理の変化を調べてみることにしよう。

2000年の調査によれば(韓国労働研究院, 2000a)、全般的にみて経済危機以降の韓国企業の人的資源管理制度は、かなり大きな変化を遂げていることが明らかになった。組織構造、賃金管理、人事考課、採用管理、昇進管理、教育訓練など、ほとんどすべての人的資源管理領域で、韓国企業の80%以上が制度的な変化があったと回答している(<表16>を参照)。それほどIMF危機と呼ばれる経済危機が韓国企業の人的資源管理の変化に及ぼした影響は絶大であったといえる。相対的に制度の改善が難しく、長い時間を要する職級体系や経歴管理の場合にも、60%以上の企業が変化があったと答えていることから、韓国企業の人的資源管理の制度変化が非常に大きく、すべての領域にわたっていることがわかる。

 

<表16>人事制度の変化              単位:%

 

変化があったと答えた企業の比率

かなりの変化があったと答えた企業の比率

組織構造

賃金管理

人事考課

採用管理

昇進管理

教育訓練

職級体系

経歴管理

96.8

92.8

87.7

89.9

87.8

86.7

67.7

73.7

63.6

50.5

44.7

44.1

38.8

37.2

25.3

19.7

資料:韓国労働研究院(2000a)

 

特に、人的資源管理の各分野のなかでも組織構造と賃金管理、人事考課、採用管理の場合、40%以上がかなりの制度的な変化があったと答えていることから、他の分野に比べて特にこの部分での人事制度の変化が非常に大きかったことがわかる。これは、チーム制の導入を中心とした組織構造の水平化、年俸制の急速な拡散とこれを支える評価制度の改善、随時採用とインターネットを活用した採用などの急速な広がりを反映したものである。以下では、韓国企業の人的資源管理制度を主要領域別に具体的に検討してみたい。

 

4.1.     人員管理の変化

 

 韓国企業の人員管理方式におけるもっとも大きな変化は、柔軟化に要約される。採用方式はこれまでの定期募集中心から随時募集中心に変わっており、インターネットを活用した募集が次第に広がっている。また、労働市場の柔軟化とともに、外部労働市場からの補充が次第に増えている。さらに、雇用管理の柔軟性を確保するために、正規職中心の人員構成から次第に非正規職の活用が急増している。

 

イ.             募集方式の変化

 

 経済危機以降の募集における著しい変化は、定期採用から随時採用への変化である。これまでの韓国の大企業の採用において重要な特徴は、大学卒業シーズンにあわせて行われる定期公開採用であった。特に、主な大企業グループの場合、本社が中心になってグループ全体に必要な人員を一斉に募集・選抜する集権的な採用方式を選んでいた。しかし、経済危機以降、このような採用方式に大きな変化が生じている。現代、三星、LG、鮮京などの主な大企業グループは、1998年以降、グループ本社中心の定期公開採用を中断し、各系列社別に随時採用する方式に転換している(『朝鮮日報』2000419日付)。2000年にベンチャー企業を中心に行われた実態調査(韓国労働研究院, 2000b)の結果は、上場企業と非上場企業のサンプルが少なく代表性に一定の限界があるが、上場企業の場合、70%以上が主に随時採用を通じて人員を確保していることが明らかになった。こうした結果は、韓国企業の募集方式において、随時採用が既に支配的な形態として定着しているという点を明示している。特に、ベンチャー企業や非上場企業の場合、主として随時採用を活用する場合が90%を上回っており、随時採用がベンチャー企業の人員確保方式の大きな特徴のひとつであることが明らかになった(<表17>を参照)。

 

<表17>人員募集の主要な方式

 

上場企業

非上場企業

ベンチャー企業

随時採用を主に活用している企業の回答率

73.6

90.0

93.8

(回答企業数)

72

80

276

資料:韓国労働研究院(2000b)

 

 募集に関するもうひとつの重要な変化は、インターネットの活用である。従来の韓国企業の募集方法は、主要日刊紙を通じたものであったが、最近になって多くの企業が自社のホームページを通じても募集広告を出している。現在のところまだ転換期にあるため、日刊紙を通じた募集とインターネットを通じた募集が同時に行われている状況にある。インターネットを通じた募集が広がっているのは、この方式が費用効率的であるだけではなく、新入社員の情報を一括してデータベース化し管理することができるという利点があるためである。また、インターネットを通じた募集は、募集方式が定期採用から随時採用に変化していることと密接に結びついている。随時採用の場合、募集人員が事前に確定していないだけではなく、募集人数も少ないために、日刊紙を活用した募集が非効率的なためである。こうした利点と、インターネットの普及と利用の増加により、インターネットを活用した募集が今後大きく広がる見通しである。しかし、このような変化に対する正確な実態は、既存の実態調査からはまだ把握することができないため、今後の調査を通じて確認しなければならない点である。

 

ロ.             選抜基準の変化

 

 韓国企業が新入社員を選抜するときに重視する基準は、実際の企業慣行では人物像と呼ばれているものである。しかし、すべての企業が人物像を定めて、これを新入社員の選抜に活用しているわけではない。1998年の上場企業を対象とした調査(韓国労働研究院, 1998)では、公式あるいは非公式的に人物像をもっている企業は回答企業中61.2%に過ぎず、2000年の調査(韓国労働研究院, 2000a)では、これよりもやや増えて66.2%の企業が人物像をもっていることが明らかになった(<表18>を参照)。したがって、未だに上場企業の3分の1に当たる企業が、人物像に対する明確な決まりがないまま人員確保および人員管理を行っていることがわかる。人物像をもっている企業はさらに、公式的な人物像を定めて活用している企業と非公式的な人物像をもっている企業に区分されるが、2000年の調査結果では、1998年に比べて公式的な人物像をもっている企業の比率が増加した様子を示している。しかし、全体的には、人物像をもっているかどうかについては、大きな変化はなかったものと判断される。

<表18>人物像の保有

 

19981)

20002)

人物像がない

公式的な人物像がある

非公式的な人物像がある

38.2

38.2

22.4

33.8

42.0

24.2

資料:1) 韓国労働研究院(1998)

      2) 韓国労働研究院(2000a)

 

 一方、選抜と関連して、韓国企業が追い求める人物像の具体的な内容にも、経済危機以降、特に変化はないことが明らかになった。1998年の上場企業を対象とした調査(韓国労働研究院, 1998)では、韓国企業が追い求める主な人物像は、創造・革新・挑戦、誠実性、協同、専門的能力の順で報告されており、この順位は2000年の調査でもそのまま維持されている(<表19>を参照)。また、この内容は、1990年代半ばに実施された大企業の経営特性に関する研究(朴俊成, 1994)の結果ともほぼ一致する。経済危機を前後して韓国企業が追い求める人物像に特に変化がなかったのは、人物像というものが具体的な人事制度とは異なり、簡単には変わらない属性をもっているということもあるが、同時に1990年代初めから半ばの時点ですでに、韓国企業の人物像が変化していたためでもある。1990年代までの人物像が主に協調性と協同、誠実性を強調するものであったとすれば、1990年代に入り話頭に上った世界化と市場開放のなかで、韓国企業は創造と革新、そして専門的能力を新たに強調しはじめた。

 

<表19>主要な人物像の内容

 

19981)

20002)

1

2

3

4

創造・革新・挑戦

誠実性

協同

専門的能力

創造・革新・挑戦

誠実性

協同

専門的能力

資料:1) 韓国労働研究院(1998)

      2) 韓国労働研究院(2000a)

 

 一方、人物像のなかでも様々な葛藤を起こした部分が、協同と専門的能力といえる。上場企業を対象に2回にわたって行われた韓国労働研究院の調査では、この部分の変化を明確に把握するために、新入社員を選抜する際、協調性・チームワークと能力を対比させて、2つのうちひとつを選択しなければならないとすればどちらを選択するかと質問した。この質問に対して、能力は劣るが協調性とチームワークが優れている人を選抜するという回答が、1998年と2000年のいずれも70%を上回る高い水準であることが明らかになった(<表20>を参照)。一方、2000年に実施されたベンチャー企業の調査(韓国労働研究院, 2000b)の結果では、ベンチャー企業も、能力はあるが協調性や協同に問題がある人よりは、能力は劣るが協調性やチームワークが優れた人を選抜するという立場が支配的であることが明らかになった。このような結果は、韓国企業では依然として、能力そのものよりも協同を通じて能力を発揮できる人を選好していることを示していると同時に、能力は会社での訓練を通じて一定程度開発することができるという認識が基底にあることを示している。

 

<表20>業務能力とチームワーク能力の比較

 

1998

(上場企業)1)

2000

(上場企業)2)

2000

(ベンチャー企業)3)

能力は優れているがチームワークに問題がある人

23.8

24.2

28.4

チームワークは優れているが能力が劣る人

74.8

74.5

67.9

無回答

1.4

1.3

3.7

資料:1) 韓国労働研究院(1998)

      2) 韓国労働研究院(2000a)

   3) 韓国労働研究院(2000b)

 

ハ.             外部人員の補充

 

 人員の補充における重要な変化のひとつは、韓国企業がこれまでの内部人員の開発を通じた活用から、次第に外部労働市場からの補充を積極的に活用しはじめたという点を挙げることができる。1997年に大企業を対象とした調査によれば(朴慶圭・安煕卓, 1998)、管理職に欠員が生じた場合、企業内部から補充すると答えたのは61%と圧倒的な比率を占めており、外部から補充する場合でも、その比率は10%を下回っていることが明らかになった。こうした現象は、従来、韓国企業が一部の専門職を除くと、企業内部に欠員が生じた場合、これを内部で補充することが支配的であったことを示している。少なくとも大企業における人員管理は、内部労働市場に基づく人的資源管理をその拠り所としており、このために職級体系と内部昇進が行われたためである(朴俊成, 1994)。

  しかし、2000年に韓国労働研究院が行った調査によれば、必要な人員を開発して活用するよりは、外部から補充するという補充政策をもっていると答えた企業の比率は25.8%であることが明らかになった(<表21>を参照)。また、最近2年間に外部人員を補充した経験がある企業は回答企業全体の78.5%に達し、運輸・倉庫および通信業と金融・保険業の場合には、これよりもはるかに高い比率で外部人員を採用する傾向が表れた。こうした事実は、韓国企業において外部からの人員補充が広がりはじめたことと、特に政策的には開発政策(make policy)の代わりに外部人員活用政策(buy policy)を指向する企業が、無視することができないほどの比率を占めていることを示している。

 韓国企業のなかでもベンチャー企業は、上場企業とは異なり、外部人員の活用を選好する傾向が強いことが表れている。上と同じ質問項目に対して、ベンチャー企業の51.6%が必要な人員を外部から補充する政策をもっていると答えているためである。したがって、ベンチャー企業では、むしろ外部人員の活用がより支配的な位置を占めていることがわか

 

<表21>外部人員の補充政策

 

1997

(大企業)1)

2000

(上場企業)2)

2000

(ベンチャー企業)3)

管理職の外部補充比率

10

 

必要な人員の外部補充政策

25.8

51.6

資料:1) 朴慶圭・安煕卓(1998)

      2) 韓国労働研究院(2000a)

   3) 韓国労働研究院(2000b)

 

る。特に、研究開発・技術職の場合、外部人員の補充が高い比率を見せている。ベンチャー企業の場合に外部人員の活用の程度が高いのは、上場企業に比べて相対的に、内部人員を自主的に開発し活用するだけの時間的・財政的余裕がないためであるとみられる。

 

ニ.             非正規職の活用

 

 韓国企業の人員管理におけるもっとも大きな変化のひとつは、非正規職の積極的活用である。1997年末にはじまった経済危機とこれによる急激な環境変化は、企業をして人員管理上の柔軟性を非常に切実にせしめた。この結果、正規職労働者の比率は、雇用調整とともに減少しつづける一方、非正規職労働者の比率は次第に増加する様相を呈した。崔康植・李奎鎔(1999)の調査によれば、経済危機が生じた199712月以降、非正規職の数は若干減少したが、1998年に入ってから大幅に増加する傾向をみせている。非正規職の一時的な減少は、経済危機直後に雇用調整を実施した企業が、解雇回避努力義務にしたがって一時的に非正規職を放出したためである。ところが、構造調整と雇用調整が済んだ後では、不足した人員は非正規職を中心に補充しているためである。また、前述の調査は、今後も企業が正規職の活用を引き続き強化するということを示している。

 こうした現象は、上場企業を対象とした韓国労働研究院の調査(韓国労働研究院, 2000a)の結果からも確認される(<表22>を参照)。広範囲にわたる雇用調整の結果、韓国の大企業の平均従業員数は、1997年の2,230名から1998年には1,940名へと約13%減少し、1999年に入ってからは、景気回復にともなって、1997年の水準までには及ばないが、大幅な増加傾向を示している。一方、非正規職の比率は、1997年を基準に、持続的に増加している様相を呈している。1997年の上場企業の非正規職人員比率は5.5%であったが、1999年には8.7%になり、1.5倍以上の急激な増加率を示している。ほとんどすべての業種で例外なく非正規職の比率が増加してきたが、経済危機以降に急増した産業は、飲食料品業、卸小売業、運輸・倉庫業、金融・保険業などで、特に金融保険業の場合には、1997年の8%に対して1999年は20%と非正規職の比率が2倍以上も増加し、急激な変化を見せている。

 

 

 

 

 

<表22>平均従業員数と非正規職比率の変化

 

平均従業員数

非正規職比率

1997

1998

1999

2,230

1,940

2,181

5.5

7.2

8.7

資料:韓国労働研究院(2000a)

 

4.2.     報償管理

 

 報償管理は、韓国企業の人的資源管理においてもっとも急速な変化を遂げている部分であり、この変化の基本的な方向は年功主義から成果主義への変化といえる。韓国労働研究院が行った2000年の調査によれば、経済危機以降50.5%の企業で、報償管理においてかなりの変化あるいは非常に大きな変化があったと答えており、様々な人的資源管理制度のなかでも変化の程度がもっとも大きいことが明らかになった。従来の韓国企業の賃金管理は、年功給の性格が非常に強く、その核心は毎年定期的に増加する号俸制度といえる。韓国企業の従来の賃金制度のもとでは、基本給は職級と勤続年数により決定されていた。個人の成果や人事考課の評価によって個人別に賃金差等が生じることはほとんどなかったといえる。

 しかし、1990年代半ば以降、個人別の成果を基準に賃上げに等差をつける年俸制の導入が急速に広がっている。この急速な広がりは、各機関で実施された様々な実態調査から確認することができる(<表23>を参照)。まず、50人以上の企業を対象に行われた韓国経営者総協会の実態調査の結果では、1994年に4%に過ぎなかった年俸制の導入率が、1998年には3倍以上の15.3%まで増加していることを示している。次に、100人以上の企業を対象に労働部が毎年調査する実態調査の結果(労働部, 2000a)によれば、経済危機直前の1997年末基準で3.6%に過ぎなかった年俸制の導入率は、2000年初めには18.2%に急増している。最後に、上場企業を対象にした韓国労働研究院の調査結果でも、年俸制の急激な広がりを見てとれる。例えば、1998年の調査によれば、年俸制の導入比率は23%であったのに対して、2000年の調査では、年俸制の導入比率は45.2%という非常に高い水準を示している。また、2000年の調査結果のなかで向こう1年以内に導入する計画があると答えた企業が22.6%に達しており、年俸制は既に、少なくとも韓国の大企業においては支配的な賃金体系として定着していると評価することができる。

 特に、2000年の調査資料を使って、年俸制を導入した企業のなかで年俸制の導入年度を調べてみると、年俸制を導入している企業のうち、経済危機直後の1998年から調査が行われた2000年半ばまでの期間に年俸制を導入した企業が、年俸制を導入した企業全体の78.3%に達しており、経済危機が成果主義の賃金体系への変化に非常に強力な影響を与えたことがわかる(<表24>を参照)。また、経済危機を前後して年俸制を導入した年度を企業の規模別に区分して調べてみると、非常に興味深い事実が発見された。一般的に、300人以上1,000人未満の企業では、経済危機以前の時点で既にかなりの企業が年俸制を導入していたが、300人未満の中小企業や1,000人以上の大企業では、300人以上1,000人未満の企業に比べて相対的に経済危機以前の年俸制導入率が低く、経済危機以降に導入した比率が

<表23>年俸制導入の実態

調査期間

調査対象企業

年俸制導入比率

 

韓国経営者総協会

19941)

19962)

19983)

 

50人以上の企業

4.0

7.2

15.3

 

労働部4)

1996

1997

1999

 

100人以上の企業

1.6

3.6

12.7

韓国労働研究院5)

1998

2000

上場企業

23.0

45.2

資料:1) 梁炳武(1994)

        2) 韓国経営者総協会(1996)

        3) 安煕卓(1998)

   4) 労働部(2000)

        5) 韓国労働研究院(1998, 2000a)

 

はるかに高いことが明らかになった。こうした現象を見せているのは、中小企業の場合、年俸制という新しい制度を設計・準備する能力が不足しており、危険を回避するためであったといえる。また、1,000人以上の大企業の場合、経済危機以前には相対的に年俸制の導入に消極的だったのは、大企業がもっている組織の慣性や強力な労組の反対のような制度的要因が作用した可能性が高い(柳奎昌・朴宇成, 1999)。経済危機はこうした制度的な障害要因を取り除くと同時に、公共部門や金融部門で表れたように、政府からの圧力を通じて年俸制を普及させる契機になった。こうした理由により、経済危機以降、1,000人以上の大企業における年俸制導入が急速な広がりをみせているといえる。

 

<表24>年俸制導入企業の規模および導入時点

 

全 体

企業規模

300人未満

300999

1,000人以上

経済危機以前

経済危機以降

21.7

78.3

17.8

82.2

27.1

72.9

15.6

84.4

資料:韓国労働研究院(2000a)

 

 ここで注意すべきは、年俸制が導入された企業ですべての従業員が年俸制の適用を受けているわけではないという点である。現在、韓国の上場企業に導入されている年俸制の場合、従業員全体に対する適用対象従業員の比率は、非常に多様な分布を示している。しかし、全体的にみれば、<表25>に表れているように、50%未満の従業員にしか適用していない企業が大部分で、過半数以上の従業員に年俸制を適用している企業は、相対的に少ないことが見てとれる。

 

<表25>従業員全体に対する年俸制の適用比率                 単位:%

 

10%以下

1020

2050

5080

80100

無回答

回答率

20.6

15.9

29.4

13.5

18.8

1.8

資料:韓国労働研究院(2000a)

 

 <表26>のように、従業員全体に対する年俸制の適用比率が様々に表れるのは、年俸制が特定の職種や職級に該当する従業員に適用されているためである。2000年の調査によれば、年俸制は主に生産機能職を除く事務管理職と営業職、研究技術職などに適用されている。例えば、年俸制を導入した企業のなかで事務管理職は、ほとんど全員が適用されており、研究専門職の場合には60%が年俸制の適用を受けている。一方、年俸制を導入した企業のなかで生産職に年俸制を適用しているのは、30%に過ぎない。生産職の場合に年俸制の適用率がかなり低く表れている理由は、理論的に職務裁量権が弱いだけではなく、実際に年俸制の導入により期待される動機づけ効果が得られにくく(柳奎昌・朴宇成, 1999)、また生産職を中心に労組が結成されており、労組が年俸制の導入に強く反対しているためといえる。

 

<表26>職務別の年俸制の適用比率                 

 

事務管理職

営業職

研究/専門職

技術職

電算職

生産機能職

回答率

98.8

74.7

62.4

54.7

48.2

30.0

資料:韓国労働研究院(2000a)

 

 年俸制の導入を通じて、個人の成果に基づく賃上げが強化されると同時に、過去の勤続の影響も大きく薄れていっている。これは、年功給の中核的な要素である号俸制が次第に廃止されているためである。前述の調査によれば、年俸制を導入した企業の62%が号俸制を完全に廃止したことが明らかになった。年俸制の導入後にも号俸制をそのまま維持している企業は約35%であるが、これは賃金制度の急激な変化を回避するための措置であるとみられる。1998年の調査で、年俸制を導入した企業のうち号俸制をそのまま維持している企業の比率が41.1%であったという点を考慮すると、これまでにこうした企業の一部で号俸制が廃止されたことを意味しており、したがって今後年俸制を導入した企業で号俸制は時間が経つにつれてなくなっていくものと見られる。

 成果主義に基づく報償システムの変化は、他の様々な報奨制度の導入からも確認される(<表27>を参照)。労働部の調査(2000a)によれば、集団インセンティブ制度である成果配分制度の導入率は、経済危機以前の1997年末には、100人以上の事業所のうち7.0%に過ぎなかったが、2000年初めには16.3%になり、2倍以上も増加する様相を呈している。韓国労働研究院が2000年に行った調査では、利益配分制(profit sharing)だけをとってみても約40%の導入率を示しており、収益配分制(gain sharing)の場合には24%の導入率を示している。また、チーム別に運営されるチーム・インセンティブも、25.8%も導入されている。こうした集団インセンティブの広がりは、従業員全体の焦点を企業成果に合わせようとする目的と、年俸制の導入により報償が極端に個人の成果に左右されるようになった場合に生じる副作用を防ぐという目的を併せもっている。また、1997年から法制化されたストックオプションの場合にも、導入されて間もないにもかかわらず、回答企業全体の16.8%が導入しており、急速な導入の様相を呈している。

 

<表27>集団インセンティブ制度の導入

 

利益配分制

収益配分制

チーム・インセンティブ

 

労働部

1997

1999

2000

7.0

13.5

16.3

韓国労働研究院

1998

2000

25.9

40.7

17.7

23.9

23.7

25.8

 

 成果を基準とする集団インセンティブの急速な広がりと積極的な活用は、一方では、動機づけを通じた企業成果の改善を主な目的としているが、他方では、硬直的に増加する人件費を成果に結びつけて変動給にすることで、人件費の管理において柔軟性を確保しようという目的も非常に大きいといえる。こうした点で、韓国企業の賃金制度の急激な変化における重要な特徴は、賃金体系の柔軟化といえる(朴宇成, 1999)。

 

4.3.     組織構造の変化

 

 韓国企業の組織構造における最近の著しい変化は、組織構造の水平化である。従来の韓国企業の組織構造は、非常に長い位階構造のもと、権限が上部に集中しているピラミッド型組織構造であり、このため多くの副作用が露呈されたが(チョ・ヨンホ, 2000)、最近の韓国企業は決裁ラインと職級構造を短縮し、チーム制や小社長制を導入し、個人に対するエンパワーメント(empowerment)がより強調されるなど、組織を次第に水平化しているのである。こうした現象は、次のような具体的な数字によく表れている。<表28>に表れているように、経済危機以前からかなり普及していたチーム制を除くと、他の水平的な組織構造は、経済危機以降に普及率が急速に高まっていることが見てとれる。2000年の調査当時に導入された様々な水平的組織構造において、チーム制を除くと、経済危機以降に導入された比率がいずれも過半数を超えるか、あるいはほとんど50%に近く、組織構造の水平化が経済危機以降に急速に導入され広がっていることがわかる。

 チーム制は、韓国企業において従来の位階組織を水平化させるための非常に重要な試みといえる。これまでの社員、代理、課長、次長、部長という位階を廃止し、チーム長とチーム員の2段階に組織の決裁ラインを短縮したためである。2000年の調査で、回答企業の80%がチーム制を導入していることが明らかになった。チーム制の導入を年度別に調べてみると、1993年まではチーム制の導入はほとんど無視できるほどの水準でしかなかったが、1994年から本格的に導入されはじめ、1998年にもっとも高い導入率をみせた後、導入率が減少している(<表29>を参照)。1998年の場合、導入企業全体の18.3%に該当する企業がチーム制を導入している。1998年以降に導入率が減少したのは、チーム制に対する企業の関心が薄らいだためというよりは、既に大部分の上場企業がチーム制を導入したためとみられる。

 

<表28>水平的組織構造の導入比率

 

2000年現在、導入中であるか実施経験がある

経済危機以降に導入した比率

チーム制

小社長制

分社

アウトソーシング

決裁ラインと職級の短縮

80.1

18.6

21.7

45.2

56.8

34.2

44.3

74.0

57.6

49.2

資料:韓国労働研究院(2000a)

 

<表29>チーム制の年度別導入

 

1993

1994

1995

1996

1997

1998

1999

2000

導入比率

5

6.3

15.9

17.6

17.3

18.3

10.3

3.7

 

 小社長制や分社、アウトソーシングを導入する場合、消極的な理由としては、中核的ではない機能を外部に出すことで経費を節約しコアコンピタンスを強化するという点と、積極的な理由としては、従業員の創意力やインセンティブを補償しようという目的を併せもっている。こうした組織構造の変化は、実のところ経済危機以前までは韓国企業にとってあまりなじみのなかったものであるといえる。組織のスリム化と迅速な対応、収益性が強調されはじめた経済危機以降、急速に普及している点が注目に値する。

 参考までに、アウトソーシングの場合、アウトソーシングされる主要な機能は、生産機能が圧倒的に高い比率を占めており、電算、人事(会計・総務を含む)、警備、食堂、営業、美化、物流などの順になっている(<表30>を参照)。アウトソーシングされる機能の共通の特徴は、企業のコアコンピタンスにそれほど重要な影響を及ぼさない周辺的な機能という点である。生産機能の場合にも、中核機能の競争力と関係のない機能や人員を外注化しているものと見られる。しかし、これとは反対に、製品開発や購買のような中核機能の競争力と直結する部分では、外注化は極めてまれであることは明らかである。

 結局、以上を総合すれば、経済危機はマクロ面では分社とアウトソーシング、小社長制のような組織構造の水平化を大きく促進させる契機になると同時に、対内的には既存のチーム制がさらに広がり、決裁ラインと職級を短縮する重要な変化の契機(momentum)になったといえる。もちろん、こうした変化に対して単に経済危機だけが作用したのではなく、経済危機以降の重要な環境変化の話頭に上った知識基盤経済への進展とデジタル革命も、かなりの影響を及ぼしたはずである。ベンチャー・ブームの到来とともに惹起された離職率の増加は、韓国の大企業をして、ベンチャー型の水平的組織構造の必要性を一層強化せしめた可能性が大きいためである。

 

 

<表30>アウトソーシングの主要分野

順位

アウトソーシング分野

実施経験比率

1

2

3

4

5

6

7

8

 生産の一部

 電算

 人事(会計・総務)

 警備

 食堂

 営業(販売)

 美化

 物流

52.3

10.9

9.9

9.5

6.8

5.9

5.0

4.5

 

5.       結論

 

通貨危機を克服する過程で、マクロの側面での構造改革を通じて、一部の業種では過剰・重複投資が解消し、実質的な成果を上げることもあったが、一部の業種では統廃合により、むしろ経営が一層悪化した状況も表れた。構造調整に成功した企業の躍進により、企業間格差が拡大し、純利益における企業成果が両極化する現象も見られている。

構造改革の過程で断行された国内企業の資産売却と外国人直接投資関連の規制緩和などにより、外資系企業の進出が拡大し、金融を始めとして、石油化学、製紙、製薬、食品、自動車部品などの製造業でも、外資系企業の市場占有率が大きく上昇した。例えば、カメラ、VCR、乾電池などは、外資系が80%以上のシェアを占めている。

構造改革の過程で得られた成果のなかでもっとも意義深い成果を挙げるならば、おそらく韓国社会全般に広がった効率と市場重視の基盤づくりを挙げることができるだろう。グローバル・スタンダードの導入とともに、高費用・低効率であった既存のシステムを改革し、効率と市場を重視する世界的な潮流の変化に乗ろうという動きが広がる契機になったとみることができるだろう。一例として、これまで進展がなかった銀行の整理・合併が、通貨危機以降、日常的に発生しているのである。

しかし、マクロ面での構造改革は、依然として未解決の課題として残されていることも事実である。構造調整の過程で投入された公的資金の回収が、今後政府負債の水準に直接的な影響を及ぼすはずであり、一部の投資信託会社と保険会社のような不良債権を抱えた金融機関の処理問題がいまだに残っており、ハイニクスのようなビッグディールの後遺症が残っている。また、政府の低金利維持政策のおかげで、かなりの数の限界企業が依然として生き残っていることも、構造改革のボトルネックとして作用している。

経済危機以降の人的資源管理方式と制度上の変化は、一時的あるいは漸進的な改善というよりは、新たな次元への変化あるいは革新の性格を持っている。経済危機以降の人的資源管理制度に生じた多くの変化は、韓国企業の人的資源管理のパラダイム転換と軌を一にしている。韓国企業の人的資源管理のポイントは、年功主義から能力・成果主義へ、総合力主義から専門主義へ、温情主義から契約主義へ、権威主義から民主主義へ転換している。経済危機は韓国企業の人的資源管理パラダイムそのものを変え、またこうしたパラダイムの転換は、前述した人的資源管理制度における変化を説明している。例えば、年俸制と成果配分制の広がりは、能力・成果主義への変化を代弁しており、外部人員補充政策の広がりは専門主義というポイントにつながっている。雇用調整の一般化と非正規職の拡大は、契約主義への転換を代弁している。暗黙的な慣行として認識されてきた終身雇用の代わりに、契約による雇用と人的資源管理が強調されているためである。組織構造の水平化と経営参加の実現、従業員のエンパワーメントは、民主主義への転換を示している。

韓国企業で生じている人的資源管理のパラダイムと制度の変化、そして人事部門の戦略的役割の強化は、韓国企業の人的資源管理が従来のモデルから脱皮し、米国型へ移行する様相を呈している。特に、世界化による環境変化とこれに対応するための人的資源管理の変化は、単純に米国式モデルというよりは、全世界に共通する変化の方向を示している(ユ・ギュチャン, 1998)。この基本的な方向は、人員管理の柔軟性の確保と賃金の柔軟性の確保であり、人的資源管理の戦略的役割の強化といえる。

そうであれば、最近の韓国企業の人的資源管理の変化は、本当に従来の人的資源管理モデルの完全な放棄であり、グローバル・スタンダードへの後戻りできない移行なのだろうか。この問題に対する答えは、ある部分では時間が解決してくれるはずである。しかし、現段階で韓国企業における人的資源管理の変化の具体的な内容を検討してみると、グローバル・スタンダードを指向するなかで、韓国的特殊性が依然として含まれていることがわかる。

例えば、昇進において使用される主な基準を調べてみると、業務成果がもっとも重要な基準であるが、勤続という基準も約20%と依然として無視できない役割を果たしている。また、人員を選抜する基準においても、いまだに潜在的業務成果よりは他の従業員との協調性やチームワークがより強調されている。また、年俸制を導入した企業のかなりの数が、依然としてかつての年功給の性格をもつ号俸制をそのまま維持している。こうした例は、成果主義へ変化しているなかでも、依然として年功主義という文化的な特性が維持されていることを示している。

 

 

【参考文献】

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金薫・朴俊植(2000)『構造調整ト新労使関係』韓国労働研究院.

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韓国労働研究院(1998)『韓国企業ノ評価制度オヨビ人的資源管理ノ実態にカンスルサーベイ』.

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韓国労働研究院(2000b)『人力需給実態ニカンスル調査』.

 

中小企業の発展と中国の雇用政策

中国人民大学経済学院教授 高徳歩

 

一、雇用に対する中小企業の貢献

20年来、中国の雇用構造に重大な変化が生じ、民営の中小企業が主要な雇用主体に成長した。中国労働及び社会保障部の労働科学研究所の報告によると、現在登録された中小企業の数が3570万戸となっており、全登録企業数の99%を占める。中小企業の発展がいまや中国の労働市場における主要な雇用主体になり、都市部雇用機会の約75%を提供している。中小企業の発展と雇用におけるその貢献の拡大に対応して、中国の国有経済の比重が大幅に縮小し、雇用重心が国有経済から私営経済に移り、非正規雇用が拡大し、零細企業や個人企業も雇用の重要な提供者になった。

二、中小企業の発展を制限する六大要因

中国の中小企業の発展を制限する要素が存在する。すなわち、1、観念と認識の遅れである。一般的に、大企業こそが先進的生産力の代表であり、中小企業は単に国民経済において補助的な役割を果たしているに過ぎないと思われている。2、政府の管理方式と管理体制が現実の要請に応えていない。3、中小企業や私営経済に対して差別的な政策が依然存在し、部門参入する際に多くの制限が存在する。4、企業の信用状況が未整備で、融資環境の改善が急務である。「資金不足、融資困難」が中小企業及び民営企業の発展を制約する最大の障害である。5、中小企業や私営経済向けのサービス体系が未整備で、中小企業及び私営経済に対する社会的サービス体系の整備が遅れている。6、中小企業及び私営経済自身の素質もまだ向上する余地が大いにある。

三、各級政府の中小企業発展奨励政策

各級政府が中小企業の発展に対して積極的な奨励政策を打ち出している。2000年以降、中国は5年間をかけて一連の中国的特色のあった中小企業発展政策体系を築き、中小企業の発展に長期的で系統的な政策及びそれを支える健全な融資、信用、仲介制度を欠く状況を根本的に改めようと計画している。このため、国家経済貿易委員会が続々といくつかの中小企業の発展を促進する政策措置を発表した。これらの政策の主なの内容は、以下のとおりである。1、中小企業の発展と新技術の開発を奨励する。援助の重点は、科技型、雇用型、資源総合利用型、農副産物加工型、輸出による外貨獲得型、コミュニティサービス型などの中小企業である。2、財税制政策面での援助を拡大し、各級政府に対し、一定の資金を投入し、中小企業の発展をサポートするよう求めている。中国国内に投資する各種の中小企業が、国家の産業政策に沿った技術改造の項目であれば、規定にしたがって投資額相当の企業所得税が減免される。国有企業をレイオフされた元従業員の創設した中小企業は国家の規定にしたがって税金の減免を受けられる優遇政策を享受することができる。3、積極的に融資チャンネルを広げ、中小企業への貸し付け利率の浮動幅を広げる。4、信用担保制度の設立を速める。5、社会的サービス体系を整備する。6、公平な競争を実現するための外部環境を整備する。

四、中小企業と雇用政策のさらなる調整

中国政府は積極的な雇用政策の実施を決定している。雇用容量の大きい労働集約型産業及び第三次産業の発展を重視し、多くの労働力を雇用できる中小企業や個人私営経済の発展を重視している。また、柔軟で多様的な雇用形式にも注目し、レイオフ労働者による自主就業、自主創業を奨励している。中小企業の発展は中国雇用戦略の重要な部分を構成するものとなった。

中国の具体的な国情により、中小企業発展のために現在計画されている政策は以下のようなものである。

1、中小企業の構造調整にさらに力を入れる。労働集約型と技術集約型が並存する中小企業援助政策を実施し、技術価値の高い労働集約型産業及びハイテク産業の中の労働集約型生産分野における中小企業の優先的発展を促進する戦略を制定する。

2、まず先に国内資本企業の内国民待遇を統一し、「憲法」の要求にしたがい、すでに市場経済とWTO協定の要求に適合しない関連の法律法規及び政策文書を改訂し、国内資本企業に対する非合理的な制限を撤廃する。

3、国際的に通用する中小企業援助政策、たとえば、産業指導体制や、情報サービス体制、予算補助体制、税収減免制度、技術サポート制度、担保協力制度、信用公開制度を実施する。

4、中小企業の発展を社会的に促す制度の設立を速める。それらには、政策的援助システム、資金融通制度、信用保証制度、イノベーション促進制度、情報ネットワークシステム、講習指導制度、仲介サービスシステム、市場開拓システム、協力促進体制などが含まれる。

 

中小企業の発展と雇用政策の選択

中国人民大学経済学院教授 高徳歩

 

一、中小企業の発展は就業した貢献

1、  中国就業構造の全体的変化

20年来、中国の就業構造に重大な変化が生じ、民営の中小企業が主要な就業の担い手となった。1999年を基準にみると、2001年は、国家統計局が統計対象とする46万余りの独立採算工業企業の中で、中型企業が9186社、小型企業が458329社あり、それぞれ1.96%と97.81%占める。そのうち、中小工業企業の雇用者数、生産総額、販売収入、輸出額、実現した利潤と税金額が、それぞれ工業企業全体の70%、60%、57%、60%と40%を占める。中国の労働と社会保障部の労働科学研究所の報告によれば、現在登録されている中小企業の数が3570万社となっており、全登録企業数の99%を占める。中小企業はいまや中国の労働市場の主要な需要者となっており、都市部の雇用機会の約75%を提供している。2003年、江蘇省の企業調査グループが省内各業種の338社の中小企業に対して、雇用潜在力調査を行った。ここ3年間のこれら企業内部の構成員変化情況をみると、中小企業が雇用した労働者数が年々増大する傾向を呈している。2001年の従業員数が全部で57776人となっており、1社当たり平均171人となっており、2000年に比べて7.0%増えたが、2002年の従業員総数が61263人になり、1社当たり平均が前年度に比べて10名増えて、6.0%の増加となった。この先の2年間もこれら338社は依然として一定の雇用吸収能力があり、2003年から2004年にかけて、雇用を増やす予定の企業が168社あり、予定雇用者数が5453人になっており、平均して1社当たり32.5人を新たに雇用する予定である。

2、非公営中小企業と雇用拡大

中国の国有経済の割合が大幅に縮小しており、それに関連して就業の重心も国有経済から私営経済に移っている。現在都市部の就業者の中で、公有制経済(国有経済と集団経済)の占める割合が1978年の99.8%から1998年の53.3%に下がった。そのうち、国有経済部門が1978年の78.3%から1998年の43.8%に下がり、集団経済部門が1978年の21.5%から1998年の9.5%に下がった。それに対して、個人経済と私営経済の占める割合は1978年の0.2%から1998年の15.6%に上昇し、そのうち個人経済の割合が0.15%から1998年の10.9%に上昇し、私営経済が無から有になって、1998年には4.7%に達した。北京市を例にあげると、非公有制経済の全体的実力が日増しに増大し、2001年の雇用者数が北京市の全就業者数の53%に達した。

3、小型企業と非正規雇用。

中国非正規雇用は主に非正規部門と正規部門に見られる、伝統的典型的でない雇用形式を指す。それには、非正規部門におけるさまざまな就業形式、および正規部門における短期的臨時的雇用、パート雇用、派遣労働、下請け生産あるいはサービス部門の外部労働者等を含む。中国の雇用制度と雇用観念の変化にともない、非正規雇用も拡大し、都市部の新規雇用機会の主要な部分となった。1995から1999年の間、中国の新規就業者数が1921万人増え、10.1%増えたが、同時期の非正規部門新規就業者数が1422万人に達し、69.5%の増加であった。非正規部門の新規雇用者数が全新規雇用者数の74.0%を占めた。中国の都市部の正規部門就業比率が途上国の平均水準よりはるかに高いが、都市部の非正規就業比率が途上国の平均水準より50%〜60%低い。したがって中国の非正規就業の潜在力も大きいといえる。

4、零細企業と個人企業

現在、中国の登録中小企業数がおよそ3570万社あるが、そのうち、7人以下の零細企業(主に都市と農村の個人経営者)が2570万社で、およそ中小企業全体の72%を占め。国内総生産も中小企業全体の12%を占めており、従業員数が5070万人に達し、中小企業全体の7.2%を占め、1社当たり平均2人の従業員を雇用している。零細企業は主にコミュニティサービスの分野に属している。職種としては、最も多いのがサービス、商店および店頭販売で、47.2%を占める。その次に多いのが初級職業で、31.1%を占める。それには、街頭での呼び売り販売員、靴磨きやその他の街頭サービス、家政サービス関連、ビルメンテナンス、受付、ポーター、守衛、ごみ収集関連要員などが含まれる。そのほかには、職人関係もわりと多く、9%を占める。これらからわかるように、全体の78.3%占めるサービス、商店、店頭販売および初級職業のうち、大部分がコミュニティサービス業である。個人企業については、中国がすでに個人企業法を公布したけれども、個人企業が現在まだ発達していない。未発達の理由としては、主に政策の問題と、人々の個人企業に対する認識の問題があげられる。現在ある個人企業の多くは、主に文化、コンサルタントなどの分野に集中しており、就業者がそれほど多くない。ただ、人々の認識の変化と政策の改善にともない、個人企業の発展の見通しもかなり明るいといえる。

二、中小企業の発展を制約する六大要素

国家発展と改革委員会中小企業局の指摘によれば、中小企業と私営経済の健全な発展を促進することは、新規就業人口の吸収と、国民経済のが安定的成長の保証、さらに社会主義初級段階における基本的経済制度の整備にとって、非常に重要的で現実的な意義を持つが、現在まだ以下のいくつかの要素が中小企業と民営の経済発展を制約しているという。

1、観念と認識の遅れ。一般に、大企業こそが先進的生産力の代表であり、中小企業は単に国民経済において補助的な役割を果たしているに過ぎないと思われている。長い間資本主義か社会主義かを問う伝統的観念と、計画経済体制の影響がまだ根強くて残っており、私営経済を依然として社会主義市場経済の補完とみなす傾向が強い。政府にしても、中小企業と民営経済発展の戦略的意義に対する認識が充分ではない。

2、政府の管理方式と管理体制が現実の要請に応えていない。現在、政府の社会経済に対する管理はまだ国有経済中心となっており、すべての所有制の企業には及んでいない。中小企業や民営経済の発展にたいする支持やサポートが充分ではない。

3、中小企業や私営経済に対して差別的な政策が依然存在している。計画経済体制の影響で、現行の中小企業および私営経済政策は一貫性を書く。国家の私有財産権に対する法律の保護が充分ではなく、部門参入する際にも多くの制限が存在する。また、非公有制企業が土地の収用、人材の導入、情報の取得、戸籍管理などにおいて、依然として不公平な扱いを受けている。

4、企業の信用状況が未整備で、融資環境の改善が待たれる。「資金不足、融資困難」が中小企業及び民営企業の発展を制約する最大の障害である。株券、会社債券などの直接金融方式の敷居が高すぎて、中小企業が資本市場を利用して資金調達しにくい。担保の機構も種類も少ない。

5、中小企業や私営経済向けのサービス体系が未整備である。中小企業および私営経済に対する社会的サービス体系の整備が遅れており、サービス機能も完全ではなく、中小企業の発展を制約する最大の要因となっている。中小企業および私営経済向けの教育訓練、情報、コンサルタント、技術サービス、融資、税務代行、会計代行などの社会化サービス体系がまだ形成されていない。中小企業および私営経済は技術サポートを得ることの困難さと、政策情報の不足を実感している。

6、中小企業および私営経済自身の素質もまだ向上する余地が大いにある。非公有制企業の中で規模と実力をかなり備えた企業が現れたが、圧倒的多数の民営企業の素質はまだ高くない。技術設備が立ち後れ、大部分が家族的管理を行っており、従業員の教育水準も低く、技術者がさらに少ない。生態環境の保護、安全生産、従業員の合法的権利と利益の保護および法にしたがって納税するなどの面において問題が際立つ。

三、各級政府の中小企業発展奨励政策

各級政府が中小企業の発展に対して積極的な奨励政策を打ち出している。2000年以降、中国は5年間をかけて一連の中国的特色のあった中小企業発展政策体系を築き、中小企業の発展に長期的で系統的な政策およびそれを支える健全な融資、信用、仲介制度を欠く状況を根本的に改めようと計画している。このため、国家経済貿易委員会が続々といくつかの中小企業の発展を促進する政策措置を発表した。2000年7月、国務院が国家経済貿易委員会の中小企業の発展への奨励と促進に関する若干の政策の意見を配布し、国家経済貿易委員会を中心に、科学技術部、財政部、中国人民銀行、税務総局などの部門も参加した全国中小企業発展指導グループが設置された。同年、国家経済貿易委員会の中小企業局が「中小企業の社会的サービス体系の育成に関する若干問題の意見」を発表した。2001年2月、国家経済貿易委員会中小企業局がさらに「中小企業サービス体系構築モデルケース推進活動案」を発表し、上海、シンセン、青島、哈爾浜、成都、蘭州、鎮江、撫順、温州、滁州などの10市を中小企業サービス体系構築のモデル都市に指定した。2001年4月、国家経済貿易委員会中小企業局は「中小企業の信用管理に関する若干の意見」を発表し、2002年には「中小企業促進法」が可決された。上記政策の主な内容は以下の通りである。

1、中小企業の発展と技術革新を奨励する。援助の重点は、科技型、雇用型、資源総合利用型、農副産物加工型、輸出による外貨獲得型、コミュニティサービス型などの中小企業である。具体的な政策は、1)中小企業創業の審査手続きを簡素化する。法律や行政法規の定めるところ以外に、関連部門が企業登録前に前提条件を設けてはならない。2)中西部地域の地方政府に対して権限の範囲内において、財政、税収と土地使用等の面で中小企業に対する政策的支持を奨励する。3)全社会の投資家に対して、技術などを生産要素として中小企業の創設するを奨励する。別に定めがある場合を除き、技術を登録資本の35%とすることができる。

2、財税制政策面での援助を拡大し、各級政府に対し、一定の資金を投入し、中小企業の発展をサポートするよう求めている。特に信用保証と創業補助、科学技術成果の産業化、技術改造への利子補填などの面に力を入れるように求めている。中国国内に投資する各種の中小企業が、国家の産業政策に沿った技術改造の項目であれば、規定にしたがって投資額相当の企業所得税が減免される。国有企業をレイオフされた元従業員の創設した中小企業は国家の規定にしたがって税金の減免を受けられる優遇政策を享受することができる。モデル都市の非営利性中小企業の信用担保、再担保機構は、その業務上の所得について、3年を限度に営業税に徴収を免除する。

3、積極的に融資チャンネルを広げ、中小企業への貸付利率の浮動幅を広げる。徐々に中小企業の直接金融チャンネルを拡大し、徐々に中小企業、特にハイテク企業の上場ないし会社債権の発行条件を緩和する。また、社会および民間に対して中小のベンチャー企業の創業を奨励する。

4、信用担保制度の設立を速める。いくつかの条件を備えた省、直轄市、自治区を選び、担保と再担保のテストを行い、中小企業信用担保再担保機構の設立を模索し、中小企業信用担保機関のために再担保サービスを提供する。さらに、企業の相互担保と商業担保を推進する。

5、社会的サービス体系を整備する。1)各級政府の中小企業に対する管理機能を転換し、中小企業が必要とする資金と政策的サポートを与えて、中小企業のためのサービス体系の設立を推進するよう求めている。2)中小企業業種別協会などの仲介機構の発展を推進し、有効な職業規範と監督メカニズムを確立し、サービスの社会化、専門化、規範化を実現する。3)科学研究機構、大学および各種の商業会議所などの機構に対して、を励まし支持して、技術移転、特許と部品の入札、人材育成訓練等を通じて、中小企業のために新技術の開発と科学技術の産業化関連のサービスを提供することを奨励する。4)全社会に開かれた中小企業情報サービス体系を設立し、徐々に整備して、中小企業のために政策、技術、市場、人材情報などの獲得に便宜を図る。5)既存の大学、訓練センターなどの力を利用して、中小企業向けの投資コンサルタントや職業技能訓練を提供する。

6、公平な競争を実現するための外部環境を整備する。1)各級政府に対して、法律に基いて真剣に各種の中小企業の発展に不利なの行政規定や政策を整理し、中小企業の発展に有利な政策を制定するよう求める。2)確実に中小企業の負担を軽減し、徐々に県(市)国有、集団所有の中小企業の上納する管理費や水道ガス電力負担費を撤廃し、中小企業の貸し付け担保の登録料金を引き下げる。3)大企業に対して、一部の製品や部品の製造を中小企業に下請けに出すことを奨励し、中小企業と大企業が公平に競争する市場環境を整備する。4)中小企業の輸出入を奨励し、許認可制から届け出制への転換を速め、輸出関連の優遇政策を享受できるようにする。5)単独投資や株式参加を問わず、外資の中小企業創業を奨励する。

四、中小企業と雇用政策のさらなる調整

国務院発展研究センターの最新の調査研究によると、中国の労働力供給がちょうどここ数年ピーク期に達し、毎年の新規労働力が1千万あまりあり、2003年の新規労働力が昨年より200万多い。それと同時に、国有企業改革と構造調整のため、レイオフや失業者大量に増加し、雇用圧力がいっそう厳しさを増す。2003年8月、全国再就職事業座談会が北京で開かれ、温家宝総理以下のように指摘した。雇用と再就職をきちんと進めていくことは緊急で長期的な任務であることを充分に認識して、全面的に雇用と再就職事業の指導方針と政策措置を実施しなければならない。政府は積極的な雇用政策を実施し、雇用戦略を制定し、就業サービス体系を改善し、社会全体の雇用認識の転換を導き、就業と創業環境をできるだけ改善する必要がある。雇用キャパシティの大きい労働集約型産業や第三次産業の発展を重視し、多くの労働力を吸収している中小企業、個人私営などの非公有制経済の発展を重視し、柔軟で多様な雇用形式を採用することを重視し、レイオフ労働者や失業者の自主就業、自主創業を奨励しなければならない。中小企業の発展は中国雇用戦略を構成する重要な一部である。

中国の具体的な国情により、中小企業発展のために現在計画されている政策は以下のようなものである。

1、中小企業の構造調整にさらに力を入れる。労働集約型と技術集約型が並存する中小企業援助政策を実施し、技術価値の高い労働集約型産業およびハイテク産業の中の労働集約型生産分野における中小企業の優先的発展を促進する戦略を制定する。中小企業の多様な発展方向、たとえば、大企業ないし多国籍企業の戦略的パートナーになったり、合同して中小企業グループを組織して、競争力を強めたり、“小にして特色ある”特徴を生かして特定な市場を占領したりすることを奨励し、それと同時に高成長型中小企業への援助を強めていく。

2、まず先に国内資本企業の内国民待遇を統一し、「憲法」の要求にしたがい、すでに市場経済とWTO協定の要求に適合しない関連の法律法規及び政策文書を改訂し、国内資本企業に対する非合理的な制限を撤廃する。歴史的経緯の問題を解決した上で、できるだけ早く非国有企業と国有企業、中小企業と大企業に同じ内国民待遇を与える。

3、国際的に通用する中小企業援助政策を実施する。たとえば、「中小企業の発展の奨励と援助についての若干の政策意見」をもとに、具体的で実施可能な政策措置を発表すると同時に、できるだけ早く「中小企業促進法」あるいは「中小企業基本法」を制定し、公布する。政府の中小企業援助措置は、産業指導体制や、情報サービス体制、予算補助体制、税収減免制度、技術サポート制度、担保協力制度、信用公開制度等の内容を含むべきであろう。

4、中小企業の発展を社会的に促す制度の設立を速める。それには、政策的援助システム、資金融通制度、信用保証制度、イノベーション促進制度、情報ネットワークシステム、講習指導制度、仲介サービスシステム、市場開拓システム、協力促進体制などが含まれるべきであろう。

 

参考文献

1、「中小企業促進法」

2、「中国統計年鑑」中国統計出版社、2002

3、莫栄「小企業の発展と雇用促進研究」、「経済研究参考」、2002年第34期

4、 邵芬・期海明「町役場の労働力就業における役割の調査研究」、「学術探索」、1999年5月

5、胡鞍鋼・楊韻新「雇用モデルの変化:正規化から非正規化へ−我が国都市部非正規雇用状況分析」、「管理世界」、200102

6、孫蚌珠「我が国の雇用の所有制構造変動とその分析」、「社会科学輯刊」、2001年2月

7、周天勇「中小企業の発展:将来の社会安定にとって最も重要な戦略」、「中国工業経済」、2000年7月

 

東アジア国際シンポジウム                   平成1510月(山口大学)

 

構造改革とワーク・シェアリング

−整理解雇法制・労働時間短縮・派遣労働を中心に− 

               

T はじめに

・「1987年の民主化宣言」を境に労働問題が顕在化

・最近では、「労働組合の経営参加許容」や「週5日労働制の導入」がホット・イシュー

 

U  整理解雇法制

解雇規制の概観

(1) 民法上の原則

 ・期間の定めのある雇用契約−3年を超過した後、何時にても契約解止可能

・期間の定めのない雇用契約−当事者は何時でも解止可、通告から1ヵ月後効力

(2)  実定法上の解雇制限

@ 特別な解雇制限

  ・不当労働行為による解雇禁止(2年以下の懲役、2千万ウォン以下の罰金)

・国籍・信仰・社会的身分による差別的取扱禁止(5百万ウォン以下の罰金)

・業務災害・産前産後の解雇制限(5年以下の懲役、3千万ウォン以下の罰金)

・解雇予告期間(2年以下の懲役、1千万ウォン以下の罰金)

・監督機関への申告を理由とする報復的解雇禁止(2年以下の懲役、1千万ウォン以下の

罰金)

・女子労働者に対する差別的解雇禁止(2年以下の懲役、5百万ウォン以下の罰金)

*正当な理由があると誤判した使用者まで処罰する恐れがあり、制裁の内容についても、各規定ごとにその評価が異なるべきか、その根拠または理由は何か、など不明確な点が多い

A 一般的解雇制限

  ・勤基法に、特別解雇制限規定と並んで、一般的解雇制限規定を規定

・「人的解雇の制限規定」と「経済的解雇の制限規定」

() 人的解雇

・「使用者は、勤労者に対して、正当な理由なく解雇、休職、停職、転職、減俸その他懲罰をしてはならない」と規定し(301項)、民法上の解雇自由の原則を大幅に修正

・労働委員会による不当解雇救済

・「正当な理由」については具体的な言及なし−「権利濫用の判断枠組み」判断

() 経済的解雇

・導入背景−1996年・1997年・1998年の3年間に亘る労働法改正

・従来の「整理解雇の4要件」を明文化

・内容−「使用者は、経営上の理由によって勤労者を解雇しようとする場合には、緊迫した経営上の必要がなければならない。この場合、経営の悪化を防ぐための事業の譲渡・引受・合併は、経営上の必要があるものとみなす」

          要件−解雇回避努力義務?合理的・公正な解雇基準?性を理由として差別禁止?労働者の過半数・労働組合との協議義務?60日前に解雇予告通知?一定規模以上の人員を解雇時に労働大臣に申告?解雇者の優先的な採用?政府の必要な措置

 

V  解雇の正当性に関する判断

1 人的解雇

 (1)「正当な理由」の意味

@ 学説

・ドイツの解雇制限法上の「社会的正当性」を基準

・懲戒解雇と整理解雇に区別し、正当な理由を判断

・その他

*上記の見解は、言い方が異なるだけであって、具体的な判断において差はない

A 判例・行政解釈(普通解雇)

  ・日本の権利濫用(解雇権濫用)法理の枠組内で判断

・同法理を部分的に受容しながら正当性を判断

・信義則(禁反言の原則)に基づく判断

・具体的な判断基準を提示せず、個別的・総合的な判断

*これらの見解は優劣の差はない。ちなみに、行政解釈はAの見解に近い

B 判例・行政解釈(普通解雇)

・基本的に日本の判例法上の解雇権濫用法理に接近

*解雇に正当理由を要求する規定があるのに、解雇の正当性に関する具体的な判断では、解雇権濫用法理

 の枠組の中で判断するのは、同規定の立法趣旨や実益に疑問

(2) 解雇の範囲

 ・勤基法301項の「解雇」の意味

・同規定の文脈−「正当な理由なく解雇、休職、停職、転職、減俸その他懲罰をしてはな

らない」−懲戒解雇のみ予定しているように解される余地

・判例・行政解釈は、従来、整理解雇を含む広い意味として把握、学者間にも特に議論が

ない。もっとも、今回の労働法改正において、経済的解雇の正当事由が新たに設けられ

たので、同条の解雇とは、経済的解雇を含む解雇一般と解するのが妥当

(3) 違法解雇の効力

・正当な理由を欠く違法解雇の効力については白紙状態

・学説・判例は、一致して違法解雇は当然に無効と主張

2 経済的解雇

(1)「緊迫した経営上の必要」の意味

・従来−「倒産必至」あるいは「維持・存続の危機」要求

・最近−そこまでは要求せず、人員削減に客観的合理性があれば足りると判断

(2) 違法解雇の効力

・経済的解雇においても、人的解雇の場合と同様の法的問題

 

W 労働時間の短縮

・韓国労働部が200210月に提出した「週5日労働制」の導入を骨子とする「勤労基準

法改正案」が2003829日国会において採択

・労働時間短縮に伴い低下する賃金補填をどうするかをめぐって労使が激しく対立

1 施行時期

 ・200471日から施行(公共・金融・保険業や労働者が1,000人以上の事業場)

・従業員の規模ごとにその施行時期を1年間ずつずらしているのが特徴

2 賃金水準

・「既存の賃金水準と時間当たりの賃金が低下しないようにする」と包括的な宣言規定

3 休暇制度

 ・改正前の「月休」(毎月1日)と「年休」を、今回の改正で一つに統合

・有給の「生理休暇」は、改正後は無給へ

・未消化休暇−金銭的補償廃止

4 延長労働の拡大と弾力的労働時間制

 ・従来の12時間(1日)を施行から3年間は週16時間の範囲内で延長

・従来より延長された4時間分に対する割増の比率は通常賃金の25%(従来は50%)

・従来の1ヶ月以内の弾力的労働時間制を3ヶ月以内

 

X 派遣労働

 ・1998年に「派遣勤労者保護等に関する法律」制定

・内容−改正前の日本の派遣法に類似

1 派遣対象の制限

・派遣対象業務−製造業の生産工程業務を除く専門知識・技術または経験などが必要とさ

れる業務として大統領令で定める業務(コンピュータ専門家、事業専門家など26の業務)

 ・前記の26の対象業務ではなくても、出産・疾病・負傷などのよって欠員が生じた場合、

または一時的・断続的に労働力を確保する必要がある場合は、労働者派遣を許容

 ・争議行為によって中断された業務を遂行させるために労働者を派遣を罰則付きで禁止

・整理解雇から一定期間が経過するまで、当該業務対する労働者派遣を罰則付きで禁止

*派遣労働者による代替労働禁止は、争議行為に対する使用者の対抗策や労使対等の原則に照らしてみて、

これを削除するのが望ましい

2 派遣期間の制限

 ・派遣期間は1年が原則

・ただし、派遣元・派遣先・派遣労働者間に合意があれば、1回に限って1年の範囲内で期間延長可能

・臨時的に派遣を行う場合、派遣期間は3ヶ月が限度

・派遣先が2年を超えて引き続き派遣労働者を使用する場合には、2年が満了する日の翌

日から派遣労働者を雇用したものとみなす

 

Y 終わりに

・「週5日労働制」定着まで労使関係の不安定予想

・派遣労働の対象範囲があまりにも狭すぎるため、法律と現実との間には大きなギャップ

・争議中の代替労働の許容問題

 ・不当解雇に対する罰則規定の廃止問題

 

          表1 改正後の労働条件の変化

                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                      

項  目

現  行

改 正 後

 

法定労働時間

44時間

40時間

 

年休・月次休暇手当

支給義務あり

会社が休暇の消化を積極的に勧奨する限り、未消化分に対する金銭補償義務なし

 

生理休暇

1日有給

無給

 

施行時期

1989年から段階的に〜20047月から段階的に

・公共・金融・保険業および労働者が1000人以上:2004.7.1〜・労働者が300人〜999人:2005.7.1〜・労働者が100人〜299人:2006.7.1〜・労働者が50人〜99人:2007.7.1〜・労働者が20人〜49人:2008.7.1〜・労働者が20人未満:2011年以内に施行

 

年休・月休

・月次休暇:月1日(年間12日)・1年間皆勤した者に年  間10日、2年以上の勤続者には1年毎に1日加算

年間15日〜25日に統合(1年間8割以上勤務者に15日、3年以上の勤続者に対しては最初の1年後から2年ごとに1日加算し、最大25日まで可能)

 

弾力的労働時間制

1ヶ月単位、週56時間、112時間が限度

3ヶ月単位、週52時間、116時間が限度

 

賃金補填

なし

法施行により、既存の賃金水準や時間当たり通常賃金が低下しないようにする

 

法定公休日

17

15

 

 

東アジア国際シンポジウム                   平成1510月(山口大学)

 

構造改革とワーク・シェアリング

−整理解雇法制・労働時間短縮・派遣労働を中心に−

 

                韓国外国語大学 法科大学

 

 

T はじめに

 

 韓国労働史において、「1987年の民主化宣言」以降において、最近のように労使問題や労働問題が社会的なホット・イシューになったことはない。1987年の民主化宣言当時には、その間厳しく抑圧されてきた労働組合の組織や活動が自由化されると、労働組合は長年間に亘り溜まっていた鬱憤を追い払うかのように争議行為を短期間に集中的に行った。これに対して、最近の労働問題をみると、「労働組合の経営参加許容」や「週5日労働制の導入」など、どちらかというと「先進国型」の労働問題が中心となっている。特に、現在の「盧武鉉政権」は、「プロ・レイバー的性向」が強いために、こうした労働者側の主張は実現可能性の高い現実的なものとなっている。しかし、経営者側は、このような労働者側の要求が、経営側にとってコスト面において重い負担となり、また、韓国企業に対する外国投資資本が萎縮される恐れがあるとの理由から反発している。このような中で、今年に入って金属労組が事実上「週5日労働制」の導入に合意し、また、現代自動車も「労働組合の経営参加」を許容するようになり、他の組合への波及効果も大きい。その結果、長期罷業に耐えられずに海外に生産拠点を移す国内企業や職場閉鎖(ロックアウト)を断行する外資系企業も増えている[26]

 本稿では、こうした「労働組合の経営参加許容」や「労働時間の短縮」に関連して、最近、韓国企業において最も争点となっている「整理解雇法制」や「週5日労働制」また「派遣労働」について紹介し、その問題点について検討したい。

 

 

 

U  整理解雇法制

 

解雇規制の概観

 

(1) 民法上の原則

 

  韓国の民法は、雇用契約について次のように定めている。まず、期間の定めのある雇用契約について、民法659条は、雇用の約定期間が3年を超過しまたは当事者の一方若しくは第3者の終身間継続すべきときは、当事者の一方は3年を経過したる後何時にても契約を解止することができると定めている[27]。そして、民法は、雇用の約定期間中でも、止むを得ない事由のあるときは、各当事者は契約の解止を認めており(民法661条)、雇用の期間満了後、労務者が継続して労務を提供した場合、使用者が相当期間内に異議を述べざるときは前雇用と同一の条件をもって更に雇用をなしたるものとみなす黙示の更新を認めている(民法662条)。

  次に、期間の定めのない雇用契約については、雇用契約の当事者は何時でも解止できるとし、解止の効力は、解止通告から1ヵ月が経過することによって発生するとする(民法660条)。したがって、期間の定めのない雇用関係において、使用者は正当な理由がなくても、1ヵ月の解止予告期間をもって何時でも労務者との雇用関係を解消できるのが、民法上の原則である。このように、民法上の雇用契約の解消は、解約の予告期間を除くと、その内容は日本の民法上の内容(民法626条〜629条および631条)とほぼ同様である。

 

(2)  実定法上の解雇制限

 

  以上で述べた民法上の解約自由の原則は、種々の規制に服する。現行法において、解雇を制限する規定としては、次のようなものがある[28]

 

 

@ 特別な解雇制限

 

  特定の理由による解雇を制限する規定は、勤労基準法、労働組合および労働関係調整法(旧労働組合法)、男女雇用平等法(以下、「勤基法」、「労調法」、「平等法」とそれぞれ称する)に散見される[29]。その主たる内容は、@不当労働行為による解雇を禁じるもの(労調法811号および5号)、A国籍・信仰・社会的身分による差別的取扱を禁じるもの(勤基法5条)、B業務災害・産前産後における解雇を制限するもの(勤基法302項)、C解雇予告期間を定めるもの(勤基法321項)、D監督機関への申告を理由とする報復的解雇を禁じるもの(勤基法1072項)、E女子労働者に対する差別的解雇を禁じるもの(平等法8条)、Fその他、就業規則や労働協約における解雇の制限などがある[30]

  以上の制限規定の内容は、日本に比べて多少表現の違いはみられるものの、その中身はほとんど同じである。しかし、韓国では、使用者がこれらの制限規定に違反した場合、厳しい罰則に処せられるのが特徴的である。例えば、使用者が、上記のうち、@に違反すると2年以下の懲役または2千万ウォン以下の罰金(労調法90条)、Aに違反すると5百万ウ ォン以下の罰金(勤基法115条)、Bに違反すると5年以下の懲役または3千万ウォン以下 の罰金(勤基法110条)、CDに違反すると2年以下の懲役または1千万ウォン以下の罰金(勤基法113条)、Eに違反すると2年以下の懲役または5百万ウォン以下の罰金(平等法23条)に、それぞれ処せられる。

  このように、厳しい罰則規定を設けているのは、解雇から労働者をより手厚く保護せんとする意図によるものと解される。しかし、これらの規定の執行においては、個人的には批判的な見解を持っている[31]。現行法によると、正当な理由があると誤判した使用者まで処罰してしまう恐れがあり、また、制裁の内容についても、果たして各規定ごとにその評価が異なるべきか、そうであるならばその根拠または理由は何か、などの点においても不明確な点が多い[32]

 

A 一般的解雇制限

 

  解雇制限におけるもう一つの特徴は、勤基法のなかに、上述の特別解雇制限規定と並んで、解雇に正当理由を要求する一般的解雇制限規定が設けられている点である。この一般的解雇制限規定は、さらに解雇の理由が労働者個人の能力や行為によるものか、あるいは経営上の理由によるものかによって、人的解雇の制限規定と経済的解雇の制限規定に区分されるが、その内容を概観すると以下のとおりである。

 

() 人的解雇

 

勤基法は、「使用者は、勤労者に対して、正当な理由なく解雇、休職、停職、転職、減俸その他懲罰をしてはならない」と規定し(301項)、民法上の解雇自由の原則を大幅に修正・制限している。したがって、使用者が労働者を懲戒ないし普通解雇するには、原則的に正当な理由が必要であり、これに違反した場合は、5年以下の懲役または3千万ウォン以下の罰金に処せられる(勤基法110条)。また、この規定に反して不当に解雇された と思う労働者は、労働委員会にその救済を求めることができる(勤基法33条、労調法82条〜86条)。この意味で、韓国においては、かつて日本において活発に行なわれた解雇の自由をめぐる議論(例えば、解雇自由説、権利濫用説、正当事由説など)が生じる余地はないといえる。

しかし、勤基法30条1項は、正当な理由のない解雇に対し処罰規定をもってこれを禁じながらも、「正当な理由」とは何かについては、具体的に言及していない。そのために、同規定の解釈や適用において様々な問題が生じ得るが、解釈論では「権利濫用の判断枠組み」で正当性を判断している。この点に関する詳論は、解雇の正当性のところで後述する。

 

() 経済的解雇

 

勤基法には、こうした人的解雇保護規定とともに、1996年・1997年・1998年の3年間に亘る労働法改正を通じて経済的解雇保護規定が新たに設けられた[33]。この規定は、従来の判例法理であるいわゆる「整理解雇の4要件」を明文化することによって[34]、解雇の正当性判断をめぐる解釈論上の争いを立法的に解決しようとする試みから誕生したものである[35]。同法は、「使用者は、経営上の理由によって勤労者を解雇しようとする場合には、緊迫した経営上の必要がなければならない。この場合、経営の悪化を防ぐための事業の譲渡・引受・合併は、経営上の必要があるものとみなす」とし(311項)、@解雇を回避するために努力するとともに、合理的でかつ公正な解雇基準によって解雇対象者を選定することや性を理由として差別をしないこと(同条2項)、A使用者は、解雇回避方法や解雇基準などについて、当該事業場に労働者の過半数で組織する労働組合がある場合においてはその労働組合、労働者の過半数で組織する労働組合がない場合においては過半数を代表する者に対し、解雇を行う60日前にその旨を通知するとともに誠実に協議すること(同条3項)、B大統領令が定める一定規模以上の人員を解雇しようとするときは、労働大臣に申告すること(同条4項)、C使用者は、労働者を解雇してから2年以内に解雇者を採用しようとするときは、被解雇者が希望する限り、当該解雇者を優先的に採用すること(31条の21号)、D政府は、前記の31条の規定により解雇された労働者の生活安定、再就職、職業訓練など、必要な措置を優先的にとること(同条2号)、といった解雇手続が定められている。また、経済的解雇の場合も人的解雇の場合と同様、その救済を労働委員会に求めることができる。しかし、今回の改正では、経営の悪化を防ぐための事業の譲渡・引受・合併の際にも、労働者を解雇することができるように規定しているが(311項)、同規定は、その妥当性はともかく、具体的な法適用や解釈をめぐって、今後、少なからぬ議論を呼ぶだろうと予想される。

 

V  解雇の正当性に関する判断

 

1 人的解雇

 

  勤基法33条1項は、解雇の正当性に関する判断基準を明定しているイギリスの雇用権法(Employment Rights Act 1996)およびドイツの解雇制限法(Kündigungsschutzgesetz 1951)とは異なり、勤基法上の解雇を制限するいわゆる 一般条項(Generalklausel)に過ぎない。そこで、この規定の解釈をめぐっては、次のような問題が生じる。すなわち、@「正当な理由」の判断における要件ないし基準とは何か、Aここにいう「解雇」の範囲はどこまでか、B正当な理由を欠く「不当解雇」の効力はどうなるのか、などがそれである。

 

(1)「正当な理由」の意味

 

@ 学説

 

  勤基法331項は、「正当な理由」について何も言及していない。なお、この規定の解釈の手掛かりとなる他の規定も特に存在しない。したがって、正当な理由の判断においては定説が存在せず、論者によって解釈が区々である。その代表的な見解としては、@ドイツの解雇制限法における「社会的正当性」の要件にこれを当てはめて、正当な理由を判断しようとするもの、A解雇を、懲戒解雇と整理解雇に区別したうえで、さらに正当な理由をそれぞれ判断しようとするもの、B解雇をAのように明確に区別せず、解雇に至る原因が、労働者の責めに帰すべき事由によるものかまたは会社の事情によるものかを区別したうえで、正当な理由を各々検討しようとするもの、などの三つの類型がある。

  しかし、これらの見解は、不当解雇に関する判断枠組や言い方が異なるだけであって、具体的な判断において、どこがどう違うかは必ずしも明らかではない。

 

A 判例・行政解釈

 

  この点については、判例・行政解釈[36]の態度も統一されていない。まず、普通解雇(懲戒解雇を含む)の正当性判断に関する判例の態度をみると、@日本の権利濫用(解雇権濫用)法理の枠組内で正当性を判断するもの、A同法理を部分的に受容しながら正当性を判断するもの、B信義則(禁反言の原則)に基づいて正当性を判断するもの、C具体的な判断基準を提示せず、個別的あるいは総合的に正当性を判断するもの、などの四つの類型がある。しかし、これらの見解の間には優劣の差はない。ちなみに、行政解釈はこれらのうちAの見解に近い。

  これに対して、整理解雇の正当性判断に対する判例・行政解釈は、基本的に日本の判例法上の解雇権濫用法理に接近している。今回の労働法改正において、経済的解雇保護規定が新設される前には、勤基法331項に基づいて経済的解雇の正当性を判断してきたが、これに関する最近の判例をみると、日本の東洋酸素事件(東京高判昭541029労民3051002頁)の判断枠組(4要件論)に沿って、正当性を判断しようとする傾向が強くみられる。

  このように、韓国には、解雇に正当理由を要求する規定があるにもかかわらず、解雇の正当性に関する具体的な判断においては、解雇権濫用法理の枠組の中で判断されているのが実情である。これは、勤基法301項が一般的解雇制限規定であることから当然のことかも知れない。しかし、そうとはいえ、解雇を制限しようとする同規定の立法趣旨や実益はいったいどこにあるのかが疑問である。

 

(2) 解雇の範囲

 

  勤基法301項の解釈におけるもう一つの問題は、同規定にいう「解雇」とは、懲戒解雇のみを指すものかあるいは整理解雇をも含む広い意味としての解雇を指すものかが必ずしも明確ではない。というのは、同規定の文脈−「正当な理由なく解雇、休職、停職、転職、減俸その他懲罰をしてはならない」−に照らしてみると、確かに懲戒解雇のみを予定しているように解される余地があるからである。しかし、この点について判例・行政解釈は、従来、整理解雇を含む広い意味として把握しており、学者間にも特に議論がない。もっとも、今回の労働法改正において、経済的解雇の正当事由が新たに設けられたので、勤基法301項でいう解雇とは、経済的解雇を含む解雇一般を差すものと解するのが妥当であろう。

 

(3) 違法解雇の効力

 

  最後に、正当な理由を欠く違法解雇の場合、その効力はどうなるかが問題となる。勤基法は、正当な理由のない解雇禁止を厳しい処罰規定をもって強制しながらも、違法解雇の効力については何にも言及していない。なお、韓国には、ドイツのように違法解雇を法的に無効とする法的根拠もなく、また日本のような解雇権濫用による解雇無効の理論が適用される余地もない。

  この点について、学説・判例は、一致して違法解雇は当然に無効となるとするが、しかし、その主張の法的根拠は必ずしも明確ではなく、またこれをめぐる議論もみられない。一つ考えられるのは、勤基法301項を「強行規定」とみて、これに反する解雇は当然に無効となるという理論構成である[37]。しかし、同規定を強行規定とみるにも問題がないわけではない。というのは、同規定には罰則規定(同法110条)が設けられており、この点からすると、同規定を「取締規定」とみるのも可能であるからである。また同規定が、例えば強行規定であるとしても、正当な理由とは何かについては白紙となっている。結局、これに関する具体的な判断は解釈論に委ねるしかない。しかし、その解釈論から解雇無効という結論を導き出すことができるかには、その結果についてはともかく、その理論構成において全く問題がないとはいえない。また、この問題は、後述の違法解雇の救済において一層明らかになる。

 

2 経済的解雇

 

  以上で取り上げた同様の問題は、1996年の勤基法改正の際に新設された経済的解雇保護規定(勤基法31条)においても生じ得る。その理由としては、次の二つが考えられる。その一つは、同規定は、経済的解雇の正当な理由の一つとして、「緊迫した経営上の必要」を要求しながらも(同条1号)、その具体的な判断基準や違法解雇の効果については何にも定めていないことである。もう一つは、同規定は、上記の正当性判断と関連して、企業が「経営の悪化を防ぐための事業の譲渡・引受・合併」を行う際には「緊迫した経営上の必要性」があるとして、「人員削減の必要性」を認めているが、ここでもその具体的な判断基準は設けられていない。これらに関する判断は、人的解雇の場合と同様、解釈論に委ねるしかないが、この点に関する従来の判例の立場を紹介すると、次のとおりである。

 

(1)「緊迫した経営上の必要」の意味

 

  今回の勤基法改正により経済的解雇保護規定が新設される以前には、一般的解雇制限規定である勤基法301項に基づいて経済的解雇の正当性が判断されてきた。また、その判断枠組や具体的な判断基準は、日本の解雇権濫用法理やいわゆる整理解雇の4要件に極めて似ている[38]。そこで、後者の4要件の一つである、人員整理の必要性(「緊迫した経営上の必要性」)について、最新の判例の動向をみると、以下のとおりである。

裁判例のなかには、人員を削減しなければ企業が「倒産必至」あるいはその「維持・存続の危機」という状況にまで至っていなければ、この要件は充足されていない、と説くものもある[39]。しかし、多くの判例ではそこまでは要求せず、人員削減に客観的合理性があれば足りるとする。ここにいう客観的合理性とは何かが問題となるが、この点について最高裁は、整理解雇のリーディングケースともいえる「東部化学事件」[40]で次のように判示した。すなわち、「企業の人員削減措置が、営業成績の悪化という企業の経済的理由のみならず、生産性の向上や競争力の回復・増強に対処するための作業形態の変更、新技術の導入という技術的理由および、その技術革新に伴い生じる産業構造の変化に照らしてみて、客観的に人員削減の必要があれば、緊迫した経営上の必要性がある」と。このような最高裁の立場は、その後の多くの整理解雇事例で踏襲されており、199612月改正の際には立法化の基礎となった。

以上の人員整理の必要性と関連してもう一つ問題となるのは、19982月改正で盛り込まれた「経営の悪化を防ぐための事業の譲渡・引受・合併」の意味を、どのように解釈・適用すべきかである。事業の「譲渡」の場合は、引受・合併の場合とは異なり、労働契約が維持されるかについては意見が分かれているが、最近の判例は[41]、労働契約の一部を承継の対象から除外するとする特約は無効にはならないが、その特約には正当な解雇事由がなければならないとして、「当然承継説」に近い立場をとっている。

しかし、この点については、「緊迫した経営上の必要」という要件が規定されているにもかかわらず、何故、「経営の悪化を防ぐための事業の譲渡・引受・合併」という二重の要件を設けているかが明らかでない。私見としては、「緊迫した経営上の必要性」の判断基準に対する一例として、「事業の譲渡・引受・合併」を掲げているのではないかと思われる。というのは、整理解雇法制が導入された当時には、企業変動の際に「整理解雇」を許容すべきかどうかがの問題がホット・イシューになり、これを立法的に解決した立法的経緯があるからである。

 

(2) 違法解雇の効力

 

  経済的解雇においても、上記の人的解雇の場合と同様、違法解雇の法的効力が問題となる。すなわち、使用者が勤基法31条に反して労働者を解雇した場合、果たして解雇は有効か無効か、この場合、使用者は勤基法改正以前のように刑罰を受けるかどうかが問題となる。まず前者の場合は、@違法な経済的解雇の効力を定める規定が別に存在しないこと、A勤基法は、経済的解雇の諸要件(同法311項、2項、3項)を満たす解雇につき、勤基法301項にいう「正当な理由」があるものと明定していること(同法315号)、B違法な経済的解雇は、従来から、法的に無効と解されてきたこと、といった点に照らしてみると、違法な経済的解雇は法的に無効とみるのが妥当であろう。問題は、後者の場合である。すなわち、使用者が経済的解雇制限規定(勤基法31条)に反して労働者を解雇した場合、一般的解雇保護規定(同法301項)の罰則規定(同法110条)が適用されるかどうかである。この点については、今回の勤基法改正において、経済的解雇制限規定が新たに設けられたことや、その違反行為に対する罰則が特に定められていないことからすると、この罰則規定が経済的解雇にストレートに適用される余地はないともいえる。しかし他方で、経済的解雇の諸要件を満たす解雇につき、一般的解雇制限規定にいう「正当な理由」を認める規定(勤基法31項)があるので、法理論的には、この規定を通じて、経済的解雇にも同罰則規定が適用されることも考えられるので、この問題も立法的に整理する必要があると思われる。

 

W 労働時間の短縮

 

 韓国労働部が2002年10月に提出した「週5日労働制」の導入を骨子とする「勤労基準法改正案」が2003年8月29日国会において採択された。これによって、ここ数年間に亘り労使間の懸案となっていた「労働時間短縮の問題」は一区切りがつくことになった。しかし、労働時間短縮に伴い低下する賃金補填をどうするかをめぐって労使が激しく対立し、この問題がまた新たな争点となると予想される。ここで、今回新しく導入される「週5日労働制」の内容および、改正後の労働条件の変化について詳しく紹介すると、以下のようである(下記の表1を参照)。

 

1 施行時期

 

 今回の勤基法の改正により、法定労働時間が週44時間から40時間に短縮されるようになった。これで、韓国でも本格的な「週5日労働制」時代の幕が開かれた。この制度は2004年7月1日から施行されるようになっているが、産業や企業の規模によっては、来年からこの制度を導入するには無理があることを考慮し、経過措置がとられている。

 まず、公共・金融・保険業や労働者が1,000人以上の事業場は2004年7月1日から改正法が適用されるようになっているが、公企業や銀行の多くがすでに「週5日労働制」を導入しているために、今回の法改正のターゲットは労働者が1,000人以上の事業場となる。今回の改正勤基法の適用に関しては、従業員の規模毎にその施行時期を1年間ずつずらしているのが特徴である。例えば、労働者が300人以上の事業場では、2005年7月1日から施行されるようになっており、労働者100人以上の事業場ではそこからさらに1年遅れた2006年7月1日、労働者50人以上の事業場では2007年7月1日、労働者20人以上の事業場では2008年7月1日からそれぞれスタートするようになっている。しかし、従業員20人未満の零細企業の場合は、常に人手不足で悩んでいる製造業が多いことから、その施行時期を2011年まで大統領令で定めるようにしている[42]。 

 

2 賃金水準

 

 労働時間が短縮されると当然ながら賃金も減少する。しかし、改正勤基法附則では、賃金補填と関連して「既存の賃金水準と時間当たりの賃金が低下しないようにする」と包括的な宣言規定をおいている。同宣言は、いいかえれば現在の賃金は保障されるが、年休や月休手当は少なくなることを意味する。

 しかし、前記の改正勤基法附則にもかかわらず、労使が賃金交渉で年休や月休手当を補填することに合意すると、賃金協約が優先することになる。その結果、賃金交渉の際に賃金補填をめぐって労使紛争が発生する余地を残している。特に、「現代自動車」のように、今回の勤基法が改正される直前に賃金補填を前提にした「週5日労働制」に合意したケースもあるので[43]、この賃金補填問題は労使間において新たな争点となると予想される。

 

3 休暇制度

 

 改正前の休暇制度は、年12日の月休(毎月1日)と勤続年数1年毎に10日に1日が加算される年休の二種類があったが、今回の改正で一つに統合された。また、従来は月1日の有給休暇となっていた「生理休暇」は、改正後は無給となった。その結果、年休の場合は、1年間8割以上を勤務すると15日の有給休暇が与えられ、最初の1年後からは勤続2年毎に1日の有給休暇が加算され、最大25日にまで年休が与えられる。また、勤続期間が1年以下の場合は、1ヶ月間皆勤した者に1日の有給休暇を与えるようになっている。

また、未消化の休暇に対する金銭的補償の場合も、従来は「年休・月休手当」の名目で労働者に支給されたが、改正後は、年休消化と関連して使用者の積極的な勧奨があったにもかかわらず労働者が年休を消化しなかった場合は、未消化分に対する金銭的補償義務は免除される。この金銭的補償と関連して、延長労働や夜間・休日労働の場合にも、従来は金銭的補償が行われたが、改正後は、使用者が金銭的補償に代え休暇を与えることを可能にした、いわゆる「選択的休暇補償制」が採択された。

 

4 延長労働の拡大と弾力的労働時間制

 

  延長労働の場合、従来は1日に12時間が限度だったが、今回の改正では、その施行から3年間は週16時間の範囲内で延長労働が許容されるようになった。この場合、従来より延長された4時間分に対する割増の比率は通常賃金の25%とし(従来の割増比率は50%)、これを超える部分に対しては50%とする。また、業務の繁忙期を考慮して、従来の1ヶ月以内の弾力的労働時間制を3ヶ月以内のものに改正し、この期間中には1週間に52時間まで労働が認められる。

 

 

 

 

 

            表1 改正後の労働条件の変化

 

項  目

現  行

改 正 後

法定労働時間

44時間

40時間

年休・月次休暇手当

支給義務あり

会社が休暇の消化を積極的に勧奨する限り、未消化分に対する金銭補償義務なし

生理休暇

1日有給

無給

 

 

 

施行時期

 

 

1989年から段階的に〜2004年7月から段階的に

・公共・金融・保険業および

労働者が1000人以上:2004.7.1〜

・労働者が300人〜999人:2005.7.1〜

・労働者が100人〜299人:2006.7.1〜

・労働者が50人〜99人:2007.7.1〜

・労働者が20人〜49人:2008.7.1〜

・労働者が20人未満:2011年以内に施行

 

 

年休・月休

・月次休暇:月1日(年間12日)

1年間皆勤した者に年 

 間10日、2年以上の勤

続者には1年毎に1日

加算

 

年間15日〜25日に統合

1年間8割以上勤務者に15日、3年以上の勤続者に対しては最初の1年後から2年ごとに1日加算し、最大25日まで可能)

弾力的労働時間制

1ヶ月単位、週56時間、

1日12時間が限度

3ヶ月単位、週52時間、1日16時間が限度

賃金補填

なし

法施行により、既存の賃金水準や時間当たり通常賃金が低下しないようにする

法定公休日

17日

15日

 

 

X 派遣労働

 

 韓国で派遣労働が正式に認められたのは、1998年に「派遣勤労者保護等に関する法律」(以下、「派遣法」という)が制定されてからである。同法は、ますます多様化している雇用形態の多様化や労働市場における規制緩和および流動化の要請に対応するために制定されたが、内容的には日本の派遣法を大いに参考にして作られたために、改正前の日本の派遣法に極めて似ている。特に、派遣労働者の法的地位においては、日本のそれと全く同じである。そこで、以下では日本の派遣法とその内容が異なる点のみを紹介するにとどめる。

 

1 派遣対象の制限

 

派遣対象業務としては、第一に、製造業の生産工程業務を除く専門知識・技術または経験などが必要とされる業務として大統領令で定める業務に限られる(派遣法5条1項)。その業務とは、コンピュータ専門家、事業専門家など26の業務であって(同法施行令2条1項)、その内容は改正前の日本の派遣法に極めて似ている。すなわち、韓国では、派遣業務においてポジティヴ方式をとっているが、ますます多様化していく最近の労働事情を勘案すると、日本と同様、ネガティヴ方式に変える必要があると思われる。

第二に、前記の26の対象業務ではなくても、出産・疾病・負傷などのよって欠員が生じた場合、または一時的・断続的に労働力を確保する必要がある場合は、労働者派遣が認められる(同法5条2項本文)。ただし、このような臨時的派遣の場合は、派遣労働者を使用しようとする派遣先は、当該事業または事業場の労働者代表と事前に誠実に協議をしなければならない(同法5条3項)。

 第三に、争議行為中の事業場において、その争議行為によって中断された業務を遂行させるために労働者を派遣することを罰則付きで禁じている(同法16条1項、罰則44条)。また、整理解雇を行ってから一定期間が経過するまでは、当該業務に労働者を派遣するのを罰則付きで禁じている(同法16条2項、罰則44条)。前者は、派遣先が争議期間中に派遣労働者を使用し、争議行為によって中断された業務を遂行させるのは労組法上の代替労働禁止規定(43条1項)に違反することとなり、後者は、勤基法上の整理解雇された労働者に対する優先雇用を定めている規定(31条の2)の実効性を図るためであると解される。しかし、後者はともかく、前者の派遣労働者による代替労働を禁止している両規定は、争議行為に対する使用者の対抗策や労使対等の原則に照らしてみて、これを削除するのが望ましいと思われる。

 

2 派遣期間の制限

 

 現行派遣法では派遣期間について幾つかの制限規定を設けている。第一に、派遣期間は原則的に1年を超えてはならない。ただし、派遣元・派遣先・派遣労働者間に合意がある場合には1回に限って1年の範囲内でその期間を延長することができる(6条1項)。

第二に、出産・疾病・負傷など、その事由が客観的に明白であって臨時派遣を行う場合の派遣期間は、その事由の解消に必要な最小限度を超えてはならない(6条2項)。

第三に、臨時的・断続的に労働力を確保する必要があって、臨時的に派遣を行う場合、その派遣期間は3ヶ月を超えてはならない。ただし、その事由が解消されず、派遣元・派遣先・派遣労働者間において合意がある場合には、1回限り3ヶ月の範囲内でその期間を延長することができる(6条2項)。

第四に、派遣先が2年を超えて引き続き派遣労働者を使用する場合には、2年が満了する日の翌日から派遣労働者を雇用したものとみなされる(6条3項本文)。すなわち、派遣労働者と派遣先との間には、現実的に労働関係が締結されなくても、黙示的に労働関係が成立する効果が発生するので、これによって派遣元と派遣労働者との間に成立していた労働関係は当然に終了すると解されるのである。ただし、当該派遣労働者がこれに反対する意思を明白にした場合はその限りではない。

 

Y 終わりに

 

 以上で述べた制度は、特に90年代後半から懸案となってきたものであるが、20038月末に「週5日労働制」を骨子とする勤労基準法の改正がなされることによって、一応立法的には一段落したと評価することができる。

しかし、これらの法制度が実効性のあるものとして定着するには、多くのハードルを乗り越えなければならない。まず、ごく最近導入された「週5日労働制」の場合、賃金補填をめぐって使用者側と労働者側が激しく対立しており、この問題は団体交渉や賃金交渉の際に新たな争点になると予想される。

次に、派遣労働の場合も、その対象範囲があまりにも限定されているために、法律と現実との間には大きなギャップが生じているのも事実である。特に、今後、企業を取り巻く環境の変化に鑑みると、派遣労働の対象業務の範囲を拡大するのは時代の流れであると思われる。また、派遣労働と関連して、争議中の代替労働を厳しく禁じている規定も、労使間の力関係がかなり改善された現時点においてまで維持すべきかについては、疑問点が多い。この規定もやはり、労使対等の観点から改善する必要があると思われる。

 最後に、解雇法制も1996年に導入されてから7年になるが、これにも問題はある。例えば、不当解雇を厳しい罰則をもって禁止している規定が代表的である。韓国では、日本とは異なり、不当解雇については、司法的救済手続のほかに労働委員会による特別な救済手続を設けており、また、整理解雇については、いわゆる「4要件」とともに、整理解雇者に対する優先的採用規定や60日の解雇予告期間を設けている。このように解雇から労働者を手厚く保護する規定があるにもかかわらず、さらに不当解雇した使用者を処罰するのは、衡平性の観点からみて問題がないとはいえない。解雇法制も、国民経済や労使間の力学関係を考慮したうえで、慎重に改善策を検討する時期に来ていると思われる。

 

 有田謙司

 

 概要  日本の雇用構造の変化と労働法

     ――解雇・非正規雇用・雇用保障――

 

                         山口大学経済学部   有田謙司

 

T はじめに

 

U 解雇法制

 

1 判例法理としての解雇権濫用法理による解雇の法規制

(1)解雇権濫用法理

 @判例法理としての解雇権濫用法理

 A解雇権濫用法理の内容

(2)整理解雇の法理

 @意義

 A人員削減の必要性

 B解雇の必要性・解雇回避努力義務の履行

 C被解雇者選定の合理性・相当性

 D労働者への説明と協議

 E整理解雇の4「要件」

 F整理解雇法理の評価

2 解雇法制の立法化をめぐる議論と労基法18条の2

(1)雇用の流動化と解雇規制の緩和を前提とした解雇法制の立法論

(2)解雇規制の正当性を前提とした解雇法制の立法論

(3)労基法18条の3とその意義

3 今後の課題

 

V 非正規雇用と法規制

1 有期労働契約の法規制

(1)労働契約期間の上限規制緩和

(2)有期労働契約の法規制

2 パートタイム労働の法規制

(1)パートタイム労働をめぐる法の現状

(2)パートタイム労働の法規制

 

W 正規雇用の多様化とワークシェアリング・雇用保障――むすびに代えて

 

 論文

   日本の雇用構造の変化と労働法

    ――解雇・非正規雇用・雇用保障――

                         山口大学経済学部   有田謙司

T はじめに

 

 日本の企業は、バブル経済崩壊後の長い不況を経験する中で、これまでの日本的雇用慣行を変え、労働力の流動化・雇用形態の多様化(長期継続雇用の見直し)、処遇の個別化・成果主義への移行(年功的処遇の見直し)を進めている。1995年に当時の日経連が発表した『新時代の「日本的経営」』に示された3つの雇用グループ(@「長期蓄積能力活用型」=正規雇用、A「高度専門能力活用型」=非正規雇用、B「雇用柔軟型」=非正規雇用)に再編する人事労務管理の提案を背景に、こうした企業の行動が、政府の規制緩和政策による労働法制の再編という法的整備の支援を受けて後押しされ、日本の雇用構造は、大きく変化しつつある*1。実際、ここ15年の間に、就業形態別構成比でみた正規雇用の全体に占める割合は低下し、非正規雇用の割合が増大している*2

 しかし、そうした雇用構造の変化は、企業側の必要にのみ応じるものと考えることはできないであろう。社会状況の変化により、労働者の側における変化のニーズに合っている側面もあるからである。例えば、雇用形態の多様化は、労働者の家庭生活と職業生活との両立を図るうえで有用な側面がある。ただ、そうした労働者にとっても有用な側面を有するパートタイム労働は、非正規雇用の雇用形態として位置づけられ、その処遇において正規雇用の正社員との間に大きな格差があり、それが拡大する傾向にある*3。パートタイム労働に関する現行法は、そのような事態に十分に対応するものとはいえず、その規制のあり方をめぐり議論が盛んになっている。

 また、雇用保障のあり方をめぐっても、雇用構造の変化を背景に、具体的な立法論に踏み込んだ議論が起こっている*4。本年627日に「労働基準法の一部を改正する法律」が成立し、日本においてはじめて解雇を一般的に規制する条文が労働基準法の中に規定された(18条の2)。その制定に当たり、とりわけ整理解雇の法規制のあり方をめぐって、見解の対立があらわになったが、それは、雇用構造の変化を背景とした雇用保障のあり方についての見解の相違を反映したものである。

 以上のような日本の雇用構造の変化の中で、労働法制、判例法理が、そうした変化にいかに対応しているのか、また、そうした変化をどのような方向へと進めて行こうとしているのかについて検討し、その問題点と検討課題を明らかにすることが、本稿の目的である。

 

U 解雇法制

 

1 判例法理としての解雇権濫用法理による解雇の法規制

 

(1)解雇権濫用法理

 

@判例法理としての解雇権濫用法理

 

 解雇の法規制のあり方は、その国の労働法の枠組みを規定するものといえる。日本においても、解雇規制の法理である、解雇権濫用法理の存在によって、@一定年齢の到達により労働契約を終了させる定年制が適法とされ*5、Aパートタイマー等の非正規雇用の雇用の終了が正規雇用に比して緩やかに認められ*6、B配転・出向等の人事異動について使用者に広範な裁量権が認められ*7、C就業規則による労働条件の一方的変更が「合理性」の枠内で柔軟に認められる*8、といった影響を及ぼすものとなっている、と指摘されている*9。そして、それらは、解雇が解雇権濫用法理によって厳しく規制されていることとトレード・オフの関係にある、とも指摘されている*10。ただ、このトレード・オフの関係という見方に対しては、理論的には必ずしもそうなるものではないとの異論がある*11

 ともあれ、このように解雇規制のあり方が非常に重要であるにもかかわらず、これまで日本には、解雇を一般的に規制する制定法上の規定は存在しなかった。1970年代以降のアメリカを除く先進資本主義諸国においては解雇規制立法の整備が進んだのに対して、わがで国は、判例法理である解雇権濫用法理がその立法の遅れを補ってきたのである*12。すなわち、解雇権濫用法理は、@立法規制によることなく、実質的に解雇に正当事由を要するとする法理を構築し、A期間の定めのない労働契約のもとにある正規雇用の労働者のみならず、非正規雇用の労働者、有期契約の更新拒否にも類推適用されるなど、適用範囲の広い法理として形成され、B整理解雇の審査基準をも確立したのである*13

 

A解雇権濫用法理の内容

 

 解雇権濫用法理は、「使用者の解雇権の行使も、それが客観的に合理的な理由を欠き社会通念上相当として是認することができない場合には、権利の濫用として無効になる」*14と定式化され、さらに、「普通解雇事由がある場合にも、使用者は常に解雇しうるものではなく、当該具体的な事情のもとにおいて、解雇に処することが著しく不合理であり、社会通念上相当なものとして是認することができないときには、当該解雇の意思表示は、解雇権の濫用として無効となる」*15とされている。この解雇権濫用法理は、使用者による解雇権の行使が、@「客観的に合理的な理由を欠く」場合、Aそれがある場合においても、「社会通念上相当として是認することができない場合」には(解雇の要件)、B「権利の濫用として無効になる」(不当な解雇の効果)、というように構成されている。

 解雇権濫用法理のもとで合理的な解雇理由とされるものは、3つに大別でき、第1は、傷病や労働能力・適格性の欠如・喪失などにより労務提供が適切になされないことといった労働者の身体的状況・職務能力、第2は、労働者の業務命令違反や不正行為、暴力行為、規則違反などの非違行為、そして第3は、経営上の必要性に基づく理由である*16

 このような解雇権濫用法理により、解雇が過酷で社会的相当性を欠くような事情がないかが審査され、実際上は、使用者側が解雇の合理性・相当性を十分に主張立証しなければ、解雇権の濫用と判断されてきた*17。解雇権濫用法理は、実質的に、解雇に正当事由を求める法規制と同一の帰結をもたらすものといわれるようになっている。

 

(2)整理解雇の法理

 

@意義

 

 整理解雇は、労働者の身体的状況・職務能力や非違行為を理由とする解雇とは異なり、労働者の側に帰責事由がないにもかかわらず、経営不振の打開や経営合理化を図るために余剰人員削減を行うという、経営上の必要性に基づく、使用者側の事情による解雇であることから、判例法において、解雇権濫用法理の中で、厳しい規制、特別な審査基準が確立された。いわゆる整理解雇の4要件といわれるものである*18。それらは、@人員削減の必要性、A解雇の必要性・解雇回避努力義務の履行、B被解雇者選定の合理性・相当性、C労働者への説明と協議である*19

 

A人員削減の必要性

 

 まず、人員削減を行う経営上の必要性が存在しなければならない。その程度については、かつては、人員削減をしなければ倒産必至となる状況を要するとする裁判例もみられたが、近年の裁判例では、高度の経営上の必要によるものであることで足りるされており、使用者の経営判断を尊重し、経営実態に立ち入った厳格な審査を控える傾向がある*20。人員削減の必要性が否定されるのは、人員整理後に新規採用が行われている場合や、高率の株式配当が行われている場合など、素人目にも矛盾した経営行動がなされている場合に典型的にみられる。

 このような裁判例の傾向を前提に考えると、この人員削減の必要性は、きわめてずさんな整理解雇の事案や整理解雇に名を借りた別の目的でなされた解雇をチェックする機能を果たしているものといえよう*21

 

B解雇の必要性・解雇回避努力義務の履行

 

 人員削減の必要性が認められる場合にも、それを解雇という方法で行う必要性が存在しなければならない。そのため、使用者は、時間外労働の削減、役員報酬のカット、新規採用の停止、昇級の停止や賞与の削減・停止、配転、出向、一時帰休、希望退職者の募集など、整理解雇を回避するために可能な限りの努力を尽くすことを求められる。解雇回避努力を全く行わないままに行われた整理解雇は、権利濫用で無効とされる*22

 この解雇の必要性・解雇回避努力義務の履行は、整理解雇のいわゆる4要件の中でも最も重要なものと考えられている。それは、整理解雇が、労働者側に帰責事由がないにもかかわらず、解雇に伴う重大な不利益を労働者にもたらすものであるから、それを行う使用者に対しては、最大限そのような労働者の不利益を回避し、軽減すべきことが求められる、ということによる。

 近年の裁判例では、希望退職募集の措置をとらなかったことを解雇回避努力の不足として、整理解雇を権利濫用で無効とするものが多くみられる*23。しかし、解雇回避努力として求められるのは、企業の規模や事業の性質、人整理の規模・目的・緊急性の度合いなどに応じて、可能な限りの措置をとることとされている。中小・零細企業の場合には、解雇回避措置として期待できるものは限られており、解雇回避措置が問題にならないか、問題とされてもその充足が認められやすい*24。直接解雇を回避する措置が限られる場合に、再就職を斡旋したことを解雇回避のための努力と認めた裁判例もみられる*25

 なお、正社員に対する整理解雇を回避する措置として、非正社員を先ず整理の対象とすることについては、業績悪化により人員削減の必要性があり、余剰人員の配転が困難な事案において、臨時員の雇止めに先立って正規従業員からの希望退職の募集をしなくとも不合理とはいえないとする最高裁判例がある*26。ただ、近年の裁判例の中には、有期労働契約のもとにある臨時社員の雇止めにも整理解雇の法理に準じた取扱いを行い、雇止め回避措置(希望退職者の募集)および事前協議を経ずになされた雇止めを権利濫用と判断したものがみられる*27

 

C被解雇者選定の合理性・相当性

 

 解雇の必要性が認められても、被解雇者の選定が合理的になされ、相当なものではなければならない。一般的には、労働者の職務能力などの企業貢献度、解雇が労働者の生活に与える経済的打撃の程度、労働者間の衡平などを考慮しつつ、勤務成績・勤務態度、勤続年数、年齢、職種などが基準として用いられている。しかし、この被解雇者選定の合理性については、裁判例の判断に一貫したものはみられず、この問題の難しさを示している*28。この点についての社会的コンセンサスが形成されていないことの反映であろう。

 

D労働者への説明と協議

 

 使用者は、予定される人員整理について、労働組合または労働者に対して、その納得を得るよう誠実に十分な説明と協議を行うことが求められる。この説明・協議は、人員整理の必要性から解雇回避措置、被解雇者選定の問題まで、広くその対象とするものである。最近の裁判例には、この要件を重視して、他の要件を充足していても、十分な協議と説明が尽くされなかったということで、整理解雇を権利濫用と判断するものも多くみられる*29

 ただ、どのような内容について、どの程度の説明や協議をすればよいのか、労働組合がない場合の協議・説明の相手方は誰なのか、従業員ひとりひとりなのか、それとも従業員の代表なのかなどといったことについては、裁判例においても明確にされてはいない*30

 

E整理解雇の4「要件」

 

 これまでみてきた、いわゆる整理解雇の4要件については、裁判例は、ひとつでもその充足を欠くときには整理解雇を権利濫用で無効とする「要件」とみるものと*31、これらを解雇権の濫用に当たるかどうかを判断するための類型的な判断要素として、その該当の有無、程度を総合的に判断してその有効性を判断すべきとするもの*32とに分かれている。

 ただこの点については、整理解雇の事案によっては4要件の全ての充足を求めることがそもそも難しいものもあること、4要件を判断要素とする見解においても、実際上は、いずれかの要素を欠けば解雇権濫用となることがほとんどであろうから、大きな違いではないとの見方もある*33

 

F整理解雇法理の評価

 

 では、以上のような判例法による整理解雇の法理は、どのように評価されるであろうか。その機能面からみた評価として、判例による整理解雇法理は、整理解雇がいわゆる4要件に示された手順と手続を踏んでなされるべきことを示し、濫用的ないし便乗的な整理解雇を規制してきたものであって、さほど整理解雇を厳しく規制する法理ではない、との見方が示されている*34。また、整理解雇に関する裁判例の傾向から、整理解雇の法理は、企業間の競争の激化や企業再編の新たな動向を踏まえ、適宜修正されつつ、使用者の恣意的な解雇をチェックする役割を果たしている、との見方も示されている*35

 

2 解雇法制の立法化をめぐる議論と労基法18条の2

 

 さて、以上に概観した解雇権濫用法理の評価をめぐっては、@実際に裁判にならなければ結論がわからないという予測可能性の問題、A判例法理である解雇権濫用法理では基準が曖昧なために行為規範として機能しないという問題など、それが判例法理であることによる問題点については、おおかたの論者の間でほぼ共通理解があるといってよかろう。しかしながら、いざ立法論ということになると、そもそもの解雇規制についての考え方の違いが大きく表れてくる。

 

(1)雇用の流動化と解雇規制の緩和を前提とした解雇法制の立法論

 

 ひとつは、厳格な解雇規制は、雇用の流動化を妨げ、企業の採用意欲を低め、雇用創出を妨げているとの認識のもとに、立法論として、解雇の手続的規制を重視した解雇規制法制の整備を提案し、解雇の実体的規制、とりわけ、経営上の必要性を理由とする整理解雇の実体的規制を緩和しようとするものである*36。具体的には、解雇規制にかかわる実体法では、整理解雇の4要件のうち、経営判断にかかわる2要件、すなわち、人員削減の必要性と解雇の必要性・解雇回避努力義務の履行を除くとともに、解雇の手続を中心に、退職金の割増率についての最低基準や企業の再就職支援義務を盛り込むことを提案する*37

 この主張の背景には、人口の高齢化に伴い個人の職業人生は長くなる一方で、経済のグローバル化に代表される国際競争環境の変化や国内競争の激化、技術構造の急速な変化などにより、個別企業、産業の盛衰のテンポが速くなる結果、個々の企業あるいは産業が労働者に対して保障できる雇用期間は短くならざるを得ないのであるから、経済・社会の構造変化に対応して雇用・労働市場の規制のあり方も、より市場を通じた雇用保障を拡充し、多様な就業・雇用形態に対応しうるような形に改革して行く必要がある、という認識がある*38。構造改革と産業調整の時代には、特定の企業内の雇用保障だけでなく、中途採用機会の拡大が、より現実的な雇用保障となる、という見方である*39。この見解は、雇用の流動化を不可避なものと捉えるだけでなく、望ましいものと考え、それにより労働市場を通じた雇用保障を追求して行くというものである。

 こうした見解は、解雇権濫用法理の構造上も生じやすいものとなっている。すなわち、解雇権濫用法理は、その実質において解雇に正当事由を求める法規制と同じであるといわれながらも、それが権利濫用法理であることから、解雇権の濫用の有無を判断するに当たって、解雇の必要性と労働者の被る不利益とを比較衡量して判断する枠組みによることになるため、経営環境や雇用システム、労働市場の変化のなかで、解雇の必要性の圧力が高まると、相対的に解雇を容認する判断を導きやすい、という構造上の問題を抱えている*40。そこで、雇用の流動化を説く見解は、閉鎖的な内部労働市場と外部労働市場の未発達により、解雇された労働者が、その喪失利益を回復することが困難であるという労働市場の状況が、雇用の流動化の推進による職種別の労働市場の発展・中途採用機会の拡充の方向へと変化し、解雇された場合の再就職が容易になれば、解雇権濫用法理の見直し、実体的規制の緩和がなされてしかるべきである、と主張する*41

 さらに、雇用の流動化と解雇規制の緩和を説く見解は、厳しい解雇規制が雇用保障に欠ける非正規雇用を生み出し、二重労働市場の問題を生じさせている、と主張する。この見解によれば、厳しい解雇規制が強いられれば、結果的に正社員の雇用安定の緩衝役として、雇用調整が可能なパートタイム労働者など非正規雇用の労働者が必要となり、一方が他方の犠牲のうえに雇用保障を得るという二極分化、二重労働市場の問題が生じている*42。そして、このことは、最高裁判例の認めるところともなっている*43。このような見方は、それが、前述の解雇が解雇権濫用法理によって厳しく規制されていることとトレード・オフの関係にあるとの認識に基づくものである。

 ところで、このような雇用の流動化と解雇規制の緩和を前提とした解雇法制の立法論は、政府の規制緩和または構造改革という政策の方向に沿ったものともなっている*44。このことは、解雇規制の一般規定となる労基法18条の2が政府から国会に上程されたときの法律案では、「使用者は、この法律又は他の法律の規定によりその使用する労働者の解雇に関する権利が制限されている場合を除き、労働者を解雇できる。」というように、使用者が原則として自由に解雇できることをあえて本文に書き込もうとしたことに如実に表れている*45

 

(2)解雇規制の正当性を前提とした解雇法制の立法論

 

 以上のような解雇規制の緩和を求める立法論に対し、その批判を通して解雇規制の正当性を提示し、それを前提とした解雇法制の立法論が展開されている。

 まず、解雇規制の正当性をめぐる議論についてであるが、解雇の規制緩和論者がもっぱら解雇における経済的利益の観点からのみ議論するのに対し、@解雇により人格的利益の侵害がもたらされる点や解雇の脅威が人格的従属を強めるといった人格的利益の観点から正当化する見解*46、A労働契約を含む継続的契約の不当解消規制の規範的要請(継続性原理)と労使の対称性の要請(実質的対等の理念)を正当化根拠とする見解*47、B使用者の労働契約の締結目的たる事業(業務上の必要性がない場合には解雇権は発生しない)を正当化根拠とする見解*48、C解雇権は、使用者が企業の良好な運営を確保するために、合理的な手段としてのみ承認された権利であり、企業組織の観点から正当化される「有因的な権利」とする見解*49、D労働権(憲法271項)あるいはそれに加えて生存権(憲法25条)が信義則を媒介として労働契約上の義務として構成される使用者の「雇用維持義務」ないしは「雇用維持努力義務」を解雇規制の根拠とする見解*50、E解雇規制は労働条件の対等決定や労働生活における労働者の自由の拡大という労働法の理念、目的の実現にとって不可欠である、あるいは、解雇制限法理が使用者に法的な規制を加えることによって、労働法の根幹にあたる労使の自治的なシステムを保障しているとする見解*51などが、展開されている*52

 次に、雇用・労働市場の流動化の問題については、自発的な転職などを促すような自己決定に基づく流動化と、解雇など法的強制による(他人決定的な)流動化とを区別する必要があるとの認識のもとに、解雇規制緩和論に対し、次のような批判がなされている*53。解雇法を経済政策的な理由から規制緩和しようとする場合、それは法による強制を通じた流動化を志向するものとなるので、何らかの高度の必要性を要する。ところが、労働力が流動化し、経済的な不利益が緩和されたとしても、上記の解雇規制の正当化根拠についての@の見解が指摘する人格的な不利益は解消されないし、そのように流動化した状況では労働者が自ら転職する可能性も高まり、労使の交渉=合意解約による労働契約の解消の余地が高まるにもかかわらず、一方的な解約=解雇を奨励する方向で法理を変える(使用者の法益だけを重視する)ことに妥当性を見いだし得ない。さらには、解雇規制を緩めることが新規雇用を増やし、恒常的失業率を引き下げることにつながるかどうかも、各国における経験からも実証されていない*54

 それから、解雇の手続的規制を重視した解雇規制法制の整備という方向については、上記の解雇規制の正当化根拠についてのEの見解が指摘するように、解雇権の実体的規制が緩められ使用者が容易に解雇できるような状況では、労使の自主的な解決を保障することにならない、という批判が加えられる*55。解雇の手続的規制、とりわけ解雇の事前手続の存在は、解雇権の行使を適正なものへと導き、労使間の利益の調整を図る機会を与え(特に、整理解雇)、解雇紛争の防止に寄与しうるものとして、立法論において確かに重要であり必要なことではあるが、それは、解雇の実体的規制を前提として考えられるべきものといえよう*56

 以上のような議論の中から、解雇を通じての強制的な雇用の流動化はあまりに深刻な社会問題を引き起こすであろうこと、解雇規制により得られる雇用の安定は労働者の人格的利益に関係しているうえ、労働者が労働関係存続中に安んじて自らの権利を行使しうるための前提条件であることから、整理解雇のいわゆる4要件を含め、解雇規制を緩めることなく明文化するべき、と主張されている*57

 

(3)労基法18条の3とその意義

 

 これまでみてきたような議論を背景に、労基法の中に、日本においてはじめて解雇規制の一般的な規定が18条の3として設けられた。前述のように、国会に上程された政府の法律案では、「使用者は、この法律又は他の法律の規定によりその使用する労働者の解雇に関する権利が制限されている場合を除き、労働者を解雇できる。ただし、その解雇が、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合は、その権利を濫用したものとして、無効とする。」とされていた。この政府案に対しては、労働組合や法曹関係者から、法律案の本文の部分は、使用者は労働者を原則として自由に解雇できるという誤ったアナウンス効果を招く弊害があるなどとして、削除すべきとの批判が強くなされ、その後に修正案が与野党で合意されて、「解雇は、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合は、その権利を濫用したものとして、無効とする。」との規定で立法化された*58。このように、労基法18条の2は、解雇権濫用法理をそのまま法律上に明記するものとして創設された*59

 このような規定の仕方については、解雇権濫用法理をその実質において理解し、かつそれを立法化する段階においては、権利濫用法理という形式を利用する必要はないのであり、解雇に正当事由を要するというこの法理の実質的内容を法文化すべきであった、という批判がなされている*60。とはいえ、その立法化の意義は大きい。その意義として、@立法化により、判例法理よりも大きな明示機能と紛争予防機能が期待できること、A有期労働契約の更新拒否などの解雇権濫用法理を類推適用してきた周辺分野に対する影響(解雇法理の「潜脱(脱法)」が認められやすくなること、周辺分野への規制根拠を提供し、解雇法理を全体としてより効果的にすることにつながること)、B主張立証責任の所在の明確化(解雇の相当性の主張立証責任が使用者側にあること)が、指摘されている*61

 ところで、労基法18条の3には、解雇法制の立法論において焦点のひとつとなっていた、整理解雇については何ら規定されるところとはならなかった。長引く不況を背景として「リストラ」解雇といわれる事案が増加するなか、日本における整理解雇ルールの立法化は不可避なものといえるが、当分の間は、18条の2の解釈として、整理解雇の法規制が考えられることになろう。おそらくは、これまでの判例法理である、前述のいわゆる4要件の適用をめぐって議論されることになるであろう。

 

3 今後の課題

 

 今回の労基法改正により解雇規制の一般規定が設けられたこと、およびその立法化へ向けての立法論の展開を踏まえ、今後の解雇規制立法の課題をまとめておきたい。

 解雇法制の立法論の検討において確認されたように、今回の労基法改正による解雇規制の立法化は、解雇、とりわけ整理解雇を容易にするよう、解雇の実体的規制の緩和を目的する側面を有するものであった。しかしながら、そうした立法政策は、解雇による強制的な雇用の流動化を図るものであり、それを根拠づける何らかの高度の必要性を要するところ、そうしたものは見いだせない*62。それどころか、解雇規制は、労働条件の対等決定や労働生活における労働者の自由の拡大という労働法の理念、目的の実現にとって不可欠であり、それにより使用者に法的な規制を加えらることによって、労働法の根幹にあたる労使の自治的なシステムが保障されることからすれば、実体的な解雇規制をより明確にすることが求められる。

 具体的には、解雇権濫用法理のもとで合理的な解雇理由とされてきたものを解雇の正当事由として明文化し、相当性の判断基準の枠組みを規定する。それにより、解雇の正当性を判断する上での2段階審査の仕方が明確になり、予見可能性もいっそう高まるであろう。それを補足し、さらに、解雇法制の行為規範としての強化を図るためにも、具体的な内容をガイドラインとして定めることも検討すべきであろう*63。なお、そうした解雇の実体的規制の立法化案において、解雇禁止事由として列挙すべき事由の中に、雇用形態(パートタイム労働など)を理由とする解雇を規定すべきとするものがみられるが*64、それは、これまでの判例法理としての解雇権濫用法理が非正規雇用労働者をバッファー(緩衝役)とする雇用慣行を是認してきた負の側面を取り除く方向へと向かうものであり、そのような非正規雇用労働者をバッファーとすることと解雇が解雇権濫用法理によって厳しく規制されていることとはトレード・オフの関係にあるとは理論的にはいえないにもかかわらず*65、それが強調され、解雇規制の根拠とされていることを考えれば、非常に重要な提案であって注目すべきである。

 そうした実体的規制の上に、判例法理に委ねられていたために諸外国の法制に比し発展の遅れていた手続的規制を加えて、整備すべきであろう。とりわけ、整理解雇については、解雇回避措置や不利益軽減措置について労使協議が不可欠であることや、被解雇者の選定基準についてはその内容を法律によって一義的に決定しにくいために、当該労使の判断が重要な意味をもっていることなどから、手続の法定化の必要性はいっそう高い*66。雇用調整計画段階における協議手続、整理解雇実施段階における手続、企業ないし事業場規模、雇用調整人数を考慮した簡易手続、労働者代表の選出手続などの立法化案が具体的に提案されている*67。この手続に関しては、雇用対策法をはじめとする雇用保障法制による、失業の防止措置や解雇されることとなった労働者の再就職の援助措置などとの有機的な接合を図ることも課題となろう*68。この点で、雇用対策法上の再就職援助計画作成義務の規定(24条)および対象の雇用変動の場合の届出の義務の規定(28条)が、解雇についての公的な手続規制への発展の方向を示すものと評価される*69

 その他にも、解雇紛争処理手続(解雇訴訟手続、紛争処理機関など)の整備*70、準解雇概念*71や次にみる有期労働契約の規制といった解雇規制の潜脱防止のための規定の整備も必要となろう。

 

V 非正規雇用と法規制

 

1 有期労働契約の法規制

 

(1)労働契約期間の上限規制緩和

 

 本年627日に「労働基準法の一部を改正する法律」により、労基法14条が改正され、労働契約期間の上限1年という原則が3年とされる規制緩和がなされた。これは、政府の規制改革政策において一貫して求められていたものであり、前回の改正(1998年)では例外的に上限を3年とするにとどまっていたものを今回の改正において実現したものとみられている*72

 今回の労基法改正につながる労働政策審議会の建議の内容となった、労働条件分科会の「今後の労働条件に係る制度の在り方について(報告)」(20021226日)は、長期継続雇用が基幹的な労働者を中心に今後も基本的な就業形態であり続けると考えられるが、一方で雇用形態の多様化が進んでおり、このような状況の下では、有期労働契約が労使双方にとって良好な雇用形態として活用されるようにしていくことが必要であるため、有期契約労働者の多くが契約の更新を繰り返すことにより一定期間継続して雇用されている現状等を踏まえ、有期労働契約の期間の上限について、現行の原則である1年を3年に延長することが必要である、としていたが*73、その背後には、次のような考え方があるものと思われる。すなわち、期間の定めのない労働契約の正規雇用の労働者は、解雇規制の下での長期雇用保障とのトレードオフとして長時間労働や頻繁な異動のもとに置かれるとの認識のもとに、契約更新時の雇用調整のリスクを受け入れる代償として、労働者が職種や働き方場所の選択等、望ましい労働条件を求める選択肢としての有期労働契約は、今後増加する共働き世帯にとっても望ましいものであるとする考え方である*74

 しかし、こうした考え方は、そもそも期間の定めのない労働契約の正規雇用労働者が、解雇規制の下での長期雇用保障を得ることと長時間労働や頻繁な異動のもとに置かれることの間には、理論的にはトレードオフの関係にはないことからして、何故に、有期労働契約で雇用され契約更新時の雇用調整のリスクを受け入れることを代償としなければ、労働者が職種や働き方場所の選択等、望ましい労働条件を求めることができないのか、はなはだ疑問である。

 ところで、労働契約に期間を付すことの意味は、当事者双方ともに期間の途中で契約を解約できないことであり、これを労働者の側からみれば、退職の自由が制約される反面、期間中の雇用が保障される、ということである。このような有期労働契約は、歴史的には、その雇用保障機能の面の意味が大きかったのであるが、解雇規制により、本来は「何時ニテモ解約ノ申入ヲナスコトヲ得」(民法6271項)という不安定な雇用類型であった期間の定めのない労働契約の意味が反転し、長期雇用の保障される契約の典型とされるに至ったこんにちにおいては*75、むしろ退職の自由の制約の意味が強い*76

 このような有期労働契約の意味合いの変化を踏まえて、労働契約期間の上限規制の緩和が、解雇規制の緩和とともに主張されていることを考えると、それは、有期労働契約の意味合いを歴史的な過去のものに戻そうというものである、と理解することができよう。期間の定めのない労働契約の解雇規制と有期労働契約の雇用保障機能こそ、トレードオフの関係にあるからである*77

 また、労働契約期間の上限規制の緩和は、現状において雇用期間の設定の有無が事実上使用者の手に握られている以上、使用者に、雇用期間についてこれまで手にしていた以上の自由の付与を意味するものであり*78、有期労働契約が更新を繰り返されることにより解雇権濫用法理が類推適用される判例法理*79の適用を回避し、かかった教育訓練費用等の回収が可能な期間の設定を可能にするものとも理解できる*80

 

(2)有期労働契約の法規制

 

 では、有期労働契約の法規制はどうあるべきであろうか。解雇規制の立法化がなされたこんにちにおいては、解雇権濫用法理を類推適用するこれまでの判例法理のように、有期労働契約の更新拒絶・雇止めに労基法18条の2を類推適用するというような仕方で対処するのではない。雇止めに関する判例法理は、例外的に濫用制を判断し、その判断基準も解雇権濫用基準に比して相当に緩和されているため、企業の締結・更新の事由への介入の程度はきわめて小さいものとなっており、また、今回の労基法改正で新設された規定(142項・3項)に基づき設定される指針による行政指導にも限界がある*81。そうすると、解雇規制の潜脱を防止するためには、ILO「使用者の発意による雇用の終了に関する条約」(158号・1982年)および同勧告(166号)などにみられるように、有期労働契約を締結できる場合を制限することを法定化し、上限期間を超えて雇用継続している場合には、期間の定めのない労働契約になるとの規定を設けるべきである*82

 労働契約の期間は、有期労働契約が契約更新を繰り返され、恒常的な業務に利用されている実態から、もはや雇用期間としての機能を喪失し、有期労働契約を正規雇用と区別された雇用保障が弱く、労働条件の低い雇用形態としてしまっている。この問題を解決するためにも、有期労働契約の利用事由が制限される必要がある。また、これにより、有期労働契約の更新拒否・雇止めをめぐる紛争も自ずから相当程度解消すると考えられる*83

 

2 パートタイム労働の法規制

 

(1)パートタイム労働をめぐる法の現状

 

 パートタイム労働は、家庭生活と職業生活の両立を図るため、あるいは、高齢者が任意になだらかに引退することを可能にするといった、労働者の側にも有意味な就労形態である。ところが、こんにちの日本におけるパートタイム労働者は、非正規雇用と位置づけられ、正規雇用の労働者との間の大きな労働条件の格差のもとに置かれている。

 これに対して、パートタイム労働を規制する現行法としては、1993年に制定された「短時間労働者の雇用管理の改善等に関する法律」(いわゆるパート労働法)があるものの、同法は、通常の労働者との均衡の考慮や適正な労働条件の確保等を事業主の責務としてあげているが(31項)、その内容は事業主による雇用管理の自主的な改善を基本的枠組みとする努力義務を中心とする法律であり、また、いわゆる疑似パートは直接の対象とはなっていない*84。日本の現行法には、パートタイム労働者と正雇用労働者(フルタイム労働者)との均等待遇原則を明確に定める規定は存在しない。

 裁判例としては、正社員と同一の仕事に従事するパート労働者が、正社員との賃金格差を違法として争った事案において、同一(価値)労働同一賃金の原則が確立した公序であることは否定しつつも、同原則の基礎にある「均等待遇の理念」は、賃金格差の違法性判断において、ひとつの重要な判断要素として考慮されるべきとし、女性正社員との比較で8割に達しない賃金格差をその限りにおいて公序良俗違反で無効としたものがある*85。しかし、下級審判決がひとつあるだけで、未だ確立した判例法理とはなっていない。

 

(2)パートタイム労働の法規制

 

 こうした状況の中で、政府は、当面は、通常の労働者との均衡を考慮した処遇の考え方をパート労働法に基づき作成される指針に示すことによって、その考え方の社会的な浸透・定着を図っていく、という政策をとっている*86。その背後には、パートタイム労働者の処遇改善は、「働きに応じた公正な処遇」を実現することを通してなされるべきであり、そのためには、通常の労働者も含めた総合的な働き方や処遇のあり方も含めた見直しが課題であるが、これには、社会的機運の醸成が重要であるとともに、個々の企業において、労使で議論を重ね共通の理解を得て、従来の雇用慣行や制度の見直しに取り組むことが必要で、雇用システムの変化やさらには関連する法令の整備も含む社会制度の改革等とともに図られていく中で、通常の労働者とパートタイム労働者との間の公正な処遇を実現していくための社会的ルールが考えられるべきところ、現状を考えると、労使を含めた国民的合意形成を図りながら、段階を踏まえつつ、そのあり方を改善していくことが求められるとの認識がある*87

 しかしながら、こんにちまで労使自治による改善がほとんどみられなかった状況を考えると、労使自治への過度の期待に基づく、上記のような政府の法政策の方向ではなく、合理性のない格差を禁止する均等待遇原則を定める立法による法規制の方向での法政策がとられるべき段階にもはやきているのではないだろうか*88。その進め方については、段階的な経過規定を置くような方式によることを考えればよかろう*89

 均等待遇原則を明文の規定化し、あわせて、解雇禁止事由として列挙すべき事由の中に、雇用形態(パートタイム労働など)を理由とする解雇を規定することによって、雇用形態による処遇の質に段差がなくなって行き*90、労働者側のニーズにも適った就労形態の多様化がもたらされることになろう。

 

W 正規雇用の多様化とワークシェアリング・雇用保障――むすびに代えて

 

 紙幅もつきたことから、派遣労働については重要ではあるが、割愛させていただき、今後の法政策の方向について一言まとめて、本稿を閉じることにしたい。

 本稿の検討からは、雇用形態の多様化を促すものとして、解雇規制の緩和による雇用・労働市場の流動化の法政策があり、その基底には、解雇規制による正規雇用の雇用保障と、正規雇用労働者の長時間労働、頻繁な異動といった働き方、非正規雇用労働者の不安定な雇用保障、労働条件の低さとが、トレードオフの関係にある、という認識が存することが、明らかとなった。この法政策は、常用雇用の正規雇用労働者の雇用を不安定なものとすることにより、非正規雇用とのアンバランスを解消しようとするものとみることがでる。

 しかし、そうしたトレードオフの関係は理論的には成り立たないものであり、また、こんにち労働法における人権論の新たな展開が議論される中で*91、そのような法政策はとられるべきではなかろう。むしろ、解雇規制立法を充実させ雇用の安定を確保したうえで、雇用形態の違いによる処遇の格差を禁止する均等待遇原則を定め、家庭生活と職業生活との両立を図りうるように、安定した正規雇用の多様化を図ることが目指されるべきであろう。そうした正規雇用の多様化の方向は、経済合理性にも適うとの議論もみられる*92

 このような正規雇用の多様化は、ワークシェアリングの議論の中で、すでに「短時間正社員」として、その有意性が社会的に認識されているところである。また、それは、パートタイム労働政策について政府の認識とされている、「通常の労働者も含めた総合的な働き方や処遇のあり方も含めた見直し」という方向にも沿ったものでもあるのである。ただ、そうした方向に進むにあたっては、労働時間規制、労働契約における意思解釈・合意論、使用者の業務命令権の制約の法理、正規雇用労働者の労働条件の変更問題、公正な人事制度への法的対応といった、多くの問題についての検討がなされるべきものとなる*93

 

 



[1] 詳しくは本文の中で述べるが、予め筆者の考えを示しておけば、@の日本的雇用慣行と呼ばれるシステムにおいて、そもそも絵に描いたような終身雇用制度や年功序列型賃金体系といったものは存在しなかった。すなわち日本的雇用システムとは新規学卒者を一社で定年まで雇うという制度や、勤続や年齢だけで自動昇進・昇給していくようなシステムではなく、勤勉性や技能形成を育むために長期勤続を促し、実力主義や能力主義に基づきながら昇進・昇給を図るシステムであった。それは配置転換によって関連する職務をこなし、技能形成を図っていくシステムであり、その点はまだ有効性を保っているというものである。ただし、日本的雇用慣行が本人の意向に関係なく職務が割り当てられやすく、長時間労働を生みやすいといった問題点はある。さらに、女性労働にみられがちなように結婚や出産によって途中で退職を余儀なくされて、元の職場に戻ったり、あるいは関連する職業に正社員として勤めたりすることができなくなれば、キャリア形成に支障をきたす恐れもあるということになる。Aの企業集団や系列などはそのようなシステムが日本経済に大きな影響を与えてきたと考えられると意味で、日本的雇用慣行に対する社会通念とは異なって、的を射ていると考えている。

それから、筆者は現在の日本の経済不況の最も大きい理由は、バブル経済の破綻とそれに伴う不良債権問題やデフレ経済にあり、日本的雇用システム自体、すなわち長期において技能形成を図っていくというシステム自体に決定的な転換が迫られているのではないと考えている。また日本以外のアジア諸国との競争に関しては、やがてそれら諸国の内需拡大によって日本からの輸出が増大し、日本の景気回復に寄与する可能性があると考えている。その意味で中国元の切り上げがあるとすれば、それは1985年のプラザ合意に匹敵する歴史的意義を有する事態に至るかもしれない。とはいえ、今回、この問題の検討にまで余裕がなかった。後日を期したい。

なお、ここで日本的雇用慣行とは通念的な「3種の神器」を指し、日本的雇用システムとは通念を超えたキャリア形成システムという長所と長時間労働や女性差別を生み出す短所を併せ持ったシステムとして使い分けている。

 

[2] ここでキャリア形成とは、ワークライフの中で仕事能力を向上させていくこととしておこう。ちなみに、厚生労働省職業能力開発局「キャリア形成を支援する労働市場政策研究会報告」(2002年7月)では、「『キャリア』とは、一般に『経歴』、『経験』、『発展』さらには、『関連した職業能力の連鎖』等と表現され、時間的持続性ないし継続性を持った概念として捉えられる。『職業能力』との関連で考えると、『職業能力』は『キャリア』を積んだ結果として蓄積されていくものであるのに対し、『キャリア』は職業経験を通じて、『職業能力』を蓄積していく過程の概念であると言える。『キャリア形成』とは、このような『キャリア』概念を前提として、個人が職業能力を作り上げていくこと、すなわち、『関連した職業能力の連鎖を通して職業能力を形成していくこと』と捉えることが適当と考えられる。」とされている(2003年版労働経済白書』p.205)

 

[3] さらに、本稿では@自発的・非自発的失業、A長期失業、Bミスマッチ失業、C学生の就職状況についても合わせて言及するつもりであったが、紙幅の都合で省略する。とはいえ、以下を指摘しておこう。@については、非自発的失業が過半数を占める年齢層が段々と低下してきているということ、すなわちその年齢層は1997年までは5564歳であったが、2002年には3544歳にまで下がってきているということ。A失業期間1年以上の長期失業者については増加傾向にあり、5564歳の高年層と並んで、2534歳の比較的若い青年層が多いのが特異であるということ。すなわち2001年で両年齢層はともに22万人、26.5%と並んでおり、それ以外の年齢層は逆に比率を下げている。B雇用のミスマッチは、情報の不完全性、職業能力の不一致(スキルミスマッチ)、その他労賃や労働時間、年齢・性別など労働条件に対する労働者や企業の相違により生じるとされるが、それでは摩擦的失業と構造的失業の相違をあいまいにしてしまうこと。摩擦的失業に比べて構造的失業では失業期間も長期化し、対策も困難であること。

 

[4] ちなみに、年間総実労働時間(主に製造業、生産労働者)1998年で日本1947時間、米国1991時間、イギリス1925時間、旧西ドイツ地域1517時間、フランス1672時間である。日本の場合、サービス残業などでもっと長いといわれている。

 

[5] 2002年度では、過労などが原因の脳・心臓疾患で死亡したり、後遺症が残ったりして労災に認定された件数が、これまでで最も多い317件を記録、死亡も過去最高の160件に上ったことが2003年6月10日発表の厚生労働省の調査でわかった。認定基準が緩和された影響が大きいが、長引く不況による労働環境の悪化も背景にあるとみられる(日本経済新聞2003年6月11)

 

[6] そもそも第二次大戦後の19474月、労働基準法制定されて1日8時間、週48時間労働が規定された。

 

[7] 小池和男氏の議論に筆者の見解を織り交ぜている。小池氏の議論は体制弁護論的な色彩が強く、日本的雇用システムの負の側面に対する批判に乏しい。小池理論への体系的な批判には野村正實氏の一連の著作があるが、ホワイトカラーに関する議論に対してはまだ批判されていないことと紙幅の都合でここでは取り扱わない。

 

[8] ただし、女性の場合は結婚・出産などで退職する者自体が多いために、標準労働者として残っている者の比率は男性よりも多くなる場合もある。

 

[9] ただし、勤続1年未満の割合が平均16.1%に対して、日本は最も低い8.3%であることは注目されよう。これはごく短期間で辞めるものが少ないことを示唆しているのかもしれない。

 

[10] 日本特殊性論に対して自虐的になりやすいと批判が根強いが、逆にそれは自己批判的であることを意味するから、自己の欠点を克服する方向に作用するかもしれない。これ以上の議論は、どのようにも解釈可能であるという意味で不毛な文化論に陥りかねないので切り上げる。

 

[11]第1次産業人口は1960年の32.1%から1970年には19.3%と20%を割り、さらに1985年には9.3%10%を割った。2000年のセンサスでは遂に5.0%となっている。

 

[12]出稼ぎ労働は1972年の54万9千人をピークに、その後減少し続けており、2001年には約6万人となっている(厚生労働省職業安定局)

 

[13] 参考に、日本における男女の賃金格差は10:6ほどで先進国随一である。女性がパートになることが多いためといわれている。

 

[14] フリーターとは、フリーアルバイターの略で、リクルート社が1980年代後半に作った造語である。2003年の『国民生活白書』においては、「16歳から34歳の若年(ただし、学生と主婦を除く)のうち、パート・アルバイト(派遣等を含む)及び働く意思のある無職の者」という定義がされている。

 

[15] 日本では200110月、日経連と連合が『“雇用に関する社会合意”推進宣言』においてワークシェアリング導入推進で合意し、2002年3月、厚生労働大臣も加わって、政労使三者による「ワークシェアリングについての基本的考え方」とする合意内容が確認された。それに先駆けて、199912月には兵庫県では「兵庫型ワークシェアリングについての合意」に政労使が調印している。

だが、日本の場合は企業側の反応も芳しくない。旧経団連のアンケートでは会員企業の85%がワークシェアリングの導入予定なしと回答している。そのため現在日本でワークシェアリングは、地方自治体(県庁など)で行なわれるようになってきている。例えば、「ひょうごキャリアアップ・プログラム」と称される「全国初の行政型ワークシェアリング」では、2000年度で採用予定数101人に対して受験者758人が集まり、競争率7.5倍と高くなってしまった(ホームページより)。元々フリーターや若年失業者の増大に対応して若者に就労体験をさせるという意味合いがあったにも関わらず、あたかも公務員予備校の様相を呈してしまっている観さえある。

 

[16] オランダ・モデルに対しては、1982年のワッセナー合意をベースとするコーポラティズムと94年にオランダ政府が提唱した男女平等を目指す「コンビネーション・シナリオ」を峻別するべきだという見解がある(伊田2001)。伊田氏はこのコンビネーション・シナリオも単に男女が仕事と家事を分担し合う1.5モデルというよりも、「週30時間前後の短時間労働でも人一人が生きていけるという社会民主主義的な個人単位の社会と伝える」べきであると主張される。「週20時間でも40時間でも自分で自由に選べる正規短時間労働者に皆がなり、皆が税負担もするという個人単位=男女平等社会への移行の希望をオランダ・モデルは日本に提示している」という。

 

[17] さらに、社会経済生産性本部は下記のような推計も行なっている(ワークシェアリング研究会編2001p.53)

        @時短分に合わせて給与を削減した場合(時間賃率は一定)215万人の雇用増

        A時短によっても給与水準を維持した場合(実質、時間賃率を5%増)285万人の雇用増

        B、@+パート雇用者の給与(時間賃率)を1%増:150万人の雇用増

        C、A+パート雇用者の給与(時間賃率)を1%増:208万人の雇用増

 

[18] 男性労働者において中高年はますます厳しくなり、若年層はかつてより成果主義的になっていくであろう。とはいえ、日本の雇用システムはもともと終身雇用制・年功序列型賃金体系が主流だったというよりも、年功的に運用されてきたとはいえ、長期にわたって選抜していく能力主義的であったのであり、その点を見誤って結果だけを重視するような成果主義的な制度を導入すると却って状況を悪化しかねない。よって、これまでのシステムの歴史的展開を押さえて上での対応が求められよう。現に、成果主義の見直しが行なわれ、プロセス重視やコンピテンシー重視が取り入れられ始めているが、これは以前の能力主義管理への回帰現象とみなしうる。

 

[19] この事例の詳細は、趙成載(2002)、構造調整企業事例研究、労働部研究サービス資料を参照のこと。

[20] この節に関するより詳細な内容は、朴宇成・盧鎔眞(2001)の「第3章 構造調整と労使関係の変化」を参照のこと。

[21] この資料の詳細は、李源徳・鄭進浩(1998)、鄭進浩・鄭閔浩(1999)を参照のこと。

[22] この資料の詳細は、崔康植・李奎鎔(1998, 1999)を参照のこと。

[23] この資料の詳細は、金在九(1999)を参照のこと。

[24] この資料の詳細は、金薫・朴俊植(2000)を参照のこと。

[25] この節に関するより詳細な内容は、朴宇成・盧用鎭(2001)の「第2章 経済危機以後の人的資源管理の変化の実態と課題」を参照のこと。

[26] 今年に入ってから職場閉鎖を行った外資系企業には、韓国オウエンスコウニング(アメリカ)、テクラフェック(スフェデン)、KGI証券(台湾)、KOC(日本)、韓国ネスレー(アメリカ)などがある(2003825日現在)。また、今年に入ってから中国に生産拠点を移した韓国企業は、仁川地域だけでも600に上るといわれる(2003825日現在)。

[27] 日本の民法(626条以下)では、「解除」という表現を使っているが、韓国の現行民法では、旧民法とは異なり(旧民法では、日本と同じく「解除」となっていた)、「解止」という表現を使っている。解止は、将来的に向けてのみその効力が生じる点において、解除とは区別される。しかし、日本の民法630条が解除の効力の不遡及を定めているから、その効力においては解止と変わりがない。また韓国の現行民法660条においても、Kündigung(解約告知)の意味として、日本の民法627条とは異なり、「解止通告」という表現を使っている。

[28] 解雇法制の内容に関する詳細は、李 鋌『解雇紛争解決の法理』(信山社、2001年)243頁以下および、整理解雇が導入されえた背景については、同『整理解雇と雇用保障の韓日比較』(日本評論社、2001年)75頁以下参考。

[29] 現在の韓国の労働法体系は、日本と同様に、勤労基準法(労働基準法)、労働組合および労働関係調整法(労働組合法と労働関係調整法)を根幹として、男女雇用平等法(男女雇用機会均等法)、最低賃金法、労働委員会法(労働委員会規則)、産業災害補償保険法(労働者災害補償保険法)、産業安全保健法(労働安全衛生法)、派遣勤労者保護等に関する法律(1998年制定、派遣法)、雇用保険法、職業安定法などからなり、内容面においても部分的に若干異なる点はあるものの、日本の労働法と基本的に同じである。ただ、日本では、労使協議制の実施如何が労使自治に委ねられているのに対して、韓国では、1980年に労使協議会法(同法は、1997313日の改正で「勤労者参与および協力増進に関する法律」に改称)が法律として制定され、一定規模の事業場に対しては労使協議会の設置が義務付けられていることことは、日本と異なる。韓国の労働法制に関する詳細は、孫昌熹『韓国の労使関係』(日本労働研究機構、1995年)145頁以下、林和彦「韓国の労働法制」季刊労働法17419頁以下、李 鋌「韓国における争議行為制限の問題−日本との比較」日本労働研究機構雑誌37649頁以下、同『21世紀の労使関係(韓国編)』(日本労務行政研究所、1992年)136頁以下、林和彦=李 鋌「韓国の新労働立法―解説と翻訳(1)(3)」日本法学633号(1997年)・4号(1998年)、同632号(1998年)等を参照されたい。

[30] ただし、これらの解雇禁止には例外がある。例えば、Bの業務災害について、使用者が平均賃金の1,340日分の一時補償金(勤基法87条)を支払った場合、またBCにおいて、天災地変その他止むを得ない事由のために事業の継続が不可能である場合がそれである。後者においては、労働部長官の承認が必要である(勤基法303項、322項)。

[31] 鋌「不当解雇に対する処罰規定の妥当性」経営界29720頁。

[32] 日本においても、諸解雇制限規定の違反に対して処罰規定が付いているが、その制裁の内容は統一されている。まず、労基法上の制限規定についてみると、例えば、@国籍・信条・社会的身分による差別禁止(労基法3条)、A業務災害・産前産後における解雇制限(労基法19条)、B解雇の予告(労基法20条)、C監督機関に対する申告による不利益取扱禁止(労基法104条)に違反すると、6ヵ月以下の懲役または30万円以下の罰金に処せられる(労基法119条)。ただし、労組法上の不当労働行為による解雇禁止(労働組合法71号、4号)に違反した場合は、1年以下の禁固若しくは10万円以下の罰金に処せられる(本法28条)。

[33] 韓国では、最近、3回にわたって大幅な労働法改正が行なわれた。今回の労働法 改正の背景には、おおむね@朝鮮戦争中に制定された従来の労働法と現在の経済 状況との間にはかなりの乖離があったこと、AILOやOECDへの加入によっ て、労働法全般における見直しが迫られたこと、B経済的危機を乗り越えるためには、雇用調整や労働市場の流動化を図る必要があったこと、Cその他、政治的民主化による 労働者からの労働法改正の要求があったこと、などがある。第1回目の改正(19961231日)では、従来の労働法と労働争議調整法を「労働組合および労働関係調整法」という一つの法律に統合するなど、革新的なものであった。その主な改正内容は、@複数労働組合主義を採択したこと、A第三者介入禁止規定を削除したこと、B組合専従者に対する給与を禁じたこと、C変更労働時間制やフレキシブルタイム制を導入したこと、D経済的解雇保護規定を新設したこと、等である。しかし、第1回目の改正は、労使間において最も意見の対立が多かった複数労働組合問題や経済的解雇問題について、政治的合意が得られないまま与党が強行採決したために労働者側の激しい反発を招くようになった。そこで、第2回目の改正が1997313日に行なわれた。同改正では、労働者側からの批判の的となっていた複数労働組合(上級団体)の設立における猶予期間を削除するとともに、経済的解雇の正当理由についても、従来の「継続する経営の悪化、生産性を向上するための構造調整と技術革新または業種転換など、緊迫した経営上の必要」となっていたことを「緊迫した経営上の必要」に簡素化した。しかし、韓国の経済は、1997年後半期から急激に悪くなり、IMFから援助を受ける事態を招くと、これまでの「高費用・低効率」の体質の改善を要求する声が高まるようになった。その結果、1998220日に第三回目の労働法改正が行われ、整理解雇の基準が補完されるとともに、長年の懸案であった労働者派遣法(正式名称は、「派遣勤労者保護等に関する法律」)と賃金債権保障法が新しく制定された。最新の労働法改正の内容については、林和彦=李 鋌・前掲論文参照。

[34] 従来の判例では、いわゆる整理解雇の4要件のうち、「緊迫した経営上の必要性」を判断するに当たって、どの程度の緊迫性を要求するかが争われてきた。この点について、裁判所は、少なくとも80年代までは人員整理を実現しなければ「倒産必至」という事情がある場合にのみ人員整理の必要性が認められるとしてきたが、90年代に入ってからは経営の悪化という経済的理由だけではなく、生産性の向上や競争力を回復するための作業形態の変更や、新技術の導入の際の人員整理の必要性を認めるなど、以前に比べてその判断基準がかなり緩和されるようになった。

[35] 林鍾律『労働法(ハングル版)』(博英社、2003年)477頁。

[36] 労働部(日本の「労働省」に当たる)では、解雇の「正当な理由」をめぐる解釈論上の混乱を防ぐと供に、行政指導の一貫性を保持するために、「正当な事由の運用基準に関する業務指針」(1984.12.10、勤基1451-24180)を作成・通達したことがある。その内容は、整理解雇の要件や懲戒(解雇を含む)の事由に関するものが中心となっているが、同指針では、特に懲戒解雇ついてかなり細かく定めている。

[37] この点に関する判例の立場をみると、@不当労働行為を禁じている旧労組法39条(現行労調法81条)は強行規定であるから、これに違反する法律行為は私法上効力がないとした例(大判1993.12.21,9311463)、A解雇予告期間を定める旧勤基法27条の2(現行勤基法32条)に違反した解雇であっても、私法上の効力には何ら影響がないとした例(大判1993. 9.24,934199)、Bある法律行為が強行規定に反するものとして無効となるためには、その法律行為の中心目的たる権利義務の内容が善良な風俗その他社会秩序に反しなければならないとしたうえ、労働協約の締結過程において公序良俗に反する行為があっても、これは労働協約の内容とは関係ないから、公序良俗違反にはならないとした例(ソウル地判1994.12. 30,94ガハップ39968)がある等、その見解が必ずしも一致していない。

[38] この点に関する詳細は、朴相弼「韓国における整理解雇に関する判例動向について」季刊労働法17479頁以下および、盧尚憲「韓国の新労働法制と整理解雇―整理解雇法制の検討を中心に()()」労働法律旬報142526号参照。

[39] 例えば、三益建設事件(大判1989.5.23)および東部化学事件(ソウル高判1991.1.17)等。これらの裁判例では、日本の木村野上事件(長崎地大村支判昭501224判時81898頁)の判断基準を基本的に踏襲している。

[40] 東部化学事件(大判1991.12.10,918647法院行政処『法院公報』1992.2.1470頁以下)。

[41] 大判1994.6.28,9333173

[42] 公務員や教師に対する「週5日労働制」の導入と関連して、担当部署である行政自治部と教育人的資源部でそれぞれ検討しているが、これらのうち、教師の場合は2005年から月1回「週5日労働制」を導入する計画である。

[43] 現代自動車の労使は、200385日、勤基法改正に先だって、労働組合が要求した「週5日労働制」・「非正規職の待遇改善」・「労働組合の経営参加」などに合意したが、産業界において現代自動車の影響力が大きいだけに、現代自動車のケースは他の企業の労使関係に与える影響は大きいと予想される。