山口大学医学部医学科の教育研究講座をご紹介します。
令和2年4月1日作成
最近3世紀における医科学の発展は、生命現象を還元主義により、構成する酵素や転写因子などの要素に分解することでもたらされて来ました。しかし、生命現象は想像以上に複雑で、各々の要素に関する理解だけでは予想もつかないような挙動を示します。例えば、がん分子標的薬を用いた治療で一時的に効果が見られても、標的遺伝子の機能を他の分子群が補うことで耐性のがん細胞の再発が起こるため、がん治療には未だに限界があります。
当分野では、真に有効ながんの治療法や再生療法の開発のために、生命現象を多階層システムとして捉え、さまざまな傷害に対する応答を正確に予測するシステム生物学的アプローチを用いた解析を進めています。ヒトの病態・再生に関わる分子の網羅的解析(ゲノム・トランスクリプトーム・プロテオーム・エピゲノム)だけでなく、モデル動物・ヒト組織の3次元培養を用いて、組織・臓器を形成する細胞社会のネットワークを含めた多階層ネットワークを明らかにします (図1)。
私たちは、メダカ変異体の網羅的解析により、臓器の物理特性の制御を介した3D臓器の形成機構を世界に先駆けて見出しました(Porazinsiki et al., Nature, 2015、図2)。体が透明なメダカ胚の利点を生かして3D臓器形成過程を解析した結果、YAP遺伝子が蛋白、細胞のふるまい、組織、臓器、個体の多階層レベルでどのように制御しているのかを明らかにしました。現在は、このような多階層レベルの解析をヒトで行うためのシステムを樹立し、臓器の物理特性制御という全く新しい視点から、病態メカニズムの解明、創薬を目指しています。更に、このような革新的な視点から病態を捉えることができ、世界の第一線で活躍することのできる医師や医学研究者を育成して行きたいと考えています。