山口大学医学部医学科の教育研究講座をご紹介します。
令和3年5月1日作成
生命科学のめざましい発展により,私たちのからだの様々な形態や機能をもつ臓器は,共通な分子の働きによって営まれる細胞の集団として捉えられるようになってきました。それに伴い,現在の医学では,病気がひき起される原因を核酸やタンパク質などの分子のレベルで理解することが求められています。その理解は病気の診断と治療の開発につながるために,分子レベルでの病態解明は臨床に直結する時代となりました。私たちの教室では,教員が一丸となって,学部や大学院教育を通して医学の進展を支える生化学・分子生物学の重要性を伝えられるよう努力しています。
学部教育では,分子細胞生物学ユニットを中心に講義を行っています。当該ユニットは,どの講義の内容も先人が切り開いたノーベル賞級の発見が基盤となり,教科書レベルの知識として定着していることを力説しています。さらに,病気の理解に欠かせない最先端研究も取り上げ,生命や病気の理解が時代とともに変化していることを実感してほしいと考えています。当該ユニットを修得した後は,細胞生理化学演習ユニットでいくつかの病気に焦点を当てて,発展的な自主学習を促します。生化学実習を含めた一連のユニットを通じて,学生が医学に必要な基本的な原理や原則等を理解することを目標としていますが,一人でも多くの学生が自分の研究で新しい分野を切り開きたいという思いが芽生えることも期待しています。この時期に,科学的な視点で論理的に病気を捉える視点を修得することで,将来医師として的確な判断ができるようになると考えています。
これら教育の科学的な裏付けとなるのが研究活動です。私たちは,一貫して温熱ストレスに対する適応の仕組み(熱ショック応答とよばれる)が,私たちの健康にとっていかに重要な役割を担っているかを明らかにしてきました。この生物に普遍的な適応機構は,異常な細胞内タンパク質を修復する仕組みの中で最も重要なものの一つです。ここ10年ほどで,熱ショック応答によるタンパク質恒常性の調節が,「老化および老化と関連する神経変性疾患等の病気の抑制」に重要な仕組みであるという概念が確立されました。「がん」の発症と維持にこの応答が利用されていることも明らかにされ,その治療ターゲットとしても注目されています。私たちが世界ではじめて明らかにした新規の分子機構や,新たに作製した遺伝子改変モデルマウスや実験材料が,国内外の様々な医学領域の研究者との共同研究に発展し,この仕組みの生理過程及び病理過程における役割の理解,さらには病気の治療法の開発に貢献してきたことは,研究者としての大きな喜びです。医学・生命科学の新しい未来への扉をあけたいという夢をもつ大学院生及び学部学生の参加を期待しています。