山口大学医学部医学科の教育研究講座をご紹介します。
令和4年8月1日作成
眼科学分野は,眼球及びその付属器の生理学及び疾患病態学を担当し,診療分野としては視機能を障害する多くの疾患の治療を担当しています。眼球は複雑な構造を有し,全ての構造が協調的かつ合理的に機能することによって視機能は維持されています。従って,眼組織の一部の機能異常や構造異常が眼球全体の機能障害を来し,視機能障害の原因となります。
眼科学では,眼球及びその付属器の正常構造や生理機能を研究解析し,さらに疾患における病態生理を解明することにより治療法の確立を追求しています。
【難治性網膜硝子体疾患における線維増殖膜形成機序および治療法の開発】
糖尿病網膜症,網膜剥離,加齢黄斑変性などの網膜硝子体疾患は,近年本邦で有病率が増加の一途をたどる疾患であり,その治療の困難さが問題となっています。中でも,網膜脈絡膜における線維増殖膜形成が,視力予後に非常に悪影響を及ぼすことが判っています。我々は,眼炎症がその病態に大きく関与していると考え,炎症性細胞の関与や,その制御による治療法の開発に取り組んでいます。また,iPS細胞から網膜色素上皮細胞を誘導するシステムを取り入れ,病態解明や治療への応用を検討しています。
【広義眼炎症疾患に関与するケミカルメディエーターの網羅的解析】
ぶどう膜炎や糖尿病網膜症などに代表される眼炎症性疾患での眼内組織,前房水,硝子体液を用いたケミカルメディエーターの網羅的解析を行い,その発症機序の解明,新規治療法の開発を進めています。また,ぶどう膜炎では実験ぶどう膜炎モデルを用いて新たな発症に関与する標的分子を検出し,科学的根拠に基づく免疫学的治療法の開発を目指しています。
【難治性角膜疾患に対する点眼治療の開発と臨床応用】
神経伝達物質の一つであるサブスタンスPとインスリン様成長因子-1の合剤投与が難治性遷延性角膜上皮欠損の治療に有効であること,またサブスタンスP及びインスリン様成長因子-1それぞれの有効最小必須配列FGLM-NH2とSSSRを同定し,同様の有効性を証明してきました。さらに,糖タンパクの一つであるフィブロネクチン由来ペプチドPHSRNに上皮欠損治癒促進機能があることを示し,実際の遷延性角膜上皮欠損の治療に有効であることを証明しました。これらの薬剤の角膜上皮細胞に対する作用機序を解明しながら,臨床での有効性をさらに詳細に解析しています。
【緑内障手術後の瘢痕抑制治療法の開発】
緑内障は有病率が高く,時に外科的な治療が必要になる疾患です。手術成績を向上させるには,緑内障手術後の瘢痕形成の制御が鍵となります。我々は性ホルモンに着目し,緑内障手術後の瘢痕形成のメカニズムの解析と治療法の開発を行っています。
【抗新生血管薬(抗VEGF薬)の治療効果に関する臨床研究】
糖尿病黄斑症や加齢黄斑変性などの難治性黄斑疾患への治療に抗VEGF薬の硝子体内注射があります。本治療は反復投与が必要ですが,当科では投与回数を安全に減量して患者さんの負担を軽減するために,独自に考案した投与レジメンの有用性や,レーザー併用療法の治療効果について臨床研究を行い,成果を挙げています。