山口大学医学部医学科の教育研究講座をご紹介します。
令和4年8月1日作成
医学の中で,学問体系としての麻酔科学の確立は,歴史的には比較的新しいですが,人間の苦痛のうち大きい位置を占める疼痛に対する医療をになうという点では,医療の原点に通じています。また,麻酔科医療は,外科学の進歩の大きな土台をなしています。今日では,手術の麻酔,疼痛治療のみにとどまらず,集中治療(ICU),救急医療,緩和医療において,麻酔科医の活躍する場は広いところです。実際に当分野では,手術室の麻酔,ペインクリニック,集中治療, 緩和医療の4部門で診療を行っています。大学病院には,県内最後の砦という役割もありますので,我々は治療が難しい患者さんに対しても高度の医療を提供できるように日夜努力をしています。
教育面では,後期研修まではマンツーマンで麻酔の指導を行っています。最近では,若手が少し下の若手を教える屋根瓦方式を試みています。若手医師のキャリアアップをうまく支援できるように柔軟に対応し,「頼もしいプロフェッショナル」だと評価されるような人材育成に努めたいと思っています。また,人の開発した技術を習得して満足するのではなく,日々の麻酔をよく観察し,よく考え,疑問を解決するresearch mindを身につけられるように,共に考え,共に研究する体制を重視しています。
当分野の研究目標は,意識,痛覚,呼吸,循環,代謝の調節に関わる神経系の機能を麻酔科学の見地から解析し,手術侵襲に対しての生体防御機構の賦活,危機的状態の治療戦略,難治性疼痛疾患の病態解明・治療戦略を科学的に追求することです。最近特に力を入れているのが,大動脈瘤手術時の脳・脊髄保護です。大動脈弓部置換を行う患者さんでは,人工心肺中の脳循環の維持が非常に重要で,各種モニターを駆使して周術期の脳障害を防ぐことに焦点を当てて研究を続けています。また,胸腹部大動脈瘤の手術では,大動脈遮断中の脊髄虚血により術後に対麻痺を起こすことがあります。当分野では,この十数年間,家兎の脊髄虚血モデルを用いて脊髄虚血の病態と脊髄保護に関して基礎的研究を続けています。臨床医の視点を大切にして,研究を発展させてゆきたいと考えています。