2008年4月8日 20:46:20
山口大学大学院 医学系研究科 応用分子生命科学系専攻 生命物質化学分野 生命物理化学研究室
二光子吸収現象 | |
光を光子として考えると、二光子吸収は、物質が2個の光子を同時に吸収して励起状態へと遷移する現象である。その特徴は、@吸収量が光強度の2乗に比例するので、光強度の高いときにのみ観測されるので、レンズで集光すると光強度の高い焦点付近でのみ吸収を起こすことができる、A一光子では吸収の生じない透明な波長領域の光を用いて励起状態に遷移させられる、の2点である。右側の図中の写真は、左からレンズで集光した光を蛍光色素に照射した際の様子である。蛍光の生じている場所が吸収の生じている場所になる。二光子吸収では試料内部にある焦点でのみ蛍光が生じているのがわかる。そのため、焦点の位置を動かすことによって、望んだ場所だけを励起することができる。すなわち、二光子吸収を利用すると、光吸収に対して三次元的な空間選択性を与えることができる。 | |
なんだかんだ言ったけど、分子が1個の光子を吸収したときが一光子吸収。分子に2個の光子が同時に吸収されたときが二光子吸収だ!! | |
そして、焦点だけで二光子吸収を起こすことができるのは・・・ | |
いっぱい光子があるときだけ物質が光子を2個同時に吸収できるからだぜ( ̄ー ̄)ニヤリッ |
二光子吸収の応用 | |
三次元光記録 (3 dimension data storage) | Blu-rayに代表される現行の二次元光記録に代わる大容量記録を可能にする技術。二光子吸収型三次元記録は、二光子吸収の高い空間分解能を使って、記録媒体中に三次元的に記録する。 |
二光子蛍光バイオイメージング(two-photon induced fluorescence bio-imaging) | 生体細胞を生きたまま可視化し、生体内での現象がいつ、どこで、どのように起こっているのか追跡する技術。二光子蛍光バイオイメージングの利点としては、@焦点付近の蛍光プローブのみを励起することが可能なため、細胞の奥行方向についての情報を含んだ断層イメージングが可能、A一光子励起に比べ長波長の光を使うので、励起光の散乱が少なく、励起光を深奥部まで到達させることができる、B観察したい場所のみを励起することが可能なため、その場所以外から蛍光が生ぜず、観察したい場所以外からの蛍光により観察像がぼやけないことである。 |
三次元造形(microfabrication) | 二光子吸収により光硬化性樹脂の重合場所を三次元的に制御することで、サブマイクロメーターのレベルで立体的な造形物をつくる手法。お土産屋で売っているガラスの中に像の書いてあるオブジェも二光子吸収を使った造形の一つ。 |
三次元光線力学治療(two-photon photodynamic therapy) | 薬剤の励起に二光子吸収を用いることで、健康な細胞に吸収されず、かつ散乱を受けにくい長波長の光(750-1000 nm)を励起に使用でき、表面以外の深部まで光線力学治療を行なえるようにする技術。 |
光制限 (optical power limiting) 素子 | 光制限素子は、閾値以上の強度の光は吸収し、閾値以下の強度の光は、ほとんど吸収せずに透過させる。この素子は、非常に強力なパルスレーザーの内部に組み込まれ、稀に生じるホットスポットを吸収し、装置が壊れるのを防ぐために使われている。将来は、光センサーや目の保護への利用も期待されている。 |
高効率二光子吸収材料の開発 | |
三準位モデルによると、分子の持つ二光子吸収断面積(二光子吸収効率を表わす値)は、遷移双極子モーメントの2乗に比例し、デチューニングエネルギーの2乗に反比例する。すなわち、遷移双極子モーメントが大きいほど、また、デチューニングエネルギーが小さいほど、二光子吸収断面積は大きくなる。 これまで、二光子吸収断面積の大きな分子を得るための分子設計指針は、遷移双極子モーメントを大きくするための指針に限られていた。右の図は、その指針をまとめたものである。※GMは二光子吸収断面積の単位。 |
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当研究室では、つい最近、デチューニングエネルギーを小さくするための指針を見出した。この指針と遷移双極子モーメントを大きくする指針と組み合わせることで超高効率二光子吸収化合物を得ることができる。 デチューニングエネルギーを小さくするためには、主吸収帯よりも低エネルギーに、別の一光子吸収許容準位を設けることが重要となる。左の図。 |