脳腫瘍

当院での脳腫瘍の治療

「脳」という組織は部位によって機能が違うため、5cmの腫瘍であっても摘出できる場合もあり、一方で1cmの腫瘍でも摘出できない場合があります。その中で、患者さんに不利益を与えないような最大限の摘出と、必要であれば放射線・化学療法を行い、安全な脳腫瘍治療を提供します。

山口大学医学部付属病院脳神経外科では治療成績の向上のため、日々研鑽を積んでいます。以下のような最先端の画像システム、治療方法を取り入れ、より安全に、より効果的な治療を行うよう尽力しています。

1)術前3D画像による手術イメージ

当科では術前検査として行ったCTやMRI画像から、3D画像を作成して術前のシミュレーションを行っています。通常のCTやMRIはあくまで2D画像であり、実際の手術のような3Dの画像は、特殊なソフトを用いて経験のある脳神経外科医が作成します。これを作成することにより、実際の手術のイメージをより鮮明に行い、手術計画をより綿密に立て、手術の成功率をより高めるよう努力しています。

2)顕微鏡手術

一般的に脳腫瘍のように細かな手術は顕微鏡を用いて行われます。これは肉眼で目視が難しい非常に小さな血管や神経なども十分確認でき、より安全に手術を行うためのものです。通常の拡大のみならず、特殊な蛍光を照射することにより腫瘍や血管を選択的に描出することも可能になります。

3)ナビゲーションシステム

術前にCTやMRIを施行し腫瘍の位置をmm単位で同定します。しかし、実際手術の際は、腫瘍の大まかな位置はわかりますが、mm単位までは把握できません。これを可能とするのがナビゲーションシステムです。カーナビゲーションで車が地図上のどこにいるかわかるように、ポインターで指せば、患者さんの腫瘍がどこにあるのか、正確に把握することができます。当院にはブレインラボ社とメドトロニック社の2つのナビゲーションシステムがあり、特にメドトロニック社のStealthStation S8は最新式のナビゲーションシステムです。

ナビゲーションシステム

4)術中MRI

脳腫瘍はMRIでは境界が明瞭ですが、見た目だけでは正常の脳と境界の区別がつかないものもあります。その際は、脳腫瘍を摘出した後、手術中にMRIを撮像することが可能です。手術室の隣がMRI室になっており、手術台のベッドからスライド方式で移動が可能となっています。これにより残存腫瘍を把握し、さらに上記のナビゲーションシステムを用いて、腫瘍がどこに残存しているか的確に把握し追加切除することが可能です。

術中MRI

5)神経生理学的モニタリングシステム

顕微鏡やMRIだけでは、重要な神経がどこを走行しているかの判断は困難な場合があります。その際は、脳や神経に電気的刺激を行い、重要な神経線維を同定することが可能です。具体的には運動神経、感覚神経、視機能の神経などです。当院では経験豊富な日本臨床神経生理学会・専門技術士認定を受けた臨床検査技師が専属でモニタリングを行っており、ほとんどの手術で活用しています。

神経生理学的モニタリングシステム

6)覚醒下手術療法

MRIや神経生理学的モニタリングでも言語中枢の把握は困難です。その際は、手術中に患者さんに覚醒してもらい、言語を発してもらいながら脳腫瘍を摘出する覚醒下手術療法を行っています。当院は、脳神経外科と麻酔科医が講習を受け、学会から覚醒下手術療法の認定を受けています。

覚醒下手術療法

7)神経内視鏡

内視鏡というと胃や大腸の内視鏡をイメージされると思いますが、脳神経外科の手術でも内視鏡を用いて行います。これにより小さな病変や脳の中の髄液空間などに存在する腫瘍に対して非常に小さな侵襲で手術を行うことが可能です。当科では画像が極めて鮮明な4Kやハイビジョン内視鏡を用い、下垂体部やその他の脳腫瘍の診断・摘出術を行っています。

神経内視鏡

8)化学療法

手術で脳腫瘍を摘出したとしても再発の可能性があり、追加の化学療法(抗がん剤)が必要なことがあります。脳腫瘍といっても種類は豊富であり、それぞれ異なる化学療法治療が必要となります。脳は他の臓器と比べ、化学療法が効きにくく、脳腫瘍に特化した専門的な知識が必要となります。当科ではがん治療認定医を持つ脳神経外科医が化学療法を行っています。

9)放射線治療

脳腫瘍には放射線治療が非常に有効なものがあります。当院では放射線腫瘍科と協力し、ライナックという装置を用いた放射線療法を行っています。なるべく正常の脳には放射線を当てず、脳腫瘍にのみ放射線を当てるよう高度に設計された強度変調放射線治療(IMRT)も可能です。さらにより細かな病変に、精密に放射線を当てるため、近隣の病院のサイバーナイフを紹介することも多く行っています。