第68回西日本脊椎研究会  抄録 (一般演題W)

14.当クリニックでの脊椎手術における合併症対策

 

島原整形外科 西村クリニック 

 

○西村 行政

 

【目的】

当院では2006124日に開院して以来、 292例の脊椎手術を行った。 70歳以上が約30%を占め、 80歳以上は3.8%であった。脊椎手術の大原則は、いかに安全に、確実に、かつ長期に安定した成績が得られるかである。少ない人員で効率よく行うために、演者が工夫している点がいくつかあり、それらを述べる。

 

【結果】

手術体位はHall frame上にパッドをおいて、皮膚障害を減らすとともに、高さを確保し腰椎の前考を減じるようにしている。体位変換時は手術台を傾け、患者を転がすように移動させている。頚椎では、やはりMayfieldを使用するのがアライメントを自由に調整できるので有用である。エアトームはスチールバーの代わりに粗めのダイヤモンドバーを使っている。合併症を起こすような道具は使わないようにしたほうが良い。術後の感染や血腫も可能な限り回避しなければいけない。手術方法は、できるだけ解剖学的構成体を温存し、固定術を併用せずにも済むような手術を行っている。頚椎の拡大術は、出血を減じるために観音開き式にし、その保持に工夫を凝らしている。

15.頚椎椎弓形成術における周術期合併症と対策

 

宮崎大学医学部 整形外科 

 

○猪俣 尚規、久保紳一郎、黒木 浩史、濱中 秀昭、花堂 祥治、桐谷  力、 小島 岳史、福島 克彦、帖佐 悦男

 

【目的】

頚椎椎弓形成術は元来、安全性を高めるために改良されてきた術式であるが合併症に遭遇することがある。今回我々は、過去4年間に当科で施行した頚椎椎弓形成術における治療成績、周術期合併症とその予後を調査し、予防対策を文献的考察を加え検討した。

 

【対象および方法】

平成153月から平成198月までに当科で頚椎椎弓形成術を施行した頚髄症134(CSM99例、 OPLL29例、CSA6)を対象(外傷、 腫瘍、 RA DSAを除く)とした。男性89例、女性45例、年齢は44-90(平均年齢67.7)であった。周術期合併症と各疾患のJOAscoreの推移を後ろ向きに調査検討した。

 

【結果】

既往症として糖尿病24例、高血圧39例、肝機能異常7例、心血管系疾患11例、脳梗塞4例が認められた。周術期合併症は10(7.5%)に認め、 C5麻痺6例、 C7不全麻痺1例、術後硬膜外血腫2例、硬膜損傷1例であった。これらの合併症とその対策について検討した。

16.高齢者における脊椎外科手術の合併症

 

医療法人緑泉会 整形外科米盛病院  

 

○中原 真二、園田  勉、米盛 公治

 

【目的】

高齢化社会の進展に伴い、脊椎外科の領域においても、高齢者の手術は増加している。高齢者の手術に伴う合併症の頻度、内容は不明な点も多く、これを調査した。

 

【対象と方法】

当院にて20031月からの4年間に75歳以上の高齢者に対して行った脊椎外科手術129例を対象とし、手術内容、手術時間、術中出血、術後合併症を調べた。

 

【結果】

 75歳以上の手術症例は年毎に増加傾向にあった。全129例で、術前評価として、ASA (アメリカ麻酔学会)によるPhysicalStatus(軽症からPSl、最重症がPS5)ではPSl49例、PS260例、PS320例であった。術後合併症としては、呼吸器系10件、循環器系9件、消化器系13件、精神系3件、感染1件、肺梗塞1件、その他3件を認めた。術後合併症の発生頻度は、術前PSが重症化するほど合併症の頻度が高くなっていた。

 

【考察】

高齢者の脊椎外科手術合併症を把握することは、合併症の軽減を図ること、正確なインフォームドコンセントを行うことに役立つと考えられた。

17.脊椎術後周術期肺血栓塞栓症の治療 経験

 

南風病院 整形外科 

 

○河村 一郎、川内 義久、鮫島 浩司、富村奈津子

 

【目的】

周術期肺血栓塞栓症(以下:PTE)の認知度は高まっているが、その予測や発見は容易ではない。今回術前に血栓性 素因なく脊椎手術後にPTE発症した例を呈示するとともに若干の文献的考察を含め報告する。

症例1 :66歳 女性  腰部脊柱管狭窄症にて脊椎後方固定術施行。 

術後10日目にトイレに行った際気分不良出現し、意識消失、心肺停止となる。 

蘇生後肺梗塞の診断を得、血栓溶解療法を行った。

症例2 :59歳 男性  馬尾腫瘍にて腫瘍摘出術施行 

術後12日目に気分不良訴え意識消失、心肺停止となる。一時回復後、心カテーテルにて血栓除去したが、再び心停止し死亡となる。

 

【考察】

PTEは脊椎手術後の発生頻度が最も高いが、術後血腫の問題もある為、薬物的予防法も行ない難い。今回の症例は結果として早期離床がなかなか進まなかったことが誘因の一つと考えられるが、術前に十分予測し得なかった症例である。今後高齢者の手術が増加することが予想されることを考慮すると、 PTEの予防を徹底するとともに、患者、家族へ-の説明を十分に行うことが必要である。

18.脊椎手術後の深部静脈血栓症、肺梗塞の診断におけるD-dimerの検討

 

大分大学 整形外科 

 

○吉岩 豊三、田北 親寛、金崎 彰三、 東   努、津村  弘

 

【はじめに】

当院では術後D-dimerを測定し、 DVT PE発生予測の補助診断として用いており、評価検討したので報告する。

 

【対象と方法】

 20067月から20076月に脊椎手術を施行した88症例(平均年齢62歳、男性48例、女性40)を対象とした。術前後D-dimerを測定し、術後に高値を示したものは造影CTを施行し、 DVT PEの有無を調べ評価検討した。

 

【結果】

術後D-dimer高値を示した9(10%)であり、そのうち5(56%)DVTを認め、2例にPE (22%)が生じていた。 5例の疾患は、腰部脊柱管狭窄症4例、胸椎硬膜外腫瘍1例であり、下肢麻痺は術前2例に認められた。年齢、性別、 BMI、手術時間、出血量に有意差はなかった。

 

【考察】

 D-dimer高値群では約半数にDVTを認めており、補助診断となりうると思われた。また、 DVT PEのリスクファクターとして、年齢、肥満などがあるが、腰椎術後にDVTの発生が多く、下肢麻痺もDVT発生のリスクになっている可能性が示唆された。

 

19.術前下肢静脈血栓予防の試み

 

宇和島社会保険病院 整形外科 

 

○藤田  勝、松田 芳郎、冨永 康浩、 大西 慶生、井上香奈子、藤井  充

 

【目的】

術前に下肢静脈血栓症の危険性について評価し、術後肺塞栓症の予防を試みた。

 

【対象、方法】

 20064月から20079月までに当院にて脊椎手術(外傷除く)を行った193(129例 女64例、平均年齢63.2)について術前にDダイマーを測定し、高値の症例に対しては造影CT撮影を行い、血栓の有無を調査した。また患者の静脈血栓予防調査票を使用しリスクレベルに応じた術後血栓予防を実施した。

 

【結果】

術前Dダイマー値の平均値は1.3で、術前に造影CTで血栓が見つかった症例は1例のみ(Dダイマー:5.4)で、この症例に対しては血栓溶解を行い手術施行した。術後肺塞栓症を生じた症例は認めなかった。

 

【考察、まとめ】

脊椎手術の場合、硬膜外血腫の危険性のために術後の抗凝固療法は実施しにくく、なるべく術前に血栓症に対するリスクを評価し予防に努めることが大切と考える。今回は造影CTを用いて二次スクリーニングを行ったが、コストや患者侵襲の点で問題があると思われた。下肢の静脈血栓を疑う術前Dダイマーのカットオフ値は3.0が適当と考えられた。