第69回西日本脊椎研究会  抄録 (一般演題T)

1.加速度センサーを用いた膝蓋腱反射の定量化の実験経験

 

福岡大学整形外科1  

福岡大学工学部2 

 

小林(こばやし)達樹(たつき)1、有水 淳1、伊崎輝昌1、高森義博1、内藤正俊1、森山茂章2

 

 膝蓋腱反射は簡便で安価な検査だが、その評価は多分に主観的要素が強く定量化が困難とされてきた。今回、我々は加速度計を用いた膝蓋腱反射を定量化する実験について報告する。今回は健常者を対象とし、被験者は十分な高さの椅子または机の上に両下肢を垂らした状態で座り、3軸方向の加速度計を足関節に取り付け、ハンマーの先端には叩打時の力量を測定できるセンサーが付いている。実験前に最も反射がよくみられる叩打点を決めておき、同部位を23秒の感覚をおいて連続して膝蓋腱を叩打する。各叩打時の力量を計測し、同時に得られた3軸方向の加速度ベクトルを積分し、ピタゴラスの定理を用いて速度を算出した。膝蓋腱反射の定量化法については2006年に馬見塚らが同様の装置を用いた実験結果を報告している。今回我々は健常者において、叩打の回数の増加と、それによる速度・加速度の疲労性減少の有無や、叩打の力量の増加と、それに伴う速度・加速度の変化等を比較・検討したので、若干の考察を加えて報告する。

 

2.側弯症診療における腹皮反射の意義

 

宮崎大学整形外科

 

黒木(くろき)浩史(ひろし)、猪俣尚規、久保紳一郎、濱中秀昭、花堂祥治、帖佐悦男

 

【目的】神経原性側弯症は必ずしも神経症状を伴わず脊柱変形が唯一の症状の場合がある。本研究の目的は脊柱側等症患者に対する腹皮反射の意義に関し検討を行うことである。

 

【対象と方法】平成11年から平成19年の9年間に当科側弯症外来を初診した脊柱側弯症患者のうち先天性と症候性を除く446(42例、女404例、平均年齢133ケ月)を対象とした。以上の症例全例に腹皮反射を施行しその異常者15(3.4の に対し頭頚部MRIを撮像した。そしてMRI異常群と正常群とでカーブパターンやCobb角の比較を行った。尚、腹皮反射は腹部上下左右4箇所に施行し左右差をもって異常と判定した。

 

【結果】MRIにて15例中4(26.7%)Chiari奇形I型ないし脊髄空洞症が発見された。また異常者の4例中3例が非定型的な左胸椎カーブを呈していた。初診時Cobb角は異常群で42.3±19.40、正常群で22.1±6.80 と有意差を認めた。

 

【結論】腹皮反射は神経原性側萄症を発見する上で簡便に施行できる有用な診察法である。

 

3.脊髄症患者における膝関節位置覚・運動覚検査の有用性

 

広島大学整形外科 

 

(やま)(もと)りさこ、田中信弘、中西一義、佐々木浩文、濱崎貴彦、山田清貴、中前稔生、泉文一郎、越智光夫

 

【目的】脊髄症を呈した患者に対し膝関節位置覚・運動覚の計測を行い、頚髄症判定基準に基づいた下肢機能および中枢運動伝導時間(CMCT)との関連を調査し、その有用性を検討した。

 

【方法】脊髄症患者71(43例、女28例、平均年齢62)を対象とした。位置覚は膝屈曲位で他動的に可動させ530°の角度で5秒間静止後、再び屈曲位に戻しその角度を再現させ、誤認角度を測定した。運動覚は膝屈曲位で0. 5°/秒で他動的に可動させ、動きを認知するまでの移動角度を計測した。位置覚・運動覚の測定値とJOAscoreの下肢運動・知覚機能およびCMCTとの関連を検討した。

 

【結果】下肢機能障害と位置覚平均誤認角度および運動覚平均移動角度は、下肢機能高度障害例ほど大きくなり、重症例ほど有意に拡大した。下肢知覚機能はその増悪により位置覚誤認角度が拡大する傾向にあった。運動覚とCMCTには弱い相関が認められた。

 

【考察】関節位置覚・運動覚の障害は脊髄症患者の歩行機能に大きく関与する。本検査法は脊髄症状の客観的評価、治療を行う上で有用な補助診断となりうる。

 

4.圧迫性脊髄症の痙性歩行評価の検討−歩行開始時の足の出にくさ(Initial clumsiness)の評価−

 

高知大学リハビリテーション部l 

高知大学整形外科2

 

(えのき) 勇人(はやと)1、谷 俊一1、石田健司1、谷口慎一郎2,武政龍一2、永野靖典2

 

【目的】痙性歩行の特徴である歩行開始時の足の出にくさ(Initial clumsiness)を評価した。

 

【方法】対象は圧迫性脊髄症患者51(62±13)及び、control群として健常人11(70±7)LCS10(67±17) Initial clumsinessの評価は10分間椅子に座った後に、最大速度にて30m歩行させ、歩行開始時(初期相)30m終了直前(最終相)の歩行評価を、ニッタ社製Gait scanにて行った。歩行データは百分率(初期相/最終相)として検討した。

 

【結果】歩幅にて健常群102.0±6% LCS104.5±13.3%に対し、脊髄症群が94.7±9.8%と有意に低値を示し、これに伴い速度も有意に低値を示した。この脊髄症群の歩幅の低下は、LCS群と比べ初期相でのみ認められ(最終相はほぼ同値) JOA (下肢)や手・足10秒テストと有意な相関を示した。

 

【考察】 Initial clumsinessは、歩行初期相での歩幅減少による速度低下として捉えられる。

 

5.頚髄症における新しい上肢機能評価方法の検討

 

九州中央病院整形外科1 

県立宮崎病院整形外科2 

国立病院機構九州医療センター整形外科3 

 

山口(やまぐち) (とおる)1、有薗 剛1、阿久根広宣2、寺田和正3

 

【目的】頚髄症患者の上肢機能評価の定量的検査として我々の考案した10 coins testの信頼性及び有用性及び障害髄節との関連について検討し報告する。

 

【方法】 10円玉を10枚横一列に並べ、 35ミリフィルムケースに一枚ずつ入れるのに要した時間を計測した。術前及び術後2週目に左右3回ずつ行い、再現性と意義について検討した。非頚髄症群34例を対照群とした。

 

【対象】頚髄症患者33例、平均年齢65. 4歳、内訳はCSM24例、 OPLL7例、 OYLl例、 AASl例であった。

 

【結果】非頚髄症群は平均10. 2秒であった。C4, 5, 6髄節障害患者は術前平均15. 8秒、 C7. 8髄節障害患者は術前平均12. 7秒であった。術後は前者が平均14. 5秒、後者が平均12. 9秒であった。

 

【考察】 10 coins testは運動機能に加え知覚障害も反映する上肢機能を鋭敏に評価できる検査である。栂指、示指の障害を来しやすいC 6髄節以上の障害はより鋭敏に評価できるが、7髄節以下の下位頚髄の評価は反映されにくいことが示された。

 

6.頚神経根性疼痛に対する頸神経根ブロックの有用性

 

三豊総合病院整形外科 

 

長町(ながまち)(あき)(ひろ)、久保貴博、米津 浩、阿達啓介、井上和正、遠藤 哲

 

【目的】頸神経根性疼痛に対する神経根ブロックの有用性を評価すること

 

【対象】頸神経根ブロックをおこなった14(男性10例、女性4)である。平均年齢58歳、頚椎症性神経根症11例、頚椎椎間板ヘルニア3例であった。

 

【頸神経根ブロックの方法】前方より椎間関節の外側をめがけてカテラン針を刺入した。上肢への放散痛を確認したら少量の造影剤を注入し、神経根に当たっていることを確認した後、 1%塩酸メピバカイン1ccとリン酸デキサメタゾンナトリウム(3.8mg) 1ccの混合液を注入した。

 

【検討項目】ブロックによる疼痛に対する効果は、著効、有効、無効、悪化の4段階に分けて評価した。ブロックによって手術を回避できたか否か、責任高位を確定できたかどうかについても調査した。

 

【結果】著効1例、有効8例、無効5例、悪化0例であった。ブロックで手術を回避できた症例は9例であった。責任高位の確定が可能であった例は10例であった。合併症は生じなかった。

 

【結語】頸神経根ブロックは頸神経性疼痛に対して有用であると考えた。

 

7.腰椎部神経根ブロックにおける放散痛の評価

 

島原整形外科 西村クリニック 

 

西村(にしむら)行政(ゆきまさ)

 

【目的】腰椎部神経根ブロックにおける放散痛の部位について検討した。

 

【対象および方法】対象は腰椎部疾患で神経根ブロックを行った331例である。 L215例、L320例、 L455例、 L5206例、 Sl35例であった。これらにおいて、放散痛の部位を詳細に調べその検討を行った。

 

【結果】 L2根では後方腸骨稜部、大転子外側、大腿前面中枢に、放散痛が多かった。 L3根では腰部と大腿前面に放散痛が多かったが、 20%で下腿内側にもみられた。 L4根では、殿部の坐骨神経圧痛点部(SNP)や大腿前面、下腿内側ばかりでなく、大腿、下腿の側面や足背に放散痛がみられた例が約1/4に存在した。L5根ではSNPや大腿、下腿の側面、足背に多くみられたが、大腿、下腿の後面にみられる例がそれぞれ13%18%に存在した。 Sl根ではSNPや大腿、下腿の後面、足底にみられ、上位レベルと重なる部位にはなかった。すなわち放散痛は上位根のデルマトームと重なることはないが、下位根と同じ部位に放散する例が20%前後存在するといえる。