第70回西日本脊椎研究会  抄録 (一般演題V)

10.頚髄腫瘍に対する手術的治療の成績

 

総合せき損センター整形外科

 

益田宗(ますだむねあき)、芝啓一郎、植田尊善、森 英治、弓削 至、河野 修、 高尾恒彰、坂井宏旭

 

【目的】

当センターにおける頚髄腫瘍に対する手術の治療成績の評価ならびに頚髄腫瘍に対する治療効果判定基準に関する検討を行う。

 

【対象】

198010月より20069月までの期間に、当センターにおいて頚髄腫瘍と診断され、手術を受けたのべ66例を対象とした。

 

【結果】

患者の内訳は男性36例、女性30例であり、手術時年齢は5-82歳、平均50歳であった。腫瘍の局在としては、硬膜外腫瘍16例、硬膜内髄外腫瘍32例、髄内腫瘍18例であり、くも膜嚢腫、転位性腫瘍は除外した。66例中44(66.7%)で全摘出が可能であったが、残存症例で再手術に至ったものが1例存在した。術後合併症は11例に認めた。【考察】頚髄腫瘍の治療効果判定基準として、JOAスコアを用いたものや、諸家独自の評価方法を用いた報告が散見されたが、ASIA Motorスコアを用いた評価報告は存在しなかった。JOAスコアと当センターで用いている改良Frankel分類にはよい相関が認められ、両者を併用した術後機能評価が、判定基準としてより望ましいものと考えられた。

 

11.当科における脊髄腫瘍の手術成績

 

岡山大学整形外科 

 

田中雅人(たなかまさと)、三澤治夫、越宗幸一郎、尾崎敏文

 

当科における脊髄腫瘍の発生頻度、手術成績につき検討した。

 

【対象および方法】

当院で手術加療した脊髄腫瘍の168(80、女88)、手術時年齢平均48.1歳を対象とし、腫瘍の部位、組織型、予後について検討した。

 

【結 果】
発生部位は髄内18(11%)、硬膜内髄外135(80%)、硬膜外11(7%)、その他4例であった。髄内腫瘍の内訳は上衣腫が8(44%)、星細胞腫が5(2例は悪性)(28%)、軟膜下脂肪腫2例、神経鞘腫2例、血管芽細胞腫1例であった。硬膜内髄外腫瘍の内訳は神経鞘腫105(3例は悪性)(78%)、髄膜腫15(11%)、神経線維腫3例、髄膜のう腫3例、血管腫3例、その他7例であった。硬膜外腫瘍の内訳は髄膜のう腫5例、リンパ腫4例、血管リンパ腫1例であった。神経鞘腫の105例のレベルは頚椎25%、胸椎37%、腰椎31%、仙骨2%、多発性5%であった。横断面では髄内2%、ダンベル型32%、硬膜内66%であった。神経鞘腫の再発は3例、再発率は2.8%であった。
 

12.脊髄髄内腫瘍の手術成績術

 

厚生連広島総合病院整形外科 

 

奥田晃章(おくだてるあき)、藤本吉範、金沢敏勝、平松 武、力田高徳、古高慎司

 

【目的】脊髄髄内腫瘍の手術例を報告し、至適な手術時期について検討すること。

【対象・方法】200511月以降、手術施行した6(男性2例、女性4例、平均50)、高位は胸髄4例、頚髄2例、病理は上衣腫3例、血管性腫瘍3例、羅病期間は平均3.2年、術後観察期間は平均1.3年であった。手術は脊髄モニタリング下に顕微鏡を用いて行った。

【結果15例が全摘または亜全摘で、海綿状血管腫の1例は術中の経頭蓋電気刺激による複合筋誘発電位の波形がコントロールの1/3 となったため部分摘出とした。JOAスコア(11点満点)は術前平均6.8点が調査時平均5.7点であった。Frankel分類は術前D5例、Bl例で、調査時D4例、C1例、Al例で、2例が1段階の悪化を認めた。FrankelB1例は上位頚髄高位の上衣腫で、腫瘍内出血による急激な四肢麻痺をきたした症例であった。

【結語】髄内腫瘍の自然経過は不明な点が多いが、腫瘍内出血による急性増悪を回避するためには早期手術が望まれるかもしれない。

13.脊髄髄膜腫術後5年以上の長期成績一病理組織分類を含めて-

 

広島市立安佐市民病院整形外科

 

藤岡悠樹(ふじおかゆうき)、住田忠幸、真鍋英喜、小林健二、宮内 晃、藤原 靖、 原田 仁、加藤智弘、高澤篤之

 

【はじめに】

髄膜腫は脊髄腫瘍のうち頻度の高い良性腫瘍であるが,再発が危惧される。

 

【方法】

対象は術後5年以上経過した脊髄髄膜腫24例のうち経過観察可能であった23,男性4,女性19.平均年齢62,術後観察期間は521(平均9.7).術式,病理組織型と再発の有無を検討した。

 

【結果】

術式は,硬膜全層切除術が8,硬膜内層切除後焼灼処置8,腫瘍切除後焼灼処置が7例で,全例で腫瘍全摘出可能であった.2例は他院で初回手術を受けた再発例で,うち1例の病理組織はWHO分類でGradeUであった.当科で初回手術を行った21症例は,全例で再発を認めなかった。

 

【考察およびまとめ】

当科では,顕微鏡下に硬膜全層切除術,あるいは近年第一選択としている硬膜内層切除術など硬膜温存手術を行ってきたが,各術式とも初回手術症例の再発を認めていない.髄膜腫再発の最大の要因は取り残しであり,初回手術時の全摘出と硬膜の処置が重要である.また病理組織のWHO分類でGradeU以上の症例では注意深い経過観察を要する。

 

14.脊髄髄膜腫の治療経験

 

長崎労災病院整形外科

 

津田圭一(つだけいいち)、小西宏昭、稲冨健司郎、奥平 毅、森本忠嗣、山根宏敏

 

【目的】

手術的治療を行い組織学的に脊髄髄膜腫であった症例について検討すること。

 

【対象】

1998年から2006年の間に当院にて手術加療が行われた7例を対象とした。男性4例、女性3例で男性例が多かった。手術時年齢は48歳〜70(平均60)、発生高位は頸椎1例、胸椎5例、腰椎1例であった。経過観察期間は9か月〜10(平均36か月)であった。

 

【方法および結果】

術前に画像上髄膜腫を診断できなかった症例が1例あった。砂時計腫を呈する症例はなかった。症状は頚椎、胸椎例では脊髄性の筋力低下、感覚障害、腰椎は馬尾症状を呈していた。手術は全例後方アプローチで行われ、硬膜内層切除6例、硬膜焼灼1例が施行された。腰椎の1例では脊椎固定術(PLF)を同時に要した。全例において術前の神経症状は改善していた。最終時に再発を認める例はなかった。

 

【考察及び結語】

硬膜の処置が予後を左右するという報告が多く、今後も注意深く経過観察を要すものと考えられた。

 

15.2000年以降に当科で経験した脊髄髄内上衣腫の手術的治療

 

広島市立安佐市民病院整形外科

 

藤原 (ふじわらやすし)、住田忠幸、真鍋英喜、小林健二、宮内 晃

 

【はじめに】

2000年以降に経験した髄内上衣腫の治療成績を検討したので報告する。

 

【対象と方法】

当科では1980年開院以来81例の髄内腫瘍手術を経験し、上衣腫は35例であった。今回は20004月から200810月までに当科で腫瘍摘出術を施行した髄内上衣腫12例を対象とした。

 

【結果】

術前から歩行不能であった1例を除き歩行能力を維持できた。全例手術用顕微鏡、脊髄モニタリングを使用して腫瘍全摘出を試みたが、正常脊髄との境界が不明瞭であった5例で亜全摘となり、全摘率は58%であった。術後造影MRIでは亜全摘5例のうち3例では残存造影領域を認めず、2例は10-30%の腫瘍残存を認めた。平均2.5(4.5)の経過にて腫瘍の増大・再発を認めていない。

【考察】
以前は髄内上衣腫では全摘出を基本としていたが、最近では境界が明瞭でない上衣腫症例では全摘出にこだわらないこととしている。安易に亜全摘とすることは避けねばならないが、上衣腫は良性腫瘍であり、麻痺を悪化させないことがもっとも重要と考える。
 

16.当科における円錐部腫瘍の治療経験

 

熊本大学整形外科

 

水溜正也(みずたまりまさや)、瀬井 草、藤本 徹、谷脇琢也

 

【目的】

当科で経験した円錐部腫瘍について、臨床症状・術中所見ならびに術後成績を報告する。

 

【対象と方法】

対象は、199711月〜200710月までに手術を施行した7(2例、女5)。年齢は4572歳。術前の症状は腰痛が3例、下肢感覚障害が6例、膀胱直腸障害が6例であった。腫瘍高位は、円錐部と円錐上部にわたり右側に偏在するものが3例、左側に偏在するものが2例、円錐部先端のものが1例、円錐部から円錐部先端におよぶものが1例であった。

【結果と考察】
手術は腫瘍の大きさ・位置を考慮し、片側椎弓切除または椎弓切除を行った。全例固定術は併用しなかった。6例で腫瘍部分切除、1例で腫瘍全摘出を行った。術後一過性に排尿障害の悪化を3例で認めたが、いずれも軽快し、術前に膜胱直腸障害がみられた5例全例に症状の改善が認められた。今回の結果から、(1)手術操作による膀胱直腸障害の悪化・発生の可能性、(2)腫瘍の完全摘出は困難である場合が多く、再発を念頭に置いた長期の経過観察を念頭に置くべきと考えられた。
 

17.脊柱管内クモ膜嚢腫手術例の検討

 

琉球大学整形外科

 

黒島 (くろしまさとし)、米嵩 理、我謝猛次、野原博和、金谷文則

 

【対象と方法】

平成2年〜平成18年までの16年間に手術を施行し、術後追跡しえた10(男性3例、女性7)を対象とした。手術時年齢は1371(平均48.8)で術後経過観察期間は8カ月〜149カ月(平均6)であった。検討項目は、1.嚢腫の局在と高位、2.術式、3.手術成績(術前と最終観察時のJOAスコアの推移)4.手術合併症の4項目とした。

 

【結果】

嚢腫の局在は、硬膜外3例、硬膜内7例で、硬膜外の1例は脊髄背側から腹側、硬膜内の1例は腹側であり、他の8例はすべて背側であった。高位では、硬膜外嚢腫は全例下位胸椎から腰椎に位置し、硬膜内嚢腫は頚椎、胸椎、下位胸椎から腰椎に位置していた。アプローチは椎弓切除術5例、還納式椎弓切除術3例、椎弓拡大術1例、前方固定1例で、全摘術が可能であったのは硬膜外嚢腫の2例、硬膜内嚢腫の1例であった。手術成績は改善7例、不変2例、悪化1例であった。合併症として椎弓切除を施行した1例に後考変形を認め、矯正手術を追加した。感染および髄液漏はなかった。