第70回西日本脊椎研究会  抄録 (一般演題W)

18.頚髄に発生したメラニン産生腫瘍の一例

 

香川大学整形外科

 

小松原悟史(こまつばらさとし)、有馬信男、渋谷 整、菅田吉昭、山本哲司

 

58歳男。両手しびれ,体幹以下の異常知覚,右手巧緻運動障害,歩行困難があり,他医にて頚髄腫瘍を指摘され当院紹介となった。腫瘍はMRITl高輝度,T2低輝度,軽度の造影効果があり,C4C6高位の硬膜内髄外で脊髄前方〜後方の3箇所に存在し,特に右側より脊髄を圧迫していた。CTでは骨化や石灰化像を認めなかった。脳脊髄液の細胞診はclassVで悪性所見はなく,全身Tlシンチでの集積は認めなかった。手術はC3-6の還納式椎弓形成術にて腫瘍摘出術を行った。術中所見で,硬膜が黒褐色で斑状に変色し部分的に黒褐色の組織が硬膜より露出していた。腫瘍は右側から脊髄の後方および前方を取り囲むように存在し,C5C7神経根糸は腫瘍に巻き込まれていた。腫瘍は軟らかく脆い組織であり,硬膜とくも膜の間から発生したとみられた。病理診断はmelanocytomaであり良性と悪性の中間組織形であった。皮膚病変はなく,全身の画像検索でも他に原発巣を認めず,頚髄発生のメラニン産生腫瘍と考えられた。

 

19.頚部脊柱管内平滑筋腫の一例

 

総合せき損センター整形外科 

 

坂井宏旭(さかいひろあき)、河野 修、前田 健、森 英治、弓削 至、高尾恒彰、 益田宗彰、宿利友之、植田尊善、芝啓一郎

 

【はじめに】

上肢症状を契機とし、病理学的検討により診断をし得た頚部脊柱管内平滑筋腫を経験したので報告する。

 

【症例】

53歳、女性。主訴:左肩、肩甲部から左上肢検側の痛み、痺れ。初診時神経学的所見:痛みの為、左三角筋MMT3と低下。その他は明らかな脱落症状等無し。MRI所見:C7椎体後方左側脊柱管内にTl低輝度、T2低輝度の腫瘍病変(直径1cm)による頚髄圧迫所見を認めた。本人希望により、外来経過観察を6ケ月間行った。再来時MRI所見:腫瘍病変においてTl低輝度、T2高輝度と輝度変化を認めた(痺痛増悪あるも、神経学的所見の悪化は認めなかった)。術式:C7/Tl左椎間関節切除術+C7/Tl後方固定術(ワイヤリング)+腫瘍切除術。術中所見として変性した左C8神経根の直下に被膜に覆われた黄白色の腫瘍を認めた。病理学的所見:免疫染色においてびまん性にα平滑筋アクチン陽性、CD34EMAS-100蛋白陰性、平滑筋腫と診断された。術後経過:術後6ケ月、痺痛軽減、左手指骨間筋筋力低下(MMT4)

【考察】
術前のCTによる胸腔内、腹腔内検索により明らかな平滑筋腫と思われる腫瘍病変は存在しなかった為、現時点では、極めて稀な脊柱管内原発平滑筋腫と考えている。
 

20.脊髄梗塞に続発した胸髄腫瘍の一例

 

総合せき損センター整形外廊1

九州大学脳研病理2 

  

高尾恒彰(たかおつねあき)1、芝啓一郎1、植田尊善1、前田 健1、森 英治1、弓削 至1、河野 修1、坂井宏旭1、益田宗彰1、宿利知之1、久保 勝裕1、岩城 徹2

 

はじめに:脊髄梗塞に続発した胸髄腫瘍を経験したので報告する。症例:53歳男性。主訴は下肢痛、しびれである。平成11年に激しい腰痛、両下肢脱力にて発症。LlからL2/3にかけての脊髄梗塞の診断にて保存的加療を行い改善した。H1612MRIにてTh9/10レベルにT2高信号病変を指摘されるも症状なく経過観察。H184月両下肢筋力低下、7月には歩行障害をきたし入院となった。両背部から肛門周囲の感覚脱失、EHL4/4FHL2/2の筋力低下、下肢腱反射先進。MRIにてTh9/10レベルに造影されない硬膜内髄外腫瘍性病変を認め、摘出術を施行。光沢のある銀白色の硬膜内髄外腫瘍であった。術後、症状改善し杖歩行可能となった。病理組織学的診断にて類表皮嚢胞であった。脊髄梗塞から7年後に、腰椎穿刺によると考えられる硬膜内類表皮嚢胞を経験したので文献的考察を加え報告した。

 

21.比較的稀な脊髄軟膜下脂肪腫の1

 

県立大島病院整形外科1

鹿児島大学整形外科2

 

有馬正彦(ありままさひこ)1、井尻幸成2、山口 聡1、山元拓哉2、米 和徳2、小宮節郎2

 

二分脊椎を伴わない軟膜下脂肪腫は稀な疾患で、一種の先天性腫瘍と考えられており、非常にゆっくり発育するとされているがその病態像は不明な点が多い。この腫瘍は脊髄実質に浸潤しており、不用意に全摘出すると麻痺の悪化を来たすこともある。今回我々は、脊髄円錐部に発生し外科的に治療した一例を経験したので、文献的考察を加えて報告する。症例は45歳男性、腰痛両下肢の痺れにて発症、膀胱機能障害も認めた。MRIにて脊髄円錐部の脂肪腫を疑い、腫瘍亜全摘出術を施行した。病理診断は線維性脂肪組織であった。臨床的には腰痛と右下肢痛が残存した。

 

22.病的脱臼骨折を生じた腰仙椎部Schwannoma

 

島原整形外科 西村クリニック

 

西村行政(にしむらゆきまさ)

 

 腰仙椎部に発生するschwannomaは日常経験することが多く、椎体への浸潤があっても椎体再建まで要する例は少ない。今回16年の経過で病的脱臼骨折を生じた例を報告する。1983(35歳時)に左足背のシビレで長崎県立島原病院を初診した。左L5領域の知覚、筋力低下とPTRATRの消失を認めた。X線像、CTではL2-Slscallopingを認め、ミエログラムではLl以下が完全ブロックであった。術中所見では、硬膜が欠損し腫瘍と馬尾との判別は不能で、腫瘍の可及的摘出にとどまった。病理学的にはschwannomaであった。その後、少しずつ椎体のscallopingが進行し、1990年より右下肢痛と排尿障害も出現した。1995年のMRIでは腫瘍の増大が明らかで、1997年からは起立歩行不能で車椅子となり、尿閉も生じ腰背部痛が増強した。1999(初診より16年後)L4の病的脱臼骨折を生じた。最終観察時(57)には両下肢完全麻痺、尿閉であったが、坐位保持可能でなんとか車椅子移動可能であった。

 

23.仙骨骨盤部巨大神経鞘腫の検討

 

岡山大学整形外科 

 

澤治夫(みさわはるお)、田中雅人、越宗幸一郎、尾崎敏文

 

仙骨から骨盤にかけて巨大な神経鞘腫を認めることは少なくない。腫瘍の大きさに対し臨床症状は軽微なことが多く、経過観察を行うこともあるが、手術治療を必要とすることも少なくない。今回当科で加療中の仙骨骨盤部の巨大神経鞘腫に8例ついて検討した。 症例は男性3例、女性5例、初診時年齢は56歳であった。症状は腎部痛2例、下肢症状2例、頻尿2例、無症状2例であった。診断は画像所見、針生検もしくは摘出時の病理により行った。腫瘍の長径は初診時平均68mmであったが、最終時もしくは手術時には平均83mmに増大していた。経過観察中のものが3例、手術治療を行ったものは5例であり、全摘2例、部分切除3例であった。術後症状の悪化を認めた症例はなかった。今回の検討で腫瘍は全例で増大していたが、臨床症状の悪化を来さない症例もあった。手術の適応については意見が分かれるところであるが、部分切除となった3例も臨床的には問題がなく経過しており、全揃にこだわることなく仙腸関節や仙骨神経根などを温存した手術が望ましいと考える。