第70西日本脊椎研究会  抄録 (一般演題Y)

25.当院で経験した脊髄発生神経鞘腫の検討

 

佐賀社会保険病院整形外科

 

田勝広(あいだかつひろ)  

 

【対象と方法】20061月から20088月までに当院受診して神経鞘腫の診断となった18(頚髄部2:胸髄部2:腰髄部14)のうち、腰髄部発生で手術を施行した12(うち2名は砂時計型、平均年齢53.8歳、男:=4:8)を対象として術前の臨床症状・神経学的所見、画像上の腫瘍発生高位と脊柱管狭窄率を測定してその関連と特徴、術後成績を検討した。

【結果】腫瘍高位はL2-4の中位が多い。脊柱管占拠率は9例で90%以上と高い。11例で下肢症状を有し、そのうち9例の下肢痛痛自覚領域は、腫瘍高位に関係なく大腿後面〜下腿痛を示した。60歳以上の6例中4例では術中に頭尾方向に移動性が高く(mobile tumor)、いずれも腫瘍高位以下に狭窄率50%程度の脊柱管狭窄を合併していた。術式は腫瘍の頭尾側in-Outの神経を切断して摘出することを原則とし、手術後に遺残する神経脱落症状は認めなかった。臨床成績:JOAscoreは術前平均13.5点が術後平均25.1点となり平均改善率75.8%であった。

26.当科における脊髄神経鞘腫の検討

 

山口大学整形外科 

 

守屋(もりやあつ)、田口敏彦、加藤圭彦、片岡秀雄、寒竹 司、今城靖明、 鈴木秀典

 

【はじめに】神経鞘腫は脊髄腫瘍の代表的疾患であるが、我が国での脊髄神経鞘腫の多数例の報告は少ない。今回当科で治療を行った48症例の臨床像について検討したので報告する。

【対象】対象は過去15年間(1994-2008)に当科で治療を行った脊髄腫瘍90症例中、神経鞘腫と病理診断された48例を対象とした。基本的には頸椎から腰椎まですべて偏側あるいは両側の骨形成的椎弓切除術を用いて、脊柱管内外の腫瘍を可及的に摘出するようにしている。【結果】年齢は平均49.1(1081)、性別は男性23例女性25例であった。高位レベルは頚椎部が13例、胸椎部13例、腰椎部22例であった。腫瘍摘出後に当該神経のしびれが増強した症例はあったが、当該神経の脱落症状を示す症例はなかった。従来、脊髄神経鞘腫と髄膜腫の発生頻度は同程度とされていたが、我々が同時期に経験した脊髄髄膜腫は16例であり、約3倍の発生頻度であった。神経鞘腫摘出における問題点は、@脊髄腹側にある腫瘍の摘出、A砂時計型腫瘍摘出における問題、B腫瘍が脊柱管を数椎体レベル移動し得るいわゆるmobile tumorの存在、C当該神経根を切断した場合の術後神経脱落症状、C術後髄液漏の問題、D悪性化しているものや他臓器へ転移するもの、などが挙げられ、これらの問題点に対する対策について述べる。

 

27.頸椎砂時計型腫瘍の治療成績

 

熊本大学整形外科 

 

瀬井 (せいあきら)、藤本 徹、水溜正也、谷脇琢也

 

目的】当院における砂時計型腫瘍の治療法並びに術後成績について報告する。

【対象】1996年〜2006年に加療を行った脊髄腫瘍88例のうち砂時計型腫瘍12(男性6例、女性6例、年齢は14歳〜67)である。これらの患者に対して、発生部位、形態分類、術式、組織型、術後成績について検討した。

【結果】発生部位は頸椎9例、胸椎3例であった。戸山による形態分類ではTypeIIa4例、Ub2例、UC3例、Va2例、W1例であった。術式については、胸椎は2例後方より、W1例が前方及び後方、頸椎では前方が4例、後方が5例であり、全例、全摘可能であった。組織型は10例が神経鞘腫で、1例のみ血管腫であった。神経脱落症状を有していた4例のうちTypeW1例は目立った改善が得られなかった。

【考察】当科における砂時計型腫瘍の治療方針としてはTypeIIa、Vaは後方より、TypeUb、Vb、Wは後方及び前方、TypeUCでは前方を選択している。画像診断による腫瘍伸展度、質的診断を充分に把握することが重要であり、特に若年者においては全揃を目指すべきと考えている。

 

28片側椎弓切除による脊柱管内腫瘍摘出術

 

九州厚生年金病院整形外科

 

土屋邦喜(つちやくによし)、川村秀哉、坂本 央、冨重 治

 

 はじめに:脊柱管内腫瘍の摘出に関しては従来より椎弓切除による腫瘍摘出が広く行われてきたが、後方支持組織の破綻という問題が存在する。小侵襲化への試みとして脊柱管内腫瘍に対する片側椎弓切除による腫瘍摘出の適応および問題点を検討した。対象および方法:術者が施行した直近5年間の硬膜切開を伴う脊柱管内腫瘍摘出術は12例で、うち片側椎弓切除による腫瘍摘出は9例であった。レベルは頚椎2例、胸椎3例、胸腰椎2例、腰椎2例であった。結果:全例腫瘍摘出は問題なく施行できた。術後は全例神経症状は回復し、神経学的悪化を示した症例はなかった。手術時間は平均177分、出血量は平均40gであった。考察:片側椎弓切除による腫瘍摘出は嫌突起列、反対側の筋組織や椎間関節を完全に温存でき、術後痛痛の軽減とともに術後後考変形の防止に有用であると考えられる。問題点は腫膜腫における硬膜処理がやや行いにくいことであるが、手技の熟練とともに十分対応可能である。ほとんどの脊柱管内腫瘍は片側椎弓切除にて摘出可能と考えられる。

 

29.胸腰椎部脊髄腫瘍に対する骨形成的椎弓切除術の治療成績

 

九州大学整形外科1

総合せき損センター2

 

 松本嘉(まつもとよしひろ)1、播广谷勝三1、土井俊郎1、岩本幸英1、前田 健2 

 

 脊髄腫瘍摘出時、広範囲椎弓切除術に伴う術後変形が問題となる。骨形成的椎弓切除術は良好な視野が得られるともに、後方要素が再建可能な優れた術式である。当施設で胸腰椎部脊髄腫瘍に対して骨形成的椎弓切除術を施行した21例に対し治療成績を検討した。平均年齢は36.9(15-57)。全症例にT-SaWを用いた骨形成的椎弓切除術を行った。(平均1.3椎弓) 

組織診断は18例が神経症腫、2例が髄膜腫、1例は組織診断確定不能であった。5例が砂時計腫であり、16例はほぼ脊柱管全体を占める巨大な腫瘍であった。全例で良好な手術視野が獲得可能であり、手術手技に伴う合併症は認めなかった。また、最終経過観察時再発例なし。臨床成績は良16例、不変4例、悪化1例であった(McCormickscale変法)。脊柱変形については還納椎弓の偽関節を呈した1例、術前より後側攣変形を伴っていた1例に術後変形の発症および悪化を認めた。骨形成的椎弓切除術における、還納椎弓の骨癒合の重要性とともに、同術式の適応の限界が示された。

30.脊椎・脊髄症状を呈した悪性リンパ腫の検討

 

 愛媛大学運動器学

 

雅之(ひのまさゆき)、尾形直則、森野忠夫、鴨川淳二、森 実圭、奥田俊介、 山本晴康

 

 悪性リンパ腫は血流とリンパ流に乗って、リンパ球が到達しうる全ての臓器から発生しうるが、脊椎周辺に発生するのは比較的まれである。今回3年間に当院で経験した脊椎・脊髄症状を呈した悪性リンパ腫について検討を行った。20057月から3年間に経験した6例、男性1例、女性5例、平均年齢62歳を対象とした。全ての症例が麻痔や痛みなどの脊椎・脊髄症状を呈し、当院を受診した患者であった。3例が麻痔を呈して除圧術(1例の固定を含む)を受け、その時のサンプルで病理診断、2例は生検術で診断、1例はDNA解析により診断を行った。組織型は3例がDiffuselarge B-Cell lymphoma1例が1ymphoplasmacyticlymphomal例がBurkittlymphoJna1例は分類不能であった。椎体のみの雁患、硬膜外腫癌、硬膜内病変など発生部位も様々であった。全例で化学療法や放射線療法・などの追加治療も必要であった。悪性リンパ腫は脊椎に発生する原発不明の腫瘍の内では比較的頻度が高い上に、特徴的な所見に乏しく、注意すべき腫瘍である。

 

31.初回術後14年間で頭蓋内播種や椎体破壊をきたし呼吸不全に至った頸髄上衣腫の1

 

高知大学整形外科1

みぞぶち整形外科クリニック2

倉敷成人病センター整形外科3

 

崎元(かわさきもとひろ)1、田所伸朗1、喜安克仁1、武政龍一1、谷口愼一郎1、谷 俊一1、溝渕弘夫2、岸本裕樹3 

 

初回術後14年の経過中に、再発を繰り返し、呼吸不全に至った頚髄上衣腫を経験したので報告する。

症例は15歳女性で、頚部痛と左手指の症状を主訴に紹介となった。MRIで頚髄内にTllowT2highの腫癌を認め、上衣腫の疑いで腫瘍切除を行い、病理組織で悪性所見を認めた。術後2年で再発し、初回術後5年で再度手術を施行した。病理組織診断はanaplasticependymomaとなり、術後に両下肢麻痺を認めた。再度術後2年で再発し、放射線外照射を施行した。頭蓋内圧元進に伴う頭痛を生じ、頭蓋内の播種性転移を認めていた。頭蓋内一腹腔シャの術を施行し症状は改善したが、頚髄の腫瘍は頭尾側へ増大し、上肢と呼吸の麻痺が出現し始めた。同時に浸潤性の椎体破壊も認め、頚椎前方腫瘍掻爬と固定術、および、人工呼吸管理のために気管切開を施行した。さらに腫瘍は増大してゆき、最終的に胸水貯留とDICのため死亡した。 

本疾患は悪性の髄内腫瘍であり、初回の治療や再発時の追加治療の時期や方法について再検討が必要と思われた。

 

32.脊髄原発High grade astrocytoma2

 

岡山大学 整形外科

 

治夫(みさわはるお)、田中雅人、越宗幸一郎、尾崎敏文

 

 

脊髄原発悪性星細胞腫は、非常に予後不良な腫瘍である。当科で経験した2例について検討を行った。 

症例1 76歳男性、初診約1年前より右足部の違和感、10ケ月後前医を受診、脊髄腫瘍を指摘され生検を施行、astrocytoma grade lの診断、その後も麻痺は進行し、2ケ月後当科初診となる。4か月の経過で歩行不能となり、再度生検を施行したところastrocytomagrade3の診断となり、放射線療法を行った。腫瘍は消失せず術後10カ月で永眠された。

症例2 14歳女性、初診半年前から腰痛、左下肢痛出現、徐々に悪化し6ケ月後には歩行不能となり、当科初診となった。初診後1か月で生検施行し、astrocytoma grade3の診断となり、放射線療法を行った。腫瘍は縮小し、術後6カ月で腫瘍の増大を認めず経過観察中である。 

悪性星細胞腫の生命予後は1年程度と言われている。当科での症例も1年以内に死亡していた。1例は経過観察中であるが、追加治療など講じる必要があるかもしれない。

 

33.硬膜内悪性腫瘍の4

 

鹿児島脊椎・脊髄研究班

 

善明美千(ぜんみょうみちひさ)、井尻幸成、山元拓哉、坂本 光、河村一郎、山王朋任、武富栄二、米 和徳、小宮節郎 

 

 硬膜内悪性腫瘍は比較的まれな病態である。今回われわれは、硬膜内発生では非常にまれな悪性リンパ腫を含む4例を経験したので文献的考察を加えて報告する。症例1:54歳男性。脳転移を伴う肺癌で治療中、下肢の不全麻痺症状が出現。MRIにてTh12レベルの腰痛を指摘され紹介受診。腫瘍切除術施行し、病理診断は肺癌の転移だった。症例2:75歳男性。右下肢痛を主訴に近医受診、MRIにて馬尾腫瘍指摘され紹介受診。腫瘍切除術施行し、病理診断はPNETだった。3カ月後再発し、放射線療法行ったが、初診より18カ月後に死亡した。症例3:71歳女性。下肢痛を主訴に近医受診。MRIにてL3-5に腫癖を指摘され、徐々に下肢筋力低下するため紹介となった。腫瘍切除術施行し、病理診断は悪性リンパ腫だった。化学・放射線治療にて加療。現在有病生存中である。症例4:4歳男児。'腰痛と排尿障害にて来院。MRIにてL3-5に腫癌を認めた。腫瘍切除術施行し、病理診断はMPNSTだった。化学療法行ったが、6カ月後に再発し、再手術後、化学・放射線療法行ったが、初回手術から21ケ月で死亡した。

 

34.転移性坐骨神経腫瘍の1

 

鹿児島共済会南風病院整形外科1

鹿児島大学整形外科2 

 

山下芳隆1(やましだよしたか)、川内義久1、鮫島浩司1、小官節郎2

 

【はじめに】神経根以下の末梢神経に悪性腫瘍が転移することは極めて稀である。今回われわれは左坐骨神経に転移し、激しい痛みを訴えていた症例を経験したので報告する。

【症例】66歳男性。平成202月頃より左下肢の痺痛、脱力感出現し、近医受診。MRI検査受けるも異常なしと言われたが、痺痛が増強、歩行困難になったため328日当院初診した。初診時左膝から下腿内側にかけ激しい痺痛を訴え、同領域に知覚障害を認めていた。]-p上第5腰椎に分離を認めたが、症状が左第4腰神経の根症状であったためし4の根ブロックを行なったところ症状軽快した。しかしすぐに再燃したため331日当院入院し精査したところMRIRIPETにて左骨盤内の坐骨神経に沿って数珠球状の腫瘍陰影を認めた。悪性リンパ腫の既往あり、悪性リンパ腫の坐骨神経への転移と診断し、放射線治療、化学療法目的で417日血液内科専門医に転院した。その後放射線治療、化学療法が著功し、症状軽快、画像上も腫瘍陰影は消失した。