第71回西日本脊椎研究会  抄録 (一般演題T)

1.頚椎椎間板ヘルニアによる神経根障害の解剖学的検討

広島大学大学院整形外科学
廣島総合病院整形外科*

田中信弘(たなかのぶひろ)、藤本吉範*、中西一義、亀井直輔、山本りさこ、泉文一郎、大田 亮、藤岡悠樹、越 智光夫

 【目的】頚椎椎間板ヘルニアに対する後方からのヘルニア摘出術は低侵襲で有用な術式である。しかし安全なヘルニア摘出には、神経根周辺の微細解剖の熟知が必要である。そこで頚椎標本および術中所見における神経根と椎間板の位置関係について検討した。【対象および方法】解剖用遺体より得られた頸椎標本を対象とし、手術用顕微鏡下に後方から椎弓、椎間関節を切除しC5〜8までの神経根と椎間板の位置関係を調査した。また2000年以降にヘルニア摘出術を施行した17例の術中所見においてヘルニアと神経根の位置関係を検討した。【結果】頸椎標本において、椎間孔内ではC4/5椎間板はC5神経根の前面、C5/6とC6/7椎間板はそれぞれC6、7神経根の腋腐部に位置した。一方、C8神経根は椎間孔入口部で椎間板に接触しなかった。術中所見においても、神経根症状を呈した椎間板ヘルニアは神経根の腋窺部に位置することが多かった。【結論】頚椎椎間板ヘルニアによる神経根障害の病態把握、安全なヘルニア摘出には神経根と椎間板の位置関係の理解が必要である。

2.頚椎椎間板ヘルニアにおける経頭蓋磁気刺激筋誘発電位検査の検討

広島大学大学院整形外科学、廣島総合病院整形外科*

泉文一郎(いずみぶんいちろう)、田中信弘、藤本吉範*、中西一義、亀井直輔、山本りさこ、越智光夫

 【はじめに】神経症状を呈した頚椎椎間板ヘルニアに対し、臨床所見、及び経頭蓋磁気刺激筋誘発電位検査(MEP)を検討したので報告する。【対象および方法】1995年から2008年に神経症状を呈した頚椎椎間板ヘルニア症例に対してMEPを行った42例を対象とした。検査時年齢は19〜70歳(平均48歳)で、ヘルニア高位はC3/4が5例、C4/5が9例、C5/6が20例、C6/7が8例であった。臨床所見より神経根症11例、脊髄神経根症11例、脊髄症20例に分類した。これらの症例の臨床所見(巧緻運動障害、下肢の疲れ、歩行障害、上肢筋力低下、上肢の痺れ、上肢痛、Spurlingテスト)とCMCT(central motor conduction time)、末梢潜時に関し比較し検討した。【結果】平均CMCTは神経根症で6.7ms、脊髄神経根症は9.3ms、脊髄症は10.2msで有意に延長し、平均末梢潜時は頚髄症で14.2ms、脊髄神経根症は14.Oms、神経根症は14.Omsであり、有意差は無かった。巧緻運動障害、歩行障害、下肢の痺れのある症例はCMCTが有意に長く、逆に上肢痛のある症例は有意にCMCTが短かった。【考察】神経根症の多くは保存療法を選択されるが、脊髄症を呈する例は手術が考慮される。電気生理学的検査はその判断材料の一つとなった。

3.当科における頸椎椎間板ヘルニア治療の現状

 

三豊総合病院整形外科

 

  筒井貴彦(つついたかひこ)、長町顕弘、米津 浩、阿達啓介、井上和正、遠藤 哲

 
【目的】当科における頸椎椎間板ヘルニア治療の現状を明らかにすること。【対象】電子カルテが導入された2006年2月から2009年1月の間に当科を受診した新患患者13055名のうち、頸椎椎間板ヘルニアと病名のついた73例を対象とした。男性43例、女性30例。受診時平均年齢49歳(25〜79歳)であった。【検討項目】初診時症状、眼Iによる責任高位、治療方法、転帰について検討した。【結果】神経根症状を61例、脊髄症状を7例に認めた。MRIを施行した66例のうち、明らかな椎間板ヘルニアを認めたのは51例であった。責任高位はC3/4で4例、C4/5で8例、C5/6で15例、C6/7で14例であった。73例中55例に内服、点滴、神経根ブロックなどの保存療法を行った。脊髄症状を呈していた7例には前方除圧固定術を行い、強い神経根症状を呈していた2例にはforaminotomyを行った。25例は保存療法のみで治癒または軽快した。その他の18例は他院への通院中や検診目的などのため、1回限りの受診であった。

4.頸椎椎間板ヘルニアに対する手術アプローチの変遷

広島市立安佐市民病院整形外科 

 

力田高徳(りきたたかのり)、住田忠幸、真鍋英喜、小林健二、宮内 晃、藤原 靖、土井一義、住吉範彦、高澤篤之

【目的】2005年本研究会において当科での頚椎椎間板ヘルニアに対する手術方法の変遷を報告したが、その後2008年までの変遷を新たに調査したので報告する。【対象及び方法】1980年から2008年までに手術を行った675例を対象とした。【結果】1980年代は前方法75%、後方法25%であったが、1990年代は前方法40%、後方法60%、2000年代には前方法8%、後方法92%と後方法が主体となった。今回新たに調査した2006年以降の70例の手術術式を詳細に検討すると、前方固定術は3例(4%)のみで、さらに後方法主体の傾向が強くなっていた。後方法の内訳は椎弓形成術15例(22%)、ヘルニア摘出術52例(74%)であり、このうち3例は経硬膜的にヘルニアを摘出していた。【考察】頸椎椎間板ヘルニアに対して当科では近年ほとんどの症例に対して顕微鏡視下後方手術にて対応している。前方固定術は脊髄症を呈する大きなヘルニアのみ適応とし、神経根症に対しては全例後方からの顕微鏡視下手術で対応可能と考えている。